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2014年9月 7日 (日)

「喰女 クイメ」

Kuime2014年・日本/セディック・インターナショナル
配給:東映
監督:三池崇史
企画:市川海老蔵、中沢敏明
原作:山岸きくみ
脚本:山岸きくみ

歌舞伎俳優の市川海老蔵が企画・主演を務め、鶴屋南北原作の「東海道四谷怪談」をモチーフに、舞台と現実のストーリーがシンクロして行くサスペンス・ホラー。監督は「悪の教典」や、海老蔵主演の「一命」などの三池崇史。共演は柴咲コウ、伊藤英明、新進の中西美帆など。

舞台「真四谷怪談」で、お岩役を演じるスター女優・後藤美雪(柴咲コウ)。美雪の強い推挙により、恋人である俳優・長谷川浩介(市川海老蔵)が伊右衛門役に抜擢される。舞台稽古が重ねられる中、浩介は共演女優の朝比奈莉緒(中西美帆)とも浮気するが、それを察知した美雪は嫉妬や疑心を募らせ、やがてその愛憎は日常の中に底知れぬ狂気を孕んで行く…。

舞台劇と現実の私生活が並行して展開し、それぞれの世界に影響し合って行く、というシチュエーションは、昔からよくあるパターンで、うまく脚本を練って行けば傑作が生まれる事もある。いい例が荒井晴彦脚本・澤井信一郎監督・薬師丸ひろ子主演の「Wの悲劇」である。ミステリーの原作をほとんど原型を留めないほど換骨奪胎した、ほぼオリジナルといってもいいストーリーで、一人の女が女優として成長して行く、優れた構成の傑作であった。脚本家を目指す人はお手本にして欲しい名シナリオである。

本作も、脚本が良ければ力作になる可能性もあったのだが…。

まあなんともヒドい脚本である。これはどうしようもない。三池崇史監督もこれでは料理しようもないと思ったのか、気合が入っていない。これまでもホラーは何本か監督しているはずなのだが、従来の作品と比べても全然怖くない。今年のワースト候補である。

(以下ネタバレあり。注意)
そもそも、「四谷怪談」の舞台の稽古風景が全体の8割方を占めている。現実の物語は2割程度。その物語もスカスカでしまらない事おびただしい。

ためしに、舞台稽古シーンを全部削除してつなぎ合わせてみたらいい。浩介と美雪のベッドシーン、浩介と莉緒のベッドシーン、稽古場に向かう車の中、突然狂ったような行動を取る美雪、控室の様子…たったこれだけである。日常描写の細かい積み重ねも、心の揺れ動きも何も描かれていない。手抜きそのものである。
そして舞台稽古(というかほとんど上演そのもの)のシーンが、単調なペースで延々と続くので退屈して来る。

出演者のキャラクター設定もかなりいいかげん。浩介は女にだらしない男としか描かれていない。すごく薄っぺらいキャラである。そのせいなのか、現代劇部分を演じる海老蔵は精彩がなく存在感が希薄。他の人物もだが、キャラ設定がみんな浅い。

美雪のキャラクターも、なんとも不徳要領。浩介と莉緒が寝ているベッドに美雪の姿が見えるシーンがあるのだが、これは何?さらに美雪が洗面所の鏡を頭突きで割ると、浩介の隣りで寝ていた莉緒の額から血が流れ落ちるシーンが続く。美雪は超能力者か?
後半の展開を見ても、自分の下半身を傷つける錯乱ぶりを見せたかと思えば、また超能力を使ったかのような浩介殺害シーンがあったり、ラストでは平然と浩介の首を転がしている。キャラが読めない。

怪談ものが怖いのは、恨みを持って殺された人間が、成仏出来ずに霊がこの世を彷徨っているからで、幽霊なら常人には不可能な事も出来るという前提がある。生きている美雪が、浮気されたくらいで呪い殺す力を持てるのか、それとも元から超能力を持っていたのか。その辺が極めて曖昧。

その他の脇の人物も、存在感が恐ろしく希薄。宅悦役を演じる伊藤英明とか、美雪のお付きの運転手の倉田加代子(マイコ)なんて、居ても居なくてもほとんど影響ない。加代子の足が悪いのは何かの伏線かと思ったが、結局何でもない。何の為の設定?
美雪が不在の時、加代子がお岩の代役を任されるのだが、付け人がいきなり代役って??普通は舞台で助演している本職の俳優が演じるものだろうに。それとも加代子はかつて役者だったのだろうか(そうだとしても無茶だが)。それならどこかにそれを匂わせるシーンを描いておくべきだろう。

稽古のシーンも疑問だらけ。
まず大きな疑問は、稽古なのだから、演出家が細かい指示をだすとか、演技にダメを出す、とかのシーンがあって当然だと思うのだが、そんなシーンは皆無。ただただ俳優が演技してるだけ。演出家なにやってるのか?こんな舞台稽古ってあり得ない。

主演女優が次第に狂気にかられて行く…という展開ですぐ連想するのが、ナタリー・ポートマン主演の「ブラック・スワン」。あの作品でも演出家のウエイトは大きかったし、主人公に影響を与える、主役の一人と言ってもいい存在であった。
そこまで行かなくとも、バックステージ物に演出家の存在は欠かせないと思うのだが。

細かい事だが、稽古場なのに、回り舞台があるのもヘン。そんな大仕掛けの稽古場なんて聞いたことがない。テーブルと椅子がある稽古場は本読み稽古程度で、舞台装置を使ったリハーサルは実際の劇場を使って行うものである。演出家や舞台監督は、客席に陣取って指示を出すのが自然。ともかく違和感だらけである。

その他、稽古なのに血ノリを派手にぶち撒けたり、床一面に大量の落葉を撒いていたり、本番の舞台さながらのシーンが随所にある。
稽古が、いつしか本番の舞台に繋がっているのか?そういった辻褄の合わないシーンが、怖さを増幅する演出上の意図なら分からないでもないが、そうでも無さそうだし。三池監督、ヤケクソみたいな演出やってないか?(笑)。
 

まあこの迷走演出も、原因はひとえに脚本のヒドさのせいで、誰が書いたのかとエンド・クレジットを見たら、あの悪名高き山岸きくみだった。納得だ(笑)。
この人、「座頭市 THE LAST」で、実力のなさは実証済み。その時知ったのだが、彼女は制作会社セディック・インターナショナル代表の夫人で、その威光のおかげで脚本が採用されてるらしい(当ブログ記事のコメント参照)。困ったことだ。
前作「一命」の評判がなんとかまあまあだったのは、橋本忍の名シナリオ(「切腹」)をほとんどコピペしたおかげで彼女の実力ではない。
で、本作も脚本全体の8割が舞台劇「東海道四谷怪談」のコピペと言っていい。
STAP細胞女史の博士論文問題でコピペが流行語になってるが、この人を今後コピペ脚本家と呼ぶ事にしたい(笑)。

脚本、演出、出演者の演技、すべてにおいて気合が入っていない、凡作である。  (採点=

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(蛇足)
ついでに指摘しておくと、映画の中で延々と演じられてる「四谷怪談」だが、あれだけ引っ張ってるのに、伊右衛門に強い影響を与える重要な人物、直助権兵衛がまったく登場していないのもおかしい。

具体的に言うと直助とは、弱味につけこんで伊右衛門を脅迫したり、伊右衛門をそそのかして人殺しをさせたりして、彼を悪の道に誘い込んで行く、メフィストテレスのような男である。お岩に飲ませる毒を用意するのも直助であったりする作品もある。
解説文によっては、直助を「四谷怪談」の影の主人公と位置付けたり、また伊右衛門を悪の道に走らせた全ての元凶としているものもある。それほど重要な人物なのである。

直助が介入する事によって、伊右衛門の人物像が複雑な陰を帯び、物語に奥行きが生じる事となる。いろんな「四谷怪談」の映画化作品でも、変則的な作品(例:「忠臣蔵外伝 四谷怪談」)を除いて直助は必ずと言っていいほど登場している。この人物が登場しないと、物語の性格が変ってしまい、伊右衛門がただの悪役でしかなくなる。

まあ善意に解釈すれば、本編部分に登場する主要人物が浩介、美雪、莉緒の3人だけだから、それに合わせて舞台劇も単純化したのだろうが、その割に舞台稽古部分が長過ぎるから、全体に間延びしてつまらなくなってるのである。

せっかく伊藤英明を出演させたのだから、彼に直助権兵衛役を演じさせたら、もっとお話が面白くなっただろうに。按摩宅悦役なんて、伊藤からしたら役不足のチョイ役に過ぎないのに。つくづく中途半端な映画である。

 

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