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2012年12月15日 (土)

「アルゴ」

Argo

2012年・米/配給:ワーナー・ブラザース
原題:Argo
監督:ベン・アフレック
製作:グラント・ヘスロフ、ベン・アフレック、ジョージ・クルーニー
原作:アントニオ・J・メンデス、ジョシュア・ベアーマン
脚本:クリス・テリオ

イランで実際に起こった、アメリカ大使館人質事件の影で密かに行われた、奇想天外な救出作戦秘話を描くサスペンスドラマ。「グッド・ウィル・ハンティング 旅立ち」「ザ・タウン」のベン・アフレックが、監督のほか製作・主演も務めた。また、自身も俳優兼監督であるジョージ・クルーニーがプロデューサーとして参加している。

1979年11月4日、イラン革命が激化するテヘランで、過激派がアメリカ大使館を占拠し、52人が人質になるが、その混乱の中、6人のアメリカ人が密かに大使館を脱出し、カナダ大使の私邸に身を寄せた。だがそれが見つかれば彼らは元より、人質の命も危険に晒される。そこでCIAで人質救出を専門とするトニー・メンデス(ベン・アフレック)が、彼らの救出作戦に当る事となり、さまざまな策を練った末に、大胆不敵な作戦を立案。「アルゴ」という架空のSF映画を企画し、6人をその撮影スタッフに偽装して出国させようというものだ。ハリウッドの特殊メイクの第一人者、ジョン・チェンバース(ジョン・グッドマン)とプロデューサーのレスター・シーゲル(アラン・アーキン)の協力を得て、着々と準備を進めるが、あと少しという所で、突然本国から作戦中止の指令が入り…

鑑賞してから大分日が経っているが、忙しくてなかなか紹介出来なかった。しかしこれは本年屈指の傑作であり、ベストテン上位に入れたいと思っているので、遅まきながら書かせていただく事とする。

 
とにかく、これが実話であるというのが驚きである。1979年のアメリカ大使館人質事件はニュースでも話題になって、私も覚えているが、こんな救出作戦があったとは知らなかった。…のは当然で、この作戦は長い間機密にされ、ようやく事件発生から実に18年後にやっと公表された。本件のみならず、CIAの暗躍はいつも政治の闇に葬られて来た歴史がある。

ベン・アフレックの演出は、冒頭から実際の大使館占拠事件のニュース・フィルムと、俳優を使った再現映像とを巧みにモンタージュし、一気に緊迫感を高めて行く。再現映像は、アングルも、俳優たちの容貌も、ニュース映像と見分けがつかないほど巧妙に作られている(ニュースの方は、画面両サイドが黒いスタンダード・サイズになるので一応区別出来るが)。

これによって、まるでドキュメンタリーを観ているかのような迫真性が伝わり、本作が事実に基づくノンフィクションである事がより強調される。秀逸な演出である。

救出作戦は、いろんな案が出されるが、どれも成功の確率は低く、決め手を欠いていた。そんな時、自分の息子から電話で、今テレビ放映されていると教えられた映画「最後の猿の惑星」を観たメンデスはひらめく。6人をSF映画の撮影クルーと偽って出国させるというものだ。

で、映画の撮影というアイデアはいいとしても、何故SF映画なのか…。これが作戦のポイントである。

中東地区ロケの映画であるなら、一般的には歴史スペクタクルの「アラビアのロレンス」だとか、アクションなら「ランボー」シリーズのような作品が思い浮かぶ。

だが、現地でロケしたなら、どうしてもアラブ人たちの描き方が微妙となる。「ランボー」なら、おそらくイスラム過激派を敵とする描き方になるし、歴史ドラマにしても、欧米人優位=イスラム差別のようなニュアンスになる。脚本や絵コンテをチェックされたら、イラン革命防衛隊を怒らせかねない。リスクが高いのである。

その点、SF映画なら、敵はエイリアンである。いくらバタバタ殺しても、前記のような心配はない。

その上、1979年と言えば、その2年前に公開された「スター・ウォーズ」が世界的に大ヒット。以後、「未知との遭遇」(77)、「スーパー・マン」(78)、「エイリアン」(79)と、話題のSF映画が続々と作られていた時期である。
さらに「スター・ウォーズ」では、タトウィーン星の砂漠シーンを、チュニジアでロケする等、中東の砂漠風景は、宇宙の果ての惑星描写にピッタリである。イランでロケしたいと言っても違和感はないのである。

そこへもって、「猿の惑星」シリーズで一気に有名になった、特殊メイクアップ・アーチスト、ジョン・チェンバースの名前を出せば、SF映画に多少なりとも関心のある人なら、この撮影隊は本物だとまず信じてくれるだろう。

メンデスがまさかそこまで考慮していたわけではないだろうが、結果的にSF映画を選んだのは大正解であったのである。

イラン革命防衛隊の隊員たちが、メンデスが持参した「アルゴ」の絵コンテを嬉しそうに回し見するシーンが、緊迫感の中にも笑わせてくれるアクセントとなっているのがいい。

そして後半の脱出行、このシークェンスは、いつバレるか、観ているこっちもまさにハラハラドキドキ、次から次と押し寄せる危機に、手に汗握りっぱなしである。

ここらは、サスペンスの巨匠、ヒッチコック監督の「引き裂かれたカーテン」における、東西冷戦下の東ドイツからポール・ニューマンとジュリー・アンドリュース夫妻が決死の脱出を図るサスペンス描写を思い起させる。緊迫した政治状況下の脱出サスペンスという共通項もあり、アフレック監督は多分この作品をかなり参考にしているのではないだろうか。

まあ多少フィクションも交えているのだろうが、この緊迫感に満ちたスリリングな描写は近年のサスペンス映画の中でも出色である。ヒッチコック監督作品に肩を並べた、と言っても過言ではない。

作戦は成功したが、政治的配慮から、この秘密作戦の実態は封印され、大統領から栄誉を称えられてもおかしくないメンデスの功績は表に出る事はなかった、という結末もほろ苦い。見事な一級のサスペンス・エンタティンメントでありながら、単なるハッピー・エンドに終わらず、端無くも政治の非情さ(途中で6人を見殺しにしかねない中止命令が出る辺りもまさに)、恐ろしさをも暗示して深い余韻を残す事に成功している。

 
ベン・アフレックは、我が国では未公開となった「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(2007)で監督デビューを果たしているが、監督第1作とは思えないほど見事な、社会派ミステリー・サスペンスの傑作だった(DVDは発売済)。
続く2作目の「ザ・タウン」(2010)でも非凡な演出力を見せており、1作ごとに着実に監督としての腕を上げている。

本作において、アフレックは一流映画監督の仲間入りを果たしたと言えるだろう。多分来年発表のアカデミー賞でも、作品賞、監督賞他の候補に上がるのは間違いない。

俳優出身の監督では、クリント・イーストウッドという大先輩がいるが、思えばイーストウッドの監督デビュー作も「恐怖のメロディ」というサスペンスだったし、奇しくも、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」の原作者はイーストウッド監督作「ミスティック・リバー」のデニス・ルヘインである、というのも興味深い。

そういった縁から考えても、ベン・アフレックがイーストウッド監督の後継者になり得る可能性は十分にある。今後の更なる活躍を期待したい。    (採点=★★★★☆
 

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コメント

試写で見ました。これは面白い映画でしたね。
実在の人物に似せた配役も見事。演出もうまいです。
最後、無事出国できるかというサスペンスが効いていてハラハラさせますが、実話にしては綱渡りすぎる気もしました。
アラン・アーキンとジョン・グッドマンの脇役もうまいですが、役者は巧い人を揃えていて見せます。
原作を最後の方だけ立ち読みしてみましたが、やはり最後の方のどきどきの展開は脚色ですね。
映画としてはそれでいいのでしょうが。

投稿: きさ | 2012年12月17日 (月) 23:35

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投稿: 日本インターネット映画大賞 | 2012年12月27日 (木) 22:35

私もこの映画を観ましたが、最後のシーンでありハイライトでもある、空港から搭乗するまではハラハラしました。
離陸しているのに革命防衛隊が執拗に追跡してきて緊張感に溢れていましたね。

投稿: kintyre | 2013年2月 9日 (土) 22:19

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