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2013年2月 8日 (金)

「テッド」

Ted

2012年・アメリカ/ユニヴァーサル・ピクチャーズ/配給:東宝東和
原題:Ted
監督:セス・マクファーレン
原案:セス・マクファーレン
脚本:セス・マクファーレン、アレック・サルキン、ウェルスリー・ワイルド
製作:スコット・ステューバー、セス・マクファーレン、ジョン・ジェイコブス、ジェイソン・クラーク
製作総指揮:ジョナサン・モーン

ぬいぐるみのテディベアが、命を宿した事から巻き起こる騒動を描いたファンタジー・コメディ。監督はコメディアン出身で、全米の人気TVアニメ「Family Guy」の企画・製作にも係わり、これが長編監督デビューとなるセス・マクファーレン。

いじめられっ子の少年ジョンは、両親からクリスマスプレゼントにもらったテディベアのテッドが大好き。ある日星に願いをかけると、翌日奇跡が起きてテッドに魂が宿り、「奇跡のテディベア」としてマスコミの話題にもなるが、ジョンは周囲の雑音とやっかみにもめげず、片時も離れずテッドとの友情を育んでいた。それから27年が過ぎ、ジョン(マーク・ウォールバーグ)はすっかりダメ中年オヤジに成長し、一方のテッドは姿こそ昔と変わらないが、中身はジョンに輪を掛けて不良で下品なエロオヤジになっていた。そんなテッドの存在に我慢ならないジョンの恋人ロリー(ミラ・クニス)は、自分とテッドのどちらを取るかとの選択をジョンに迫り…。

人間誰しも、子供の頃は純粋でイノセントだったはずである。

しかし、人間は必ず成長し、大人になって行く。純真な心も、やがて俗世間にまみれ、セックスもするし快楽も追い求め、中年になれば下品な冗談も言ったり浮気もする、情けないオヤジになってしまう場合もある。…それが世間の実態である。

そうやって大人になるに従って、夢中で遊んだ玩具や人形への愛も醒め、いつかは棄ててしまう事になる。

だが、もし人形に命が宿り、親友になったら、玩具のように棄てるわけには行かなくなる。なんたって人間同士の友情は大人になっても長続きしているものだからである。たとえ悪友であろうとも…。

これが普通の人間の中年男同士の友情話であるなら、よくある話で、笑えても後にはあまり残るのもはない。
だが、外観はとても可愛い、子供の遊び相手である人形であるテッドがそうした情けないオヤジぶりを全開し、大人の自堕落な、負の部分をカリカチュアして行動するからこそミスマッチが生まれ、笑わされると同時に、そんな堕落を生み出した人間という存在への、これは痛烈な批判とアイロニーにもなっているのである。

ちなみに、一昨年公開されたアメリカ映画「宇宙人ポール」も、地球にやって来たエイリアン、ポールが、永年の地球暮らしのうちに、下品なジョークを連発し、タバコもマリワナも吸うなど、テッドの行状と似ているのが興味深い。この作品もまた、人間(地球人)への痛烈な批判精神に満ちていると言える。

無論、随所に盛り込まれたいろんなパロディやらオマージュ、マニアックなゲストの登場(「フラッシュ・ゴードン」のサム・ジョーンズが本人役で出演)など、映画ファンを楽しませてくれるネタも満載で、後半は誘拐されたテッドを追ってのスリリングな追跡劇、最後には泣かせてくれるシーンもあったりで、サービス精神満載の、楽しい快作に仕上がっている。

そうした笑いの中に、大人になるとはどういう事なのか、大人になるにつれて、人は何を得、何を失ってしまうのか、堕落した大人の世界を、これが現実だと子供たちに言えるのか、等、さまざまな事を考えさせてくれる、これは笑った後、ちょっぴり胸が痛くなる大人の寓話なのである。

セス・マクファーレン、デビュー作にしてなかなか奥の深い作品を見事に作り上げた。これが全米でも大ヒットした他、コメディがあまりヒットしない我が国でも興行1位を突っ走っているのが凄い。次はどんな作品を生み出すのか楽しみである。

ただ、町山智浩さんが監修した字幕は、楽しいけれど"くまモン"
や"星一徹"などの置き換えはちょっとやり過ぎ。まああちらのテレビネタなどは、そのまま翻訳しても日本の観客には何のことやらさっぱり分からないという事もあるのだけれど。
    (採点=★★★★☆

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(で、お楽しみはココからだ)
魂を持たないはずの人形に、ある日命が宿ったら…、というファンタジーは昔からよくある。有名なのはディズニー・アニメの「ピノキオ」。本作と同じく星に祈れば願いがかなう。主題歌もズバリ「星に願いを」で、今も歌い継がれている名曲である。多分本作にも影響を与えているはず。
これのホラー版が、人形チャッキーが暴れる「チャイルド・プレイ」(1988)。シリーズ化され数本が作られた。

ホラー絡みでいうと、昨年公開されたティム・バートン監督「フランケンウィニー」は、事故で死んだ愛犬にもう一度命を吹き込もうとするというお話で、主人公の少年が犬と深い友情で結ばれていたり、命のない物体となった犬に命が宿る事を熱望するという展開といい、テーマ的には根底の部分で繋がっていると言える。
思い起こせば、バートン自身が語っているように、この映画の製作過程そのものが“命のない人形に命を与える作業”であった訳だから、両作が繋がっているのも当然と言えば当然である。

人形と子供との友情、というテーマでは「トイ・ストーリー」がある。こちらは、少年は気がついていないけど、実は人形たちには生命が宿っている
シリーズ第3作において、少年アンディは17歳になり、人形たちと遊ぶ事もなくなるのだが、一番のお気に入りだったウッディだけはどうしても手放す事が出来ず、引っ越し先に持って行こうとするくだりがある。
このまま大人になっても、アンディはウッディと一緒に暮らすのだろうか、と想像すれば、この2人の関係は本作と大いに似通っている。ある意味本作は、「トイ・ストーリー」のその後を描いたとも言える。

Rotso

ちなみに、おもちゃたちがもぐり込んだ託児施設サニーサイドに君臨するクマのヌイグルミ(ハグベア)・ロッツォは、テッドと風貌がよく似ているうえに、可愛い顔に似合わず人間に対して激しい憎悪を抱いている…といった具合に、その捻じ曲がった根性まで共通しているのが面白い。マクファーレンは、あるいはこちらもヒントにしているのかも知れない。

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コメント

なかなか面白かったです。
実は映画の日に行ったのですが、30分前に行ったのに満席でした。で翌日出直し。
ヒットしているのに上映館が少ないのですね。女性に受けている感じがしました。
細かい所の映画やTVや時事に関するネタが面白いのですが、そのあたりはアメリカ人ならもっと面白いんでしょうね。
特に映画「フラッシュ・ゴードン」はストーリーにからんで来てなんと主演のサム・ジョーンズが本人役で登場するのにちょっとびっくり。
下ネタやドラッグネタも多いので、そういうのが苦手な人は注意。
色々あって笑わせてハラハラさせて、最後はにっこりさせる楽しい映画でした。

命が宿ったぬいぐるみの話という事で矢崎存美さんの小説「ぶたぶた」シリーズを連想したのですが、矢崎さんこんな感想書いてます。
http://yazakiarimi.cocolog-nifty.com/butabutanikki/2013/01/post-0ddb.html

投稿: きさ | 2013年2月 9日 (土) 07:29

この映画是非観てみたいです。
おやじっぽいのが面白そうですね。

投稿: starfield | 2013年2月10日 (日) 19:58

ヒットしているのは伊達じゃないですよね、面白かったです。フラッシュ・ゴードンは未見(フレッシュ・ゴードンは何故か観ている。)なのですが、関係なく楽しめました。これ、日本でヒットしないわけないですよ。ディズニーシーのダッフィーを例にとるまでもなく、おそらく世界一のテディベア好き、そしてキャラクター、展開、ギャグ、どれを採っても、まさしくアメリカ版「クレヨンしんちゃん」ではないですか。そして今回私のツボだったのが音楽。それも楽曲ではなく音楽全体が、妙に懐かしさを感じさせてくれました。あの全編スピルバーグオマージュのスーパー8でさえ音楽だけは違和感があったのですが、この作品のサントラは70~80年代の雰囲気が良く出ていたような気がします。脚本・テッドの声等いろいろやっているセス・マクファーレン監督、来週のアカデミー賞で司会なんですね。楽しみです。

投稿: オサムシ | 2013年2月16日 (土) 19:16

◆きささん
矢崎存美さんのブログの紹介ありがとうございます。
なかなか楽しい方ですね。一度矢崎さんの小説、読んでみますね。


◆starfieldさん
おやじっぽいだけならいいですが、かなりエロ下ネタ(笑)入ってますのでそのおつもりで。


◆オサムシさん
私は「フラッシュ・ゴードン」も「フレッシュ・ゴードン」どちらも観てます(笑)。
「フラッシュ-」の方は戦前にヒットしたアメコミもので、ジョージ・ルーカスが映画化を熱望したものの権利関係で果たせず、それで「スター・ウォーズ」を考案したといういわくつきの作品です。
「スター・ウォーズ」のヒットで映画化されたものの、あまり面白くなくて、ポルノ・パロディ版の「フレッシュ・ゴードン」の方が面白かった記憶があります。
お書きの通り、音楽も意識的に70年代の雰囲気を出してましたね。とにかく楽しい作品でした。

投稿: Kei(管理人) | 2013年2月24日 (日) 22:45

私は、「お父さんのシーン(三田方は分かりますよね))」が羊たちの沈黙へのオマージュではないかと感じたのですが、どう思われますか?

投稿: ハリー・ライム | 2013年8月 4日 (日) 10:42

◆ハリー・ライムさん
返事が遅れました。申し訳ありません。
うーん、観たのが半年以上前で、記憶があいまいになってますので、ご指摘の「羊たちの沈黙」のオマージュがあったかどうかは記憶にありません。ご免なさい。
ただ、いろんな映画のパロディやオマージュがあちこちに仕込まれてますので、多分ご指摘の通りだと思います。次に観る機会があれば注意してみますね。

それより「羊たちの沈黙」について調べてたら、脚本を書いたのがテッド・タリー、連続誘拐殺人鬼バッファロー・ビル役を演じた俳優がテッド・レヴィンと、なんと“テッド”という名前の人が2人も関わってました。偶然とはいえ面白いですね。

投稿: Kei(管理人) | 2013年9月 8日 (日) 01:24

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