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2013年9月27日 (金)

テレビドラマ「半沢直樹」

Hanzawanaoki_2

高視聴率をはじき出し、「倍返しだ」が流行語になる等、社会的反響まで巻き起こしたTBS系ドラマ「半沢直樹」が22日、最終回を迎えた。

いつも言ってるが、私はテレビのドラマはほとんど見ない。見応えのあるドラマがないからだ。今年に入って見たのはテレ朝系「相棒 Season11」くらいである。評判のNHK「あまちゃん」でさえ見ていない(NHKドラマは基本的に見ない。理由は後述)。

その私が、このドラマはずっと見ていた。それと言うのは、実は私、以前金融機関に永く勤めていたので、銀行が出て来るドラマには興味があるからである。しかしこれは予想以上に面白かった。視聴率が上がるのも当然だと思った。

原作者が銀行出身なので、当然ながら作者が熟知しているであろう銀行内部の裏側事情をうまくドラマに取り入れており、私などには思い当たる事ばかり(笑)。実にリアリティがあってニンマリしながら見ていた。

しかしそんな内部事情なんかは、一般の視聴者には大して面白いものではない。にもかかわらず、これが大ヒットしたのは何故か。以下私なりの分析を試みてみよう。

 
まず、見ていて私はこれは「忠臣蔵」だな、と思った。

原作では存命である半沢の父親( 笑福亭鶴瓶)を、ドラマでは銀行に融資を断られ、首吊り自殺したという設定に変えてある。
これによって、高い地位にいる悪役(吉良上野介⇔大和田常務)によって大切な人(主君⇔父)を殺された主人公が復讐を決意し、傲慢で腹黒い悪役の仕打ちに耐えに耐え、同志たちの協力も得て最後に悪を完膚なきまでにやっつけ、仇を討つ…という、まさに「忠臣蔵」そのままのパターンが出来上がったわけである。

昔から「忠臣蔵」は日本人に深く愛されて来ており、映画全盛時代には正月に必ず封切られ、後にテレビドラマでも繰り返し作られて、その都度観客・視聴者に支持されて来た。
憎たらしい悪役がいて、善玉は最初は劣勢であったり、何度も窮地に立たされるが、最後に悪玉を倒し勝利する…というパターンは勧善懲悪ドラマの王道である。

「忠臣蔵」にはさらに、“ピラミッド型組織に属し、その下層にいてトップの横暴に泣かされ、耐えて来た者たちが、組織内で反乱を企てる”という要素も含まれており、これもまた、特にサラリーマンなど組織に属する人たちにとってはスカッとする展開である。こういうドラマは絶対に多くの人の心の琴線に触れるパターンなのである。

実は、高度成長時代に大ヒットした“任侠(ヤクザ)映画”もこのパターンをなぞっている。
東映で1960年代初期に任侠映画が企画された時、当時の岡田茂東撮所長(後に社長)は「忠臣蔵で行け」と脚本家に指示したという。
悪玉の卑劣な闇討ちで親分や恩人を殺された善玉ヤクザたちが、悪玉の苛めに耐えに耐え、最後に堪忍袋の緒を斬ったヒーローが敵陣に殴り込み、悪玉をぶった斬って殺された者たちのカタキを討つ、という展開は、巧妙に「忠臣蔵」のパターンを踏襲している。

任侠映画が、10数年に亙って量産され続け、多くの観客の心を掴んだのも、故に当然なのである。

 
もう一つ、出演者を、演技力のある実力派の俳優で固めたのが成功している。

私がテレビドラマに失望していたのは、アイドルやジャニタレなど、演技力のない若手タレントを出演させ、若者に媚びる制作姿勢のせいである。
特に酷いのがNHKで、昔は演劇界の重鎮や名優を起用していた大河ドラマに、事もあろうにビジュアル系歌手やアイドル・タレントを主役に据えた時には呆れを通り越して怒りさえ覚えた。
以後、金輪際NHKドラマは見ないと心に決めた。怒りのあまり、以後数年間は受信料の支払いもストップしたくらいである(笑)。

本作は、堺雅人、香川照之に加え、北大路欣也、滝藤賢一、演劇界から石丸幹二や吉田鋼太郎、森田順平、片岡愛之助等、本物の役者を多く起用し、重厚で密度の濃い演技合戦を展開して、見応えあるドラマに仕上げていた。

テレビ局は視聴者をナメてはいけない。紅白歌合戦で美輪明宏が歌った「ヨイトマケの唄」に多くの人が感動したように、視聴者は実は本物に飢えているのである。アイドルなんかより、本物の歌手、本物の役者の方を見たいのである。その事を実感して、私は少し安堵した。日本人も捨てたもんではない。

このヒットをきっかけに、今後も題材は地味でも、演技力のある俳優を起用し、脚本も練りに練って、幅広い層の人を感動させる、本物のドラマを作って欲しいと願う(しかし後番組がキムタク主演…やはり当分は無理かな)。

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(さて、お楽しみ・その1)
ラスボスを演じた香川照之。憎たらしい悪を絶妙に巧演していたのはさすがである。やはりドラマは悪役がうまくないと面白くない。

前述したように、「忠臣蔵」で言うなら、まさしく吉良上野介の役どころ。「忠臣蔵」をドラマ化するなら、吉良は(まだ若いけれど将来は)是非香川さんに演っていただきたい。

ところで、ご承知のように香川さんは歌舞伎役者の九代目・市川中車でもある。

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その先代八代目・市川中車は、1962年に東宝で作られた「忠臣蔵」(監督・稲垣浩)で、実は吉良上野介を演じている。面白い縁である。

も一つちなみに、その東宝版「忠臣蔵」には、香川の父、先代市川猿之助(現・猿翁)も大石主税役で出演している(当時は市川団子名義)。

原節子の、最後の出演作としても知られている。

 
(お楽しみ・その2)

ドラマを見た方なら気付いているとは思うが、「半沢直樹」の最終回、ヤマ場の取締役会のシーンの直前、大和田常務が家のテレビで古い日本映画(モノクロ)を観ているシーンがある。

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あれは何という作品かと、ネットでちょっと話題になっていたが、映画ファンならすぐピンと来る。

小津安二郎監督の「東京物語」である(右)。

腹黒い奴なのに、そんな名作映画のファンだったとは意外。

てか、ひょっとしたら演出の福澤克雄ディレクターのお遊びかも知れない。
なにしろ「東京物語」と言えば、手塩にかけて育てた子供たちに、親が裏切られる話である。
その後の取締役会で、大和田常務、子飼いの岸川取締役(森田順平)にきっちり裏切られる事になるのだから(笑)。
その伏線、として意識的に入れたのなら憎い演出と言える…のだが、そこまで気付いた人、何人いるやら…。

偶然だけど、こっちにも原節子が出ているんですね。

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コメント

「半沢直樹」、面白かったですねー。国税職員や金融庁職員の前で「疎開」資料の「疎開」先へ電話したり、トホホなシーンもありましたが、スピード展開でそういうことを悩む隙を与えさせず、おまけに役者の強烈な演技、それと(個人的にはこの作品のヒットの結構大事な要素だと思っているのですが・・・)あの音楽もあってどんどん引き込まれてしまう。これって、最近のアメリカ映画のパターンですね。(トランスフォーマーとか、パシフィクリム、うーん違うジャンルの映画しか思い浮かびませんが。)良い悪いは別にして、フィクションである限りこういうやり方はありだと思います。CG多用等で最近アメリカ映画を見る気がしないと言っているのですが、こういう見せきってしまう技術は、日本映画やドラマは見習うべきだと思います。「半沢」は、そのやり方と面白い話と見事な演技がうまく組み合わさったのだと思います。やれば出来るじゃないか、日本!今回、堺雅人・香川照之と言う組み合わせも良かった。この2人、昨年の「鍵泥棒のメソッド」でも一緒でしたね。これもとても面白かった。そして近藤役の滝藤賢一って「クライマーズハイ」でJAL機墜落現場の惨状を見て精神異常をきたす記者役でやはり堺雅人と一緒に出てたんですよね。踊る大捜査線のワンさんではなく、こういう役で注目されてほしいと思います。あとは、池井戸潤作品のこのヒットで「空とぶタイヤ」のWOWOW再放送と、「下町ロケット」の文庫化が実現するとうれしいのですが・・・。

投稿: オサムシ | 2013年9月29日 (日) 12:11

◆オサムシさん
コメントありがとうございます。
おっしゃる通り、スピーディーな展開、役者の強烈な演技は、間延びする所なく、日本のドラマらしからぬ見事なものでしたね。
滝藤賢一さんは、本作でも精神的に追い詰められ、心が折れる寸前まで行くシーンがありましたね。こういう演技が出来る人は貴重です。今後も注目して行きたいですね。
池井戸潤さんは、これで結構注目度が上がりましたから、文庫化もどんどん進むと思いますよ。出来れば昔の銀行内幕シリーズも文庫化して欲しいと願ってます。

投稿: Kei(管理人) | 2013年9月29日 (日) 20:02

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