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2014年4月22日 (火)

「サンブンノイチ」

Sanbunnoichi

2013年・日本/吉本興業
配給:KADOKAWA
監督:品川ヒロシ
原作:木下半太
脚本:品川ヒロシ
撮影:相馬大輔
音楽:樫原伸彦
プロデューサー:水上繁雄、仲良平、千綿英久

映画化された「悪夢のエレベーター」などで知られる木下半太の同名クライム・サスペンス小説の映画化。銀行強盗で得た大金を巡って二転三転する目まぐるしい展開に目が離せない。監督は、「ドロップ」「漫才ギャング」と好調の品川ヒロシ。主演は「カイジ 人生逆転ゲーム」の藤原竜也、他吉本興業のお笑い芸人が多数参集し、その他に中島美嘉、窪塚洋介、池畑慎之介☆、哀川翔ら豪華俳優陣が脇を固める。

人生の一発逆転をかけて銀行強盗を成功させた、キャバクラ「ハニーバニー」店長のシュウ(藤原竜也)、ボーイのコジ(田中聖)、常連客の健さん(小杉竜一)。手にした1億6000万の大金は3人で山分けするはずだったが、それぞれが自分の取り分を少しでも増やそうと駆け引きを始める。さらに元女優のキャバクラ嬢茉莉亜(中島美嘉)や「ハニーバニー」オーナーの破魔(窪塚洋介)、闇の金貸し婆さん・渋柿(池畑慎之介☆)など、さまざまな人物がその金を狙って現れる…。

品川ヒロシは、漫才コンビのお笑い芸人である上に、小説も書き、その自作小説の2本(「ドロップ」「漫才ギャング」)を自らのメガホンで映画化し、いずれも見事な佳作に仕上げていた。

多分、吉本のお笑い芸人の中では最も才能豊かで、映画監督にも向いていると思う。当ブログの「漫才ギャング」評で私は、「将来は北野武をも上回る、日本映画を代表する一流監督になれる資格は十分である」と賛辞を送った。今もその気持ちは変わらない。

で、監督3作目となる本作は、前2作と違って、初めて他人の原作を元に、自ら脚色を行った作品である。
また、「ドロップ」は自伝的な青春もの、「漫才ギャング」は自らの本職であるお笑いの世界を舞台にと、どちらも自分の歩んで来た分野が題材になっていたが、本作ではそうした自家薬籠中の世界とも離れ、全くのフィクション=犯罪サスペンスを描いている。おそらくは本人も意欲満々で、前作までの余技的映画作りから脱却して、本格的なプロの映画監督の道を歩み始めた、とも言えるだろう。

 
(ここから作品内容に触れます。注意)
原作は、単なる銀行強盗犯罪ドラマに留まらず、さまざまな駆け引き、仕掛け、どんでん返しが網羅され、先が読めないスリリングな展開で、さらに原作者の好みなのだろう、映画ネタも随所に盛り込まれ、映画ファンなら余計楽しめるものになっている。

自身も無類の映画ファンであろう(前2作からも推測できる)品川ヒロシが、この原作を映画化したいと望んだのもよく分かる。

かくて、出来上がった作品は、原作をほぼ忠実になぞりながらも、品川監督の前2作のテイスト、演出テクニックを存分に生かした、ウエルメイドで楽しいクライム・エンタティンメントに仕上がっていた。お見事である。

 
物語はいきなり、銀行強盗を成功させた3人が、彼らが勤務するキャバクラに立てこもっているシーンから始まる。
ここで、金の山分けや今後の逃走先等について会話したり、外の様子を覗きに行ったりしながら、合間に銀行強盗までに至る過去の経過が何度かインサートされ、次第に3人のキャラクター、銀行強盗の背景が明らかになって行く。この辺りもテンポよく進むので小気味良い。

映像的には、前2作でも使われていた、ハイスピードとコマ落しをミックスした独特の不思議な映像処理が本作でも効果的に使われている。もはや品川作品のトレードマークと言ってもいい。

登場人物たちの会話が、漫才のボケとツッコミよろしくハイテンポのノリで交わされるのは、さすが漫才出身監督ならでは。
狭い空間を舞台に、会話の応酬で物語が進む展開は、1幕ものの舞台劇的味わいもある。

やがて、分け前の配分をめぐっての仲間割れ、金を狙う悪い奴らも参入しての奪い合い、と話はめまぐるしく進むのだが、ここから後は未見の方の為にこれ以上は書かない。が、巧妙な仕掛けがあちこちに配され、そう来たか、と感心させられる。原作もいいのだが、脚本もよく練り上げられている。また原作にもある、いろんな映画からの引用も原作以上にあちこちに散りばめられ、多くの映画を観て来た映画ファンである程余計楽しめるだろう。

そして、隠しネタとしては、クエンティン・タランティーノ作品へのオマージュが仕込まれている点もチェックポイントだろう。

まず、強盗のプロセスを省略し、アジトに立て篭もった一味がやがて仲間割れに至る、という展開、時間軸が縦横に行き来する演出、…これらすべて、タランティーノの出世作「レザボア・ドッグス」(1991)からの引用である。

行きつけのパブの名前が“トラボル太”(無論、「パルプ・フィクション」でタラが復活させた男)であったり、会話の中で、タランティーノ脚本作である「トゥルー・ロマンス」(監督・トニー・スコット)に関する話題について延々と喋ったりする。

映画ネタであれこれお喋りする、というのもタランティーノ作品では定番である。

後半のドンデン返しがちょっとしつこいくらいなので、ここらが人によっては評価が分かれる所かも知れないが、私的には十分楽しめた。日本映画で、ここまでやってくれたら文句なしである。

それでもちょっとだけ欲を言うなら、ラストはもう一ひねりして、爽快なハッピーエンドで締めくくって欲しかったとは思う。そこだけ0.5点マイナス。

品川ヒロシ監督、私の見込んだ通り、着実に一流監督への道を歩んでいる。次回作がますます楽しみになって来た。     (採点=★★★★

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コメント

「サンブンノイチ」、ドラマして見れば確かに面白い。でも、映画としては余りにも雑味が多いと思いませんか?映画へのうんちくが、少しうっとうしのですが。

投稿: 牧村利光 | 2014年5月 3日 (土) 04:43

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