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2014年8月15日 (金)

「るろうに剣心 京都大火編」

Rurounikenshin22014年・日本
配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:大友啓史
原作:和月伸宏
脚本:藤井清美、大友啓史
撮影:石坂拓郎
アクション監督:谷垣健治
製作総指揮:ウィリアム・アイアトン
プロデューサー:福島聡司

和月伸宏原作の人気コミックを実写映画化し、大ヒットした「るろうに剣心」(2012)の続編で、原作のクライマックスにあたり、人気の高いエピソード「京都編」を描いた2部作の前編。監督は前作に引き続きメガホンをとる大友啓史。主要配役は前作と同じ佐藤健、武井咲、青木崇高、蒼井優、江口洋介らに加え、新たに藤原竜也、伊勢谷友介、神木隆之介、田中泯が参加している。

幕末に「人斬り抜刀斎」と恐れられた緋村剣心(佐藤健)。その彼も、新時代を迎えた今は女師範の神谷薫(武井咲)ら大切な仲間たちとともに穏やかな生活を送っていた。しかしある日、新政府の大久保利通から、剣心の後釜として「影の人斬り役」を引き継ぎ、維新後、彼を恐れた新政府によって焼き殺されたはずの志々雄真実(藤原竜也)が、新政府への復讐心から、京都で日本転覆を目論み暗躍を始めていると知らされる。政府の討伐隊もことごとく倒され、もはや剣心しか彼を倒せる者はいない。最初は迷った剣心だが、大久保が暗殺された事を知り、遂に志々雄に立ち向かう事を決意し、単身京都へと旅立った…。

前作は、絶えて久しかったチャンバラ・ヒーロー大活劇エンタティンメントの見事なる復活として大いに推奨したのだが、好評と大ヒットに後押しされて続編の登場と相成った。

今作には、志々雄真実という新たな悪役が登場するのだが、これが全身に大火傷を負っている故に、赤く火ぶくれした顔に白布でマスクをしており、その異様なスタイルからしてダース・ベイダーとか「バットマン」におけるジョーカーのような強烈な悪役像を想起させる(ちなみにダース・ベイダーも全身大火傷を負ったという共通点もある)。
さらに、メッタ斬りのうえ焼かれ、一旦は死んだかと思われたが、不死鳥のように蘇ったという点では、文字通り地獄から舞い戻った男でもある。まさに究極の悪役キャラである。悪役が強烈なほどアクション映画は面白い。藤原竜也がこの志々雄役を絶妙に怪演している。

その部下には、十本刀と呼ばれる剣の達人たちがおり、そのうちの二人、瀬田宗次郎(神木隆之介)と沢下条張(三浦涼介)が本作で剣心と闘うのだが、これが結構強い。宗次郎との対決で剣心は逆刃刀を叩き折られてしまう。

今回は前編という事で、ちょうどいい所で“つづく”という感じで終っており、まだ十本刀もほとんどが残っているので、9月13日公開の後編に相当期待が高まる。
本作も十分に面白いが、作品評価は後編を観た上でまとめて行いたい。多分本作よりもさらに凄い事になってる予感がする。今から待ち遠しい。
   

  
 
この「るろうに剣心」という作品の面白さについては前作批評で詳しく書いたので参照いただきたいが、単に活劇としての面白さだけでなく、主人公が幕末期に多くの人を殺した事を悔いて、維新後は“殺さずの誓い”を立て、決して人を殺さない点が実にユニークであり、秀逸な着眼点であった。所持している刀も刃が峰に付いた“逆刃刀”である。

この設定によって、剣心が豪快にバッタバッタと敵をなぎ倒しても、血も吹き出ないし誰も死なないから、通常のチャンバラ映画のような陰惨さ、血なまぐささがなく、鑑賞後の気分が爽快であるというメリットが生まれる事となる。
例えば、藤沢周平原作の「必死剣 鳥刺し」(平山秀幸監督)は、なかなか面白い作品ではあったが、主人公が血みどろになって悪人ではない同志や同僚たちを斬殺しまくる為、も一つ爽快感に欠け、モヤモヤした気分が残ってしまった。

個人的ではあるが、ヒーローが、正義の為とは言え人を殺すのに、どうも抵抗感がある。
その意味で、昨年公開された2本のアメリカ映画「L.A.ギャングストーリー」「ラストスタンド」がどちらもラストで悪玉ボスと殴り合いの決闘を行い、相手を殺さずに勝利する、という結末にホッとしたものである。こういう結末の方が、観客に爽快な気分を与える、という事にアメリカ映画が気付き始めたならいい傾向だと言える。

前作を私が高く評価しているのも、その点である。

そしてこの設定が重要なのはもう一つ、これも前作批評で書いたが、相手を殺せばその身内が復讐に走る、という、いわゆる“憎悪の連鎖”に対する鋭い批判もそこに込められている、という点である。

現実に、パレスチナとイスラエルの果てしない復讐の連鎖は泥沼状態であるし、イラクをはじめ世界各地で、憎悪と復讐の連鎖はとどまる所を知らない。
殺し合いは、憎しみを増幅させるだけの、空しく悲しい愚行である。今の時代、この作品が訴えかけるテーマは、もっと評価されていいと思う。

本作でも、そのテーマを考えさせるエピソードがあった。

京都への旅の途中、立ち寄った村で、志々雄一派によって村人が惨殺され、剣心は敵を逆刃刀で次々倒して行く。
当然敵は一人も死んではいないのだが、恨みに燃える村人たちは縛り上げた悪人たちを殺さんばかりの勢いで、特に両親を殺された少年がこの者たちに復讐の刃を向けようとした時、剣心は少年を止め、武力に武力で対抗する事の空しさを語り、少年の復讐心を諌める。

私はここで感動した。“復讐の連鎖への批判”が前作以上に強く打ち出された名シーンだと思う。このシークェンスだけでも、観るだけの値打ちはある。

 

王道娯楽映画のパターンを随所に網羅した痛快チャンバラ映画として観客を楽しませながらも、時代への批判精神もきちんと盛り込んだ本作、この精神は後編でも是非失わずにいて欲しいと強く願う。期待は大である。採点は、暫定だが上掲のテーマへの評価として…    (★★★★☆

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(さて、お楽しみはココからだ)
前掲の、途中の村における志々雄一派の浪人たちを叩きのめし、村人たちが俄然勢いづくシーン。

このシーンを見て、思い起こしたのが、黒澤明監督の傑作「七人の侍」における、勘兵衛(志村喬)たちが先兵として村に近づいた野伏りを生け捕りにして村に連れて来るシーンである。

この捕らえられ縛られた野伏りを見た百姓たちは俄然勢いづき、これまでの恨みを晴らそうと鍬を持って無抵抗の野伏りに襲いかかろうとし、勘兵衛たちはそれを必死で止めようとする。
そこに、家族を殺された村の老婆が鍬を持って復讐にやって来る。勘兵衛は村人たちの恨みの深さになすすべもなく見守る、というシーンである。

本作の、捕らえた浪人たちを見た途端に村人たちが勢いづくくだりはこれとそっくりである。恐らくは「七人の侍」の同シーンを意識していると思われる。

「七人-」では、野伏りに怯え、可哀相な人たちと思われた百姓たちが、実はずるくて身勝手だという事を次第に明らかにして行き、百姓たちが単なる弱者ではないしたたかな存在である事を描いていたが、本作でも、剣心が縛り首にされた少年の両親を木から下ろそうとすると、志々雄一派に逆らったら大変な事になると村人たちがそれを阻止しようとするシーンがある。
剣心はそれに怒り、復讐をしようとした少年に、「怯えるばかりで何もしようとしない、こんな村人のような人間にはなるな」と語る。

弱い立場であるはずの下層民衆たちのエゴイズム、小狡さに対する皮肉と痛烈な批判精神もまた、「七人の侍」が描いたものと同じである。

こう見て来ると、本作は単なる娯楽時代劇にとどまらず、さまざまな考えさせられるテーマを内包した、結構奥の深い映画であると言える。

今年はゴジラ生誕60周年と騒いでいるけれど、「七人の侍」誕生60周年でもある事をお忘れなく。

 

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コメント

面白かったですね。
お話の展開にはもうひとひねり欲しかったですが、アクションが快調で楽しめました。
まあ2時間半くらいあるので説明不足な部分は入らなかったのかな。
演出に勢いがあるのでそれほど長くは感じませんでした。
後篇にも期待したいです。

投稿: きさ | 2014年8月16日 (土) 08:56

◆きささん
長い原作を凝縮した為、どうしても話しにムラが出来てしまうのは仕方ないかも知れません。
その点、1作目は見事にすっきり爽快にまとまっていたので感心しましたね。
後編は凄く期待が高まりますね。あまり間をあけないで公開してくれるのは、忘れっぽい私には助かります(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2014年8月24日 (日) 12:31

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