「アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー」
2012年・アメリカ/ニュー・ホライゾン・ピクチャー
配給:アットエンタテインメント
原題:Attack of the 50ft Cheerleader
監督: ケヴィン・オニール
脚本: マイク・マクリーン
撮影: アンドリュー・パーク
音楽: アンドリュー・ジョンソン
製作: ロジャー・コーマン
製作総指揮: マーク・グリーンバーグ、ダグラス・A・リー
数々の低予算映画を手がけてきたB級映画の帝王ロジャー・コーマンが製作を務めた、巨人化してしまったチアガールを取り巻く青春・おバカ・エロティック・SFコメディ。監督はこれもロジャー・コーマン製作のB級動物パニック映画「ディノシャーク」(2010)のケヴィン・オニール。「未体験ゾーンの映画たち 2014」上映作品の1本。
女子大生のキャシー(ジェナ・シムズ)は、大学の科学研究室に所属しながらも、元チアリーダーだった母親(ショーン・ヤング)の勧めでチアリーダー部に入団。しかし美貌にも身体能力にも自信がなく、チアリーダー部団長のブリタニー(オリヴィア・アレクサンダー)にも苛められる。思い悩んだキャシーは、研究室で開発途中の新薬“リニュー”を自分に注射し、そのおかげで素晴らしい美貌とパーフェクトボディーを得る。が、薬の副作用により、身体がグングンと巨大化、ついに身長が50フィート(15メートル)の巨大女になってしまう…。
なんとまあ、あの伝説のB級映画の帝王、ロジャー・コーマン・プロデュースの新作である。
1950年代から、無数の超低予算のB級プログラム・ピクチャーを量産し続け、その一方で才能ある若手に自由に映画を作らせ、その中からハリウッド、いやアメリカ映画史を代表する監督、俳優を輩出させて来た、まさに生ける伝説とも言える名物プロデューサーである(詳しくは「コーマン帝国」評参照)。
その彼が、21世紀になった今もなお現役で低予算B級映画を作り続けている(当年で88歳!)。もうそれだけで感動してしまう。
で、本作は、アクシデントで巨大化した美女が巻き起こすテンヤワンヤの大騒動…という、B級SF映画では定番とも言えるお話(これについては後記お楽しみコーナーで詳述)。
このジャンルでは、いつも巨乳で半裸の美女が暴れたり格闘したりと、まあ要するにエロネタで楽しませてくれるわけなのだが、本作では大学生のチアガールが主人公、という事で、若いピチピチしたねーちゃんがいっぱい出て来る青春ものの要素も加味され、さらに後半ではもう一人、薬を注射して巨大化したライバル美女とアメフト・グラウンドで組んずほぐれつのキャットファイトもやってくれ、格闘の最中にブラが取れてオッパイ丸出しになる等、もうとことんサービス満点。
他愛なくてチープでくだらないけれど、この手のB級映画が好きな人には十分満足出来る作品に仕上がっている。
SFXはほとんどマット合成という古典的な手法だが、これもわざと'50年代低予算SF映画を連想させるように狙ってやっている。
途中でやはり薬を浴びたクモが巨大化して襲って来るのだが、これもチープなCGで、キャシーにあっさり潰されてしまう。
ちなみにコーマン自身も1996年、「アタック・オブ・ザ・ジャイアントウーマン」(日本未公開・監督 フレッド・オーレン・レイ )なる、巨大女ものの珍品を製作しており、あちらでも2人の巨大女同士が取っ組み合いのバトルを繰り広げている。
つまりは本作はこの作品のコーマン自身による、チアガール編リメイクとも言えるわけである。本当にトシを取っても製作意欲はいささかも衰えていない(というかむしろ若返っている(笑))。
“雀百まで踊りを忘れず”ということわざがあるけれど、コーマン御大、この調子なら100歳までB級映画を作り続ける可能性だってある。いつまでも元気で頑張って欲しいと願う。
なお途中でロジャー・コーマン自身、大学の学部長役でカメオ出演している。しかも横には教授役でジョン・ランディス(「ブルース・ブラザース」等監督)もいる!
なんとも楽しいツーショットで、血色も良く元気そうなコーマンを見られるだけでも値打ちがある。
そんなわけで、これは'50年代B級SF映画や、ロジャー・コーマン作品を愛好するファンにはこたえられない楽しい作品である。
また一面では、膨大な製作費をかけたCG大作に食傷気味の映画ファンには、かえって新鮮に見えるかも知れない(笑)。
そんな映画を楽しむ余裕も、映画ファンには必要ではないかと、私は思っている。 (採点=★★★★)
(で、お待ちかね、お楽しみはココからである)
本作の元ネタとなったのは、1958年に製作された、邦題が「妖怪巨大女」(笑)という、一部ではZ級(笑)とも言われているトホホなSF作品である。原題は"Attack of the 50ft. Woman"。つまり本作の題名"Attack of the 50ft Cheerleader"もこれのもじりである。
宇宙船に乗って地球に来た宇宙人によって、身長50フィートに巨大化させられた人妻が、浮気をする亭主を追っかけて田舎のホテルを襲撃し、亭主と愛人を殺して大暴れ、という内容で、低予算なうえに、SFX技術も未発達な時代であるから、特撮は思いっきり拙劣。巨大女の背景が透けて見えるお粗末さである。で、監督はなんとハリーハウゼン特撮「シンドバッド7回目の航海」等で知られるネイザン・ジュランなのだが、トホホな出来に気が引けたのか、クレジットは ネイザン・ハーツなる別名義であった。
出来はトホホなのだが、それで却ってカルト化し、1993年にはダリル・ハンナの主演でリメイクされている。邦題は「ダリル・ハンナの ジャイアントウーマン」(又は「愛しのジャイアントウーマン」)。監督は クリストファー・ゲスト 。
そして1996年には前述の通り、ロジャー・コーマン製作の「アタック・オブ・ザ・ジャイアントウーマン」が作られた。原題も
"Attack of the 60ft. Centerfold"とオリジナルをもじっている。身長が60フィートと10フィート大きくなっているのはご愛嬌。
ちなみに、"Attack of the …"とつく題名の作品は多数あるが、いずれも低予算トホホ映画ばかりである。
やや有名なのが、殺人トマトが人間を襲う(笑)「アタック・オブ・ザ・キラー・トマト」(1978)。デカいトマトの下に車輪が見えてる(笑)、超トホホ脱力作品。しかし人気があって、続編も作られた。
最近ではギリシヤ製で「アタック・オブ・ザ・ジャイアント・ケーキ」(1999)がある。巨大化したケーキ(正しくはムサカという、ナスと挽肉で出来たギリシヤの伝統料理)が人間を襲う、のだが、ノロノロ進むので何で人間が逃げられないか分からん(笑)。
そしてロジャー・コーマン自身も監督作として、これは日本未公開の“Attack of the Crab Monsters”(1957)を作っている。巨大なカニが人間を襲う。ハリボテ丸分かりのおそろしくチープな作品。
…とまあ、どれもチープさを競うような作品ばかり。あまりにチープ過ぎてカルト化した作品も多い。"Attack of the …"は低予算トホホ映画の代名詞、と言っていいかも知れない。
…が、1本だけ、巨額予算の超大作SF映画がある。題名の祟りか、やっぱり出来は??だった。何という作品か当ててください。
(ヒントは、G・ルーカス監督のシリーズ・パート2)(笑)。
DVD「愛しのジャイアントウーマン」 |
DVD「アタック・オブ・ザ・ジャイアントウーマン」 |
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コメント
「未体験ゾーンの映画たち 2014」僕は「ポール・ヴァーホーヴェン/トリック」しか観れなかったですが、聞いた話によるとマシュー・マコナヘイ主演の「MUD」も良いらしいです。
投稿: タニプロ | 2014年4月10日 (木) 02:00
読んでたら観たくなりました。DVDにならないだろうなあ・・・
投稿: タニプロ | 2014年4月10日 (木) 02:14
◆タニプロさん
「MUD」も見たいと思っていたのですが、時間が合わないうちに終わってしまったようです。残念。
>読んでたら観たくなりました。DVDにならないだろうなあ・・・
朗報です。「アタック・オブ・ザ・50フィート・チアリーダー」は5月2日にDVDが発売されるそうですよ。
多分レンタルもされると思います。
しかし、劇場で見て1ヶ月も経たないうちにDVDが出るとはねぇ。早過ぎます。
投稿: Kei(管理人) | 2014年4月10日 (木) 23:03