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2012年10月14日 (日)

「そして友よ、静かに死ね」

Leslyonnais

2011年・フランス/ゴーモン社
配給:コムストック・グループ
原題:Les Lyonnais
監督:オリヴィエ・マルシャル
原作:エドモン・ビダル 「さくらんぼ、ひとつかみで」
脚本:オリヴィエ・マルシャル、エドガー・マリー
製作:シリル・コルボー=ジュスタン、ジャン=バティスト・デュポン
製作総指揮:ダビ・ジョルダーノ

1970年代のフランスに実在したギャング、エドモン・ビダルの原作を元に、男たちの友情と裏切りを描いたフレンチ・ノワールの佳作。監督は「あるいは裏切りという名の犬」のオリヴィエ・マルシャル。

伝説のギャングとして一時代を築いたエドモン・ビダル―通称モモン(ジェラール・ランバン)も、今は還暦を迎え、妻や息子、孫たちと静かな日々を送っていた。そんなある日、かつての強盗仲間であった親友セルジュ(チェッキー・カリョ)が13年の逃亡の末、刑事・ブロナーに逮捕されたことを知る。実刑が確定すれば生きて刑務所を出ることはできない。セルジュは、ロマというジプシー出身のモモンがいじめられていた時、助けてもらった恩義がある。苦悩の末、モモンは親友を救うべく動き出すのだが…。

これが実話であり、実際にギャングとして強盗事件を繰り返し、長い刑務所暮らしも送ったというエドモン・ビダルの自叙伝が原作というのが興味深い。日本でも、暴力団抗争事件の中心人物で、獄中で書き綴った手記が「仁義なき戦い」として映画化され有名になった人物(美能幸三氏)がいたのを思い出す。
なお、原作題名「さくらんぼ、ひとつかみで」の由来は、ビダルが差別民族のロマ出身であった為、さくらんぼを一掴み盗んだだけで半年刑務所にぶちこまれ、それがギャングの道に入る要因となった事による。

監督のオリヴィエ・マルシャルは、5年前に公開されたフィルム・ノワールの秀作「あるいは裏切りという名の犬」(2004)で名前を知り、以後気になっていた人だが、わが国ではこのジャンルは興行的にパッとせず、その後もいくつか監督作があるが、ほとんど本邦未公開に終わっている。俳優としてはこれもフィルム・ノワールの佳作「すべて彼女のために」(2008・フレッド・カヴァイエ監督)に出演しているが、本作がわが国で劇場公開される、久しぶりの監督作品である(DVDのみリリース作としては、「やがて復讐という名の雨」(2007)がある)。

「あるいは裏切りという名の犬」は、フランス警視庁の二人の警察官の友情と裏切りを描いていたが、本作もまた、男たちの熱い友情、信義、そして発覚する裏切りと絶望、それでも最後に示される友情の切なさ…と泣かせる男のドラマが展開される。

本作ではギャングたちが主人公である故に、前作以上に、1960~70年代に多数作られた、なつかしいフィルム・ノワールの香りが芬々と漂う。
前作でも感じたが、マルシャル監督は、よほどかつてのフィルム・ノワールに愛着があるのだろう。

 
(以下ネタバレあり。注意)

だが、本作の大きな特徴は、主人公たちが共に還暦も越えた老人であるという点である。

Leslyonnais2_2

右の写真でも分かるように、主人公モモンと、親友セルジュの顔には深い皺が刻まれ、老いの翳りが忍び寄っている。

原作はモモンことエドモン・ビダルの若き日の回想録のようだから、原作で描かれているのはおそらく、1970年代に親友となった若き日のモモンとセルジュが、二人で組んで次々と強盗事件を重ね、“リオンの奴ら”(これが原題)として名をはせた頃の話が中心だろう。

解説には、“当時の事件とフィクションを織り交ぜてギャングの友情と裏切りを描く”とあるので、多分現代パートは原作になく、マルシャル監督が追加したフィクションではないかと思う。
というのは、もし原作にも、セルジュを脱獄させる部分の記述があり、それが事実なら、エドモン・ビダルは脱獄幇助の罪で捕まってしまう事になる。足を洗って悠々自適、孫に囲まれのんびり暮らしてる老人が、今ごろそんな犯罪を犯した上に公表するなんて事は、現実にはありえない。

映画の描き方も、ウェイトは明らかに現在の老モモンと老セルジュの、今も変わらぬ男の友情と、そして判明する裏切り、という部分に置かれている。若き日の犯罪の描写は派手で、若い頃の二人を演じる俳優は頑張ってはいるが、どちらかと言うと軽い。

過去のフランス・フィルム・ノワールの佳作を思い浮かべても、男同士の、無言のうちに秘めた友情を丁寧に描いた作品が多い(例えば、アラン・ドロン+チャールズ・ブロンソン主演の「さらば友よ」、同じくドロン+ジャン・ポール・ベルモンド主演「ボルサリーノ」等)。

本作では、足を洗い、今は家族と静かな余生を送っていた男が、昔の仲間が捕まった事で、友情の為、危ない橋を渡るか、友を捨てて今の生活を守るか、という重大な決断を迫られる。

結局モモンは、危険を承知で友情を選ぶ。…それは、友と命がけで闘った日々こそが人生のすべてで、今の日々はむしろ人生の残り滓でしかない、という事を自覚しているからなのだろう。
友を捨てる、という事は、自分が生きて来た人生そのものを捨てる事にもなるのである。
バカなこと…と分かっていても、それでも友情を大事にする…フランス映画にはそういった作品が多い。

Ookamihatenshinonioi

それで思い出すのが、名匠ルネ・クレマン監督晩年の佳作「狼は天使の匂い」(1973)。脚本が「さらば友よ」のセバスチャン・ジャプリゾである点にも注目。

ラストシーンがいい。老ギャング、ロバート・ライアンが警察に包囲された時、女と共に一旦逃げ延びていたジャン・ルイ・トランティニャンが、女を置いてわざわざ戻って来て、ライアンと共に銃を構え、警官隊を待ち受ける所で終わる。
互いに、じっと見詰め合うラストが泣かせる。

ここにも、“友情は何ものよりも代えがたい”というフランス・フィルム・ノワールの伝統がある。主人公が、自分の人生ももう残り少ない事を自覚している老人である点も本作と似ている。

ちなみにロバート・ライアンは、この作品が公開された年に亡くなっている。

 
さて、本作に戻ると、終盤になって、セルジュは実は仲間を裏切っていた事が分かる。

モモンは心傷つき、絶望するが、それでも最後は、せめてもの友情の証しに、セルジュに、「銃弾は一発しか入っていない、無駄にしないように使え」と銃を渡す。

セルジュの隠れ家から出たモモンの背後に、一発の銃弾の響き。

うーん、渋い幕切れである。

苦悩と、悲しみを湛えたモモンの表情がいい。まさにフランス・フィルム・ノワールの見事なる復活と言っていい。

モモンを演じたジェラール・ランバンは、これもフィルム・ノワールの佳作「この愛のために撃て」(監督 フレッド・カヴァイエ)にも出ていたが、本作の製作:シリル・コルボー=ジュスタン 、ジャン=バティスト・デュポン、製作総指揮:ダヴィ・ジョルダーノは、いずれも「この愛のために撃て」と同じスタッフである。カヴァイエ監督の前作「すべて彼女のために」にオリヴィエ・マルシャルが俳優として出演している点も含め、この製作チーム、マルシャル、カヴァイエというコラボが、フランス・フィルム・ノワールの21世紀における復権を推し進めて行く事になるのだろう。今後がますます楽しみである。    (採点=★★★★

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DVD「あるいは裏切りという名の犬」
DVD「やがて復讐という名の雨」

 

DVD「さらば友よ」
DVD「狼は天使の匂い」

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コメント

こんにちは。

『狼は天使の匂い』は映画よりも、
タイトルのカッコよさが記憶に残っています。
そういえば、同じアパートにいた彼が
この映画好きだったな…。

ところで、日活ベスト20の記事拝見しました。
もう、おしゃるとおり。
その120が、まずおかしいとしか言いようがないですね。
この手のベストをやるとき、
該当作を20本しか観ていない人と、
100本観ている人では、
出発点がまったく違ってくる。
それは、はやりの「年間ベスト」でも同じ。
なんて、少し毒づいてみました。

投稿: えい | 2012年10月17日 (水) 14:26

◆えいさん
ご賛同ありがとうございます。

まあ、朝日新聞に、キネ旬や映画秘宝辺りのコアな映画通的視点を望むのが度台無理なんですが(笑)。
まあ120本選ぶなら、せめて渡辺武信さんか西脇英夫さんくらいに依頼すべきだったと思いますね。
まあそれも思いつかないでしょうが(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2012年10月28日 (日) 17:01

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