「アイアン・フィスト」
2012年・米・ユニヴァーサル・ピクチャーズ
配給:シンカ
原題:The Man with the Iron Fists
監督:RZA
原案:RZA
脚本:RZA、イーライ・ロス
音楽:RZA、ハワード・ドゥロッシン
製作:マーク・エイブラハム、エリック・ニューマン、イーライ・ロス
提供:クエンティン・タランティーノ
クエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビル」の音楽を担当し、「アメリカン・ギャングスター」など俳優としても活躍するヒップホップ界のスーパースターRZA(レザ)が、タランティーノによる全面サポートの元、原案・脚本・監督・主演・音楽の5役に挑んだ奇想天外カンフー・アクション。脚本・製作にはタランティーノ一家とも言える「ホステル」のイーライ・ロスが参加。共演にはラッセル・クロウ、ルーシー・リュー、リック・ユーンら豪華スターが集結。
時は19世紀、武装集団が割拠し、争いが絶えない時代、中国の小さな村・叢林村で武器作りを営む鍛冶屋のブラック・スミス(RZA)は敵対する猛獅会と群狼団からそれぞれ特注の武器を依頼される。猛獅会の首領・金獅子は、土地を治める総督から金塊輸送の協力を要請されるが、欲深い配下の銀獅子(バイロン・マン)と銅獅子(カン・リー)は金強奪を企て、金獅子を殺害。遠く離れた地で父の非業の死を知ったゼン・イー(リック・ユーン)は復讐の為、叢林村へと馬を駆る。そんな村に、謎のイギリス人ジャック・ナイフ(ラッセル・クロウ)がやって来る。欲にかられたさまざまな者たちが叢林村に集まり、やがては壮絶な戦いの火蓋が切って落される…
「キル・ビル」2部作で香港カンフー映画へのオマージュをあらいざらいぶち撒けたタランティーノ。その「キル・ビル」で音楽を担当したRZAは、小さい頃からカンフー映画の大ファンだったそうで、彼が率いるヒップポップ・グループの名前「ウータン・クラン」は、リュー・チャーフィ監督・主演のカンフー映画「少林寺武者房」(1984)に登場するライバル派の名前からいただいたという。そんなわけだから、タランティーノ作品にも刺激されたRZAは、いつの日かカンフー映画を作るのが夢だったそうだ。
そんな彼が、タランティーノの全面バックアップを得て、自らの主演で完成させたのが本作である。
中国各地でロケを行い、カン・リーやらダニエル・ウーら米・香港を股にかけて活躍する中国人俳優を参加させ、アクション監督に香港カンフー映画でおなじみ、コリー・ユンを起用し、さらに数シーンのみだが、「キル・ビル」2部作でパイ・メイに扮する等大活躍を見せた香港映画スター、ゴードン・リューことリュー・チャーフィを出演させたり、ほとんど香港カンフー映画そのまんまな作りである。
しかし、微妙に異なるのは、主演のアイアン・フィスト(鉄拳)ことブラック・スミスが黒人だったり(鍛冶屋=ブラックスミスと黒人を掛けている)、イギリス人の余所者ラッセル・クロウが闖入したり、多国籍が入り乱れている点だろう。
ストーリーの流れから見たら、ゼン・イーが主役になるのが当然なのだが、どっちかと言えば脇役であった鍛冶屋がいつの間にか主役になっているのが何とも珍妙。まあRZAが自分で作ったワンマン映画なのだから仕方ないと言えばそれまでだが。
しかしRZA、かなり肉体をシェイプアップして鍛えているし、アクションも素人とは思えないほどキレがあった。カンフー映画を作りたいという思いがいかに熱烈かが覗え、その奮闘ぶりにはこちらの胸もつい熱くなって来る。
ともかく、全編アクションに次ぐアクション、武器も工夫を凝らし、ワイヤー・スタントを使ったアクションもさすがコリー・ユン、流麗で見応えがある。
そして随所に盛り込まれた過去のカンフー映画へのオマージュも、香港カンフー映画を数多く観て来た人ほど懐かしくも楽しい。
何より、メイン・タイトルが最高である。題名も、出演者、スタッフ名も筆書きの漢字。かつての香港ショー・ブラザース作品のタッチを巧妙に真似ているのが懐かしいやら嬉しいやら。主人公が鉄の義手を装着するのは、「片腕カンフーVS空飛ぶギロチン」辺りか。ルーシー・リューの舞い踊るような華麗なワイヤー・アクションは「グリーン・ディスティニー」だろう。ラスト間際には「燃えよドラゴン」の鏡部屋が出て来るのは判り過ぎてご愛嬌。
お話としては分かり易く単純明快、勧善懲悪、スカッとして、観終えて見事に後に何も残らない。観客によって評価はまちまちだろうし、万人に奨められる作品ではないが、タランティーノ映画ファン、香港カンフー映画ファンにはお奨めの、暑気払いにはもって来いのアクション映画の快作である。なおタランティーノ監督「ジャッキー・ブラウン」に主演したパム・グリアもワンシーン出ているのでお見逃しなきよう。 (採点=★★★★)
(で、お楽しみはココからである)
RZAへのインタビューによると、彼はカンフー映画以外にも、東宝怪獣映画や、日本製のアニメの大ファンなのだそうである。うーむ、まさにタランティーノ同好の士だ(笑)。
日本アニメの中でも、「北斗の拳」、「AKIRA」、「獣兵衛忍風帖」は特に最高なのだそうである。
で、私が反応したのが、川尻義昭監督作品「獣兵衛忍風帖」(1993)。前の2作は知っていても、これを観ている人は少ないだろうが、これは私が大好きな、知る人ぞ知る、ジャパニメーションの隠れた傑作である。
我が国では余程のアニメ・ファン以外に知る人は少ないが、海外では"Ninja Scroll"の英題でビデオ発売され大人気となり、ウォシャウスキー姉弟やタランティーノも絶賛する等、海外では押井守の「攻殻機動隊」と並んで最も愛されている日本製アニメである。
で、よく思い返すと、本作にはこの「獣兵衛忍風帖」にヒントを得たと思しきシーンがいくつか散見される。
敵の忍者衆の一人に、デカくて、全身を岩石に変え、刀も跳ね返してしまう奴が出て来るのだが、これは本作の、全身を真鍮に変える特殊能力を持つ、金剛(ブラス・ボディ)の元ネタだろう。
そして村にやって来た謎の老人が、後半で江戸から来た公儀隠密である事が明らかになるのだが、このキャラクターも、ラッセル・クロウ扮する、実は政府の隠密であるジャックに反映されている。
「獣兵衛-」では船に隠匿された金塊をめぐって正邪入り乱れての大乱戦となるのだが、この展開も本作の、5万両の金塊をめぐる争いにそのまま引用されている。
おそらくこれらは、原案・監督のRZAが愛すべき「獣兵衛忍風帖」にオマージュを捧げたのではないかと推察する。
「獣兵衛忍風帖」は、アイデア凝らしたスピーディなアクション、敵軍団の奇想天外なキャラクター、カッコいい正義のヒーロー・獣兵衛の大活躍に女忍者との悲恋もからむ波乱万丈の展開で、個人的にはジャパニメーションのベスト5に入る傑作と思っているのだが、何故か我が国では公開当時はほとんど無視され、海外で人気に火がついてやっと我が国でも遅まきながら評価されだした。
「攻殻機動隊」も同様だったし、せっかくの日本製の良質コンテンツに日本人が、海外で賞賛されるまで気がつかないという現状は、まことに情けない限りである。トホホ…。
ところで以前2008年頃、ディカプリオが「獣兵衛忍風帖」の実写映画化権を獲得し、ハリウッドで映画化の話が進んでおり、順調に行けば2011年に完成、ワーナー・ブラザースの配給で全米公開される、とのニュースが流れた事があったのだが、これはその後どうなったのだろうか。情報が流れて来ない所をみると製作中止になったのかも知れないが、実現して欲しいものである。
…て言うか、我が国でこそ実写リメイクすべきではないだろうか。監督は是非川尻義昭本人で、と要望しておこう。
DVD「獣兵衛忍風帖」 |
Blu-ray「獣兵衛忍風帖」 |
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