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2014年1月26日 (日)

「グォさんの仮装大賞」

Guosan

2012年・中国
配給:コンテンツセブン
原題:飛越老人院
監督:チャン・ヤン
原作:リウ・フェントウ
脚本:チャン・ヤン、フォ・シン、チャン・チョン
製作:アン・シャオフェン

老人ホームで暮らす老人たちが、人気番組「仮装大賞」に出場しようと奮闘する姿を描いたハートフル・コメディ。監督は「こころの湯」「胡同(フートン)のひまわり」のチャン・ヤン。出演者は「古井戸」などの監督としても知られるウー・ティエンミン、他中国映画界の実力派が結集。2012年・第25回東京国際映画祭ではアジア映画賞スペシャル・メンションに選ばれた。

妻に先立たれ、息子とも折り合いが悪いグォ(シュイ・ホァンシャン)は、友人チョウ(ウー・ティエンミン)に誘われて老人ホームに入居した。ホームの入居者たちは、家族と離れ、変化のない毎日を送るうちに、生きる気力も失いつつあった。そんな中、チョウさんが人気テレビ番組「仮装大賞」への出場を提案する。練習を重ねるうちにホームの老人たちは次第に活気づいて行くが、万一の事故を心配する院長や家族たちから反対されてしまい…。

老人が主人公の映画が最近目立つ。昨年のキネマ旬報ベストワンは、邦洋ともに老人介護映画(「ペコロスの母に会いに行く」「愛、アムール」)だったし、テンには入らなかったが、昨年は他にも「しわ」「アンコール!!」等、老人映画の秀作がいくつかあった。
高齢化社会の進展に伴う老人の増加とその処遇は、世界のどこの国でも、切実な問題なのだろう。

 
(以下ネタバレあり)

本作の、老人ホームが舞台で、変化のないホーム暮らしに不満を抱いた老人たちが一時ホームを脱出する、という展開は、昨年の「しわ」ともちょっと似ている。

ただし、大きく違うのは、老人たちが“仮装大賞”に出演する、という一つの目的を持って、全員が力を合わせて夢の実現に向けて奮闘する、という感動のストーリーになっている点である。

家族からも見捨てられ、何もする事がなく、ひたすら死の時(お迎え)を待つ老人たち。認知症が進んだ老人もいる。
残された人生は、空虚で哀しい。ただ時が過ぎるだけである。そんな事では、生きている意味がない。

そんな空気を変えるべく、ホームのリーダー的存在、チョウが、老人たちに「仮装大賞」に出る事を提案する。
みんながでっかいマージャン牌に化けて、人間マージャン・ゲームを練習するシーンでは、それまでは精気がなかった老人たちが、生き生きと動き回り、実に楽しそうである。観ている我々も、ほっこりした気分になる。

だが、この仮装は結構動き回り、重労働である。家族や職員の前でのお披露目で、数人が腰を痛めて病院送りとなり、院長は大会への出場を禁止する。

あきらめ切れないグォたちは、廃車されたオンボロバスを密かに手配し、わざと騒動を起している間にグォやチョウたち数人の老人がホームを抜け出し、大会が催される天津に向かって出発する。

この、ホームを出発してから、目的地までのバスの旅は、一種のロード・ムービーの趣がある。

タイヤがパンクした時は、若者たちが助けてくれたり、地元の農家に泊まってもてなされたり、野原で星を見上げたり、バスの中では大声で歌を歌い、はしゃいだり…いずれも、老人ホームでは絶対に得られなかった、貴重な体験である。

さまざまな人たちと出会い、大自然の風景の中を、ポンコツ・バスは疾走する。

特に、老人たちを乗せて走るバスが、数十頭の馬の群れと併走するシーンは感動的である。
躍動感溢れる馬の疾走は、命のダイナミズムの象徴であり、老人たちは、今生きている事のすばらしさを実感する。

思えば、役目を終えて廃車になったバスを再び走らせる事自体が、人生を終えたと思われた老人たちが再び生きている実感を見出す、という本作のテーマとも重なっていると言える。

追ってきた院長が、老人たちの決意に心動かされ、グォの孫と共に一緒に旅する事となる。

この、孫とグォとの交流もじんわり胸に沁みる。グォとその息子とはある事から確執が生じていたのだが、孫との腹を割った対話から、やがては親子の関係も修復されるであろう事は見て取れる。

この後、チョウが突然倒れ、実は余命いくばくもない事が判明し、果たしてチョウたちは仮装大賞に出場できるのか、というサスペンスをはらんで、物語はクライマックスの仮装大賞へとなだれ込んで行く。

 
チョウが仮装大賞に出たかったのは、ある目的があったのだが、そこらも含めて、後半の展開はややベタで予定調和的である。

彼らの演じた仮装も、鏡(に見立てた衝立)の向こう側とこちら側の人間が、鏡に映ってるかのごとく同じ動きをする、という、昔のマルクス兄弟がやってた古いネタで、特に新味はなく、1位になるほどのネタではない。もっと奇想天外な仮装を考案して欲しかった。

グォと行動を共にする孫の若者は、仕事はどうしてるのだろうとか、新婚ホヤホヤなのに、妻の姿が全然見えないのも不自然だとか、気になる点もいくつかある。

…と、ちょっと不満もあるのだが、それでも観ている間はジンワリ心が温かくなり、ちょっぴり泣けた。

上に挙げたいくつかの老人映画と比較しても、これは最も笑い、楽しめ、爽やかな気分になれた作品である。
それだけで十分である。
中国映画で長いキャリアのある映画人たちが、本当に楽しそうに演技をしているのもまた気持ちがいい。素敵な映画であった。

 
この映画には、さまざまな示唆が含まれている。

バスの旅、仮装大賞への参加を通じて、老人たちは、おそらくはここ数年体験した事のなかったであろう、充実した至福の時を楽しんだに違いない。それは生きている実感でもある。

老いてもなお、生き続けるならば、その残された人生を、人はどう生きるべきなのか。
あるいは、その家族は、老人に対して、どう向き合って行くべきなのか。老人の心の中を、どこまで理解してやれるのだろうか。
そして、我々もいつかは老人になって行く。いつかは彼らと同じ哀しみを抱える時がやって来るのだ。その事を心すべきである。

笑いの中に、さまざまな事を考えさせてくれる、老人問題に関心のある人は無論、祖父母がいる若い人も是非観ておくべき佳作である。   (採点=★★★★

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