「TOKYO TRIBE」
2014年・日本/フロム・ファーストプロダクション=日活
配給:日活
監督:園 子温
原作:井上三太
脚本:園 子温
撮影:相馬大輔
アクション監督:匠馬敏郎
製作:小口文子、由里敬三
プロデューサー:千葉善紀、飯塚信弘
アニメ化もされた井上三太の人気コミック「TOKYO TRIBE2」の実写映画化。全編ほぼセリフのすべてがラップミュージックという異色作。監督は「ヒミズ」、「地獄でなぜ悪い」の鬼才・園子温。出演は「HK 変態仮面」の鈴木亮平、ラッパーのYOUNG DAIS、「WOOD JOB!(ウッジョブ) 神去なあなあ日常」の 染谷将太、「少女は異世界で戦った」が待機中の清野菜名、OV「仁義」シリーズの竹内力など。
さまざまなトライブ(族)に属する若者たちが、暴力で街を支配し、縄張りを競い合っている近未来の“トーキョー”。互いの力関係が拮抗する中、ブクロを拠点とするブッバ(竹内力)とその息子ンコイ(窪塚洋介)、さらに“ブクロWU-RONZ”のボスであるメラ(鈴木亮平)らが、政治家をも丸めこんで勢力を拡大しつつあった。そんなある日メラは、メラたちに異常なまでの敵対心を燃やす“ムサシノSARU”のメンバー、キム(石田卓也)をおびき寄せ、罠を仕掛ける。キムを助けようとムサシノSARUヘッドのテラ(佐藤隆太)、金属バットを携える熱血漢・海(YOUNG DAIS)たちはブクロに乗り込み、メラと対峙する。しかしそこにはもう一人、メラが街で見つけ連行して来た謎の少女スンミ(清野菜名)も囚われていた…。
毎回、作品を発表する度に新しいジャンルに挑戦し、ファンを熱狂させて来た鬼才・園子温監督。
今回、またまたぶっ飛んだ強烈な異色作を送り出して来た。
なんと、全編ほとんどのセリフがラップで、しかも会話だけでなく、物語の状況を説明するナレーションまでMCまがいのラップでやっている(役名も"MC
SHOW"の
染谷将太が担当)。
そのラップに、聴き取りにくい事も配慮してか字幕までつけている。おかげで話が判り易くなった。
物語そのものは他愛ない。喧嘩ばかりしている若者たちが、勢力争いを繰り返し、最後は暴力でカタをつける、という、昔からコミックや映画で無数に作られて来たジャンルである。
そういう意味では中身はあまり無く、アクションとたまに挿入されるエロティックなシーンを楽しむだけの典型的B級映画である。
タッチとしては、三池崇史監督のバイオレンス・アクション「極道戦国志・不動」(1996)、同監督の不良喧嘩もの「クローズZERO」(2007)、同じく三池監督の、出演者全員が歌い出す「愛と誠」(2012)の3本を足して3で割って、クエンティン・タランティーノ監督作品のエキスをまぶしたような作品である(ちなみに「極道戦国志・不動」には竹内力も出演している)。
そう思うと、前作「地獄でなぜ悪い」でも感じたが、最近の園子温監督、どんどん三池崇史化している気がする(笑)。
思い出したが、三池監督の「ゼブラーマン・ゼブラシティの逆襲」(2010)でもラップが使われていた(と思う)。
ただし、三池作品や昔の喧嘩バイオレンスものと比べると、陰惨さや血なまぐさいシーンは少なく、代わりに清野菜名の健康的ヌードやパンチラ・アクション(「愛のむきだし」!)が色どりを添え、バカバカしいギミック(殺人扇風機など)も登場したりと、早い話が、(今ではほとんど使われなくなったが)C級映画の代名詞“エロ・グロ・ナンセンス”が3拍子揃った楽しい作品だと言える。
そういう点では、昔のロジャー・コーマン監督・製作作品(「忍者と悪女」(1963)とか「ワイルド・エンジェル」(1966)、製作のみの「残酷女刑務所」(1971)、「デスレース2000年」(1975)等)、並びに先般亡くなった鈴木則文監督作品(「女番長」シリーズ、「サムライ」などのコミック原作作品)などに愛着のある映画ファンなら十分に楽しめるだろう(猥雑さとナンセンスの極み、そしてラストに至ってのチン○連発の下品さは、鈴木則文作品を彷彿とさせる)。
逆に、そうした世界感に馴染めない人には、テンションが一定で緩急がない為、途中で飽きてしまうかも知れない。そのつもりでご覧になるかどうか判断していただきたい。
楽しみどころとしては、ベテラン・竹内力や「変態仮面」鈴木亮平のイッちゃってる怪演ぶり。ほとんど狂ってる(笑)。
佐藤隆太や
YOUNG DAISも悪くは無いけれど、この二人に比べたら影が薄いくらい。それほど強烈。窪塚洋介は「サンブンノイチ」に続いてワル役がハマって来た。
しかし素晴らしいのは、少女スンミを演じる清野菜名(せいの・なな)。俳優兼アクション監督・坂口拓(「地獄でなぜ悪い」にも出演)の元で1年間アクション訓練を受けたというだけあって、パンチラ・アクションが見事に決まっている。その上惜しげもなくヌードになる等、根性も座っている。もう一人のアクション女優・武田梨奈と共演の「少女は異世界で戦った」もまもなく公開。監督が新人女優の育成に関しては第一人者とも言える金子修介だけに期待大である。今後の有望株としてイチ押ししておきたい。
笑ってスカッと楽しむだけのB級娯楽映画に徹しているだけに、作品的クオリティは過去の園監督作品よりは落ちる。
しかし、こうしたブログラム・ピクチャー作りも決して悪くは無い。観る方も作る方も、共に息抜きにもなるし、ストレスも発散出来るし、精神衛生上も好ましい。
深作欣二監督も、社会派問題作「軍旗はためく下に」の直後に強烈なバイオレンスやくざもの「人斬り与太」シリーズを作ったり、「仁義なき戦い」シリーズの合間にハチャメチャB級カーアクション映画「暴走パニック・大激突」を撮る等、硬軟自在な映画作りを行っていた。野村芳太郎監督も、「砂の器」などの社会派ミステリーの秀作を撮るかたわら、コント55号主演の気楽なB級コメディも並行して撮っていた。
ベストテン級の問題作・秀作を発表しているからといって、軽いノリのB級娯楽映画を撮って悪い道理はない。どちらのジャンルも自在に往還出来る、作家としての振幅と柔軟性が、素敵な作品を生み出せる原動力になっているのかも知れない。
園監督には、今後もA級B級C級とりまぜ、いろんなユニークかつ新しいジャンルに、貪欲にチャレンジしていただく事を切に望みたい。 (採点=★★★★)
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コメント
全編、ラップミュージカルで園監督らしく暴力シーンはたっぷりなので観客は選びますが、面白かったです。
まあ「地獄でなぜ悪い」ほどではないですが。
鈴木亮平、竹内力、窪塚洋介、染谷将太、清野菜名、坂口茉琴のカンフーコンビ、佐藤隆太、などなど俳優陣はみんな良かったです。
ずっと音楽が鳴り役者の演技もテンション高いのでちょっと見終わって疲れました。
投稿: きさ | 2014年9月23日 (火) 08:26
ご無沙汰してます。正直、7割がた寝てしまいそうになっていたのですが(つまらなくてではなく、「疲れて」です、念のため)、しょこたんがブルース・リーに化け、殺人扇風機が主要登場人物を一気に片付けたあたりから面白く見ました(そこかよ!)。噂どおり、今旬の鈴木亮平の切れっぷりも見事でしたが(佐藤隆太の目立たないことったら…。一人だけこの作品に対するテンションが違って見えるのが残念。)、やっぱりスンミ役の清野奈名。最初、あっ、これは「愛のむきだし」の満島ひかりのパロディか、と想ったのですが、アクション、遥かに凌駕してますね。顔も若い吉瀬美智子という感じで一般受けしそうですね。次作、金子修介ですか。えっ、それって全く満島ひかりの過去に重なるじゃないですか。園子温、作品も、新人発掘も天才ですね。
投稿: オサムシ | 2014年10月12日 (日) 00:29
◆きささん
>ずっと音楽が鳴り役者の演技もテンション高いのでちょっと見終わって疲れました。
私はこれを見て、石井聰亙監督(現・石井岳龍)の初期の傑作「爆裂都市」を思い浮かべていました。
あの作品も、強烈なロックミュージックは鳴りっぱなしだし、ハイテンションが最後まで続くので見終わって少々疲れました。
しかししばらくすると、その独特のノリがとても魅力的に思えて何度か再見し、今では好きな作品の1本になっています。あの作品も観客を選ぶタイプで、誰にもお奨めはしませんが、本作を気に入った人ならきっと楽しめると思いますよ。
◆オサムシさん
私も佐藤隆太が、他のハジけてる共演者たちと比べて、浮いてる気がして気になってました。もっと狂気を感じさせる役者をキャスティングすべきでしたね。
そうそう清野菜名、注目株ですね。期待していいと思いますよ。
「ヒミズ」の二階堂ふみも今や堂々の本格派女優ですし、まさしく園監督は新人発掘の名手ですね。次はどんな新人女優を発掘するか、その面でも園監督作品は見逃せませんね。
投稿: Kei(管理人) | 2014年10月13日 (月) 15:33