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2013年2月 2日 (土)

「東京家族」

Tokyokazoku

2012年・日本/配給:松竹
監督:山田洋次
脚本:山田洋次、平松恵美子
プロデューサー:深澤宏、矢島孝
撮影:近森眞史
音楽:久石譲

「男はつらいよ」シリーズ、「おとうと」等の山田洋次監督が、映画監督生活50周年を迎えた区切りとして、松竹の大先輩である名匠・小津安二郎監督の「東京物語」をモチーフに、今を生きる日本の家族の姿を描く。

瀬戸内の小さな島で暮らす平山周吉(橋爪功)と妻のとみこ(吉行和子)は、久しぶりに3人の子供たちに会う為に東京にやって来る。長男の幸一(西村雅彦)は郊外で開業医、長女の滋子(中島朋子)は美容院を経営と堅実に働いているが、次男の昌次(妻夫木聡)は先行き不安定な舞台美術の仕事をしており、周吉は心配でならない。最初の頃こそ歓迎する子供たちだが、幸一も滋子も忙しくてかまう事が出来ず、昌次に両親の東京案内を押し付けるのだが、昌次の仕事に不安を抱く周吉が昌次を問い詰めた事から親子の間には小さなわだかまりが広がって行き…。

モチーフとは言っているが、登場人物の役名(注1)もストーリー展開も、一部を除いて「東京物語」とほとんど同じ(注2)リメイクと言ってもいいくらいである。同じ松竹製作とはいえ、クレジットにはせめて“小津安二郎・野田高梧脚本『東京物語』より”くらいは入れておいて欲しかった。

それはともかく、さすが松竹大船調の流れを汲む山田洋次監督、うまく現代に当てはめてシナリオを再構成している(平松恵美子と共作)。60年も前の作品なのに、ほとんど違和感がない。もっともそれだけ小津監督によるオリジナル(以下、小津作品)の方が、時代を超えた普遍性を保つ永遠の傑作であるとも言えるのだが。

小津作品と大きく異なるのは、小津作品では戦死していた次男を本作では存命させている点で、息子の先行きを案じる父親と息子との間に確執が生まれるが、息子の気立ての優しい恋人を両親が気に入った事から、両者が和解して行く、というエピソードが、山田監督らしい丁寧な描写で心を和ませ、感動的である。
もっともこのエピソードは、既に山田監督自身が、秀作「息子」(1991)で描いたお話とほぼ同一で、本作は「東京物語」「息子」とをミックスしたような作品になっており、まさに題名通り、「東京物語」+(山田洋次監督が一貫して描いて来た)「家族」の物語と言えるのである。
そういう意味では、山田洋次監督の、まさに集大成的な作品に仕上がっている。
ちなみに「息子」には、老父を故郷に置いて東京で暮らす子供たちと父とのギクシャクした関係が描かれたり、数年ぶりに東京に出た老父が戦友と酒を酌み交わしたり、最後は田舎の家で孤独を噛みしめる老父の姿で終わったりと、「東京物語」に似たシーンがいくつかある。既にここで「東京物語」オマージュをやっているのである。

 
小津作品では、子供たちはみんな自分の事で精一杯で、親と子の間には埋められない溝が広がっており、唯一親身になって周吉(笠智衆)夫婦を世話してくれたのが、血の繋がっていない次男の未亡人・紀子(原節子)だった、という皮肉な結末となっている。この点、小津作品には、家族というものはいずれ解体して行くものだという、無常観、諦観に似た空気が全体を支配している。
その概念は戦前の1941年に作られた「戸田家の兄妹」でも既に、老いた母が子供たちの家をたらい回しにされるという描写に現れている。もっともこの時は、兄たちの仕打ちを厳しく諌める、佐分利信扮する親思いの次男の存在があって、まだ救われてはいたのだが。

「ALWAYS 三丁目の夕日」でも描かれていたように、戦後の復興期の1950年代は、家族や隣近所同士が助け合い、互いを思いやる人情や心の絆がまだ強かった時代である。
そんな時代に、小津安二郎は家族の絆の脆さを辛らつに描いたのである。

小津作品ではさらに、心優しいはずの紀子にさえこんな事を言わせている。
「子供って、大きくなるとだんだん親から離れて行くもんじゃないかしら。
お義姉さま(長女)くらいの歳になると、お義姉さまだけの生活というものがあるのよ。
誰だって、自分の生活が一番大事になって来るのよ。みんなそうなって行くんじゃないかしら」

なんともシニカルである。当時の多くの人は、そんなはずはないと思っただろう。だが今の時代、小津が予感した家族の解体は、小津の想像以上に進んでしまっている。隣近所の人情味などはとっくに薄れ、自分の生活が一番という個人主義が当たり前になってしまっている。

そんな「東京物語」を再構成するに当たり、山田洋次監督はインタビューでこう語っている。
「『東京物語』と『東京家族』で見終わった後の印象が違うとしたら、小津さんと僕の人生観が少し違うって事じゃないですかね。小津さんは、やはり少し冷たいんです。人生を突き放して見ている所がある。虚無的ですよね。僕は希望というのを捨てたくない。見つけにくいものですけどね」(朝日新聞・文化欄より)

これが、小津安二郎と山田洋次との資質の違いである。家族はバラバラになって行くものだという小津の無常観に対し、山田監督はそれでも、家族の絆、人間同士の繋がりはまだ信じたい、という思いがあるのだろう。

だからこそ、血の繋がりのある息子・昌次と父との和解・心の交流という、小津作品にないエピソードを盛り込んだのだろう。
このラストのシークェンスは、さすが力が入っている。泣かせられてしまった。

だからといって、本作が小津作品より感動出来るかと言えば、そうではない。両者を見比べれば、小津作品には人間そのものの哀しさ、愚かさを冷徹な目で見据え、隅々に至るまで凝視し監察する厳しさが張り詰めている。山田作品はそこから見れば人間を見る目はまだ甘い。理想ではあるのだけれど、そんなに簡単に永年のわだかまりが氷解するものではない。
それでも今の時代、これだけ丁寧に家族と人間を描き、余韻の残る作品に仕上げる力量のある監督はザラにはいない。やはり本年屈指の力作であるのは間違いない。

本作に感動し、まだ小津の「東京物語」を未見であるなら、あるいは昔観たけれど忘れかけているなら、是非とも「東京物語」を観て欲しい。再見、再々見して欲しい。小津の人間観察眼の鋭さ、凄さを思い知らされるはずである。ついでに、当時の役者層の厚さ、うまさも是非堪能していただきたい。    (採点=★★★★☆

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(注1)

役名は父の平山周吉、長男幸一、その妻文子、父の友人沼田三平までは小津作品と同じ。母はとみからとみこ、長女は志げから滋子と変っているのは、今の時代、さすがに古くさ過ぎるからだろう。次男は昌二から昌次とやや変えている。また紀子の苗字、間宮は、小津作品「麦秋」で原節子が演じた間宮紀子からいただいている。

(注2)
人物配置はほとんど小津作品と同じだが、小津作品では5人いた子供たちのうち、大阪にいる三男(大坂志郎)と、故郷で父の世話をする次女(香川京子)が本作ではカットされ、3人に減っている。この為、小津作品では妻がいなくなっても周吉の身の回りの世話はあまり困らないが、本作では世話する家族は誰もいない事になる。隣りの家の少女がいろいろ世話してくれるという設定だが、いずれ嫁入りするだろうし、いつまでも世話にはなれない。この点がちょっと気になる所である。

 

DVD「東京物語」
DVD「息子」

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コメント

とても興味のある映画です。
是非観てみたいと思います。

投稿: starfield | 2013年2月 8日 (金) 13:00

こんばんは。

ぼくは映画を直感で楽しむ方で
あまり深く考えないのですが、
その<直感>が
「あれ?これリメイクじゃん」と言っていました。
小津を知らない人が
この映画を観て、どう思うか?
それが興味あるのですが、
ブログやツイッターで語っている人、
その多くは、
すでに小津映画に触れたことがある人のようです(笑)。

投稿: えい | 2013年2月 8日 (金) 23:12

◆starfieldさん
是非ご覧になってください。
いかにも山田監督らしい、本年を代表する力作だと思います。


◆えいさん
まあ、「東京物語」は有名な名作ですし、中高年以上の映画ファンならまず観ているはずですから、つい比較したくなってしまうのですね。
>小津を知らない人がこの映画を観て、どう思うか?
私の憶測ですが、①小津は知らないけど、山田洋次作品はよく観ている人…いつもの山田映画パターンだなと、つまり山田洋次のオリジナル、と思ってしまう可能性
②小津も山田洋次作品もほとんど観ていない人…なんだか退屈な映画だなと欠伸してしまう(私が最初に「東京物語」を観た時もそんな感想)
てな所じゃないでしょうかね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2013年2月11日 (月) 01:25

「東京家族」未見ですが、「東京物語」は見ています。小林政広監督の傑作「春との旅」も「東京物語」でした!

投稿: 牧村利光 | 2013年2月12日 (火) 22:36

◆牧村さん
>「春との旅」も「東京物語」でした

私も「春との旅」批評でその事書いてますので、気が向いたらお読みください。
(カテゴリの「インデックス(アイウエオ順)」から探せます)

そう言えば、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の「みんな元気」も「東京物語」オマージュ入ってましたね。

投稿: Kei(管理人) | 2013年2月13日 (水) 00:50

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