「新しき世界」
韓国警察の捜査官イ・ジャソン( イ・ジョンジェ)は、上司カン課長( チェ・ミンシク)の命令により、韓国最大の犯罪組織・ゴールドムーンに潜入し、8年が経過した今は、自分と同じ中国系韓国人で組織のナンバー2であるチョン・チョン( ファン・ジョンミン)の信頼を勝ち取り、 その右腕として台頭するまでになっていた。そんなある日、組織の会長が急死し、跡目争いが勃発する。カン課長は、これを絶好のチャンスと捉え、警察復帰を嘆願するジャソンに非情な捜査継続の命令を下し、「新世界」と名付けた組織壊滅作戦を決行する…。
韓国製の犯罪ものは、相変わらず面白い。ここ数年でも、ポン・ジュノ監督の「殺人の追憶」(2003)、ナ・ホンジン監督「チェイサー」(2008)、「哀しき獣」(2010)、「悪魔を見た」(2010・キム・ジウン監督)など、傑作、秀作が目白押し。
本作はその「悪魔を見た」の脚本が評価され、監督に進出したパク・フンジョンの監督2作目にして興行的にも大成功を収めた話題作である。
(以下ネタバレあり)
テーマは、香港映画「インファナル・アフェア」でも取り上げられた“潜入捜査官”ものである。
本作が面白いのは、そこに日本ヤクザ映画でもお馴染みの、“大組織の跡目相続争い”も絡め、誰が組織の頂点に立つか、互いの駆け引き、暗闘、裏切り、その上に警察側の介入とスリリングな要素を縦横に散りばめ、さらには主人公の潜入捜査官の正体がいつバレるかのサスペンスもあり、と盛りだくさんな内容で、これらを緻密に組み立て物語を構成したパク・フンジョン自身の脚本がまず素晴らしい。
おまけにラストにはサプライズな展開まで用意されているのだから、もう言う事なし。お見事である。
人物キャラクターの設定もうまい。
主人公のジャソンは、心ならずも危険な潜入捜査の任務を与えられ、早く抜け出したいと思いながらもカン課長には逆らえず、またチョン・チョンとの友情も裏切れず、板挟みで苦悩するという複雑な設定である。
警察の切れ者、カン課長は、組織壊滅の為には手段を選ばず、それ故、自分の息子のように気にかけているジャソンにさえも、非情な任務を与える事を厭わない。
そして組織No2のチョン・チョンは、サングラスの奥に底知れぬ狂気を秘めながらも、同じ中国系韓国人という事でジャソンとは義兄弟の契りを交わしている。
その他、虎視眈々と跡目を狙う武闘派幹部の イ・ジュング(パク・ソンウン)、引退状態ながらも後釜に未練があるチャン・スギ理事(チェ・イルファ)など、実に多彩な人物像が配され、いったい誰がトップに昇り詰めるのか、まったく予想がつかない。
カン課長の巧妙な(悪賢い?)新世界作戦が功を奏し、ジュングが逮捕された事をきっかけに血みどろの抗争へと発展して行き、チョン・チョンは瀕死の重傷を負う。
その暴力描写も目を背けたくなるほど凄惨で容赦ない。特にエレベーター内の狭い空間における殺し合いは圧巻である。
新進ながら、パク・フンジョン監督のハードかつダイナミックな演出が見事。
その間、ハッカー情報によって潜入捜査員情報がチョン・チョンに知られ、ジャソンにも危機が迫るなど、緊迫感漂う展開に片時も目が話せない。
そして結末。これはまったく予想外だった。しかし考えればこの結末しかないとも言える。まさにタイトル通り、新しき世界の誕生である。
最後の最後に描かれる、6年前のジャソンとチョン・チョンの姿。これが画竜点睛となって物語を印象的に締めくくる。
「インファナル・アフェア」も面白かったが、本作は“潜入捜査官”もののさらに新しいパターンを誕生させたと言える。「インファナル-」と同じく、続編展開も期待出来る。
ジャソンを演じたイ・ジョンジェもいいが、とりわけカン課長を演じたチェ・ミンシク、チョン・チョンを演じたファン・ジョンミンが素晴らしい。
ファン・ジョンミンは本作の演技で青龍映画賞主演男優賞を受賞しているが、それも納得である。
ただ、本作を観て少し残念に思うのは、こうした組織抗争バイオレンス・アクションは、日本映画ではずっと昔から深作欣二監督を中心に無数に作られて来た、お家芸とでも言うべきジャンルであっただけに、お株を奪われたようでちょっと悔しいのである。
本作のような、凄惨な血みどろ描写は、半世紀も前の深作欣二監督「狼と豚と人間」(1964)に既に登場しており、当時はショッキングで目をそむけたものだった。深作欣二はその後も「人斬り与太・狂犬三兄弟」(1972)、「仁義の墓場」(1975)と凄惨な血みどろバイオレンス・ヤクザ映画の傑作を作り続けている。
そして何より、深作監督には今も人気の高い、血で血を洗う組織抗争劇「仁義なき戦い」(1973~74)という傑作シリーズがある。
また、組織壊滅の為手段を選ばない警察の作戦、そして刑事と組織に属する男との友情が描かれた「県警対組織暴力」(1975)という、本作と類似したテーマの作品もある。
そう言えば、サングラスでニタニタ笑うチョン・チョンは、「仁義なき戦い・広島死闘編」での千葉真一扮する大友勝利を彷彿とさせたりもする。
深作亡き後、こうしたバイオレンス・アクション路線の後を引き継ぐ監督が登場していないのがとても残念である。北野武が「アウトレイジ」シリーズでかろうじて頑張ってはいるが、彼も既に還暦超え。韓国のように、活きのいい若手監督がもっとこうした路線にチャレンジする事を、強く切望しておきたい。 (採点=★★★★☆)
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コメント
もし未見でしたら、昨年の韓国映画チェ・ミンシク、ハ・ジョンウ共演「悪いやつら」を是非ご覧になってください。
これも深作っぽい力作です。韓国バイオレンス映画研究になります。チェ・ミンシクが卑怯な男を好演してます。
投稿: タニプロ | 2014年2月24日 (月) 00:18
◆タニプロさん
「悪いやつら」は未見です。探して見てみます。
投稿: Kei(管理人) | 2014年3月11日 (火) 01:04