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2014年3月23日 (日)

「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」

Nebrasca

2013年・アメリカ
配給:ロングライド
原題:Nebraska
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:ボブ・ネルソン
撮影:フェドン・パパマイケル

頑固者の父親と、そんな父とは距離を置いて生きてきた息子が、旅を通して心を通わせる姿を描いたハートフルなロードムービー。監督は「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」で2度のアカデミー最優秀脚色賞を受賞したアレクサンダー・ペイン。主演のブルース・ダーンが2013年・第66回カンヌ国際映画祭で男優賞を受賞した。

モンタナ州に暮らす老人ウディ(ブルース・ダーン)の元に、100万ドルの賞金が当たったという、明らかに胡散臭い手紙が届く。ウディはそれを信じ込み、妻や周囲の声にも耳を貸さず、遠く離れたネブラスカまで賞金を貰いに行くと言って聞かない。息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、そんな父を放ってもおけず、無駄骨と分かりつつも父を車に乗せてネブラスカ州を目指す。その道中、二人はウディの生まれ故郷に立ち寄るが、そこでもひと騒動が起こり…。

最近では珍しいモノクロ映画である。撮影は「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」でもペイン監督とコンビを組んだ名手フェドン・パパマイケル。どことなくうら寂しい田舎町や、途中の旅の荒涼とした風景を描くのには、モノクロ映像がふさわしい。

冒頭、高速道路をトボトボ歩いていたウディが、パトカーに呼び止められる。賞金を受け取りに行くつもりなのだが、このシーンからして、ウディが認知症の初期ではないかと思わせる(正常なら歩いては遠すぎるのでバスに乗るだろう)。ちょっと目を離すとまた歩き出すので家族は危なくて仕方がない。元々、大酒飲みで頑固で自分勝手な性格だったらしく、息子たちも距離を置いていたようだが、そこにさらに困った問題が起きた事となる。

息子のデヴィッドは、「これはインチキだよ」と説得するのだが、ウディは貰えるものと完全に思い込んでおり、誰が何と言おうと、ネブラスカ行きの決心を変えようとしない。人の意見を聞くような性格ではない事がよく分かる

これはほっとけない、と思ったデヴィッドは、最近恋人に振られた事もあり、気分転換のつもりで、親父を車に乗せて二人でネブラスカに向かう。

この旅を通して、サブタイトル通りに、父と息子の二人の間の距離が縮まって行く

途中、モーテルでウディが転んで頭にケガをしたり、入れ歯を落としてしまったりするのだが、こんな父の姿を見て、デヴィッドは父の老い先もあまり長くはないと感じ取り、最後くらいは親孝行をしてやろうと思ったのかも知れない。

目的地の手前には、ウディの生まれ故郷がある。二人はそこに寄り、すっかり荒れ果てた生家を見、昔の知り合いや親戚たちとも久しぶりに再会する。
懐かしく接してくれたり、快く思っていない親戚たちもいたり。
そして、ウディが「100万ドルが当たった」と喋ったものだから、たちまち友人や親戚たちが賞金を分けろと言い出し、ひと騒動が起こってしまう。

最後はデヴィッドが、父にちょっとしたプレゼントをして、我が家に向かう所で終わるのだが、親子の心がしっかり繋がり合ったこのラストが、とても爽やかな余韻を残す。

個人的にも、先年亡くなった私の父を思い出してジーンとしてしまった。

 
ウディを演じたブルース・ダーンがとてもいい。頑固で偏屈な老人役が見事にハマっている。カンヌ映画祭男優賞、アカデミー主演男優賞ノミネートも納得である(注)

彼の妻役を演じたジューン・スキップも快(怪?)演。84歳にしてアカデミー賞助演女優賞に史上最高齢ノミネートというのも凄い。

アレクサンダー・ペイン監督、本当にロード・ムービーが好きなようだ。「アバウト・シュミット」でも老人(ジャック・ニコルソン)の旅を描いていたし。
その意味では、ペイン監督の集大成的作品とも言えるだろう。
 (採点=★★★★☆

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(注) 知らない人もいるだろうから、ブルース・ダーンについて少々。
デビュー当時はロジャー・コーマン監督の「ワイルド・エンジェル」「白昼の幻想」でピーターフォンダと共演、この頃から個性的な役者だった。ロジャー・コーマン監督には他にも「マシンガン・シティ」(67)、「血まみれギャングママ」(70)と重用されている。彼もコーマン学校の優等卒業生と言えるだろう。そう言えば「コーマン帝国」にも出演していた。「11人のカウボーイ」(1971)ではジョン・ウェインを殺した悪役としても有名になった。

Bluesdernその後はヒッチコック監督「ファミリー・プロット」(76)、ウォルター・ヒル監督「ザ・ドライバー」(78)でも強烈な印象を残している。個人的にお気に入りは、ダグラス・トランブル監督のSF「サイレント・ランニング」(72)における、植物を守って宇宙空間を一人で航行する植物学者役である。久しぶりの主演作を見れて、ファンとしても満足。

 
(さて、お楽しみはココからだ)
本作を観て、よく似た設定の日本映画を思い出した。

小林政広監督の「春との旅」(2010)である。

Harutonotabi偏屈で頑固な老人(仲代達矢)が突然旅に出ると言い出し、それを放っておけずに孫娘(徳永えり)が付き添い、二人で疎遠だった老人の兄弟たちを訪ね歩くというお話である。

息子と孫娘という違いはあるが、両作とも、頑固で自分勝手な性格の老人に、身内の一人が付き添って旅に出るロードムービーで、疎遠になってる親戚の元を訪れるも、結局は大喧嘩になったり、と共通点は多い。

旅を通して、老人と付き添う身内の人間との心の距離が次第に縮まって行く、という展開も同じである。

詳しくは拙批評を読んで欲しいのだが、「春との旅」における老人は、自分の死期が近い事を悟り、姉兄弟たちと最後の別れをする為に旅に出たのではないだろうか、というのが私の独断解釈である。

そう考えると、本作も別の見方をすれば、自分の人生の先行きも長くはない事を悟ったウディが、昔の故郷を訪ね、親戚たちと最後の別れをする為に、旅に出ようと思い立った可能性もある。
それで、たまたま届いた100万ドルの懸賞当選通知を見て、目的地が自分の故郷近くである事を知り、賞金受け取りにかこつけて、故郷帰参と親戚巡りをする旅に出たのではないだろうか。

わざわざ、自分の生家に立ち寄ったり、墓地に寄って墓参りをしたりするのも、そう考えれば納得が行く。

冒頭のおかしな振る舞いも、案外ボケたふりをして、息子が仕方なく付き添うよう仕向けた可能性だってある。この老人、結構食わせ者なのかも知れない(笑)。

 
脚本のボブ・ネルソンが本作の脚本を書いたのは10年前だそうだから、「春との旅」を参考にしたわけではない。
ただ小林政広監督の作品は海外でも高く評価されているので、監督のアレクサンダー・ペインが「春との旅」を見ている可能性はある。

また、ペイン監督は小津安二郎監督を敬愛しているそうだが、「春との旅」も小津作品「東京物語」との共通点が多い。

ついでながら、本作でデヴィッドが運転する車は日本製のスバルレガシィだし、デヴィッドが勤務しているのは日本製の音響機器の販売店である。
敬愛する“日本映画をヒントにした”という目配せなのかも知れない。

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コメント

ああああ、「サイレント・ランニング」の主役の人かあ。凄く無駄な夢想なんですが、今のブルース・ダーンで「サイレント・ランニング」をリメイクしても味があって面白そうな気がする。

日本車に乗ってるのが、言われたことを断れず、大きな発言力を持たないというのは、実に日本人っぽい。アメ車でスピードばかり気にしてる兄弟や、その仲間は逆にアメリカンなのかな。

投稿: ふじき78 | 2014年7月15日 (火) 12:28

◆ふじき78さん
>今のブルース・ダーンで「サイレント・ランニング」をリメイクしても味があって面白そうな気がする。
なるほどね。リメイクというより、続編作っても面白そう。
あれから、40年も宇宙をさまよっていた、なんてね(笑)。

>言われたことを断れず、大きな発言力を持たないというのは、実に日本人っぽい。
ペイン監督は小津安二郎監督のファンだそうですから、デヴィッドのキャラクターに、小津作品における、何事にもおとなしく耐える人たち(「一人息子」など)の心情を反映させているのかも知れませんね。

投稿: Kei(管理人) | 2014年7月20日 (日) 13:44

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