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2014年8月24日 (日)

「太秦ライムライト」

Uzumasarimeight2013年・日本/イレブンアーツジャパン=ユニークブレインズ
配給:ティ・ジョイ
監督:落合 賢
脚本:大野裕之
撮影:クリス・フライリク
プロデューサー:コウ・モリ、大野裕之、佐野昇平
制作プロデューサー:増田悟司

チャンバラ時代劇の黄金時代を支えてきた京都・太秦を舞台に、時代の流れの中で居場所を失っていく老大部屋俳優とスターへの階段を駆け上がっていく新進女優の心の交流を描いた作品。“5万回斬られた男”と呼ばれる福本清三が映画初主演を務めた。ヒロインには世界ジュニア武術選手権大会優勝経験を持ち、本作が本格映画初出演の山本千尋。共演に萬田久子、本田博太郎、小林稔侍、松方弘樹等のベテラン俳優が並ぶ。監督はハリウッドで映画を学び、「タイガーマスク」で長編デビューを飾った新進落合賢。本作はカナダのモントリオールで開催された第18回ファンタジア国際映画祭で最優秀作品賞のシュバル・ノワール賞、並びに福本が主演男優賞を受賞。福本は歴代最年長受賞記録を更新した。

太秦の日映撮影所で斬られ役一筋に生きて来た大部屋俳優の香美山清一(福本清三)。かつては隆盛を極めた時代劇もいまやすっかり衰退、作品本数は激減し、香美山も出番のない日が続く。そんなある日、駆け出しの女優・伊賀さつき(山本千尋)から殺陣の指導を請われ、渋々引き受けることに。やがてさつきは稽古の甲斐あって、次第に新進女優として躍進して行くが、一方香美山には引退の時が迫っていた…。

斬られ役一筋50年の福本清三が、初の大役(どころか主演!)を演じた作品であり、福本ファンにはたまらない映画であろう(ファンタジア国際映画祭主演男優賞おめでとうございます)。

本人は、いろんな発言を聞いたり、ドキュメンタリーを見てても、とてもシャイな方であり、生涯斬られ役でも、映画に出られるだけで満足という感じの、欲のない方である(注1)
せっかくハリウッド映画「ラスト・サムライ」に出演を果たし、売り込めばもっと上昇も可能であるのに、である。
そういう控え目なところが、今の欲得や打算が横行する時代の中では、とてもピュアで人の心を打つのかも知れない。ファンが多いのも当然であろう(なんとファンクラブやwebにファンサイトまである)。

本作は、そんな福本さん本人をそのまま投影したような大部屋俳優・香美山清一を主人公にした人情ドラマである。
舞台となるのも、京都・太秦にある、東映ならぬ日映京都撮影所(実際に東映京都撮影所でロケされている)。物語も、次第に製作本数が減って行く中での、大部屋俳優たちの生活と悲哀が中心である。
つまりはほとんど、福本清三本人に密着したドキュメンタリーのような構成である。福本さんの著作でも有名な言葉「どこかで誰かが見ていてくれる」のセリフもちゃんと登場する。
そこに、駆け出しの若手女優伊賀さつきが、落ち目となっていた香美山の指導を受けて成長して行く、というドラマティックなストーリーを加え、最後は斬られ役としての最後の花を飾って、さつきに見事に斬られ死んで行く所で終わる(注2)。        

題名通りに、チャールズ・チャップリンの晩年の名作「ライムライト」を巧妙にアレンジした物語で、涙を誘う。なお脚本を書いた大野裕之さんは、チャップリン研究の第一人者としても有名な方である。 

撮影所が舞台という事で、フランス映画で2011年度のアカデミー作品賞他主要賞を総ナメした「アーティスト」とも似た所がいくつかある。
新進女優が駆け出しから、男優スターの助言もあってやがてスターダムを駆け上がって行く一方で、男優は落ち目になってやがて撮影所を去って行く。しかし女優の後押しもあってチャンスを与えられ、再起して行く…という展開がそっくりである。
もっとも、「アーティスト」自体、「ライムライト」にヒントを得ていると言えなくもないのだが。

     

さて、観終わっての感想だが、この映画は、いろんな意味で、“滅び行くものへの挽歌”が奏でられた作品である、と言えるだろう。    

香美山清一という役者が、老境に至って、左の腕も自由に動かせなくなり、自分の去り時を知り、ひっそりと引退して行く事がまず一つ。
そして、かつては全盛を誇った時代劇というジャンルも、今ではほとんど作られなくなり、物語の中でも先代以来40年も続いたテレビドラマ「江戸桜風雲録」が打切りとなる。現実のテレビ界でも、「水戸黄門」が終わって、レギュラーとしての時代劇はほぼ絶滅状態である。
さらに、そんな時代劇を量産していた夢の工場、撮影所もまた今の時代ではほとんど過去の遺物になっている。
かつては京都・太秦には、東映以外にも大映、松竹の撮影所が並び建ち、東洋のハリウッドと呼ばれたほどの壮観ぶりであったのだが、大映は倒産して撮影所ほ解体され、松竹も昭和40年には太秦撮影所を閉鎖している(撮影所はその後名前を変えながらも現存)。松竹は大船撮影所も平成12年に閉鎖解体し、映画用の撮影所はなくなってしまった。
そして東映京都撮影所も全盛期に比べて大幅に縮小され、一部を太秦映画村というテーマパークに模様替えして、かろうじて生き残っている。
最盛期には400人いたと言われる、福本のような絡み役(=大部屋)俳優も、今では30人ほどに激減している。寂しい事である。    

本作では、そうした時代劇映画作りの厳しい実態も巧みに作品中に盛り込み、老いた斬られ役俳優の姿をそこにオーバーラップさせて、やがては消え行く、古き、良きものに限りない哀切とオマージュを捧げている。

それ故に本作は、東映チャンバラ映画が全盛期だった頃、中村錦之助、東千代之介、大川橋蔵、大友柳太朗といった時代劇スターにあこがれ、毎週のように映画館に入り浸ってスクリーンを見つめ、原っぱで棒切れや玩具の刀を振り回してチャンバラごっこに明け暮れていたかつての少年たちには、懐かしさで胸が一杯になってしまう作品でもあるのである。    

本作のラスト間際、引退した香美山にもう一度時代劇に出てもらうべく説得に訪れたさつきが、夕陽を背にシルエットで、香美山と棒切れを使った殺陣稽古を行うシーンでは、そんな子供時代のチャンバラごっこを思い出し、涙が溢れてしまった。

        

映画として評価するなら、展開はやや甘いし、プロデューサー等脇の人物の心理も描き足らないし、斬られ方はうまくても、演技者として見た場合の福本さんは正直まだぎこちないし、セリフも硬い。まあそれだから、キャリアの割りにバイプレーヤーとして起用する監督もいなかったわけなのだが(注3)。    

だが本作は、そうした難点などどうでもよい。ぎこちなさも含めて、福本清三という、不器用な生き方を歩んできた男の生き様をそのまま捉えた作品なのである。そこでは演技がどうとかいうレベルは超越している。不器用だからこそ、控え目に、目立つ事なく生きて来た老優の存在が光り輝くのである。

これからも、福本清三という役者は、個性的なバイプレーヤーを目指す事もなく、生涯斬られ役としてその人生をまっとうするだろう。そうした生き方も、また一つの人生なのである。   

出演者の中では、二代目尾上清十郎を豪快に演じた松方弘樹が、さすが時代劇スターの貫禄を見せて見事。また中島貞夫監督が本人役で出演しているのも楽しい。
ちょっと残念だったのが、初代尾上清十郎を演じたのが小林稔侍だったこと。好きな役者だし、彼も川谷らと同じピラニア軍団出身だった事を知っていればなお楽しいのだが、松方弘樹とは格が違い過ぎる。ここはやはり時代劇スターの里見浩太朗か、北大路欣也あたりを起用して欲しかった。ないものねだりかも知れないが。     (採点=★★★★

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(注1)同じように大部屋俳優出身で、やはり殺され役一筋だった川谷拓三は、「仁義なき戦い」等での個性的な演技で頭角を表し、人気が出て遂には「河内のオッサンの唄」その他で主役を張るまでになり、テレビ、映画で引っ張りだこの売れっ子俳優にまで出世したのとは大違いである。
川谷だけではない、同じく大部屋出身で、川谷たちと“ピラニア軍団”を結成した仲間、志賀勝、片桐竜次らも名前が売れ、志賀は東映作品「大奥浮世風呂」等で主役を演じ、片桐は今や人気TVドラマ「相棒」での、杉下をイビる刑事部長に大出世している。
酒が飲めなかったせいもあるだろうが、福本はピラニア軍団にも参加していない。

(注2)香美山が斬られて倒れた後、起き上がらないままに物語は終わるのだが、「ライムライト」を知っていれば、ひょっとしたら香美山はあのまま、息を引き取ったのでは、とつい思ってしまう。        

(注3)深作欣二監督の「仁義なき戦い 広島死闘編」の中盤、拳銃掃除中のチンピラたちが山中(北大路欣也)にマグナム銃で全員射殺されるシーンでは、福本は反動で体が跳ね上がる演技を仕掛けなしで演じて注目された。それなのに、川谷拓三が本作の演技で深作の目に留まり、以後彼を含めたピラニア軍団の多くがどんどん重用されて行く中で、福本がとうとう深作のメガネに適わないままであったのは、やはり何かが足らなかったのだろう。

Jingihiroshima_2

(おマケ)
福本さんが初めて注目される事となった伝説のテレビ朝日系「探偵!ナイトスクープ」の映像があったので紹介しておきます。

 

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コメント

> ひょっとしたら香美山はあのまま、

「あしたのジョー」を思い出しました。

投稿: ふじき78 | 2014年8月25日 (月) 21:16

私はナイトスクープで
初めて福本さんの存在を知りました。時代劇自体
ほぼ大映のものしか見てなかったのですが、こんな
役者さんがいるのかと感動したものでした。
福本さんに注目した
依頼者も
スゴイな、と思いました。
この映画も拝見しましたが
仰るように映画作品としてはやや、物足りなさのようなものを感じないでもないですが、何よりも「こういう映画が作りたい」という
映画(時代劇)への愛情が強く感じられて気持ちを揺さぶられました。

時代劇が少なくなっていくのは淋しいです。
もともとそこまで時代劇に思い入れがあったわけでも
なのに、近年あまりに
激減し、日本の時代劇の将来を心配する次第です。
映画会社が作ってきた
時代劇はしっかりしたものが多く、時代考証や言葉遣い、着物の着こなし、しぐさなど自然に自分の中に
入っているのです。
だから最近、時代劇をよく知らずに撮っていると思われるものを見ると
ガッカリしてしまうことがあり、これもひとつの伝統として継承していってもらいたいと思うのです。
このままなくなってしまうのはあまりに惜しいです。

投稿: | 2014年9月23日 (火) 23:12

◆---さん(お名前教えてください)
コメントありがとうございます。
近年時代劇が減って来たのは、セットや衣裳等、製作費がかさむわりに観客動員があまり望めない、という事が挙げられます。
僅かに作られる時代劇も、仰るとおり、しっかりと作られた昔の時代劇と比較すれば、ガッカリするものがあったりもします。ノウハウ継承の場であった撮影所がほぼなくなってしまった今の時代、これは仕方のない事かも知れません。

それでも私は、時代劇はまだまだ捨てたものではないと思っております。例えばここ数年、藤沢周平原作ものが質的にも観客動員もまずまずですし、リメイクの「十三人の刺客」が、原典の面白さもあってヒットしました。
今年も、コメディ仕立ての「超高速!参勤交代」が結構客が入りましたし、明治が舞台という異色作の「るろうに剣心」が大ヒットする等、企画とアイデア次第ではまだまだ時代劇は当たる可能性もあります。
我々も、いい時代劇を応援して行きましょう。これからも、ご意見などよろしくお願いいたします。

投稿: Kei(管理人) | 2014年9月28日 (日) 23:48

すみません。名前を書き忘れていましたね。
申し訳ないです。翡翠です。
(ごめんなさい)
そうですね。
実は私も「十三人の刺客」
「超高速!参勤交代」を
観ました。
なかなか面白かったですし、きちんと時代劇の形を守りつつ、現代にも即した
作りでよかったと思います。

投稿: 翡翠 | 2014年9月30日 (火) 22:26

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