「フランケンウィニー」 (2012)
2012年・ アメリカ/配給:ディズニー
原題: Frankenweenie
監督:ティム・バートン
原作:ティム・バートン
脚本:ジョン・オーガスト
音楽:ダニー・エルフマン
製作:ティム・バートン、アリソン・アベイト
「アリス・イン・ワンダーランド」、「ダーク・シャドウ」のティム・バートン監督が1984年に製作した同名の短編(実写)映画を、モノクロ、3D映像の長編ストップモーション・アニメとしてリメイク。 脚本は「ビッグ・フィッシュ」(2003)、「チャーリーとチョコレート工場」(2005)、「コープスブライド」(2005)等、バートン作品の常連であり、2007年には「9 ナイン」で監督デビューを果たした俊英ジョン・オーガスト。
科学と映画作りが大好きな10歳の少年ヴィクター(チャーリー・ターハーン)は、愛犬のスパーキーと大の仲良し。だがある日、スパーキーは自動車事故で死んでしまう。悲しむヴィクターだったが、学校の理科の実験で、死んだカエルに電気を流すと足が動く事を知り、スパーキーを墓から掘り起こし、落雷の力を利用しスパーキーを甦らせることに成功する。しかし、やがてスパーキーの存在をクラスメートに知られてしまった事から、次第に騒動が大きくなって…。
CG全盛の今の時代に、ティム・バートンは、わざわざ手間のかかる1コマ撮りのストップ・モーション・アニメを完成させた。これまでにも原案・製作を担当した「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」、監督した「コープスブライド」と、ストップ・モーション・アニメを作り続けて来たバートンだが、今回は、28年前に作った短編実写映画「フランケンウィニー」を、あえてストップ・モーション・アニメでリメイクしたのである。
ストップ・モーション・アニメは、「シンドバッド7回目の航海」等で知られるレイ・ハリーハウゼンが有名だが、近年はピクサーに代表されるCGアニメが主流で、今ではコンスタントにストップ・モーション・アニメを作っているのは、「ウォレスとグルミット」のアードマン社くらいである。本作もそうだが、ストップ・モーション・アニメは少しづつ人形を動かして1コマごとに撮影するので、1人のアニメーターが5秒の映像を作るのに1週間もかかるそうだ。その為「ウォレスとグルミット」シリーズも、1本作るのに2~3年がかりだという。気の遠くなる作業である。本作も完成までに2年かかっている。
なぜそこまでしてストップ・モーション・アニメにこだわるのか…。その答えは、バートン自身がインタビューで語っている。
「それが命のない人形に命を与える手法だからです。ちょうどフランケンシュタインの物語と同じように」
これはまさに、本作のテーマとも重なる。アニメに使う人形は、それ自体は物体であって動かない。それを1コマづつ動かしてフィルムに収める事によって、上映するとまるで生きているかのようになめらかに動く。ストップ・モーション・アニメの製作は、まさしくバートンが語る通り、“命のないものに命を吹き込む作業”であるのだ。
そう思ってこの映画を観ると、バートンが描きたかったテーマがはっきりと見えて来る。
ストーリーは、オリジナルとほぼ同じ。追加されたのは、いたずら好きのクラスメートたちが、科学コンテスト優勝を目論んで、ヴィクターの装置を使い、スパーキー蘇生と同じ方法で死んだ動物たちを甦らせるが、どれもがとんでもないモンスターとなって暴れ、街を大混乱に陥れるという部分。ここはいろんなホラー映画、怪獣映画へのオマージュが満載で、ストーリー全体が古典ホラー「フランケンシュタイン」(1931年・ジェームズ・ホエール監督)へのオマージュになっている事と併せ、B級ホラー、怪獣映画好きの映画ファンには応えられない、楽しい快作になっている。
しかしさすがバートン、単なるパロディ、オマージュには終わっていない。
本作の中心になっているのは、ヴィクター少年が愛犬スパーキーに寄せる“愛”であり、死んでしまったスパーキーを、それでも忘れずにいとおしみ、生き返ってくれる事を望む、ひたすらな思い…その願望が、スパーキーを甦らせるのである。どこか歪んではいるが、真摯な愛…これがテーマとなっている。
これは、バートンが監督デビュー以降、「シザーハンズ」、「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」、「コープスブライド」等の作品を通して描き続けている、“異形なる生き物”、“死してなお生きているもの”への深い愛―というテーマとも共通する。
最近のバートン作品は、ヒット作はあるけれど、何か作りたいものとは違う、という感じがしていたのだが、本作はデビュー当時の初心に戻って、楽しんで映画を作ったのではないか。その気持ちが画面の隅々にまで溢れている。
冒頭早々から、ヴィクターが自主製作したホーム・ムービーを親子で鑑賞するシーンがあるのだが、中味は、東宝怪獣映画を思わせる怪獣同士の決戦(スパーキーにトリケラトプスのような背ビレをつけて正義の怪獣に見立てているのが楽しい)。悪の怪獣は、東宝の“ラドン”のようにも見えるが、本編ラストに出てくるのが大映のあの怪獣である所を見ると、あれは“ギャオス”かも知れない(笑)。
おそらくバートン自身も、少年時代、8mmフィルムなどで自主映画を作っていたと思われる。―つまりヴィクターはバートンがモデルなのだろう。
そういう点でも、本作は、ティム・バートンという映画作家が、原点に立ち返って作った、映画愛に溢れた映画ファンのための映画であると言えよう。
思えば今年は、やはりモノクロで、サイレント時代の映画への愛に満ちた「アーティスト」が前半に公開されたが、年末に登場した本作もまたモノクロで、手作りのアナログ的手法で作られた、いわゆる“原点回帰”の作品であるという点でも共通している。CGやら3D映画もそろそろ食傷気味の昨今、こうした映画が登場して来た意味を考え直してみるのも面白いかも知れない。 (採点=★★★★☆)
(さて、お楽しみはココからだ)
随所に仕込まれた、怪奇・ホラー映画のオマージュについては、主だったものは他のブログでも書かれているのでここでは挙げないが、あまり取り上げられていない細部についていくつか。
主人公の名前、ヴィクター・フランケンシュタインは、メアリー・シェリーが書いた小説「フランケンシュタイン」の主人公と同じ名前である。
隣家の少女の名前が、エルザ・ヴァン・ヘルシング。…これは言うまでもなく、吸血鬼ドラキュラの宿敵、ヴァン・ヘルシング教授からいただいている。
なおエルザの愛犬であるプードルがスパーキーに触れて感電した後、頭の毛に白いギザギザ模様が出来るのだが、これは1935年につくられた、1931年版の続編「フランケンシュタインの花嫁」に登場する、エルザ・ランチェスター扮する怪物の花嫁のヘアスタイルとそっくりである(右)。
ヴィクターのクラスメイトたちの風貌が、一人は1931年版に登場するボリス・カーロフ扮するフランケンシュタインの怪物と、もう一人はフランケンシュタイン博士の助手のせむし男とそれぞれそっくりである。
ラストの風車の焼け落ち場面も含めて、1931年版「フランケンシュタイン」と続編「フランケシュタインの花嫁」は観ておいた方が、この映画をより楽しめるはずである。
理科の実験をする、ジクルスキ先生の容貌、どこかで見たような…と考えていたら、思い当たった。
このキャラクターのモデルは、おそらく、多くのB級怪奇映画に出演した、ヴィンセント・プライスだろう。右の写真を見れば、似ているのが分かる。
というのも、ティム・バートンはヴィンセント・プライスの大ファンで、ディズニー・スタジオのアニメーターだった1982年(つまりオリジナル「フランケンウィニー」製作の2年前)に、「ビンセント」という題名の、上映時間6分の短編ストップ・モーション・アニメを監督・脚本・美術兼任で作っている。
これが実質的に、バートンの監督デビュー作である。
内容は、ヴィンセントという名の7歳の少年が、怪奇俳優ヴィンセント・プライスに憧れ、白日夢の世界で、愛犬を実験台にゾンビを作ろうとする、というおどろおどろしい物語。ヴィンセント・プライス自身がナレーションを担当している。
モノクロのストップ・モーション・アニメという点と、人形キャラクターが本作「フランケンウィニー」のそれとそっくりである、という点で、この作品こそが本作の原点であると言えるかも知れない。本作にヴィンセント・プライスらしき人物が登場しているのも、そう考えれば当然であると言えよう。
なお、ヴィンセント・プライスはその後、バートンの「シザーハンズ」にも出演しており、これはプライスの遺作となった。
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コメント
2D字幕版見ました。
ティム・バートン監督のアニメは見る事に決めてます。
面白く見ましたが、ちょっと期待しすぎたかな。
まあいつもバートン作品にはつい期待してしまうのですが。
オリジナルの短編も好きなので、バートンのアニメとしてはこれくらいは当然の出来と思ってしまうのです。
久々のウィノナ・ライダーの声も良かったです。
前半がちょっと地味かな。後半は盛り上がりますね。
「フランケンウィニーアート展」にも行ってきました。
http://gqjapan.jp/2012/12/04/w_frankenweenie/
映画を見てから、、と思っていたので最終日に駆け込みで。
映画に使用された人形や小道具などが展示してあり、楽しかったです。
メイキング映像も放映されていました。
投稿: きさ | 2013年1月 1日 (火) 09:45