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2013年3月22日 (金)

「愛、アムール」

Amour

2012年・フランス・ドイツ・オーストリア合作
配給:ロングライド
原題:Amour
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
製作:マルガレート・メネゴス、シュテファン・アルント、ファイト・ハイドゥシュカ、ミヒャエル・カッツ

病に倒れた妻と、介護する夫という老夫婦の愛の姿を描き、カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール、第85回アカデミー賞では外国語映画賞をそれぞれ受賞した秀作ドラマ。監督は前作「白いリボン」でもカンヌ・パルムドールを受賞している名匠ミヒャエル・ハネケ。

元音楽教師であったジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リバ)は、パリの高級アパルトマンで悠々自適な老後生活を送っていた。しかし、ある日突然、妻のアンヌが病に倒れ、手術も失敗して半身不随になってしまう。ジョルジュは病院に戻りたくないという妻の願いを聞き、自らも老いた身でありながらも自宅で献身的にアンヌを介護する生活を続けるが、アンヌの病状は日ごとに悪化して行き…。

いわゆる、“老老介護”のお話である。これは身につまされる。誰もが、やがては体験するであろう、切実な問題である。

互いに元気なうちはいいが、老いて高齢になれば、どちらかが寝たきりになったり、認知症を発症したり、介護が必要な状態になってしまう。避ける事は出来ない。
その事態になった時、どう生活するのか、どう考え、どのような決断をするのか…。

ハネケ監督は、この難しく深刻なテーマを、題名通り、“愛”でまとめている。

互いに深く愛し合っている故に、夫は動けなくなった妻を、愛情を込めて世話する。

老人介護はきつく、重労働である。トイレ、入浴、ベッドへの移動、いずれも体を持ち上げるだけでも大変だ。老人には特にきつい。ヘタすると自分も腰を痛めかねない。
それでも夫は、妻が痛がらないよう、ゆっくりと優しく、心を込めて労わる。

中盤で夫は、介護するヘルパーに対して文句をつけ、追い出してしまう。おそらく妻に対する世話がごく事務的で心がこもっていない事に腹を立てたのだろう。これもまた、妻を愛するがゆえであろう。

一方で、妻の方は、夫を愛している故に、すなまい気持ちで一杯である。自分は夫の愛に、返してあげるものがない。負い目となってさらに心が痛む。

映画は、そうした夫の介護の様子を丹念に、ありのままに描く。おそらく監督自身の身内も含めて、相当リサーチしたのだろう。

妻は日ごとに体が弱って行き、痛みも訴える。夫はそんな妻を見て、自身の心も体も疲弊して行く。
そして悲劇が訪れる…。

この結末は痛々しいけれど、愛し合っていればこその行動で、誰も非難は出来ないだろう。

テーマ的には、クリント・イーストウッド監督の「ミリオンダラー・ベイビー」とも共通する。あれもまた、愛ゆえの決断のドラマであった。

 
ハネケ監督の演出は、冒頭でいきなりショッキングな結末を先に見せたり、音楽もことさらに盛り上げたりしない等、エモーショナルさを極力排除している。エンドクレジットにも音楽は流れない。
それが余計、これはドラマでなく、我々の身にも明日にはやって来る現実の問題である事を浮き彫りにする。
(ちなみに、この映画とそっくりの事件がつい最近日本で起きた事も頭に入れておくべきである)

ジャン=ルイ・トランティニャンと、エマニュエル・リバの二人の演技が素晴らしい。共に80歳を超え、年輪を重ねた名優の存在感が圧倒的である。

思えば、トランティニャンの代表作はまさしく男と女の愛の姿を描いた「男と女」(1966・クロード・ルルーシュ監督)であったし、エマニュエル・リバの代表作は日本でロケした、これもまた男と女の愛を描いたアラン・レネ監督の「二十四時間の情事」(1959)である。
ちなみに「二十四時間の情事」のフランス語原題は"Hiroshima mon Amour(ヒロシマ、わが愛)"であり、本作の原題が含まれているのが興味深い(何故邦題もそのまま「ヒロシマ、わが愛」にしなかったのだろうか。この邦題は品がない)。

人生とは、夫婦愛とは、生きるとは何か、そして人間とは… さまざまな事を考えさせてくれる問題作である。重く、痛い映画ではあるが、観ておくべき、本年を代表する傑作である。    (採点=★★★★★

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コメント

お久しぶりです。
この作品、トランティニャン主演作ということで以前からマークしていたんですが、うちの親が今まさにこの映画と同じ状態となっていて(しかもひとり娘の私が介護申請をしてプロに援助してもらうことを勧め、区の相談員さんに親許へ来てもらったのに…拒否してしまうというところまで似ている)、何度も上映館の前を通り立ち止まっているのに、結局、中に入れずにいます。(それでつい『横道世之介』とか『テッド』とかに足が向き…。)
でも、トランティニャンだから観ておきたいなぁ。ロミー・シュナイダーと共演した『離愁』(←大好きな作品!)でもそうでしたけれど、トランティニャンって「逃げない男」がよく似合いますね。

投稿: ぴよ | 2013年3月24日 (日) 16:18

◆ぴよさん
私の所もいろいろあって大変でした。お気持ちよく分かります。
確かに観るのは辛い映画ですが、観ておくべき映画だと思います。親の方の心理も理解出来るかも知れませんし。

>トランティニャンって「逃げない男」がよく似合いますね。
それで思い出しましたが、ルネ・クレマン監督の「狼は天使の匂い」でもトランティニャンはラストで一旦逃げたのに、親友ロバート・ライアンの所に戻って来るのですね。
まさしく、逃げない男でしたね。

投稿: Kei(管理人) | 2013年3月24日 (日) 22:39

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