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2013年1月27日 (日)

「LOOPER/ルーパー」

Looper

2012年・アメリカ/配給:ギャガ、ポニーキャニオン
原題:Looper
監督:ライアン・ジョンソン
脚本:ライアン・ジョンソン
製作:ラム・バーグマン、ジェームズ・D・スターン
製作総指揮:ダグラス・E・ハンセン、ジュリー・ゴールドスタイン、ピーター・シュレッセル、ジョセフ・ゴードン=レヴィット、ダン・ミンツ

30年後の未来からやってきた自分自身と対峙する殺し屋の姿を描くタイムトラベルSFアクション。監督は「BRICK ブリック」(2005)で注目された新鋭ライアン・ジョンソン。主演はブルース・ウィリスと、「BRICK ブリック」でもジョンソン監督とコンビを組んだジョセフ・ゴードン=レヴィット。

西暦2074年の世界では、タイムマシンが開発されていたが、その使用は法律で固く禁じられていた。しかし、犯罪組織はタイムマシンを利用し、消したい標的をタイムマシンで30年前の2044年に送り込み、そこにいる“ルーパー”と呼ばれるプロの処刑人に、ターゲットの暗殺と死体処理を実行させていた。凄腕ルーパーのジョー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)はある日、いつものようにターゲットを待ち受けていたが、未来から送られてきた標的は30年後の自分自身(ブルース・ウィリス)だった。

タイム・トラベルをテーマとしたSFも、いろんな作品が登場して、そろそろ食傷気味の感がある。
しかし、捻りようによってはまだまだネタは転がっている、と思わせる、異色のSFが登場した。

未来からやって来た男が、自分自身の未来の姿で、そのターゲットの処刑に失敗したら殺される、という設定がなんとも皮肉である。
なぜなら、若い自分(以下ヤング・ジョー)が殺されれば、未来のジョー(以下オールド・ジョー)は存在しなくなるわけだから。

物語は、まるでドッペルゲンガーのような2人のジョーの対立、その人生にどう結末をつけるか、というサスペンスを孕んで進行して行く。

(以下ネタバレあり。注意)
オールド・ジョーは、2074年の世界で、最愛の伴侶を殺された為、その元凶である悪の帝王、レインメイカーとなる少年シドを殺そうとしているのだが、ヤング・ジョーはそのシドの母親サラ(エミリー・ブラント)に好意を抱き、シドを守ろうとする。同一人物でありながら、目的はまったく異なっているのが何ともシニカル。最後の結末[ヤング・ジョーの自死]も、まったく予想外。

この結末に、私は最初、違和感があった。何故そんな事をする必要があったのか。シドを守る為という理由だけでは弱いのではないか。

だが、「ルーパー」というタイトルを付けた意味を考えているうち、納得がいった。
“タイムマシンを使った無限ループ”…これが作品のテーマだからである。

ルーパーの掟は、ある時期が来ると、30年後の自分自身が送られて来て、それを殺せばルーパーの仕事から解放され、莫大な報酬を元手に30年間の何不自由ない人生を送れる、というものである。
だが、30年経ったら、組織の手で30年前に送られ、そこで過去の自分(ヤング・ジョー)に殺される運命となる。
30年後の自分を殺したヤング・ジョーは、そこからまた30年の短い人生を送った後、30年前に送られ、またまた過去の自分に殺され、また30年が経って……
…と、まさに堂々巡り。永久に無限ループを繰り返すわけである。

オールド・ジョーがとった掟破り(ヤング・ジョーに殺されずに逃げる)は、この無限ループに一石を投じた事となる。
だが、愛する者を奪った復讐であるとは言え、まだ幼い子供を非情に殺そうとするオールド・ジョーの行動に、ヤング・ジョーは激しい怒りを覚える。だがそれは未来の自分自身の姿なのである。

ヤング・ジョーは、すっかり人間が変わってしまった未来の自分の姿に、人生の空しさを感じてしまったのだろう。例え生きながらえても、30年の余生しかなく、その果てはこのオールド・ジョーである。そして、サラと出会い、愛を知り、彼女とシドを守り抜く事に人生の目的を見出したのだろう。

そこで[自分が死ねば、オールド・ジョーも存在しなくなり、ゆえにサラを悲しませる事もなくなる。そして何より、果てしない無限ループは確実に閉じられる事になる、とヤング・ジョーは考えたのだろう]

ヤング・ジョーの武器が、射程の短いラッパ銃と称するものである事がここでの伏線になっているのがうまい。

ジョーの自己犠牲的献身を知ったサラは、シドに対しても、より愛情を持って育てて行く事だろう。もしかしたら、それによってシドの心にも変化が生じる可能性もある。未来を良い方向に導くのは、殺伐とした暴力ではなく、愛の力であるというのがこの作品のテーマではないだろうか。

SFとして見れば、穴は多いし、突っ込みどころも多い。
だがこの物語を、時の流れとは何なのか、人間の運命は変えられないものなのか、という、ある種の哲学性を持ったシニカルな寓話と考えれば、これはなかなかに考えさせられる作品なのである。タッチとしては、ダンカン・ジョーンズ監督の「ミッション:8ミニッツ」にやや近いと言えるだろう。辻褄の合わなさは無視して、原案・脚本も担当したライアン・ジョンソンが描こうとしたものについて、じっくり考えてみるのも悪くはない。この監督は、次回作も是非注目しておきたい。    (採点=★★★★☆

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(で、お楽しみはココからだ)

タイムトラベルをテーマにした映画は多数あるが、その中でもベストに挙げられるのが、以下の3本であろう。

(1)30年前の若き父母に出会い、あるいは30年後の自分の未来の姿に出会い、うっかり歴史が変わってしまう事態を引き起こし、それをどう修正するか、ハラハラドキドキの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」シリーズ(1985~1990)。
(2)未来からやって来た殺し屋から、未来の人類の救世主を守る、人類の存亡を賭けたハード・バイオレンス「ターミネーター」(1984)、「同2」(1991)。
(3)全人類の約99パーセントが死滅した死のウイルスが蔓延した理由を探る為に、過去の時代にタイムスリップさせられた男が辿る数奇な運命を描いた「12モンキーズ」(1995)。

で、本作にはそれらの作品に対するオマージュもうまく盛り込まれているようだ。

タイムスリップするのが30年前の過去、という点は「バック・トゥ-」と同じトラベル期間だし、歴史を塗り替える為、過去にタイムスリップして、子供時代のターゲットを抹殺しようとする展開は「ターミネーター」まんまである。
ヤング・ジョーが愛する事になる女性の名前が、「ターミネーター」の救世主、ジョン・コナーの母と同じ、サラであるのも、意識しての事だろう。
ちなみに、「12モンキーズ」過去に送られた男を演じたのがブルース・ウィリスで、男が射殺される所を見ていた少年が [実は過去の自分]だったというオチもある。

あと、サラの息子の名前、シドは、「ブレード・ランナー」等でお馴染みのSFメカニカル・デザイナーの大御所、シド・ミードからいただいている気がする。シド・ミードが手掛けた作品には「タイム・コップ」、レイ・ブラッドベリ原作の「サウンド・オブ・サンダー」等、タイムトラベルをテーマにしたSF作品がいくつかあるのである。
その「サウンド・オブ・サンダー」に、「ブラック・ダリア」等で知られる女優、ジェレミマ・ルーパーが出演しているのは、全くの偶然である。

 

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コメント

こんばんは~。
そういえば、シドのママは、シドを呼ぶ時に「モンキー」と言ってましたが、ここも「12モンキーズ」からでしょうか?私はシドの名前はセックス・ピストルズからかな~と思ってました。

投稿: aq99 | 2013年1月28日 (月) 22:36

結構ツッコミ所の多いハナシでした。
後半は、え、そうなるの?というかなり意外な展開でした。
いきなりスティーブン・キングみたいになるんですよね。
タイムスリップものとしては相当無理がありますが、SFアクションとしてはそれなりに面白かったです。
未来社会の描き方がいいかげんなのは「TIME/タイム」を連想しました。

投稿: きさ | 2013年1月30日 (水) 22:27

未来の自分と対面するんですね。
本当にそのようなことがあったら私はどうしちゃうかなぁと思ってしまいました。

投稿: starfield | 2013年2月 1日 (金) 22:01

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