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2014年7月 4日 (金)

「超高速!参勤交代」

Highspeedsankinkoutai2014年・日本
配給:松竹
監督:本木克英
脚本:土橋章宏
撮影:江原祥二
音楽:周防義和
企画:深澤 宏

新人脚本家の登竜門、第37回城戸賞に入選した土橋章宏の脚本を映画化した、江戸幕府から無理難題を突き付けられた弱小藩の抵抗と奇策を描いた痛快コメディ・アクション時代劇。監督は「釣りバカ日誌11~13」「鴨川ホルモー」等の本木克英。主演は「アフタースクール」の佐々木蔵之介、「ヤッターマン」の深田恭子、その他伊原剛志、西村雅彦、陣内孝則、市川猿之助等の実力派俳優が顔を揃える。

元文元年春、磐城国の湯長谷藩藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)は、参勤交代から帰ったばかりの所、徳川八代将軍吉宗(市川猿之助)の治める江戸幕府から突然、通常8日かかる道のりの参勤交代を5日以内に行うよう命じられる。湯長谷の金山を手中に入れようとする老中・松平信祝(陣内孝則)の策略によるものだった。わずか1万5千石の小藩にとって、ただでさえ蓄えも人手もない上に強行日程。だが従わなければ藩はお取り潰しとなる。この危機を打開すべく、政醇は知恵者の家老・相馬兼嗣(西村雅彦)に対策を講じさせ、戸隠流の抜け忍・雲隠段蔵(伊原剛志)の助けも借りて、奇想天外な超高速参勤交代作戦を実行に移した。だが途中、信祝が放った刺客に襲われ…。              

城戸賞受賞の土橋章宏の脚本は、キネマ旬報2012年1月下旬号に掲載されており、私も読んだが面白かった。ユニークな発想に個性的な登場人物、笑いとサスペンスが絶妙にブレンドされたストーリーも楽しい。入選も納得である。             

が、何よりもこの物語が素敵なのは、私が大好きな、“弱小チームが、とてもかなわない強大軍団に抵抗し、何度もピンチに立たされながらも、仲間が力を合わせ、最後に大逆転勝利する”という、娯楽映画の王道パターンをきっちりとふまえているからである。例えば、黒澤明監督「七人の侍」、周防正行監督「シコふんじゃった。」、ジョージ・ルーカスの「スター・ウォーズ」等々、このパターンの作品には映画史に残る傑作が目白押しである。
この脚本を映画化すれば、絶対面白い作品になるだろうと期待していたのである。

さて、映画の方の監督は、松竹生え抜きの本木克英。あまりこれといった作品がないのでちょっと心配したけれど、予想以上に頑張っていて、結構楽しめた。やはり脚本が良いからだろう。             

(以下、ネタバレあり注意)
時間と経費を抑える為、一行の人数は藩主政醇を含めてもたったの7人。山中を近道して走り抜け、途中の主要路だけ渡り中間を雇い、なおかつ通り過ぎたら裏道を戻って列の最後尾に付くという方法で人数を水増しする。コマ落し撮影も使ったこれらシーンは場内も笑いの渦。こんなに笑い声が起きる映画上映は何年ぶりだろうか。

佐々木蔵之介扮する藩主・政醇のキャラクターが面白い。農民に優しく、財政難にも拘らず年貢取立ては増やさず、大根の漬物が大好物。近隣の藩が困っていれば藩所有の米を分け与える人徳者。それでいて剣の腕は居合い抜きの達人。しかし子供の頃のトラウマが元で閉所恐怖症という弱点も抱える。こうした設定がすべて伏線になって後で生きて来る辺り、脚本が実に見事である。        

そして藩主以下7人のキャラクターには、「七人の侍」へのオマージュも仕込まれている。なにしろ一行の中には菊千代という名前の猿まで加わっているのだから(笑)。
家来の侍たちも、剣の達人、弓矢、槍の名人、参謀格の知恵者、とそれぞれ特技を持っているし、特に槍の名人・今村清右衛門(六角精児)は丸顔にズングリの体型からして、「七人の侍」における槍の使い手・七郎次(加東大介)とそっくりである。         

物語は老中配下の隠密刺客の襲撃に始まり、一難去ってまた一難、次から次と押し寄せる危機にさまざまな知恵や奇策を使って逃れたり、道案内の雲隠段蔵が中盤で役目を放棄しかけたり、そうかと思うと人の好い政醇が途中の宿場で助けた飯盛り女・お咲(深田恭子)に逆に助けられ、いい仲になったりとまさに波乱万丈で目が離せない。           

そして江戸城まであと少しの所で隠密軍団の待ち伏せに会い、7人対刺客集団との一大チャンバラ活劇となる。これはオリジナル脚本では時間は夜、場所も原っぱという事であまり派手には描かれていないのだが、映画では昼間の町中における壮絶バトルに改変されていて、こちらの方が映画らしい見せ場となっている。           

このシーン、大名たち一行を暗殺せんと立ちはだかる刺客軍団、という構図からして、「十三人の刺客」のオマージュにもなっている。人数構成や正義と悪の立ち位置が「十三人-」とは逆転しているのだけれど。

13asassinそう考えると、気のせいか、藩主・政醇の顔が、「十三人の刺客」(1963年・工藤栄一監督版の方)における狙われる藩主・松平斉韶役の菅貫太郎(右)とそっくりに見えるのがまた面白い。           

最後はパターン通りに正義が勝って万事めでたし。良く出来たウエルメイドなエンタティンメントの快作であった。        

 
 

オリジナル脚本と読み比べると、映画化に際し、かなりの改変が行われている。    

オリジナルでは、お咲は拷問された末に無残な死を迎えるし、段蔵も壮絶な死に方をするのだが、映画では味方の側は誰も死なない。メッタ刺しにされた七人衆の一人秋山平吾(上地雄輔)ですら、重傷ながらも生きていたし。
これは、コメディである故、変えた方が正解だった。オリジナル通りだと後味が悪くて楽しい気分にはなれなかっただろう。
 

オリジナルで疑問だったのが、刻限に間に合わないと知ると、兄と顔がそっくりな政醇の妹・琴姫に、なんと政醇の身代わりをさせる所。文章ならともかくも、映像では問題ありだろう。
あとオリジナルでは、最後の決闘で段蔵が忍法で巨大な蜘蛛を出現させるくだりが出て来るのだが、いくら忍者でもこれでは荒唐無稽すぎてかえって面白くない。立川文庫じゃないんだから(笑)。
段蔵が実は極端な方向音痴だったり、段蔵の女房や子供も登場したりするのだが、すべてカットされた。これらの改変はいずれも大正解。映画としてスッキリまとまったと思う。    

 
 

そんなわけで、本作は近年久しぶりの楽しい娯楽活劇コメディの王道作品として大いに評価したい…のだが、演出にもう少しシャープさとテンポの緩急があったらもっと傑作になっただろう。惜しい。
例えば、閉所恐怖症の政醇が、うっかり閉所に閉じ込められパニクるさまを、ギャグとして何度か繰り返し登場させたらもっと笑えただろう。映画ではいつの間にか直ってしまっていて、あまり生かされていないのが残念。
これをもし、東宝で一時代を築いたコメディ・アクションの鬼才・岡本喜八が監督していたら、と想像するだけでも楽しい。         

まあこれは私の無いものねだりかも知れない。誰もが笑い、楽しめる本年屈指の、エンタティンメントの快作である事は間違いない。お奨めである。 (採点=★★★★

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原作本
       

DVD 工藤栄一監督版
「十三人の刺客」(1963)
    
    

 

DVD 黒沢明「七人の侍」
Blu-ray「七人の侍」
         
 

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コメント

割とお話は乱暴な所がありましたが、色々と盛りだくさんで面白かったです。
主人公の佐々木はじめ西村雅彦、伊原剛志など配役に助けられた所もあるかな。
割とコメディタッチの割にはチャンバラシーンはハードだったりする所にはちょっと違和感もありましたが、笑いあり泣かせる所もありアクションもありと楽しめる映画でした。
脚本はやはり変更されていましたか。
でもその変更の方がいいですね。
もうちょっとギャグは増やした方が良かったかな。
私も岡本喜八監督で見たかったです。

投稿: きさ | 2014年7月 5日 (土) 07:49

◆きささん
岡本喜八監督なら、あと15分は短くしてテンポよく描いたでしょうね。
私も最初は、コメディの割りにハードなアクション・シーンがちょっと違和感があったのですが、考えれば岡本監督の「独立愚連隊」も、トボけたコメディ・タッチながら、クライマックスでは壮絶な戦闘に突入してましたからね。
最近、豪快なチャンバラ映画がなかっただけに、あれはあれでスカッと楽しめたんじゃないでしょうか。

ついでに、「クレヨンしんちゃん アッパレ!戦国大合戦」も、おバカなギャグアニメなのに、ラストでは人がバタバタ死んで行くハードな合戦シーンがあった事を思い出しました。考えたらトンでもない事やってたんですね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2014年7月 8日 (火) 00:01

> 菊千代
あっ、なるほど。

味方を一人も殺さなかったのは正解ですね。上地君は殺しても良かったけど、深キョンの塗り薬が余ってたんでしょ、きっと。あと、上地君はちょっとウルヴァリンに似てるからどこか血が続いてるのかもしれない。

投稿: ふじき78 | 2014年7月21日 (月) 09:02

◆ふじき78さん
まあ、あるいは、“上地君死す”とかなんとか煽ってファンを呼び込む戦略ではないかと(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2014年7月29日 (火) 00:55

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