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2014年3月 6日 (木)

「東京難民」

Toukyounannmin

2013年・日本/シネムーブ
配給:ファントム・フィルム
監督:佐々部清
原作:福澤徹三
脚本:青島武
撮影:坂江正明
製作・プロデュース:森山 敦
プロデューサー:臼井正明

格差社会の現実をリアルに描いた福澤徹三の同名小説を、「半落ち」「ツレがうつになりまして。」の佐々部清監督が映画化。脚本は「あなたへ」の青島武。主演は「行け! 男子高校演劇部」の中村蒼。共演は大塚千弘、青柳翔、山本美月の若手俳優、その他「シャッフル」の金子ノブアキ、「JAZZ爺MEN」の井上順らが脇を固める。

どこにでもいるごく普通の大学生だった時枝修(中村蒼)は、ある日突然、授業料未納を理由に大学を除籍される。その理由は、生活費を工面していた父親が借金を抱えて失踪したためであった。そして家賃も滞納していた事から修はアパートからも強制退去させられ、ネットカフェで過ごす、ネットカフェ難民となった。日払いのバイトでなんとか食いつないでいたものの、騙されて入店したホストクラブで高額の料金を吹っかけられ、払いきれずにその店でホストとして働くことに。ホストの裏側を見てしまった修はあがいてもその世界から抜け出すことができず、ついにはホームレスにまで転落してしまう…。

原作者は、沢山の怪しげなバイトを経験し、アンダーグラウンドな世界を見てきた人だそうだ。それだけに、普通の若者が、庇護して貰っていた親が失踪してしまっただけで、どんどん転落して社会の底辺に堕ちて行くプロセスがリアリティをもって描かれており、現実にそういう目に合う人間もいるだろうと思わせる。これは怖い。

それにしても、修の転がり落ちるような人生は悲惨極まりない。まずはネカフェ難民となって、やっと見つけた仕事は食うのが精一杯のティッシュ配りのアルバイト、警察に職務質問されると、ちょっとした事で怪しまれてブタ箱に入れられそうになったり、せっかく治験で得た収入も若いギャルに誘惑され、ホストクラブでスッテンテン。せっぱ詰まってホストクラブで働き始めるが、裏社会のエゲツなさに逃げ出し、工事現場の日雇い、やがてホストクラブ店長に見つかって半殺し、そしてホームレスへ…。まさに絵に描いたような最底辺社会の地獄巡りオンパレードである。

しかしこの映画が描くのは、そんな実態のルポルタージュだけではない。これは、親に面倒見てもらって何不自由なく気楽に、呑気に学生生活を送っていた、いわゆる世間知らずの若者が、社会の底辺に投げ込まれ、必死にもがきながらも、修羅場をくぐり抜け、いろんな人たちともめぐり合う中で、そのまま暮らしていたなら決して得られなかったであろう貴重な体験をして、生きる意味を学び、人間的に成長して行くドラマなのである。

これまでも、国籍を超えた若者たちの交流を描いた「チルソクの夏」、原爆がもたらした悲劇を描いた「夕凪の街 桜の国」などの社会派の力作を発表して来た佐々部清監督、本作もこれらと同じように、現実社会に横たわる問題を提起した上で、そんな中でも必死に、ひたむきに生きる若者の姿を丁寧に追い、ラストではささやかながらも、明日への希望の光が見える、爽やかな幕切れを用意している。
そういう意味では、まさに佐々部監督らしい作品であると言えよう。

主人公の修は、性格的に甘いキャラクター付けがなされている。だから簡単に瑠衣(山本美月)にだまされ、ホストクラブでなけなしの有り金を絞られてしまうし、客として知り合い、好きになった茜(大塚千弘)と、逃げ出してからも会ったりするから、店長に所在を突き止められてしまったりするのである。
また、売り飛ばされる瑠衣を可哀相に思い、店長を裏切ってまで助けようとする優しさも持っている。
自分の立場も危なっかしくて、他人に構っている余裕などないはずなのに。

観客によっては、こんな甘くて危機感のない主人公には共感出来ないと思う人もいるだろう。

しかし佐々部監督は、こんな修を、やさしく共感をもって見つめている。
ドライに、割り切ってしたたかに行動すれば、底辺から這い上がって、リッチな人生を送れるかも知れない。
でも、それが正しいのだろうか。不器用でも、人に優しく、どんな境遇であっても前を向いて生きる人生も悪くはないのではないか。

最後に登場する、最底辺の生活をしているけれども、決して暗くならず、修に優しく接してくれるホームレスたち(特に修を息子のように思ってくれる鈴本(井上順))の生き方を、作者たちは慈愛の目で見つめている。そこにこの作品のテーマがあるようだ。

ややホストクラブのエピソードが長過ぎるのが気になるが、現代日本が抱える、構造的な社会問題に迫りつつも、この現代において生きる意味を問いかけた、これは誰もが観ておくべき秀作である。お奨め。   (採点=★★★★☆

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(少しだけお楽しみ)
原作では、最後に修の父親が現れ、あれからもずっと手を尽くして修を探していた事が分かるのだが、映画では原作と異なり、両親は最後まで姿を現さない
最初の頃は修も携帯を持ってるのだから、子供が可愛ければ電話で状況を説明し、連絡を取り合う事だって可能と思えるのだが。何とも薄情な親である。
ある意味では、修は親に棄てられたようなものである。

そこで、タイトルつながりで思い出すのが、小津安二郎監督の名作「東京物語」(1953)である。

小津作品では、老いた両親(笠智衆と東山千栄子)が、苦労して育てた子供たちから疎ましくあしらわれる様子が描かれる。
こちらでは、親の方が子供に半ば裏切られる結果となる。本作とは対照的である。

また「東京物語」では、両親を心から親身になって世話してくれたのが、次男の未亡人である紀子(原節子)であった。血を分けた子供よりも、血のつながらない人間が一番親切だったというのがなんとも皮肉である。

本作では、血のつながっていないホームレスの鈴本が修を本当の息子のように可愛がってくれるのだが、この点でも「東京物語」と共通する。

終戦からまだ8年、人々がようやく戦争の痛手から立ち直り、豊かな日本に向かおうとしていた時代に、「東京物語」は既に家族の崩壊、人の繋がりの脆さを予見していたのである。この作品が今なお世界中から高く評価されているのも当然だと言える。

本作が、原作を変えてまで、“親子の絆の脆さ”を強調したのは、ひょっとしたらこの作品を意識していたのかも知れない。
「東京物語」から丁度60年後(製作されたのは2013年)に作られた本作は、その意味でも、21世紀の「東京物語」と言えるだろう。

もう一つ、本作では鈴本の息子は、東北大震災で亡くなっているのだが、山田洋次監督による「東京物語」のリメイク「東京家族」でも、東北大震災で家族を亡くしたエピソードが登場する。

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