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2014年1月28日 (火)

映画本「東映ゲリラ戦記」

Toueigerirasenki 
鈴木則文・著

(筑摩書房・刊 \1,995)

 
本書は、東映で数多くのプログラム・ピクチャーの快作・異色作を作って来た鈴木則文監督の、いわゆる東映ポルノ路線を中心とした回想記である。

鈴木監督は、昭和40年代に、主に添え物の任侠映画やコメディを多く撮っている。
添え物というのは、メインの鶴田浩二や高倉健が主演する作品の、2本立ての片割れとなる作品で、ほとんどは二線級クラス以下の役者が主演し、予算的にも健さん主演作等よりずっと低予算である。
実際、鈴木監督作には、鶴田浩二、高倉健、あるいはその前の中村錦之助といったAクラスのスター主演作は1本もない。北島三郎や村田英雄、人気が出る前の菅原文太などが主演した作品ばかりである。
ただ一方では、加藤泰監督の傑作「明治侠客伝・三代目襲名」や同監督のこれも傑作「緋牡丹博徒・お竜参上」を頂点とする“緋牡丹博徒”シリーズのほとんどの脚本を書く等、脚本家としての才能は評価されていた。

1971年、そんな鈴木監督に、東映プロデューサー・天尾完次から、それまで石井輝男監督により製作されていた、性愛(セックス)映画路線の監督依頼が舞い込む。

1968年頃より、東映は当時の岡田茂東映京都撮影所長(後・社長)の方針で、番組強化の為、異常性愛路線を導入、「徳川女系図」を第1弾として、どぎついエログロ描写を満載した成人向け映画を連発、世間や良識派の評論家は無論のこと、内部の助監督部からさえも猛烈な反撥を受けながらも、興行的には成功した事もあって、この路線はしばらく続いた。

この路線を一貫して牽引したのが、天尾完次プロデューサーであった。

しかし、あまりにどぎついグロ描写のせいか、この路線は次第に飽きられて興行成績は尻すぼみとなり、本社の営業から打ち切りを要求される。そこで天尾プロデューサーは、この路線の最終作は気心の知れた監督にまかせようと思い、旧知の鈴木監督に白羽の矢を立てたのである。

天尾プロデューサーは、鈴木則文とは彼の助監督時代から仲がよく、鈴木のデビュー作「大阪ど根性物語・どえらい奴」(1965)のプロデュースも天尾が買って出た事もある。彼なら断れないだろうとふんだのである。

鈴木は、この作品の主演にフレッシュな若手女優を起用する事を提案し、こうしてまだ十代だった池玲子、杉本美樹を主演に抜擢、さらに天尾の発案で、当時はまだ一般に知られていなかった“ポルノ”という言葉をキャッチフレーズに採用、さっそく池玲子を“ポルノ女優第1号”として宣伝、これがマスコミの話題となって映画はヒット、内容も石井監督作品とはガラッと変った、明るくユーモラスな作風となり、若いファンの支持を集める事に成功する。打ち切りのはずだった性愛路線は、これによって新路線として再スタートする事となるのである。
“ポルノ”は世間に広く認知され、後に日活が製作する事となる“ロマンポルノ”にも流用された。また、次回作には映画タイトルとして初めて“スケバン”を使い、これまた後に一般用語となった。

天尾・鈴木コンビによる“ポルノ”路線は快進撃を続け、フランスからサンドラ・ジュリアンを呼び寄せて池玲子と共演させたり、さらには「徳川セックス禁止令・色情大名」「エロ将軍と二十一人の愛妾」等の、権力機構を徹底的にオチョクリ、笑いのめす傑作艶笑コメディ時代劇を発表、一部の映画ファンから熱狂的な支持を得る事となる(実は私も当時からの熱狂的鈴木監督ファンの一人)。

そして二人の協力関係は、揃って拠点を東京に移した後も続き、あの大ヒット作「トラック野郎」シリーズを産み出すに至るのである。

本書には、鈴木則文という異能監督が、如何にして東映ポルノ路線に参入し、独特の世界観を構築して行ったか、その製作サイドの裏話が余す所なく語られている。映画ファン必読の書である。

 
本書にはまた、鈴木監督と二人三脚でこの路線を突っ走り、それ以外にも多くの異色作、秀作をプロデュースしながらも、晩年は不遇のうちに3年前この世を去った、故・天尾完次プロデューサーについても、多くの言及がなされている。
ある意味、天尾プロデューサーへの追悼の意も込められていると私は思う。

天尾プロデューサーが手掛けた作品は、ポルノ路線以外にもユニークな秀作、傑作が数多くある。
東映集団時代劇というジャンルを確立した、「十七人の忍者」(1963・長谷川安人監督)、今では時代劇映画史に残る傑作として高く評価されている「十三人の刺客」(同・工藤栄一監督)、中島貞夫監督の快作「893愚連隊」(1966)、パニック映画の傑作として名高い「新幹線大爆破」(1975・佐藤純弥監督)、関本郁夫監督の傑作「天使の欲望」(1979)、そして近代日本における戦争の歴史を俯瞰した「二百三高地」(1980・舛田利雄監督)、「大日本帝国」(1982・同監督)等々である。

いずれも、今もファンが多い、異色作、話題作が並ぶ。私も当時観て感動したものばかりで、調べるうちに、これらすべてに天尾完次プロデューサが企画としてクレジットされている事を知って、俄然この方に興味を抱いたのである。

中には、企画の立上げには関わっていない作品(「十七人の忍者」等)もあるが、製作が決定された後、現場を取り仕切り、アイデアを出し、作品のクオリティを高める事に貢献したのは間違いない。

 
実は私、京都で催されたファン手作りの「映画ファンのための映画まつり」(後、おおさか映画祭に改称)で「天使の欲望」がベストワンに選ばれ、天尾プロデューサーが表彰式に出席された際、無理にお願いしてインタビューしたことがある(1980年2月頃)。

天尾氏はとても誠実そうなお人柄で、丁寧に質問にお答えくださった。
『十七人の忍者』は私が初めてプロデューサーとして一本立ちした作品で、とても愛着があるんですよ」
「いま撮っている『二百三高地』は、近代日本史を振り返る三部作の第一弾です。私はこれをライフワークにしたいんですよ」
等と、熱っぽく語っていただいた事を昨日のように覚えている。

そして最後にポツリと言われた、次の言葉がとても印象に残っている。
「映画作りはね、ゲリラじゃないとあかんのですよ」

私は当時は、何の事なのか、いま一つ意味が分からなかった。あえて聞かなかったが。

本書を読めば、その言葉が何度も出て来るのでよく分かる。天尾・鈴木コンビの活動は本文でも触れられている通り、まさしくゲリラそのものである。

だが、鈴木監督とのコンビを別にしても、天尾氏は、東映という企業の社員でありながらも、さまざまなゲリラ活動を行って来たのである。
例を挙げれば、時代劇が衰退し、その方向性が定まらず混沌とした時代に、“集団時代劇”という特異なジャンルを開拓したり、営業サイドの意向にも応えつつ、世間の風当たりが厳しい中、鬼才・石井輝男監督にやりたいようにエログロ路線映画を作らせ、一種の“作家の映画”にまで昇華させたりもしている。
実際、石井監督による「徳川いれずみ師・責め地獄」「恐怖奇形人間」は、後にカルトの傑作として再評価されている。

また、中島貞夫監督が東映を離れ、ATGで撮った「鉄砲玉の美学」(1973)のプロデューサーも務めている。

「893愚連隊」「天使の欲望」も、今から見れば、娯楽アクションを中心とする夥しい東映プログラム・ピクチャーの中で、よくまあ企画が通ったものだと感心する、異色の問題作である。まさにゲリラの面目躍如である。

製作に至らず幻の企画となったが、鈴木が熱望した意欲作「日本情死考」の映画化を実現すべく、天尾はハッタリ、奇策を弄してまで本部と掛け合った。

儲かる作品を、という会社の要求にも応えつつ、映画作家の作りたい作品の実現にも、時には会社を巧妙に騙しつつ尽力する天尾プロデューサーのゲリラ的戦闘ぶりには、頭が下がる思いである。

しかし、天尾氏の晩年は不運続きだった。1983年、自らの企画で、外部プロダクション・東和プロで作った、戸塚ヨットスクールの若者たちを描いた意欲作「スパルタの海」(西河克己監督)は、生徒の死亡事故により戸塚代表が逮捕され、映画はおクラ入りしてしまう。おそらく多大な借金を背負ったのではないか。
その後もいくつかの作品をプロデュースするが、ヒットに恵まれず、新たな路線を目指した「極東黒社会」(1993・馬場昭格監督)は大コケとなり、次第に一線から遠ざかって行く。

そして、いつの間にか東映を去り、ほとんど隠遁状況となる。誰とも会う事を避け、その消息は途絶えてしまう。一時はガゼ情報だったが、死亡説が流れた事もある。

2011年7月3日死去。享年77歳。新聞にも、キネマ旬報にさえも訃報は掲載されなかった。
その多大な功績に比して、あまりに寂しい死であった。

鈴木則文が、この本に「東映ゲリラ戦記」と名付けたのは、鬼才プロデューサーにして鈴木の戦友でもあり、“映画作りはゲリラ”を標榜した、天尾完次氏への深い敬意が込められているのではと推察する。

東映映画についての研究本もある春日太一氏は、本書について筑摩書房のPR誌「ちくま」に次のように書かれている。
「全ての章がどこか涙腺を刺激するような寂しさにあふれていた。それは、鈴木監督が「戦友」ともいえる天尾プロデューサーと過ごした激闘の日々を、ありったけの哀惜の念を込めながら紡ぎあげているからに他ならない」

東映映画を愛する人には、特に天尾完次という人物をこれまであまり知らなかった方には、是非読んでいただきたいと願う。

(文中敬称略)

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※天尾完次さんの追悼記事が掲載されています。
 
 

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