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2013年5月23日 (木)

「ウエスト・サイド物語」 (1961)

Westsidestory

1961年・アメリカ/ミリッシュ・カンパニー=UA
配給:東宝東和
原題:West Side Story
製作:ソウル・チャップリン、ロバート・ワイズ
監督ロバート・ワイズ、ジェローム・ロビンス
振付:ジェローム・ロビンス
原作:アーサー・ローレンツ
脚本:アーネスト・レーマン
作詞:スティーヴン・ソンドハイム
音楽:レナード・バーンスタイン
タイトル・デザイン:ソウル・バス 

シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を下敷に、舞台を現代のニューヨークに移し、大ヒットを記録したブロードウェイ・ミュージカルを、「サウンド・オブ・ミュージック」等の名匠ロバート・ワイズと、舞台版の演出家ジェローム・ロビンスが共同監督し映画化。61年度のアカデミー賞では作品賞、監督賞を含む10部門で受賞した。

「新・午前十時の映画祭」で上映していたので、家族連れで見に行った。

高校生の時に観て感動して以来、劇場でリバイバルも含め15~6回は観ているし、DVDでも毎年1回は必ず観て、もう何十回見たか数えきれない程なのに、またまた感動してしまった。本当に不朽の名作だと思う。

冒頭の4分間の序曲で、メロディーが聞こえて来た途端に、もうウルウルしてしまった。この名作が大画面で観られる、それだけでも感動してしまう。
デジタル上映という事で、フィルム上映なら必ず10数分おきに画面右上端に表示されるチェンジ・マークもなくなり、感情移入が途切れる事もない。映像はクリアで、音質もいい。やはりこれは劇場で観るべき作品である。

Westsidestory2

レナード・バーンスタイン作曲の音楽最高、ジェローム・ロビンス振付のダイナミックなダンスも最高、俳優たちの若さ溢れる躍動感、俯瞰、移動も多用したカメラワークも、どれをとっても完璧。無論、ちょっとした行き違いから悲劇に至る愛と悲しみの物語展開も見事に構成されていてダレる所がない。最近ほとんど観る事がなくなったが、中間での10分ほどのインターミッション(休憩)もあってなんか贅沢な気分である。152分という長尺だが、身じろぎもせず食い入るように画面を見つめていた。最後のソウル・バス、デザインのエンド・タイトルも何度観ても楽しい。

唯一不満は、昔のような、70mm上映でない事。スクリーンも昔のシネラマ・70mm用大画面に比べれば一回り狭いのだが、これはないものねだりだろう(I-MAXで上映して欲しいなあ)。

 
ところで今回、久しぶりに見て、新しい発見があった。
物語は、アメリカの不良グループ、ジェット団と、プエルトリコからの移民グループ、シャーク団との抗争を描くが、ジェット団の連中がシャーク団に対し「自分の国へ帰れ」とか「臭いんだよ」と罵るのを聞いて、「あれ、最近のヘイト・スピーチ」と似てるなあ」と思った。

また、両者が場所を決めて決闘する事になった時、トニーが武器を使わないように調停したのに、マリアは喧嘩そのものを止めさせてとトニーに懇願し、それを受けてトニーが無理に割って入ろうとした結果、逆に最悪の殺し合いの惨事を招いてしまう。
仲裁しようとした事で、却って憎悪の連鎖を招いてしまうという皮肉な結果は、アメリカのイラク・中東戦略とその後の9.11惨事に至る流れとオーバーラップする。

マリアの、“争いそのものを無くして”という願いは理想ではあるのだが、現実は甘くはない。際限のない憎しみ合いは留まる所を知らず、悲劇は繰り返されて行く。今の時代もそれは変わらない。

しかし、ラストに僅かの希望を見る事が出来る。最愛のトニーを殺されたマリアは、拳銃を握り締め、「みんながトニーを殺した。銃ではなく、憎しみで」と叫ぶが、撃つ事は出来ず、拳銃を放り投げる。
“憎しみの連鎖”はどこかで断ち切らなければならない。憎しみ合っているだけでは何も解決しないのだ。

やがて、双方から自然に手が伸び、両者が協力してトニーの遺体を担ぎ上げる。マリアの思いが人々の心を解きほぐし、争いに終止符を打つ事を暗示して物語は終わる。

 
これまでは、音楽やダンスの見事さに見とれ、圧倒されてあまり意識しなかったが、実は物語にも奥深いメッセージが込められている。
人間とは愚かしい存在である。いつの時代でも、争い、憎しみ合いはなくならない。
それでも、どこかで人は争いを止め、平和な世界を構築して行かなければならない…
その事をこの作品は訴えているのかも知れない。

この映画が製作されてから半世紀以上。なのに、今の時代に観てもまったく古さを感じさせないばかりか、ますます輝きを放ち、時代を照射し、今の混沌とした時代に対する力強いメッセージを発信し続けているのである。凄い事である。その事に、また改めて感動してしまった。

ミュージカルがあまり好きでない方も、この作品は是非観て欲しい。今の時代だからこそ、多くの人に観て欲しい。時代を超えた、これは本当の傑作である。   (採点=★★★★★

 

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受信: 2013年6月 4日 (火) 08:49

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