「キリングゲーム」
元アメリカ軍人のベンジャミン・フォード(ロバート・デ・ニーロ)は、退役してから家族とも疎遠になり、人里離れたアパラチア山脈の山小屋で1人静かに暮らしていた。そこにセルビア人の元兵士コヴァチ(ジョン・トラボルタ)が現れ、二人は意気投合、翌日二人はハンティングに出かける。しかしコヴァチはやがて、自分は旧ユーゴスラビアのボスニア紛争時にベンジャミンの部隊が行った大量処刑の生き残りであると告げ、ベンジャミンに対して容赦ない闘いを仕掛けてきた。戦争の凄惨な記憶を封印してきた男と、いまだ戦争を終わらせていない男。過去に決着をつけるため、世間から隔離された場所で、二人の男だけによる壮絶な“人間狩り”が開始された。…。
お話はシンプルである。ボスニア紛争における泥沼の闘いの中で母親、妹を殺されたコヴァチは、サソリと呼ばれる民兵組織に入り、ボスニア人に対する大量虐殺を行って来た。ベンジャミンは軍事介入したアメリカ軍兵士としてサソリを追い詰め、裁判にかけず組織の全員を銃殺したが、コヴァチだけが奇跡的に生き残った。
18年後、コヴァチはベンジャミンの居場所を突き止め、復讐を開始する。そこからは終始、相手を攻撃し、捕まえ、しかし巧みに逃げては逆襲し、また捕まえて、といった具合に血みどろの闘いが果てしなく続く。
上映時間は85分と短いが、スリリングなアクションまたアクションの連続で、短さを感じさせない。登場人物も、ベンジャミンの息子夫婦がチラリと登場するだけで、ほぼトラボルタとデ・ニーロ二人だけによるガチンコ勝負である。この単純な構成が成功している。
共に戦争のプロなので、知力、サバイバル術を駆使した戦闘、駆け引き、それぞれに見応えがある。
ほとんど息つく間もないくらい、壮絶な死闘が続くので、アクション映画ファンには十分楽しめる出来である。…但し、かなり痛い描写があるので、そういうのに弱い人は注意が必要。
ただ、突っ込みどころもいくつかある。処刑されたはずのコヴァチが何故生き延びたのかの理由があいまいだし、森の中で最初に二人が出会うきっかけも、車が故障したり雨が降って来たりとややご都合主義的。せっかく捕まえたのに、簡単に逃げられてしまう(それも何度も)のも、プロとして詰めが甘い。
それでも、この映画が見応えがあるのは、果てしない憎悪が連鎖する不毛の民族紛争、および戦争そのものに対する、鋭い批判精神が背景にあるからである。
冒頭のモノクロ映像の、手持ちカメラによるボスニアの戦闘シーンがリアルで、「プライベート・ライアン」(スピルバーグ監督)の冒頭シーンをちょっと思い出す。目を背けたくなる残虐なシーンもあり、戦争の惨さが強調される。
なぜそこまで、人は憎しみ合わなければならないのか…。そして最後に、コヴァチを制圧したベンジャミンが取った行動に、“憎しみの連鎖は、どこかで断ち切らねばならない”というテーマが凝縮される。“戦争は万人を罪びとにする”というセリフも重い。
男同士の、一対一の死力を尽くした闘いぶりを見ているだけでも楽しめるし、このラストの締めでも点数を稼いだと言える。多少のアラは目をつぶっていい。小品ではあるが、観て損はない佳作である。 (採点=★★★★)
(付記)
ロバート・デ・ニーロは当年で70歳になるけれど、森の中、片足を引きずりながら全力疾走したり、ハードなアクションもこなしている。今年は「大脱出」でやはり還暦超えのスタローン(67歳)、シュワルツェネッガー(66歳)が頑張ってるけれど、デ・ニーロは彼らより年上なのだから凄い。
それにしてもこの所、「RED」にしろ、老人が活躍するアクションが多い。高齢化社会を象徴する現象なのか、あるいは最近の老人が元気がいいのか。
(さて、お楽しみはココからである)
この作品を観て思い出した作品がある。
2003年のトミー・リー・ジョーンズとベニチオ・デル・トロが共演したアクション「ハンテッド」(ウィリアム・フリードキン監督)である。
なにしろ、背景はやはり内戦のコソボ紛争である。冒頭では、コソボで兵士が大量虐殺されるシーンがあるし、その紛争で戦った兵士(デル・トロ)と、彼の元教官だった男.(トミー・リー・ジョーンズ)が森の奥で死闘を繰り広げる物語である(もっとも、場所は山奥ではなく、都会の近くではあるのだが)。
もっと面白いのは、本作ではカントリー・シンガーのジョニー・キャッシュのレコードが印象的に使われているのだが、「ハンテッド」のエンディングにもジョニー・キャッシュの歌が流れているのである。
見比べてみるのも面白いだろう。
個人的には、本作も「ハンテッド」も、共にギャビン・ライアルの代表的冒険小説「もっとも危険なゲーム」(1963)に影響を受けている気もするのだが。
男二人が“狩猟”をするように死闘を繰り広げるという展開が共通する。
本作の原題は"Killing Season"だが、配給会社が邦題を「キリングゲーム」としたのは、多分この小説を意識したのではないかと思っている。
ちなみに“ゲーム”には“狩りの獲物”という意味もあるそうである。
小説「もっとも危険なゲーム」ギャビン・ライアル
DVD[ハンテッド」
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