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2012年10月 8日 (月)

「ボーン・レガシー」

Bournelegacy

2012年・米=ユニバーサル/配給:東宝東和
原題:The Bourne Legacy
監督:トニー・ギルロイ
原作:ロバート・ラドラム
原案:トニー・ギルロイ
脚本:トニー・ギルロイ、ダン・ギルロイ
製作:フランク・マーシャル、パトリック・クローリー、ジェフリー・M・ワイナー、ベン・スミス
製作総指揮:ヘンリー・モリソン、ジェニファー・フォックス

大ヒットしたロバート・ラドラム原作、マッド・デイモン主演の「ボーン・アイデンティティー」に始まる“ボーン”シリーズ3部作の世界観を引き継ぎ、ジェイソン・ボーンの戦いの裏側で繰り広げられていた、もう1人のスパイの物語を描く新シリーズ第1作。監督は前3部作の脚本を手がけ、ジョージ・クルーニー主演「フィクサー」で監督デビューも果たしたトニー・ギルロイ。

CIAの極秘計画“トレッドストーン作戦”によって生み出された最強のスパイ、ジェイソン・ボーンが起こした一連の事件の影で、彼に匹敵する能力を持つもう一人のスパイ、アーロン・クロス(ジェレミー・レナー)も高度な訓練を重ねていた。だが、さらなる極秘計画“アウトカム計画”の漏洩を恐れたCIAは、隠蔽チームのリーダー、リック・バイヤー(エドワード・ノートン)を中心に全プログラムを闇に葬り去るべく関係者の抹殺を開始し、アーロンにも暗殺の魔の手が伸びて来た。間一髪で逃げ延びたアーロンは、同様に命を狙われた研究者マルタ・シェアリング博士(レイチェル・ワイズ)を救い出すと、体調の維持に必要な薬を求めてフィリピンのマニラへと向かうが…。

ヒット・シリーズが終了しても、そうそうヒット作が生み出せないハリウッドは、何とか手を変え品を変え、ヒット・シリーズのネーム・バリューを最大限に活用しよう知恵を絞る。リメイクやら前日譚も大はやりのこの頃だが、本作は変形スピン・オフといった所か。しかしジェイソン・ボーンが一切登場しないのに、タイトルに「ボーン」を入れるのはどんなものだろうか。

脚本・監督は、ボーン3部作すべての脚本に参加したトニー・ギルロイ。さすがシリーズのエッセンスを知り尽くしているギルロイ…と言いたい所だが、あまりにシリーズに深入りし過ぎているせいか、前3部作の流れを熟知していないと、置いてけぼりを食ってしまいそうな展開なのはちょっと困りもの。逆に言えば、前3部作のファンで、今でも繰り返しDVDを見直しているような方なら、所々にニヤリとしたくなるシーンがあって、そこそこ楽しめるかも知れないが。

例えば冒頭、水面に浮かんでいる人物(アーロン)を下から捕らえたショットがあり、やがて泳ぎだす…という場面は、「-アルティメイタム」のラストシーン、ボーンが川に飛び込み、泳いで逃げるシーンとアングルもそっくりである。他にも、ははんここは「-アルティメイタム」のあのシーンとリンクしてるのだな、と思わせるシーンもいくつかあったりする。

しかしこれでは、前シリーズを全然観てないか、観ててももう内容を忘れかけてる観客(前シリーズ終了からもう5年経っている)にとっては不親切である。もう少し、おさらいも兼ねて状況を分かり易く説明すべきだろう。

かといって、前シリーズのファンなら満足する出来かと言えばそれほどでもない。

まず、展開が一本調子。主人公が命を狙われ、追われる、逃げる、また追われる、逃げる、の繰り返し(伊坂幸太郎原作「ゴールデン・スランバー」を思い出した)。エンタティンメントであるなら、主人公が優れた知能を使って裏をかいたり、策略を仕掛けて逆襲し、CIAに一矢報いたりといった、スカッとする終わり方も必要だろう。無事に逃げ延びて終り、では物足りない。

次に、アーロンが常に2種類の薬を服用し、薬がなくなると命にかかわる、という設定も意味不明。スパイなら過酷な訓練によって肉体と精神を鍛えるべきで(ジェイソンは薬なんか頼っていないはず)、それでは敵に捕まった時、まさに命取りだ。この薬によって、常人を超えたスーパーパワーが得られる、というのなら分からなくもないが、観ている範囲ではボーン以上の身体能力があるようにも見えない。

そして、体調維持なのか薬が要らない体に戻すのか、よく分からん活性ウイルス?とかを求める為にフィリピンのマニラに向かう展開もご都合主義だ。そんな高度な薬品開発を、遠く離れたアジアの国でしかやっていないというのが納得し難い。アメリカ本土で開発出来ない理由があるならそう説明すべきだ。
どうも、マニラでカーチェイスをやりたかっただけなのか、と思いたくなる。

そのカーチェイス・シーンはなかなかの迫力で、このシーンだけ抜き出せば面白いかも知れないが、そんなシーンがなくても十分に面白い物語になっていなければならない。観終わって、カーチェイスしか印象に残らない映画では困るのだ。

題名の「レガシー」とは“遺産”という意味。皮肉な事に、せっかくマット・ディモンとポール・グリーングラス監督が築き上げた「ボーン」シリーズという秀作の遺産を食い潰す結果となった。二代目が親の遺産を食い潰すのは一般社会ではよくある話なのだが。

 
…と、いろいろ文句を言ったが、多分ギルロイの頭の中には、3部作程度の構想が詰まっていて、本作は新シリーズの序章―という位置付けなのだろう。多分作られるだろう続編、そして最終章を観てはじめてさまざまな謎が解け、この新シリーズの真価が分かるのかも知れない。本作だけでつまらないと決め付けるのは、まだ尚早かも知れない。ともあれ、本作については採点は厳しく。     
(採点=★★

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(さて、お楽しみはココからだ)

本作は、“大ヒット・シリーズの主人公が属するスパイ組織に籍を置くもう一人のスパイが主人公となって、大ヒット・シリーズの裏で活躍するアクション”というコンセプトなのだが、これとほとんど同じコンセプトを持つ映画が存在する。

それは、1965年のイギリス映画「殺しの免許証(ライセンス)」(リンゼイ・ションテフ監督)。

Licensedtokill

007シリーズが大ヒットを飛ばし、亜流のスパイ・アクションがわんさか作られていた時代に、ジェームズ・ボンドと同じ、イギリス情報部MI6に所属する、同じ00ナンバーを持つ男、チャールズ・バイン(トム・アダムス)が主人公のスパイ・アクションである(但しイアン・フレミングの原作とは何の関係もない)。

随所に本家007シリーズを茶化したようなセリフがあって楽しい。詳細は忘れたが、「彼(ボンドを指す)はどうした?」「○○○に出張中です」とか。

エレキ・サウンドが効いたテーマ・ミュージックも大好きで、サントラ盤も持っている。あまり予算がかかっていない、初期の007シリーズのような味わいがあって悪くない。
続編(題名「続・殺しのライセンス」)も作られたがこの2作で打ち止めとなった。今ではこの作品の存在を知る人は少ない。DVDは出ておらず、中古VHSはかなり高価でレア・アイテムとなっている。もう一度観たいと思う。

なお、「殺しの免許証」の原題は"LICENSED TO KILL"であるが、面白い事に本家007シリーズにこれとそっくりの"LICENCE TO KILL"という原題をもつ作品がある。邦題は「007/消されたライセンス」(1989)。本家の方が後で作られているのも面白い。

よく見ると前者が"LICENSE"、後者が"LICENCE"と、スペルが1箇所異なるのだが、辞書ではどちらも載っていて、米: license、英: licence とある。そのせいか、「007/消されたライセンス」のアメリカ公開時のタイトルは"LICENSE TO KILL"に変わっていたそうだ。ややこしいのでどちらかに統一出来ないのだろうか。

 
VHS「殺しの免許証」

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コメント

ボーンシリーズを見てきましたが、ジェイソンボーンの有終の美を見事に壊してくれた作品です。
作品自体、ボーンのヒットにあやかって作られた三流の映画だと感じます。
ボーンは自らの記憶をたどって真実にたどり着く展開で、CIAでの経験をもとにさまざまな危機を乗り越えていくところが見どころであり、CIA上層部との駆け引きが面白い作品でした。
それに対して、こちらの方では、主人公のアーロンクロスが薬を求めて闘う作品で、随所にジェイソンボーンとの作品のクロスがありましたが、ジェイソンの面白さを期待すると、見事に裏切られる展開です。CIA上層部がジェイソンボーンに対してあたふたしている展開がはたしてこの映画に必要あったのか、アーロンは薬がなければ活動できないのか、ジェイソンが自らの身体で切り抜けてきたのに対し、薬で対処するアーロンに疑問を感じました。また、研究所で銃を乱射する職員がいましたが、なぜ彼が乱射していたのかの経緯も省かれて、CIAがアーロンを確認していたのにもかかわらず、みすみす出国を許す失態と、ラークス計画での最強の暗殺者を送り込むも、女性研究者の一撃であっけなく終わる展開に、ボーン三部作で感じたCIAに対する恐ろしさが微塵も感じられませんでした。
大ヒットした作品のネームバリューを借りて
作成したもので、脚本をおろそかにして、商業主義に陥るハリウッドの典型的な作品でした。とてもいい役者がそろっていたにも関わらず、脚本で台無しにしてしまい、もうこれ以上シリーズ化をしないでほしいと願います。

投稿: クリム | 2013年1月23日 (水) 12:34

◆クリムさん

おっしゃる事、ほとんど同意です。
監督したトニー・ギルロイは、ボーン・シリーズすべての脚本を書いた人なのに、監督するとなんでこんなダメになるんでしょうかね。
察するに、共同脚本家の腕が良かったか(2作目の共同脚本は「ミスティック・リバー」等のブライアン・ヘルゲランド)、あるいは監督のP・グリーングラスがかなり手を加えてるのかも知れませんね。

>もうこれ以上シリーズ化をしないでほしいと願います。
どうでしょうかね。そう願いたい所ですが、柳の下にドジョウは3匹までいるのが映画界ですからねぇ(笑)。
それか、ギルロイが監督下ろされて別の監督で作る事になるかも。
まあ作られても、見る気は起きないかも知れませんね。

投稿: Kei(管理人) | 2013年1月30日 (水) 01:06

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