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2013年12月31日 (火)

2013年を振り返る/追悼特集

今年も、あとわずかですね。いかがお過ごしでしょうか。

恒例となりました、この1年間に亡くなられた映画人の方々の追悼特集を、今年も行います。

今年も、映画史に残るような、偉大な映画人の方々が多く亡くなられました。寂しい気持ちで一杯です。
 

ではまず、海外の映画俳優の方々から。

2012年12月27日 ハリー・ケリーJr.氏  享年91歳
前年、洩れてしまいましたが、どうしても紹介したかったので追加させていただきます。
西部劇映画ファンには忘れる事の出来ない名優です。ジョン・フォード監督作品が特に有名で「黄色いリボン」(49)、「幌馬車」(50)、「リオ・グランデの砦」(50)、「捜索者」(56)等の傑作に出演しています。フォード作品以外では、ハワード・ホークス監督・ジョン・ウェイン主演の「赤い河」(48)もあります。こうして見るとジョン・ウェイン主演作品が多いですね。

4月(日不明) ディアナ・ダービンさん  享年91歳
15歳で主演した戦前の音楽映画「オーケストラの少女」(1937)で一世を風靡しました。他にも出演作は多いのですが、わが国ではこの作品が一番有名です。49年に早々と引退してしまいましたので、今では知る人も少ないでしょうね。

6月6日 エスター・ウィリアムズさん  享年91歳
MGMミュージカル・ファンなら誰もが知ってる、泳ぐミュージカル・スター。…と言っても歌い踊るわけでなく、美人で水泳が得意で、水中の華麗な動きでファンを魅了した、変り種映画スター。競泳で世界記録を樹立し、1940年の東京オリンピック(戦争で中止)選手にも選ばれたほどですが、水中ショーに出演した為辞退、MGMに入社する事となります。MGMミュージカル・アンソロジー「ザッツ・エンタティンメント」で知った方も多いでしょう。「世紀の女王」「水着の女王」「百万弗の人魚」等が代表作。その見事な水中ダンスは一見の価値があります。

6月29日 ジム・ケリー氏  享年67歳
何といっても、「燃えよドラゴン」でブルース・リーと共演した事で世界的に有名になった、元カラテ・チャンピオン。その後やはり空手もの「黒帯ドラゴン」に主演した以外はこれといった作品はありませんね。

7月25日 ベルナデット・ラフォンさん  享年74歳
フランソワ・トリュフォー監督の短編「あこがれ」(57)で映画デビュー。以降クロード・シャブロル監督「二重の鍵」(59)、トリュフォー監督「私のように美しい娘」(72)と、多くのヌーベルバーグ系作品に出演。フランス・ヌーベルバーグ時代を代表する名女優でした。今年公開の「スカイラブ」(2011)に主人公の祖母役で出演したのが遺作となりました。

Irenbrennan

7月28日 アイリーン・ブレナンさん  享年80歳
何と言っても、ピーター・ボグダノビッチ監督の傑作「ラスト・ショー」(71)、そしてジョージ・ロイ・ヒル監督の「スティング」(71)の助演が有名です。「名探偵登場」(76)ではピーター・フォーク扮するサム・ダイヤモンドの助手兼愛人役を演じてました。「プライベート・ベンジャミン」(80)ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされました。決して美人ではないのですが、個性的な顔立ちが忘れられません。

8月8日 カレン・ブラックさん  享年74歳
アメリカン・ニューシネマの傑作「イージー・ライダー」(69)、「ファイブ・イージー・ピーセス」(70・アカデミー賞助演女優賞ノミネート)、ロバート・アルトマン監督「ナッシュビル」(75)、ヒッチコックの遺作「ファミリー・プロット」(76)と、こちらも忘れられない名作での助演が多いですね。「エアポート'75」(74)ではパイロットがいなくなったボーイング747を操縦するハメになる乗務員役を熱演し、強い印象を残しました。ただ1980年代以降は日本未公開のB級作品の出演が多くなり、出演作を見る機会が少なくなったのは残念です。

Eastofeden

8月24日 ジュリー・ハリスさん  享年87歳
この人は映画ファンなら覚えているはず。エリア・カザン監督の名作「エデンの東」(54)でジェームズ・ディーンの相手役を演じ一躍有名になりました。残念な事に、他にこれといった代表作がないのですね。やはり「エデンの東」1本だけで映画ファンの記憶に残り続ける人なのでしょう。

10月1日 ジュリアーノ・ジェンマ氏  享年75歳
ご存知、マカロニ・ウエスタンの美男子スター。「荒野の1ドル銀貨」(65・モンゴメリー・ウッド名義)が大ヒットし、「南から来た用心棒」「荒野の一つ星」「怒りの荒野」とマカロニ・ウエスタンに立て続けに主演。カーク・ダグラスと共演した犯罪アクション「ザ・ビッグマン」(72)でもいい味を出してました。日本でも人気がありましたね。惜しくも本年、自動車事故で亡くなってしまいました。

10月10日 ダニエル・デュヴァル氏  享年68歳
フランス・フィルム・ノワールの復活を印象付けた佳作「あるいは裏切りという名の犬」(2004)、そして「マルセイユの決着(おとしまえ)」(2007)、「そして友よ、静かに死ね」(2011)と、渋い出演作が続いてちょっと気になっていた所に訃報です。まだまだこれからだというのに…。惜しみて余りあります。なお'79年にはミュウ=ミュウ主演の「夜よさようなら」で監督を勤めていた事もあります。

11月30日 ポール・ウォーカー氏  享年40歳
奇しくも、こちらもジェンマ氏と同じく自動車事故での急死です。「ワイルド・スピード」シリーズで知られてますが、2006年には日本の大ヒット作「南極物語」のリメイク版で、オリジナルでは高倉健が演じた主役の南極基地隊員を演じてました。あと、主演作でお気に入りは、2番館でひっそり公開されたハードボイルドの拾い物佳作「ワイルド・バレット」(2006・ウェイン・クラマー監督)。お奨めです。追悼したい方は是非レンタルしてご覧になってください。

12月9日 エリノア・パーカーさん  享年91歳
戦前から活躍していた名優で、代表作はウィリアム・ワイラー監督の「探偵物語」(51)、オットー・プレミンジャー監督の「黄金の腕」(55)辺りでしょう。ロバート・ワイズ監督の「サウンド・オブ・ミュージック」(64)における伯爵夫人役も印象に残ります。

12月14日 ピーター・オトゥール氏  享年81歳
この人は何と言っても、デヴィッド・リーン監督の大傑作「アラビアのロレンス」(62)に尽きるでしょう。他にも「おしゃれ泥棒」「冬のライオン」「チップス先生さようなら」、ミュージカル「ラ・マンチャの男」と代表作はあるのですが、いかんせん「アラビアのロレンス」の印象が強烈過ぎて、他の作品がかすんでしまった感があります。

12月15日 ジョーン・フォンテインさん  享年96歳
ヒッチコック監督の「レベッカ」(40)、「断崖」(41)、そしてオーソン・ウェルズと共演した「ジェーン・エア」(44)等で忘れられない名女優です。「断崖」ではアカデミー主演女優賞を受賞。「風と共に去りぬ」で知られるオリヴィア・デ・ハヴィランドは姉で、日本で長く生活していた事もあります。…それにしても今年は、上に挙げたように90歳を超えた大女優の方が多く亡くなられていますね。

さて、日本の俳優に移ります。

2012年12月6日 佐藤允氏  享年78歳
この人も昨年掲載出来ませんでしたので挙げておきます。
1953年俳優座養成所入り。56年「不良少年」で映画デビュー。59年の岡本喜八監督「独立愚連隊」の快演で一躍有名に。顔が似ているので、“和製リチャード・ウィドマーク”の異名を頂戴しました。東宝のアクション・戦争映画での出演が多いですが、他社出演もあり、異色作は加藤泰監督「みな殺しの霊歌」(68)。大映「ああ陸軍・隼戦闘隊」(69)では加藤隼隊長を熱演。東映の石井輝男監督の傑作コメディ「直撃!地獄拳・大逆転」ではそのセルフ・パロディらしき戦闘機パイロットを演じて笑わせてくれました。幅の広い、いい役者でしたね。

1月28日 井上昭文氏  享年85歳
日活を中心に、夥しい数の映画で助演。顔を見れば覚えている方も多いでしょう。私が個人的に印象深いのは、鈴木清順監督の「俺たちの血は許さない」(64)における古いタイプの侠客役です。後年は多くのテレビ作品でも助演で活躍しました。

2月14日 本郷功次郎氏  享年74歳
大映の二枚目俳優として、主に時代劇を中心に活躍。日本初の70mm大作「釈迦」(61)では主役のシッダ太子=後の釈迦を熱演。大映末期には怪獣映画「ガメラ」シリーズにも数本出演してます。映画の方ではこれといった当り役はなく、むしろテレビでの「特捜最前線」が有名でしょう。ただ90年代以降になると、オリジナル・ビデオの極道・ヤクザものに多く出演していたのが、大映時代を知るファンとしてはやるせないですね。

2月22日 光本幸子さん  享年69歳
何と言っても、渥美清の国民的映画「男はつらいよ」の初代マドンナ。これ以外は思いつきません(笑)。「男はつらいよ 奮闘編」(71)、「同・寅次郎の縁談」(93)でも同じ役で出演してます。でもやはり舞台の人でしょうね。それにしても69歳は若過ぎます。

3月19日 登川誠仁氏  享年80歳
本職は俳優ではなく、沖縄三線の名手。別名、沖縄のジミ・ヘンドリックス(笑)。で、ここで取り上げたのは、中江裕司監督の快作「ナビイの恋」(99)での飄々とした演技に感銘を受けたから。同じ中江監督の「ホテル・ハイビスカス」(2000)にも出演してます。出てくると、癒されますね(笑)。もっと長生きして欲しかったですね。

3月27日 坂口良子さん  享年57歳
「犬神家の一族」「獄門島」等、市川崑監督の金田一シリーズの助演がありますが、あまり映画出演は多くありません。やはりテレビの人でしょう。57歳は若いですね。

4月14日 三國連太郎氏  享年90歳
この人は言うまでもないでしょう。夥しい数の秀作、傑作、娯楽映画に出演した大スターです。数々の伝説もある方です。役にのめり込むあまり、本気で相手役女優を殴ったり、セックス・シーンでは布団の中で女優のパンティを脱がそうとしたり(笑)。代表作は今井正監督「越後つついし親不知」(64)、内田吐夢監督「飢餓海峡」(64)、今村昌平監督「神々の深き欲望」(68)、山田洋次監督「息子」(91)と、巨匠、名匠作品がいっぱい、数え切れません。個人的に好きな作品を1本だけ挙げておきますと、山本薩夫監督の「にっぽん泥棒物語」(65)。ドジな泥棒を演じた喜劇に見せて、実は冤罪事件(松川事件)の目撃者として法廷で証言し、被告を無実に導きます。日本の裁判制度への批判も盛り込んだ、笑わせて考えさせられる、三國さんのコメディとシリアス演技が絶妙のバランスを保った、凄い隠れた秀作だと思います。ぜひ一見を。

4月25日 田端義夫氏  享年94歳
「大利根月夜」「島育ち」の大ヒット曲で有名な歌手ですが、映画にも多数出演しています(約40本)。「東京河童まつり」(51)、「歌くらべ荒神山」(52)、「珍説忠臣蔵」(53)など、斉藤寅次郎監督に重用されました。その生涯とコンサート風景を捕えたドキュメント「オース!バタヤン」はファン必見です。

5月11日 夏八木勲氏  享年73歳
俳優座養成所出身で、同期に原田芳雄、地井武男、太地喜和子、と錚々たる後の名優がいました。皆亡くなられてしまいましたね。66年東映に入社、五社英雄監督「牙狼之介」シリーズ、工藤栄一監督の最後の集団時代劇「十一人の侍」等で主演を果たしましたが、時は既に時代劇が衰退の頃で興行的に惨敗。以後はフリーとなって多くのアクション物に出演する事となります。角川作品「白昼の死角」その他で主演し、以後主演、助演で大活躍なのはご存知の通り。個人的に好きなのは、伊藤俊也監督のデビュー作「女囚701号・さそり」(72)で梶芽衣子を裏切る悪徳刑事の役ですね。昨年の園子温監督「希望の国」、今年に入って「終戦のエンペラー」「そして父になる」「永遠の0」といぶし銀の名演技を見せており、まだまだ活躍していただきたかったのに、残念です。

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6月4日 長門勇氏  享年81歳
この人は、テレビの「三匹の侍」(五社英雄演出)における岡山弁のムサい浪人、桜京十郎役が忘れられません。これは松竹で映画化され話題を呼びましたが、その影響で、以後松竹において「道場破り」シリーズ、「いも侍 蟹右衛門」シリーズ等、似たようなキャラクターの時代劇主演作が作られました。その後は貴重なバイプレーヤーとして活躍されましたが、個人的には「三匹の侍」が一番長門さんの味が出てる傑作だと思います。

12月7日 すまけい氏  享年78歳
舞台俳優出身。注目されたのは、山田洋次監督「キネマの天地」(86)における小倉監督役でしょう。いかにも伝統の蒲田・大船の監督らしい存在感が見事でした。以後も山田監督作品によく出演しています。温かみを感じさせる、いい役者さんでしたね。

 
さて、映画監督に移ります。まず外国勢から

1月7日 デヴィッド・R・エリス氏  享年60歳
スタントマン出身で、1996年、映画監督デビュー。「ハリー・ポッターと賢者の石」(01)等の第二班監督もやってますが、携帯電話をフル活用した異色のサスペンス「セルラー」(04)、それに旅客機内に大量のヘビが出現して大パニックとなる「スネーク・フライト」(06)といった、ちょっと変わった、しかし捨て難い味の佳作を監督してます。遺作となったのが公開中の「47RONIN」の第二班監督。これからが面白くなりそうだったのに、残念ですね。

1月21日 マイケル・ウィナー氏  享年77歳
チャールズ・ブロンソン主演の「狼よさらば」シリーズが有名。アラン・ドロンも共演した「シンジケート」(73)等、犯罪アクションものが多いですが、個人的には初期のイギリス時代の、オリバー・リード主演の「ジョーカー野郎」(66)、「明日に賭ける」(67)、「脱走山脈」(68)の3本がとてもお気に入り。いわゆる、イギリスの“怒れる若者たち”作品の流れを引き継いでいる気がします。後に普通のアクション監督になってしまったのがとても残念です。

3月7日 ダミアーノ・ダミアーニ氏  享年90歳
カルロ・ルスティケリ作曲のテーマ曲が大ヒットした監督作「禁じられた恋の島」(62)が有名ですが、マカロニ・タッチのメキシコ革命劇「群盗荒野を裂く」(66)、フランコ・ネロ主演のマフィアものの秀作「警視の告白」(71)など、好きな作品が多い名匠です。80年代以降はなぜか失速してしまったのが残念。

5月8日 ブライアン・フォーブス氏  享年86歳
俳優出身で、55年頃より脚本家に転進。その後「汚れなき瞳」(60)で監督に進出。なかなかの佳作でした。「雨の午後の降霊祭」(64)でも高く評価されています。異色作は脚本も兼任した、日本軍の捕虜収容所を部隊に、人間のエゴを描いた問題作「キング・ラット」(65)でしょう。これは石上三登志氏が高く評価してます。その後はこれといった作品がないのが残念。

6月25日 ラウ・カーリョン(劉家良)氏  享年79歳
香港カンフー映画の武術指導、アクション監督を多く手掛け、75年より監督に進出。「少林寺三十六房」(77)、「阿羅漢」(86)、ジャッキー・チェン主演「酔拳2」(94)あたりが代表作。2005年の「セブンソード」(ツイ・ハーク監督)でアクション監督と出演兼任を果たしたのが遺作となりましたが、これはツイ・ハークがカーリョンにオマージュを捧げたのではないかと思ってます。

8月20日 テッド・ポスト氏  享年95歳
テレビの「コンバット」シリーズの監督を手掛け、後に映画界に進出。クリント・イーストウッドのアメリカ復帰作「奴らを高く吊るせ!」(68)や「続・猿の惑星」(70)、「ダーティハリー2」(73)等で知られています。良くも悪くも、手堅い職人監督ではあったようですね。

9月18日 リチャード・C・サラフィアン氏  享年83歳
この監督の代表作は何と言っても、アメリカン・ニューシネマの傑作「バニシング・ポイント」(71)ですね。ただそれ以外は、西部劇「キャット・ダンシング」(73)、土地をめぐる壮絶な闘いを風刺的に描いた「ロリ・マドンナ戦争」(73)が注目されたくらいで、これといった作品はありません。90年のSF大作「クライシス2050」はシド・ミード、リチャード・エドランドと名だたるSFX陣が参加しているものの、作品的には酷評に晒されベタコケ。再編集した海外版は監督名義がアラン・スミシー(監督名を出したくない時に使われる変名に変えられてました(笑)。そのせいもあってか以後監督作はなく、ウォシャウスキー兄弟監督作品「バウンド」(96)等、俳優としての仕事ばかりとなりました。ある意味気の毒な晩年でしたね。

10月5日 カルロ・リッツァーニ氏  享年91歳
イタリアの戦後復興期、ネオリアレズモの秀作「にがい米」(49・ジュゼッペ・デ・サンティス監督)、ロベルト・ロッセリーニ監督「ドイツ零年」(48)等に原案・脚本で参加、イタリア映画復興に寄与しました。監督作も多数ありますが、実録ギャング・アクション「目をさまして殺せ」(66)、マカロニ・ウエスタン2本「帰って来たガンマン」(66)、「殺して祈れ」(67)も監督する等、割とスタンスは広いです。後者にはなぜかピエール・パオロ・パゾリーニが役者として出演してます(笑)。イタリア映画史に関する本も出す等、映画界への貢献度は高いと言えましょう。

10月25日 ハル・ニーダム氏  享年82歳
スタントマン出身で、バート・レイノルズとは親友。そのおかげで、「トランザム7000」(77)で監督に進出。以後「グレート・スタントマン」(78)、「トランザム7000VS激突パトカー軍団」(80)とレイノルズ主演作のカー・アクション作が続き、香港のレイモンド・チョウ製作のヒット作「キャノンボール」(80)に至ります。しかし再びレイモンド・チョウと組んだ異色の近未来SFアクション「メガフォース」(82)は見事にコケました。やっぱりニーダム監督にはスタント・カーアクションが似合ってるて事でしょうか。次作はそんなわけで「キャノンボール2」。これもあまり評判はよくなく、以後パッとしないまま名前を聞かなくなったのは惜しい事です。

12月12日 トム・ローリン氏  享年82歳
トム・ローリンは俳優としての名前で、監督としてはT・C・フランク名義を使います。何といっても、67年のヘルス・エンジェルを主役にした「地獄の天使」が有名。これがロジャー・コーマン監督の「ワイルド・エンジェル」に派生し、「イージー・ライダー」誕生に繋がった、という点で映画史に残るでしょう。この作品の主役、ビリー・ジャックが再び登場する「明日の壁をぶち破れ」(71)は、差別への怒りをテーマにした問題作としてアメリカでは一部で熱狂的な評価を受けています。DVD化もされていないようなので、TSUTAYAさん、発掘良品として是非DVD化していただけないでしょうかね。お願いします。

 
日本に移ります。今年はあまり多くありませんでした。

1月15日 大島渚氏  享年80歳
日本初のハードコア「愛のコリーダ」(76)や、海外でも話題を呼んだ「戦場のメリークリスマス」(83)等でセンセーショナルを巻き起こしたり、またTV朝日「朝まで生テレビ」での歯に衣着せない発言で一般の方にもなじみがありますが、1960年代には「太陽の墓場」「日本の夜と霧」「絞死刑」など、痛烈な体制批判の社会的問題作を連発し、和製ヌーベルバーグの旗手として、反体制派大学生や評論家達に大変な人気があった方です。「日本の夜と霧」は60年安保闘争の総括を多分一番早くやった作品でしょう。ただ内容がほとんどディスカッションで、一般観客にはさっぱり意味不明、諸事情もあって公開4日で打ち切られ、大島監督が松竹を退社するきっかけともなりました。そんなわけで、とんがった方のように誤解されてますが、そう思われてる方は是非デビュー作「愛と希望の街」(59)、当り屋事件を題材にした「少年」(69)をご覧になってください。いずれも少年の、実にナイーブな心の内面をセンシティブに描いた傑作です。泣けます。大島さんが本当はとても心のやさしい方だと分かります。

1月18日 帯盛迪彦氏  享年80歳
大映の監督として1968年にデビュー後、「ある女子高校医の記録・初体験」「同・続妊娠」「十代の妊娠」「高校生番長」シリーズと、なんともスゴい題名の作品を連発。が、これらから篠田三郎や渥美マリ、そして関根恵子(現・高橋恵子)や松坂慶子と、後にスターとなる人材が育って行きました。「高校生番長」シリーズは、若者の悩み、怒りを描いた、むしろ青春映画の佳作として評価できる作品であり、私は好きな監督でした。また「夜の診察室」は、無名時代の松坂慶子が主演してるという事で後に名画座などで再映され、ブームとなりました。

5月4日 岩佐寿弥氏  享年78歳
岩波映画出身のドキュメンタリー作家。「ねじ式映画 私は女優?」(68)で注目されました。監督作は多くありませんが、ドキュメンタリーに関心のある人には気になる作家でした。昨年もチベット難民の青年を描いた「オロ」(2012)を発表して気を吐きましたが、その作品の宮城県での自主上映会後、宿泊先の階段から転落し、脳内出血で亡くなられたそうです。お気の毒です。

 
さて、以下はその他の方です。

2月5日 スチュアート・フリーボーン氏 (メイクアップ・アーティスト)  享年98歳
この人が有名なのは、「2001年宇宙の旅」(68)の特殊メイク。同じスタンリー・キューブリック監督の「博士の異常な愛情」(64)でも、ピーター・セラーズに3役をやらせた別人のようなメイクも見事。「スター・ウォーズ」シリーズやクリストファー・リーブ主演の「スーパーマン」シリーズ等でも貢献。ハリウッドSF映画で果たした役割は多大です。

2月9日 高野悦子さん (岩波ホール総支配人)  享年83歳
岩波ホールを根城に、“エキプ・ド・シネマ”を主宰し、「家族の肖像」「旅芸人の記録」他、ヨーロッパを中心とした地味な秀作を数多く上映してヒットにつなげ、ミニシアター・ブームの先駆けとなりました。日本の独立プロ作品もいくつか配給しています。著作も多数。世界中の埋もれた名作を発掘して来た、映画界の大功労者でしょう。しかし元々は映画監督になりたかったそうで、'60年代に自身の脚本・監督作を準備するも挫折し監督の道を諦めたそうです。晩年でもいいから監督作を観たかったですね。

2月19日 ドナルド・リチー氏 (映画評論家、実験映画作家)  享年88歳
アメリカの方なのに、日本映画をこよなく愛し、欧米において日本映画特集上映、回顧上映を実現させ、日本映画を世界に広く知らしめた、こちらも日本映画界の功労者です。高野悦子さんとリチー氏を、同時期に一度に失ったのは映画界の大損失ですね。また実験映画作家としても知られ、'60年代に大林宣彦監督らの実験映画運動に参加し、「五つの哲学的童話」(67)というアバンギャルド的短編を監督しています。

3月26日 熊谷秀夫氏 (映画照明技師)  享年84歳
主に日活で照明技師として活躍。等に印象深いのは、美術の木村威夫氏と組んで、鈴木清順監督の傑作「東京流れ者」(66)、「けんかえれじい」(66)、舛田利雄監督「紅の流れ星」(67)等で見せた鮮やかな照明効果でしょう。「東京流れ者」のクライマックスの照明効果は拍手したくなるほどです。日活がロマン・ポルノに転換した後も、無数のロマン・ポルノを担当。一般映画では相米慎二監督の「魚影の群れ」(83)他の多くの作品に貢献。日本を代表する照明技師の一人でしょう。著作「降る影、待つ光」(素敵な題名ですね)も読み応えがあります。

5月7日 レイ・ハリーハウゼン氏 (特殊効果担当者)  享年92歳
特撮SF映画ファンには神様のような存在。ストップ・モーション・アニメで「原子怪獣現わる」「水爆と深海の怪物」「シンバッド7回目の航海」「アルゴ探検隊の大冒険」「恐竜100万年」その他多くのSF・ファンタジーの傑作を作って来ました。公開当時は、凄い、と驚嘆しましたが、CGアニメに見慣れた若い人たちから見たら、動きがギクシャクするわ合成丸分かりだわで、チャチに見えるかも知れませんね。でも、その手作り感がファンには何とも言えない魅力です。アナログ・レコードに愛着を感じる人が多いのと同じでしょうね。

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6月23日 リチャード・マシスン氏 (小説家、脚本家)  享年87歳
この人も、SF映画、ホラー映画では古くからお馴染み。小説家としては、何度も映画化された「アイ・アム・レジェンド」(邦題は「吸血鬼」又は「地球最後の男」)がSFの古典として有名。映画化作品も数知れず。「縮みゆく人間」(57)、「ヘルハウス」(73)、最近も「運命のボタン」(2009)、「リアル・スティール」(2011)があります。中でも傑作は'80年の「ある日どこかで」(ヤノット・シュワルツ監督)。原作も賞を受賞してますが、映画も素晴らしい。写真の美しい女性に魅せられ、過去に行って女性とめぐり合う、時間を巡るタイムスリップ・ファンタジー。せつなくて泣けます。またスピルバーグの監督デビュー作「激突!」の脚本も書いています。はたまた一方ではAIPにおけるロジャー・コーマン監督の一連のエドガー・アラン・ポー原作「アッシャー家の惨劇」「黒猫の怨霊」「恐怖の振子」「忍者と悪女」(原作は「大鴉」)の脚本にも協力する等、まさに八面六臂の大活躍。凄い人だと敬服します。

7月20日 野上龍雄氏 (脚本家)  享年85歳
東映を中心に、数多くのブログラム・ピクチャーの脚本を書いて来た人。特に高倉健をブレイクさせた「日本侠客伝」シリーズ、沢島忠監督の股旅映画の秀作「股旅・三人やくざ」、中島貞夫監督の快作「現代やくざ・血桜三兄弟」「鉄砲玉の美学」などが記憶に残ります。深作欣二監督作品にも「柳生一族の陰謀」他の佳作がありました。テレビでも「必殺」シリーズ、「子連れ狼」等でいい仕事をしてます。

7月31日 平山亨氏 (テレビプロデューサー)  享年84歳
「仮面ライダー」「秘密戦隊ゴレンジャー」他の特撮テレビ作品のプロデューサーとして有名な方ですが、元々は東映の映画監督。「三匹の浪人」(64)など数本監督作がありますが、66年頃にテレビへの出向を命じられ、以後はテレビ・プロデューサー一筋。最近では「侵略美少女ミリ」等で総監督を務めてます。監督に未練があったんじゃないでしょうか。

8月18日 梶田興治氏 (テレビ監督・プロデューサー)  享年89歳
この方の名前にはっきり見覚えがあるのは、本多猪四郎監督の傑作特撮SF映画「ゴジラ」(54)、「美女と液体人間」(58)、「ガス人間第一号」(60)、「マタンゴ」(63)、「海底軍艦」(63)等で、“助監督”とクレジットされていたからです。これらの傑作を支えた陰の功労者かも知れません。その後はテレビの「ウルトラQ」で「マンモスフラワー」他数本の監督を担当しています。テレビ作品のプロデューサーとしても活躍されましたが、この方も映画本編の監督をやりたかったのでは、と想像します。

9月12日 レイ・ドルビー氏 (音響研究家)  享年80歳
米国の音響技術者で、ドルビーラボラトリーズ創立者であり、今では映画のエンド・クレジットに必ず出てくる“ドルビー・システム”の生みの親であります。“ドルビー”という名前自体、ズンズン響いて来るイメージがあっていいですね(笑)。

10月9日 中西隆三氏 (脚本家)  享年80歳
日活を主体に、多数のアクション映画の脚本を書いています。私が好きなのは、長谷部安春監督のデビュー作「俺にさわると危ないぜ」(66)と、やはり長谷部監督の傑作ハードボイルド「みな殺しの拳銃」(67)、ニューアクション初期の傑作「野獣を消せ」(69・永原秀一と共作)。長谷部監督とはウマが合うのでしょうか、「野良猫ロック・マシンアニマル」まで手掛けてますが、これはタッチが違い過ぎてイマイチ。ともあれ、全盛期から衰退期までの日活アクションを支えた功労者の一人であるのは間違いないでしょう。

11月27日 津島利章氏 (映画音楽作曲家)  享年77歳
1964年以降、東映を中心に夥しい数の映画音楽を担当。1年間に12本という年もあります。が、この方の最高傑作はズバリ、深作欣二監督の「仁義なき戦い」のテーマ曲でしょう。テレビでも暴力団絡みのドキュメントやバラエティ等によく使われてますが、使用料はちゃんと津島さんに行ってるでしょうか(笑)。名曲だと思います。任侠映画の傑作「博奕打ち 総長賭博」 (68)の音楽も耳に残っています。本当に凄い数の映画、テレビドラマで大活躍でした。ゆっくりお休みください。

12月5日 コリン・ウィルソン氏 (小説家、評論家)  享年82歳
同名異人の方が別に2人もいるので紛らわしいですが(後の方はプロデューサーと漫画家)、亡くなったのは作家・評論家として著名なこの方。1956年、24歳の時、様々な文学人・文化人について「実存主義的な危機」という観点から論じた評論「アウトサイダー」で一躍有名に。古今東西の殺人に関する研究「殺人百科」(61)も話題になりました。実存主義、神秘主義に関する著作も多数。
で、映画に関しては、85年のトビー・フーパー監督のSFホラー「スペースバンパイア」(脚本は「エイリアン」のダン・オバノン)の原作者としてが唯一の関わり。まあ映画化出来そうな原作はこれくらいですが(笑)。
ちなみにプロデューサーの方のコリン・ウィルソン氏は「ターミネーター3」(2003)、スピルバーグ監督の「宇宙戦争」(05)、ジェームズ・キャメロン監督「アバター」(09)、キャスリン・ビグロー監督「ゼロ・ダーク・サーティ」(12)等の話題作を製作した方です。くれぐれもお間違えなきように(笑)。

12月24日 フレデリック・バック氏 (アニメーション作家)  享年89歳
パステル画のような柔らかなタッチのアニメーションを製作して人気の高いアニメ作Kiwouetaotoko家。「木を植えた男」(87)は傑作です。まったく一人で絵を描くので、完成までに5年もかかりました。その他の作品は「イリュージョン?」(74)、「タラタタ」(77)、「トゥ・リエン」(80)、「クラック!」(81)などわずか。すべて短編です。93年に、自然破壊への怒りをテーマにした渾身の力作「大いなる河の流れ」を発表。これが遺作になりました。どれも心が癒され、自然の営みの豊かさを感じさせられる素晴らしい作品ばかりです。アニメに興味のある方は是非鑑賞してください。
CG全盛となった今、もうこんな映像作家は現れないでしょうね。本当にお疲れ様でした。

 
 
本当に、素晴らしい功績を残された方々がお亡くなりになってますね。慎んで哀悼の意を表したいと思います。

 

今年1年、おつき合いいただき、ありがとうございました。来年もよろしく、良いお年をお迎えください。
 

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コメント

旧年中は大変御世話になりました。本年も引き続き、何卒宜しく御願い致します。

昨年も多くの映画人が亡くなられましたが、個人的には井上昭文氏や長門勇氏が亡くなられたのは、凄くショックでした。両者とも主役というのでは無く、実に味の在る、存在感溢れた良い脇役でしたね。

投稿: giants-55 | 2014年1月 1日 (水) 16:44

◆giants-55さん
こちらこそよろしくお願いいたします。

長門さんは主役もやってますから、知ってる方も多いと思いますが、井上昭文氏に注目されたとは、さすがですね。
顔は知ってても、名前が分からない、という方も多いですから。
こういう味のある、個性的なバイプレーヤーが亡くなられて行くのは寂しいですね。

投稿: Kei(管理人) | 2014年1月 5日 (日) 00:29

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