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2013年3月28日 (木)

「クラウド アトラス」

Cloudatras

2012年・アメリカ/配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 Cloud Atlas
監督:ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクバ
原作:デビッド・ミッチェル
脚本:ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクバ
製作:グラント・ヒル、シュテファン・アルント、ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー、トム・ティクバ
製作総指揮:フィリップ・リー、ウーベ・ショット

デビッド・ミッチェルのブッカー賞最終候補にもなった同名小説を、「マトリックス」シリーズのラナ&アンディ・ウォシャウスキー、「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクバの3人の共同監督により映画化。1849年から2346年までの6つの時代を舞台に、海洋アクション、ミステリー、SFなど、さまざまなジャンルを横断するエピソードが壮大なスケールで描かれる。出演者はトム・ハンクス、ハル・ベリーをはじめ、ヒューゴ・ウィービング、ジム・スタージェス、ペ・ドゥナ、スーザン・サランドン、ヒュー・グラントら豪華スターが顔を揃えている。

1849年、南太平洋。弁護士ユーイング(ジム・スタージェス)は、妻の父から奴隷売買を託され、船での航海に出る。1936年、スコットランド。若き作曲家フロビシャー(ベン・ウィショー)は、父に勘当され、天才作曲家エアズ(ジム・ブロードベント)の家に転がり込む。フロビシャーはエアズの採譜係を務めながら、後に幻の名曲となる「クラウド アトラス六重奏」を作曲する。1973年、サンフランシスコ。女性ジャーナリスト、ルイサ(ハル・ベリー)は、原子力発電所の従業員アイザック・サックス(トム・ハンクス)の協力を得て、原発に纏わる汚職を追及するが、会社が放った殺し屋に命を狙われる。2012年、イギリス・ロンドン。著書を酷評した評論家を殺害した作家ダーモット・ホギンズ(トム・ハンクス)。彼の自伝は大ヒットし、出版元の編集者は大儲けとなるが…。2144年、ネオ・ソウル。そこは遺伝子操作によって複製種(クローン人間)が作られ、人間のために消費される社会。複製種の少女ソンミ451(ペ・ドゥナ)は自我に目覚め、革命家ヘジュ・チャン(ジム・スタージェス)の助けを借り、反乱を企てる。2321年、文明がすっかり崩壊した地球。羊飼いの男ザックリー(トム・ハンクス)のもとを、進化した人間コミュニティからやって来たメロニム(ハル・ベリー)が訪ねる。ザックリーの案内で二人は悪魔の地と呼ばれる険しい山の山頂にたどり着く。そして2346年、老いたザックリーは遥かな地球を見つめている…。

映画は、上記のような6つの、時代もジャンルも異なるエピソードが並行して描かれているので、予備知識を仕入れていないと混乱し、わけが分からなくなる。おまけに役者もそれぞれのエピソードで、別人のようなメイクで現れるので余計混乱する。

そんなわけで、本作はあまり評判が良くない。

だが、私には刺激的で面白かった。確かに1回観ただけでは判り難いが、映像の美しさと、流れるような編集のリズムが次第に心地良くなって来る。
観ると言うより、感じる映画である。

また、同一俳優がそれぞれの時代に、人種や性別まで変えて登場しているが、これはプロダクション・ノートによると、人が生まれ変わり、輪廻転生を繰り返している事の象徴でもあるという。

前の時代で残された日誌や手紙が、次の時代に登場するシーンもあり、時代を超えて人は繫がっている、という事でもあるようだ。

どの時代でも、人は過ちを犯し、あるいは欲望やエゴで自滅したり、あるいは巨大な組織や国家に翻弄されたり、また反逆したりもする。
そうした歴史の繰り返しの果てに、24世紀に至って、人類は滅亡の時を迎えてしまう。

確かに、今の時代を見ていると、相変わらず国家間の対立・武力衝突があり、偏狭なエゴイズムが蔓延し、そして環境汚染、地球温暖化、核廃棄物の増殖…と、地球の未来に対する不安要因は山ほどある。
本当にこのままでは、遠い将来には地球は滅びてしまうかも知れない。

それでも、ラストで、僅かながらも残された人々は、希望を捨てず、懸命に生きようとしている。

トム・ハンクスが、最初は堕落したドクター・グースとして登場し、安ホテルのチンケな支配人やら、酷評した書評家を殺したりと、人間のダークな面を象徴する人物を演じてもいるが、最後は老ザックリーとして、人類の歴史全体を振り返る語り部的に登場し、物語を締めくくる。
その彼の首の裏には、それぞれの時代のキーパーソンである事を示す“ほうき星のアザ”があるのも象徴的である。
人間は、もう一度やり直す事が出来るのだろうか…。深い余韻を残す幕切れである。

6つのエピソードの中では、2144年のネオ・ソウルを舞台としたSF編が、アクションとサスペンス、ラブストーリーが巧みに配され、最も印象深い。このエピソードだけで1本の映画にも出来るくらいである。
クローン少女が自我に目覚め、反乱を起すのだが、ウォシャウスキー姉弟は「マトリックス」でも、脚本のみ担当した「V フォー・ヴェンデッタ」でも、征服者や権力に対する反乱や革命(「マトリックス」第3作のサブタイトルがそのものズバリ「レボリューション(革命)」だった)を描いているので、このテーマには力が入るのかも知れない。

1度観ただけでは判り難いのは確かだが、2度、3度と繰り返し観れば面白さが分かって来るだろう。観る度に新しい発見をし、ハマり込む可能性を秘めた問題作であると言える。DVDが出れば繰り返し観れるのでそちら向きとも言えるが、壮大なスケール感は劇場でないと味わえないだろうから難しい所である。

そういう点では、あのS・キューブリック監督作品「2001年宇宙の旅」とも共通する要素を持った作品とも言える。あの作品も最初は難解と言われたが、再映される度にファンを増やし、今では映画史上のベストワンの位置にある。
思えば、あの作品も、ニーチェの「ツァラトゥストラはかく語りき」に象徴される、輪廻転生がテーマであった。

上映時間は3時間近くあるし、ストーリーは入り組んでいてシンドい作品ではあるが、奥の深いテーマを抱えた力作である。十分予備知識を仕入れて観る事をお奨めする。    (採点=★★★★☆

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(さて、お楽しみはココからである)

Hinotori

この作品を観終わって感じたのは、手塚治虫原作のコミック「火の鳥」との類似性である。実際両者はテーマも構成もよく似ている。

過去から、遥かな未来までの、複数のエピソードが時代を往還して描かれる。
②時に歴史もの、時にミステリー、時に本格SFと、エピソードごとにジャンルが異なる
③同一人物が、輪廻転生を繰り返し、違う時代に何度も登場する。
④遥かな未来において、人類は終末の時を迎えている

特に面白いのが「復活編」で、ここでは2482年、2917年、3030年と、異なる複数の時代のエピソードが前後しながら並列して進むという、「クラウド アトラス」と似た構成を持っている。

また「生命編」では、クローン人間が重要なテーマとなっている。

Hinotori1

第2部「未来編」では、人類滅亡後、不老不死となった山之辺マサトが、最後では杖をついた老人の姿となるが、これが「クラウド アトラス」におけるやはり人類滅亡後の2346年における老ザッカリーと、風貌も置かれた状況もよく似ている(右)。

こうして見ると、原作者、あるいは日本マンガにも造詣が深いウォシャウスキー姉弟のどちらかが、手塚の「火の鳥」を参考にした可能性は高いような気がする。

もう一つついでに、ネオ・ソウル編で高層ビルから逃亡したソンミ451を狙う戦闘機の形状が、明らかに“鳥”のイメージ(下)であるのも、火の鳥を意識したのではないかと思える。

Cloudatras2

 
手塚治虫といえば、キューブリック監督が「2001年-」を企画した時、手塚に、同作の美術スタッフとして参加して欲しいと依頼した事があった。手塚が忙し過ぎて断ったのだが、思えば「2001年宇宙の旅」と「火の鳥」は、永劫回帰、輪廻転生というテーマにおいても共通していたのも不思議な因縁である。
そのキューブリックが企画しながら、実現しなかった企画「A.I」(後にスピルバーグ監督が映画化)は、少年ロボットが家族に棄てられる、という、手塚原作「鉄腕アトム」の初期エピソードに似た話なのだが、この作品もラストでは遥かな未来に、人類が滅亡しているという、これまた「クラウド アトラス」と似た結末を迎えるのである。

ちなみに、関係ないかも知れないが、アトムのライバルとして登場するロボットの名前が、アトラスである(注参照)

 
キューブリックも、手塚治虫も、壮大なスケールで、人類の未来を考察する作品を作り続けて来た作家である(核戦争による終末…というテーマでも、それぞれ「博士の異常な愛情」「来るべき世界」という代表作がある)。
やはり「マトリックス」で、人類の未来を描いたウォシャウスキー姉弟、あるいは手塚治虫とスタンリー・キューブリックという2大天才作家に、本作で密かにオマージュを捧げたのかも知れない。

 
(注)
アトラスは、発表された媒体ごとに若干異なる性格を持った複雑なキャラクターである。雑誌「少年」では、オメガ因子を組み込まれた為悪事も働くが、アトムと戦い破壊される。アニメ版では、アトムの設計図を元に作られたボディにオメガ因子を組み込まれた、兄弟とも言える存在として位置付けられている。(出典:wikipedia)

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コメント

予習をしてから観る方がいいんですね。
参考になります。

投稿: starfield | 2013年3月29日 (金) 19:30

いつも楽しく読ませていただいています。
なかなか見られなかった本作を、今やっと見て来ました。けいさんだったらなんとお書きかなと読みに来ました。
火の鳥との共通性、感じますねー。ほんとうに楽しい映画でした。
ところで、アトムの弟はコバルト、アトラスはオメガ因子を備えて悪の心を持ったアトムのライバルのロボットです。
余計な話で恐縮です。

投稿: こーいち | 2013年4月11日 (木) 22:00

◆こーいちさん、こんばんは。

ありゃ、勘違いしてましたか。ずっと弟だと思い込んでました。
慌てて調べたらその通りでした。早速直させていただきました。ありがとうございます。
ずっと昔愛読してたのですが、記憶がごっちゃになってたようですね。トシでしょうか(苦笑)。
またいろいろ、ご教示いただけたら幸いです。これからもよろしく。

投稿: Kei(管理人) | 2013年4月12日 (金) 01:32

やっと見ました。
3時間近い長い映画ですが面白かったです。
時代の違う6つの話がモザイクの様にからんでいるので、ちょっと分かりにくい所もありますが、語り口がうまく面白く見ました。

2144年のソウルを舞台にしたペ・ドゥナの話が一番面白かったです。
ちょっと「マトリックス」みたいなアクションも派手でした。
全ての話が自由への脱出へ収斂していく展開と、ラストの終わり方が良かったです

「火の鳥」との共通点の指摘は輪廻転生や自由を求める戦いというテーマが共通していて割と納得でした。

投稿: きさ | 2013年4月12日 (金) 23:21

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