« 「ゴジラのトランク」 | トップページ | 「ウエスト・サイド物語」 (1961) »

2013年5月16日 (木)

「L.A.ギャング ストーリー」

Gyangstersquad

2013年・アメリカ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Gangster Squad
監督:ルーベン・フライシャー
原作:ポール・リーバーマン
脚本:ウィル・ビール
製作:ダン・リン、ケビン・マコーミック、マイケル・タドロス
製作総指揮:ルーベン・フライシャー、ポール・リーバーマン、ブルース・バーマン

第二次大戦終結後のアメリカ西海岸を舞台に、実在した大物ギャング、ミッキー・コーエンと警察官チームとの死闘を描いたクライムアクションの佳作。監督は「ゾンビランド」の新鋭ルーベン・フライシャー。出演はジョシュ・ブローリン、ライアン・ゴズリング、ショーン・ペン、エマ・ストーンら。

1949年のロサンゼルス。裏社会でのし上がったギャングのボス、ミッキー・コーエン(ショーン・ペン)は、ドラッグや賭博、売春で得た金で政治家や警察内部にも深く手を伸ばし、ロサンゼルス全体を支配するまでに至った。そんなコーエンの横暴に我慢ならないジョン・オマラ巡査部長(ジョシュ・ブローリン)の正義感を見込んだパーカー市警本部長(ニック・ノルティ)は、秘密裏に彼をリーダーとする少数精鋭の警官チーム“ギャングスター・スクワッド”を結成させ、コーエンの組織を壊滅させようと目論んだ。オマラは、妻コニー(ミレイユ・イーノス)の人選を元に、5人のはみ出し警官を集め、目には目をとばかり、ギャング顔負けの手段でコーエンの組織へ戦いを挑んで行く…。

フライシャー監督の作品は、B級ホラー・アクション・コメディ「ゾンビランド」が結構面白かったので、批評で次回作が楽しみと書いたのだが、前作の路線で行くかと思いきや、今作では一転、実話に基づく実録犯罪ドラマと聞いて、やや不安を抱きつつ、あまり期待しないで観たのだが…。

面白い!意外と言っては失礼だが、これは堂々たる正統ギャング・ノワール・アクションの快作であった。

ギャングの大ボス、ミッキー・コーエンに扮するは、アカデミー賞受賞歴もある名優ショーン・ペン。狡猾で残忍な悪役を楽しそうに演じている。
対する、正義派の堅物警官、オマラ巡査部長に扮するのが、「メン・イン・ブラック3」で若き日のK(トミー・リー・ジョーンズ)を好演していたジョシュ・ブローリン。ほとんど笑わない、コワモテ顔が、不正と賄賂でタルんだロス市警にあって、悪を絶対許さない男のプライドを感じさせる。適役である。

警察が手を出せない強大な組織に対抗するには、こちらも非合法なゲリラ的チームを作るしかない、という発想がユニーク。
全体に、禁酒法時代を背景に、アル・カポネに対抗した米財務省捜査官チームの活躍を描く「アンタッチャブル」(ブライアン・デ・パルマ監督)と似た作りであるが、銃と武力で国家を作って来た、いかにもアメリカらしいお話ではある。

最初は不安がっていたオマラの妻、コニーも、やがて協力する事となり、警官たちの経歴・性格を分析して、夫を死なせない為の最強メンバーを集めるくだりが面白い。

集まったメンバーが、黒人警官、メキシコ系警官、遅れてきた西部のガンマン風初老の警官、盗聴が得意の技術系…とそれぞれ人種やキャラが見事に異なり、最後にライアン・ゴズリング扮する、当初は距離を置いていた若いジェリー・ウーターズ巡査部長が加わって、6人のチームが結成される。

こうした、少数のいろんなタイプの人間がチームを組んで、数も武力も上回る悪の集団に戦いを挑む、というパターンの活劇は、先日紹介したアーノルド・シュワルツェネッガー主演の「ラストスタンド」でも述べたように、過去に傑作、秀作が多いのだが、本作もまた例に洩れず、チームのメンバーが力を合わせ、味方の犠牲を出しながらも最後に敵を壊滅させ、正義が勝利する王道の物語が展開する。

フライシャー演出は、時にトボけた笑い(敵のカジノに強盗のフリをして押し入ったら警官がいて、逆に捕まってしまう)や、スリリングなカーチェイス、盗聴を見破った敵の逆襲もあり、クライマックスでは「アンタッチャブル」を思わせるスローモーション映像も駆使したりと、緩急織り交ぜ、ワクワクさせ、楽しませてくれる。

特にラスト、コーエンを追い詰めたオマラが、元ボクサーのコーエンに素手の対決を挑み、互いにボロボロになりながらも最後にコーエンを叩きのめす辺りは興奮させられるし、後味もスッキリして気持ちいい。
考えれば、「ラストスタンド」でも最後は同じように殴り合いの決闘だった。こういう、古きよき時代を思わせる味わいが復活する傾向にあるのは、昔の映画ファンにとってはなんとも喜ばしい事である。その点でも点数をおマケしたくなる。

オマラたちの活躍でロサンゼルスから悪は一掃されるが、表に出せない組織であった為、国から表彰される事もなかった、というシニカルなオチは、昨年の秀作「アルゴ」とも似ているが、こういう所もまたアメリカらしい。ちなみにどちらも実話を元にしている、という共通点もある。

 
役者はいずれも適役で、役柄にうまく嵌っているが、特に印象深いのが、初老の西部男マックス・ケナードを演じたロバート・パトリック。なんと「ターミネーター2」で、シュワちゃんを苦しめたT-1000サイボーグのあの人である。最後まで誰なのか分からず、エンドロールでやっと気付いた。「アンタッチャブル」で初老の警官を演じたショーン・コネリーを連想させる儲け役である。最後の死に様のなんとカッコいい事か。今後もこういう渋い役を演じて、名脇役として頑張って欲しい。

本作を配給したのはワーナー・ブラザース。ワーナーと言えば、昔はエドワード・G・ロビンソン、ジェームズ・キャグニー、ハンフリー・ボガート等のスター主演で「民衆の敵」(31)、「暗黒街の顔役」(32)、「汚れた顔の天使」(38)、「白熱」(49)等のギャング映画を数多く作っていた会社である。本作はまさにそうしたワーナー・ギャング映画の伝統を引継ぐ快作であると言えよう。そういう意味でもお奨めである。
エンドロールも、1950年代風のレトロなイラストが登場し、これも楽しいので最後まで席を立たないように。     (採点=★★★★☆

 ランキングに投票ください → にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ    ブログランキング

 
(付記)
本作は前述したように、トボけた笑えるシーンがいくつかあるのだが、私が一番笑ったのが、オマラたちが警察に捕まった時、マックスたちが脱獄させようと留置所の鉄格子にロープを引っ掛け、車で引っ張って壁を壊そうとするシーンである。
勢い良く車をスタートさせたはいいが、ロープを結わえたバンパーが外れてものの見事に失敗してしまう。
これは、馬にロープを引っ張らせて留置所の壁を壊し、脱獄させるという、西部劇ではよく登場するシーンのバリエーションである。西部劇では大抵成功している方法であり、西部劇ファンなら余計笑えるだろう。

マックスのキャラクターといい、ラストの殴り合い(「ラストスタンド」評参照)といい、西部劇テイストが隠し味としてさりげなく盛り込まれているのも、お楽しみである。

|

« 「ゴジラのトランク」 | トップページ | 「ウエスト・サイド物語」 (1961) »

コメント

面白かったです。
ジョシュ・ブローリンが戦争帰りの男を好演していました。
「MIB3」でも思ったのですが、レトロな男っぽい役が似合います。
ライアン・ゴズリングとエマ・ストーンのカップルも良かった。
ロバート・パトリックがガンマンを演じているのもうれしかったです。
ショーン・ペンの悪役演技はちょっとやりすぎですが迫力ありました。
ショーン・ペンに対抗してブローリンが仲間を集めるのですが、そこが「七人の侍」みたいでわくわくしました。
集めた仲間もみな個性的でした。
市警本部長役で久々のニック・ノルティが出演していたのも良かった。
演出はもうちょっと冴えが欲しかったかな。
音楽のジャズと時代のムードが良かったです。
エンドロールが洒落ていました。
西部劇が隠し味というのは同感です。

投稿: きさ | 2013年5月19日 (日) 08:00

◆きささん
>ショーン・ペンに対抗してブローリンが仲間を集めるのですが、そこが「七人の侍」みたいでわくわくしました。

私も「七人の侍」を連想しました。側面協力するオマラの妻、コニーを加えればメンバーは7人になりますしね(笑)。
西部劇という点では、その「七人の侍」を西部劇に翻案した「荒野の七人」も入ってる気がしますね。ロバート・パトリックの死に際などは、まさに「荒野-」のジェームズ・コバーン(「七人の侍」における久蔵=宮口精二に当る役柄)を思わせますし。
あ、これ本文に書くべきでしたかな(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2013年5月19日 (日) 21:46

ナイフ投げの名人が出てきたりするのも「荒野の七人」かと。
しかしアメリカ映画、どんなにドンパチあっても最後は殴り合いで方をつけないと気にすまないのですな。

投稿: きさ | 2013年5月21日 (火) 23:07

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「L.A.ギャング ストーリー」:

» 映画:L.A. ギャング ストーリー ストレートに面白く、かな〜りポイント高い ギャング vs ロス警察物! [日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜]
映画チラシのコピーは、「ロス市警が、キレた。」 確かにキレてる! 1949年のロサンゼルス、の実際の事件をノベライズしたものが原作というが、ホントか?(笑) 映画でいうと、なんたっていい!のが主役の2人。 ジョシュ・ブローリン(写真右はじ)は、正義ゴリ...... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 01:27

» L.A.ギャングストーリー [映画的・絵画的・音楽的]
 『L.A.ギャングストーリー』を渋谷東急で見ました(注1)。 (1)ライアン・ゴズリングやショーン・ペンが出演するというので、映画館に出向いてみました。  本作の舞台は、1949年のロスアンジェルス。  ブルックリン生まれで元プロボクサーのコーエン(ショーン・ペ...... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 05:14

» 劇場鑑賞「L.A.ギャングストーリー」 [日々“是”精進! ver.F]
ギャングを、潰せ… 詳細レビューはφ(.. ) http://plaza.rakuten.co.jp/brook0316/diary/201305030004/ L. A. ギャングストーリー《オリジナル・サウンドトラック・スコア》(帯付き直輸入盤)ス... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 05:28

» L.A. ギャング ストーリー [佐藤秀の徒然幻視録]
公式サイト。原題:Gangster Squad。ポール・リーバーマン原作、ルーベン・フライシャー監督。ジョシュ・ブローリン、ライアン・ゴズリング、ショーン・ペン、ニック・ノルティ、エマ ... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 08:17

» 「L.A.ギャングストーリー」 ロサンゼルスの「アンタッチャブル」 [はらやんの映画徒然草]
太平洋戦争後、治安が悪化したロサンゼルスにおいて、裏世界を牛耳っていたのがミッキ [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 09:21

» [映画『L.A.ギャング ストーリー』を観た(寸評)] [『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭]
☆・・・こりゃ、思っていた雰囲気と異なるタイプの作品で、それはそれで楽しかった。  私はてっきり、もうちょい「アメリカ史の暗部を描いた硬質の作品」てなのを予想して、  ちょっと、気楽に観るには重いかな…、「ラストスタンド」のほうが良かったかな…、などと思...... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 09:52

» L.A.ギャングストーリー [LIFE ‘O’ THE PARTY]
「これ、西部劇だよね」 って言ったら笑われちゃったけど 超暴 [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 10:37

» 『L.A.ギャングストーリー』 [ラムの大通り]
(原題:Gangster Squad) ----この映画、もうすぐ(5月3日)公開だよね。 ギリギリ、最後の試写に間に合ったってわけ? 「うん。 ある直感が働いて、 これはイケるんじゃないかと…」 ----で、それは間違っていなかった…。 「そういうこと。 物語は一言で要約できちゃう...... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 13:38

» L.A.ギャング ストーリー [とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver]
ロス市警はバッジを外した特別部隊を結成してギャングを抹殺しようとする。情け容赦ない銃撃戦が展開されて、一瞬も気が抜けない映画だった。飛び交う銃弾の数が膨大で使われる銃の種類も多岐に渡る。両者の違いは、金儲けを目的にしているかいないかだけだ。面白かった。... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 14:05

» L.A. ギャング ストーリー [だらだら無気力ブログ!]
まあまあ痛快で面白かった。 [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 21:50

» L.A.ギャングストーリー /GANGSTER SQUAD [我想一個人映画美的女人blog]
ランキングクリックしてね larr;please click ポール・リバーマンの連載記事rdquo;テールズ・フロム・ギャングスター・スクワッドrdquo;を基に 「ゾンビランド」「ピザボーイ 史上最凶のご注文」の、ルーベン・フライシャーが監督 ロサン...... [続きを読む]

受信: 2013年5月18日 (土) 23:15

» L.A. ギャング ストーリー [象のロケット]
1949年のアメリカ。 ギャングのボス、ミッキー・コーエンは、ドラッグ、銃器取引、売春、賭博から得た金でロサンゼルスの全てを支配。 警察や政治家も意のままに操り、自らを「神」と豪語していた。 パーカー市警本部長は、ジョン・オマラ巡査部長にコーエンの巨大組織を完全崩壊させるよう密命を下す。 素性を隠した精鋭部隊6人がギャング組織に戦争を仕掛けるのだが…。 クライム・アクション。 ≪まるでギャングな警察たち≫... [続きを読む]

受信: 2013年5月19日 (日) 08:48

» 映画「L.A.ギャングストーリー」感想 [タナウツネット雑記ブログ]
映画「L.A.ギャングストーリー」観に行ってきました。かつて実在し、大都市を支配する大物ギャングとして悪名を轟かせたミッキー・コーエンと、ロス市警の警官達との壮絶な死闘... [続きを読む]

受信: 2013年5月20日 (月) 07:32

» LAギャングストーリー はちゃめちゃながらスカーッとした〜! [労組書記長(←元)社労士 ビール片手にうろうろと〜]
【=26 うち今年の試写会5】 今日は午後、関東運輸局に仕事で行ったので(馬車道)、ランチは「みなと横濱牛鍋処荒井屋万國橋店」にて牛鍋定食、要はすき焼きやねんねってこと認識した。 で、こないだの金曜に観たこの映画、試写会に当選していたけど、それは自分の誕生...... [続きを読む]

受信: 2013年5月21日 (火) 09:09

» 「L.A.ギャング ストーリー」☆どうしてもフレディ [ノルウェー暮らし・イン・原宿]
まだ52歳というのに、かなり年寄りっぽくなってしまったショーン・ペン。 老けメイクで貫禄を出そうとしたのかな? 1949年のロサンゼルスを舞台にした物語が、ものすごくいい雰囲気なのに、極悪非道のギャングの大ボス、ショーン・ペンがどうしても「エルム街の悪夢」のフレディに見えて・・・・・... [続きを読む]

受信: 2013年5月25日 (土) 00:22

» 『L.A. ギャング ストーリー』 [京の昼寝〜♪]
□作品オフィシャルサイト 「L.A. ギャング ストーリー」□監督 ルーベン・フライシャー□脚本 ウィル・ビール□原作 ポール・リーバーマン□キャスト ジョシュ・ブローリン、ライアン・ゴズリング、ショーン・ペン、エマ・ストーン、ニック・ノルティ■鑑賞日 5月...... [続きを読む]

受信: 2013年5月26日 (日) 08:26

» L.A. ギャング ストーリー [とりあえず、コメントです]
1949年のロサンゼルスを舞台にギャングと警察の抗争を描いたアクションです。 禁酒法の時代ではなくて大戦後のギャングの物語がどんなものなのか気になっていました。 独裁支配を企むギャングに対抗するタブガイたちの戦いと危険なラブストーリーにドキドキしてしまいました。 ... [続きを読む]

受信: 2013年7月 2日 (火) 00:23

» 「L.A.ギャングストーリー」 [ここなつ映画レビュー]
たまらなく良かった。間違いなく私の今年度ベスト3に入る作品。 ライアン・コズリングがいい!ショーン・ペンがいい!警察のはみ出し者達がチームを組んで、大都会の無法者のギャングのボスに立ち向かうのがいい! 以下に試写会で観た当時に書いて某サイトに寄稿したレビューを転記します。 久々に待ち望んでいた、男達の男達による、男達が魅せる作品。 登場人物全員が、やり過ぎな程カッコ良く、信念があり、パッションがある。…善悪に関わらず。凡庸な表現だけど、痺れる程カッコいい。 1949年、... [続きを読む]

受信: 2013年10月 3日 (木) 13:10

» L.A.ギャングストーリー [いやいやえん]
実際にあったことってことで、ふ〜ん、へえ〜の世界なんですが、とくにこれが凄いとかいう場面はありませんでしたが、なかなか、ひきこまれる展開です。 目には目を、ギャングにはギャングを、という精神(?)のもと、はぐれ警官部隊が本物ギャングに立ち向かっていきます。 作りはノワールものに似てますが、アクションを主にもってきてるところから娯楽エンタメが強いのかなと思います。ショーン・ペンさんが、凶悪なギャングのボスだったのですが、これが意外にも似合っていた。 内助の功で妻が見つけてきたメンバー候補... [続きを読む]

受信: 2014年4月 1日 (火) 09:16

« 「ゴジラのトランク」 | トップページ | 「ウエスト・サイド物語」 (1961) »