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2013年6月 2日 (日)

「ビル・カニンガム&ニューヨーク」

Billcunningham1

2010年・アメリカ/First Thought Films
配給:スターサンズ=ドマ
原題:Bill Cunningham, New York
監督:リチャード・プレス
脚本:リチャード・プレス
製作:フィリップ・ゲフター
撮影:トニー・セニコラ、リチャード・プレス

50年以上にわたりニューヨークの街角で毎日ファッショントレンドを撮影し続け、ニューヨーク・タイムズ紙で人気ファッションコラムと社交コラムを担当する名物フォトグラファー、ビル・カニンガムを追ったドキュメンタリー。監督は短編ドキュメンタリー作家として知られるリチャード・プレスで、本作が初長編監督作品となる。第18回クロトゥルーディス賞ほかで最優秀ドキュメンタリー賞を受賞。
 

ビル・カニンガムは1929年生まれというから、今年で84歳になる。
本作は、そのカニンガムの日常を2年がかりで追い続けたドキュメンタリーの秀作である。

彼は毎日、着古した青い作業着を着て、自転車でフラリと街に飛び出し、街を歩く女性たちのファッションをカメラで撮り、ニューヨーク・タイムズ紙に写真付でコラムを掲載している。その仕事を50年以上も続けている。

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カメラはその彼の後を追って密着取材しているのだが、狭い車の間を慣れたハンドルさばきで縫って行き、被写体の前で止まってはパチパチ撮りまくっているカニンガムがいかにも楽しそうで、マイペースでやりたい事をやっている姿がなんとも微笑ましくて、観ている方も頬が緩んで来る。

彼に撮られる事はニューヨーカーにとっては誇りであり、ステイタスでもあるそうな。それくらいカニンガムは、ニューヨークの町に溶け込んで、街の人たちに愛される存在になっている。

ユニークなのは、有名人であるにも関わらず、生活はごく質素である点。
カーネギーホールの上にある、バスもトイレも共用の狭いアパートに一人で住み、仕事着は、パリの道路清掃係が制服にしている青い上っ張りで、コートは痛んで来ると黒いガムテープで補修する。どこに行くにも愛用の自転車を使う。食事も質素である。

一方では、行きたいと思えばパリに出向き、ファッション・イベントにも進んで参加しているから、貧乏というわけではない。贅沢に興味がなく、写真を撮る事だけを生きがいとして生きて来た人なのである。

なお彼は、ファッション・フォトグラファーとしての活動ぶりが評価され、2008年、フランス文化省から芸術文化勲章オフィシエを受勲されている。そういう凄い人なのに、受賞の言葉もごく控えめだ。楽しんで、好きな事をしてたらいつの間にかこうなった、という感じである。

その飾らない、誰にも愛される、真っ直ぐな生き方が羨ましい。心が温かくなり、胸が熱くなる。素敵な人である。ある意味、観ている人をも幸せな気分にしてくれる
なかなかなれるものではないけれど、こういう老人になりたいと思う。こういう人生を送ってみたいと、心から思う。そう思わせてくれる、これは素敵なドキュメンタリーである。

 
この映画を観ていたら、昨年日本で作られたドキュメンタリー、「ニッポンの嘘 報道写真家 福島菊次郎90歳」を思い出した。

福島氏もカメラマンで、独自に被写体にアプローチし、一人暮らしの質素な生活をしている。街に出る時は自転車を愛用している所も似ている。そして、高齢になっても相変わらず写真を撮りまくっている点も同じである。そして、その姿にとことん密着して作られたドキュメンタリー映画である点でも、この2つの映画は共通点を持つ。
ただ違う点は、福島氏が真実を追求する体制批判ジャーナリストであるのに対し、カニンガムは世事に頓着する事無く、ファッションのみに関心がある点である。

どっちが良いという問題ではない。それぞれの生き方、信念を互いに貫いている点では同じだからである。ただ対象が異なるだけである。
映画監督で言うなら、福島氏は熊井啓か今村昌平、カニンガムは小津安二郎、という所か。どちらの作家も好きであるのと同様、福島氏もカニンガムもどちらも素敵な、愛すべき人である。

小規模な公開だけれど、是非多くの人に観て欲しいと思う。お奨めである。

ちなみに本作は、2011年にNYのたった1館で公開されるやいなや人気に火がつき、全米で異例の大ヒットを記録。世界各地の映画祭でも観客賞を受賞しているという。我が国でも口コミで観客の輪が広がって、興行的に成功する事を、切に望みたい。   (採点=★★★★☆

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