「レ・ミゼラブル」
2012年・イギリス/ワーキング・タイトル=ユニヴァーサル
配給 東宝東和
原題:Les Miserables
監督:トム・フーパー
原作:ビクトル・ユーゴー
作:アラン・ブーブリル、クロード=ミシェル・シェーンベルク
脚本:ウィリアム・ニコルソン、アラン・ブーブリル、クロード=ミシェル・シェーンベルク、ハーバート・クレッツマー
作詞:ハーバート・クレッツマー
作曲:クロード=ミシェル・シェーンベルク
製作:ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、デブラ・ヘイワード、キャメロン・マッキントッシュ
ビクトル・ユーゴーの同名小説を原作に、1985年にロンドンのウエストエンドで初演、その後ニューヨークのブロードウェイでロングランヒットを記録し、日本ほか世界43カ国でも上演され、いずれも大ヒットとなった名作ミュージカルを、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイら豪華キャストで映画化。監督は「英国王のスピーチ」でアカデミー監督賞を受賞したトム・フーパー。
パンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、仮出獄後、生活に困り再び盗みを働いてしまうが、罪を見逃してくれた司教に感銘を受けて改心し、過去を捨て、やがて市長にまで上り詰めた。そんな折り、運命的な出会いを果たした女性ファンテーヌ(アン・ハサウェイ)から愛娘コゼットを託されたバルジャンは、執念深いジャベール警部(ラッセル・クロウ)の追跡を逃れ、コゼットと共にパリへと逃亡する。コゼットは美しく成長するが、そんな中、パリの下町で革命を志す学生たちが蜂起し、やがて誰もが激動の時代の波に飲まれていく…。
ユーゴーの原作は、我が国では「ああ無情」と題されてロングセラーになり、私も子供の頃読んでいる。また覚えているのは、「少女コゼット」というタイトルのコミックにもなり、これも読んだ事がある。フランス文学としては最もポピュラーな作品である。
そしてロンドン発のミュージカルも話題となり、日本でも東宝が製作し、帝劇でのロングラン公演は大成功となった。
残念ながら機会がなくて、舞台のミュージカルは未見のまま。映画化を心待ちにしていた。
映画は、期待にたがわぬ素晴らしい出来。さすが本家イギリスの製作である。トム・フーパーの演出も奇を衒わず正攻法。堂々たる貫禄で、俳優たちが実際に歌うミュージカル・ナンバーで綴る、運命に翻弄されるジャン・バルジャン、コゼットの愛と生、多彩な登場人物が入り乱れ、革命という激動の歴史のうねりの中で、懸命に生きる人たちの怒りと悲しみ、そして感動の結末に至るまでの波乱万丈の物語に酔いしれた。
ミュージカルと言っても、ほぼすべてのセリフが歌で表現される、オペラに近い音楽劇である。過去の映画では、「シェルブールの雨傘」、「ジーザス・クライスト・スーパースター」等もこの形式のミュージカルだった。どちらも私が大好きな作品で、何度も繰り返し観ている。
ミュージカル好きな人なら堪能出来る力作である。ただ、役者がずっと歌ってるので、ミュージカルに慣れない人にはシンドいかも知れない。
さて、思い起こしてみると、ミュージカル・ナンバーの多くが、実は歌う本人たちのモノローグ=即ち悩み、絶望し、苦悩する心の内面の吐露=が多い事に気が付いた。ファンテーヌが歌う「夢やぶれて」を始め、ジャン・バルジャンも、ジャベール警部ですらも、誰も周りにいない場所で、自らの心の叫びを歌うナンバーが多い。
これがミュージカルでない、普通のドラマ作品であるなら、誰もいない所で、自分の心に浮かぶ思いを声に出して喋ったりしてたらヘンである。演劇にしろ、映画にしろ、基本は会話劇である。自分の思いは、聞いてくれる相手に向かって喋る事によって伝える場合が多い。よって話し相手がいない時には、登場人物の思いが観客に十分伝わらない時もある。
その点、小説は、登場人物の心の内面も文章で表現出来るという利点がある。「彼は思った。云々…」とか、一人称の場合特に「私は考えた…」、等の表現が小説にはよく登場する。小説は面白かったのに、映画になると面白くなくなったりするのは、こうしたハンディが映画にはあるせいかも知れない。
そう言えば、前述のミュージカル「ジーザス・クライスト・スーパースター」でも、冒頭にユダが誰もいない山頂で自らの苦悩を歌う「彼らの心は天国に」をはじめ、マリアが歌う「私はイエスが分からない」、捕らえられる直前のキリストが一人絶唱する「ゲッセマネの園」等、心の中の思いを訴えるナンバーが多かった。
ミュージカルはそういう点を見ても、“主人公たちの、内なる心情の吐露”を表現するのに向いているのかも知れない。
そうそう、MGMミュージカルの大傑作、ジーン・ケリー主演の「雨に唄えば」でも、一番楽しい傑作ナンバーは言うまでもなく、雨の中、ケリーが一人で恋の喜びを爆発させ、歌い踊る“シンギン・イン・ザ・レイン”であった。
小説「レ・ミゼラブル」がミュージカルになり、大成功を収めたのは、そうしたミュージカルの利点を作者たち(ブーブリルとシェーンベルク)がよく分かっており、その手法を最大限に生かしたからこそなのだろう。
フーパー監督の意向で、歌う場面では、通常使われるアフレコでなく、出演者たちに実際に歌わせ、同時録音している。舞台では当たり前の方法なのだが、本作ではこれが思った以上に成功してる。あたかも劇場での舞台公演を鑑賞しているかのような臨場感があり、感動がより伝わって来る。
今後ミュージカル映画を作る時にも、出来ればこの方法は踏襲して欲しいものである。
原作ファンも、舞台ミュージカル・ファンも、そして映画ファンも誰もが満足出来る、見事な秀作である。必見。 (採点=★★★★☆)
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コメント
「おくりびと」が外国語映画賞を獲得した時のアカデミー賞司会は、ヒュー・ジャックマン。そしてアン・ハサウエイやアマンダ・セイフライドが一緒に歌い踊り(正確にはアンは単独で少し、アマンダはマンマ・ミア・コンビVSハイスクール・ミュージカルコンビだったですが)、最後に「ミュージカル万歳!」と叫んだ放送を見たときから、ぜひこの3人共演でミュージカル映画が出来ないかなと漠然と思っていたのですが、まさか「レミゼラブル」で実現するなんて。と、外界の私が思っていた以上に、この3人はミュージカル映画で実力を発揮することを熱望していたんだと思います、特に前者2人は(アマンダはすでに経験済。「親愛なるきみへ」でも歌っている!)。それが画面からはっきりわかるくらいの素敵な演技と歌でした。特にアンは、画面に登場してから5分~10分で過去の話をされても普通の映画だと???ですが、あの歌力で、観客皆を映画の世界に引き込んだと思います。
投稿: オサムシ | 2013年1月21日 (月) 22:34
その「おくりびと」ロケ地の山形県庄内地方在住です。
滅多にミュージカルは観ませんが、
本作は最初の歌から琴線にふれ感激しました。
同時録音で息遣いや衣装の擦れる音等が混じり、
舞台のような臨場感が伝わりましたね。
ヨメも「もう1回観たい」とハマったようです。
近年ない大満足な1本です!
投稿: ぱたた | 2013年1月22日 (火) 11:36
◆オサムシさん
>ヒュー・ジャックマン、そしてアン・ハサウエイやアマンダ・セイフライドが一緒に歌い踊り…
そりゃ楽しそうですね。アカデミー授賞式は毎回録画保存してますので、今度観てみます(どこにしまったか探さないと(笑))。
そう言えば、アカデミー授賞式では毎回ミュージカル的な歌い踊るアトラクションがあって、これを見るのも楽しみの一つ。いずれ、これらを繋いでアカデミー授賞式版「ザッツ・エンタティンメント」を作るのが夢だったりします。いつのことやら…。
◆ぱたたさん
最近はミュージカル映画に面白いものがなかったので欲求不満気味でした(「NINE」もつまらなかったですしね)。本作は久しぶりのアタリですね。DVDが出たら手元に置きたいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2013年1月23日 (水) 01:14