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2013年4月10日 (水)

「相棒シリーズ X DAY」

Aibouxday2013年・日本/TV朝日=東映
配給:東映
監督:橋本一
脚本:櫻井武晴
音楽:池頼広
プロデューサー: 松本基弘、伊東仁、遠藤英明、西平敦郎、土田真通

高視聴率刑事ドラマ「相棒」シリーズのスピンオフで、ドラマの人気サブキャラクターである警視庁捜査一課刑事・伊丹憲一と、初登場キャラクターのサイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月彬がコンビを組み、事件に立ち向かう姿を描く。脚本はドラマでも社会派的硬派ものの秀作が多い櫻井武晴。監督はTV「相棒」でも数本監督を勤め、スクリーンでも「探偵はBARにいる」をヒットさせた俊英・橋本一。

謎のデータがネット上にバラ撒かれ、不正アクセスと機密情報漏洩の疑いでサイバー犯罪対策課がマークしていた男の死体が発見された。事件を追っていたサイバー犯罪対策課専門捜査官・岩月彬(田中圭)は、警視庁捜査一課の刑事・伊丹憲一(川原和久)と共同で捜査する事となるが、ハイテク嫌いの伊丹は岩月とソリが合わない。やがて事件の裏でうごめく政官財の権力構造と、金融封鎖計画「X DAY」の存在が明らかになって来るが、その為伊丹たちは目に見えない権力の壁に突き当たる事となる…。

ニュース以外ほとんどテレビを見ない私が唯一見ているドラマが「相棒」で、これまでも何度か取り上げているように、刑事ドラマ+謎解きミステリー+ベテランに鍛えられる若者の成長ドラマというさまざまな見どころが巧妙に配合され、無類に面白い。

だが、劇場版として公開されたこれまでの「劇場版Ⅰ」「劇場版Ⅱ」、スピンオフ第1弾「鑑識・米沢守の事件簿」は、いずれも私には物足りない出来だった。いけないのは、あれもこれもといろんな話を詰め込み過ぎて、かえって散漫になっている点。

劇場版だからと言って、無闇にスケール感を出したり、話を大きくしたりする必要はない。テレビと同じように、緻密にストーリーを組み立て、ストレートに犯人を追い詰めて行けばいいのである。

この点では、やはりテレビ朝日系の捜査ドラマの劇場版「臨場 劇場版」(これも監督は橋本一)も同じ間違いを犯している。別々にドラマとしても成り立つ複数のエピソードを無理矢理くっつけ、チグハグになってしまっていた。

いずれも、テレビと違う映画的なものを、と考え過ぎて、ドラマ版の面白さをかえって削いでしまっているのである。

 
さて、そんな不安感のまま観た本作、やっぱりと言うか、話が大きくなり過ぎている。

“X DAY”という、国家危機的な壮大な陰謀がテーマである。が、さすがテレビでも権力機構の闇などを取り上げた事のある社会派の櫻井武晴脚本、出だしはこれまでの劇場版よりはかなり面白くなりそうな予感がした、のだが…。

(以下ネタバレあり)
物語が進展する中で、裏で糸を引く財務官僚が警察庁に手を回し、捜査に圧力をかけて来る。しかし熱血漢の伊丹は引き下がらず、執拗に事件を追う。

その伊丹の行動を見て、クールに傍観していた岩月も、やがて警察官としての正義に目覚め、圧力に屈せず独自に犯人を絞り込んで行く、という展開はベタながらもこの手のサスペンスものの王道で面白い。

二人の努力で、やがて政官財の陰謀が白日の下に晒され、黒幕の官僚や政治家が軒並み逮捕され、事件は解決…
あるいは、せっかくあと少しの所まで巨悪を追い詰めながらも、権力を利用して逃げられてしまい、伊丹たちは歯噛みする…
…という結末なら、褒めてあげても良いと思ったのだが…。

なんとまあ、[犯人は巨悪どころか小物で、官僚も政治家も絡んでいなかった事が分かると、途端に二人に警視総監賞を与えて一件落着]…という肩すかし的エンディング。

予告編に登場していた、群衆の中で札束が舞い踊るシーンは、[金融封鎖が起きたわけではなく、単にドタバタ騒ぎの中で現金輸送トランクの蓋が開いて現金が飛び出しただけ]、というこれまた肩すかし。

なんだこの思わせぶりに前フリしといて、結果は大山鳴動鼠一匹、というオチは。ガッカリである。
X DAYに関係すると思われる男が謎の死を遂げる、という出だしなら、てっきり陰謀を知り過ぎた男が権力機構に口封じの為抹殺された、と誰もが思うだろうに。櫻井さんにこそ、どっかから圧力かかったのかなあ、と勘ぐられても仕方のない尻すぼみ的結末であった。

 
そもそも、「相棒」の魅力は、天才的な観察力と推理力で難事件を見事解決する、杉下右京のキャラと存在感に尽きると私は思っているので、右京がほとんど活躍しないこうしたスピンオフは邪道であると思う。

確かに、伊丹刑事も人気キャラではあるのだが、ワキでこそ映えるキャラであって、主役には向かないと思う。
ましてや、知的ミステリーである相棒ワールドにおいて、主人公に何かと突っかかる憎まれキャラであるからこそ、右京の名探偵ぶりが引き立つわけで、分かり易く言うなら、「銭形平次」における、テレビでは遠藤太津朗が演じた“三輪の万七親分”的キャラであると言えよう。
だが、三輪の万七が脇役として人気があるからと言って、万七親分を主人公にした“銭形平次スピンオフ”ドラマを見たい、とは誰も思わないだろう。それと同じ事である。

もっと言うなら、「相棒」はテレビドラマの枠内であるからこそ面白いのであって、大劇場のスクリーンで見るドラマではないと私は思う。どこか座りが悪いのである。
特に、スクリーンの大画面に、伊丹刑事のコワい顔が大写しになるのは、本人に罪はないけれど、遠慮してもらいたい(笑)。

杉下右京のキャラに影響を与えていると思われる「刑事コロンボ」も、テレビで大人気となったが、劇場で観たいとは思わない。35ミリのフィルムで撮影され、時間も90分と、劇場映画に近いフォーマットなのだが、それでもスクリーンに大写しにされるべき作品ではない。
それと同じ事が「相棒」にも言えると思う。

私の希望としては、もう「相棒」は、スピンオフも含め、劇場映画は作らないで欲しいと思う。
ましてや、岸部一徳扮する小野田官房長が、Season9以降登場しなくなった理由が、「劇場版Ⅱ」を観なければ分からない、なんていうやり方はあまりに不親切であり、邪道である。テレビ版のファンが全員劇場に行くわけではない。

そんなわけで、本作はいろんな意味でガッカリした作品である。テレビ版のファンには、熱烈伊丹ファンを除いて、お奨め出来ないと言っておこう。   (採点=★★☆

 
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