「荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~」
2014年・アメリカ/ユニヴァーサル
配給:シンカ、パルコ
原題:A Million Ways to Die in the West
監督:セス・マクファーレン
脚本:アレック・サルキン、セス・マクファーレン、ウェルズリー・ワイルド
撮影:マイケル・バレット
製作:スコット・ステューバー、セス・マクファーレン、ジェイソン・クラーク
製作総指揮:アレック・サルキン、ウェルズリー・ワイルド
「テッド」が日本でも大ヒットしたセス・マクファーレン監督が、主演も兼ねて製作したお下劣西部劇コメディ。共演者はシャーリーズ・セロン、アマンダ・セイフライド、リーアム・ニーソンと豪華な顔ぶれで、他にクリストファー・ロイド、ユアン・マクレガー等有名俳優がカメオ出演しているのも見逃せない。
1882年、アリゾナの田舎町に暮らすアルバート(セス・マクファーレン)は、銃すら撃った経験のない気弱で冴えない羊飼い。決闘を挑まれてもヘ理屈をこねて逃げ出す始末で、ガールフレンドのルイーズ(アマンダ・セイフライド)にも愛想をつかされてしまう。しかし、ある日、射撃の名手でミステリアスな美女アンナ(シャーリーズ・セロン)が町に現れ、ふとしたきっかけからアルバートは彼女と急接近。彼女から銃の手ほどきを受けるうち、やがて2人は恋に落ちる。そんな時、西部一の大悪党クリンチ(リーアム・ニーソン)が町に現れ…。
冒頭の、ジョン・フォード映画でお馴染みのモニュメント・バレーの俯瞰映像にまずニンマリさせられる。
そこにかかる音楽も、「荒野の七人」や「大いなる西部」、「西部開拓史」といった代表的西部劇映画の勇壮なテーマ曲とよく似ており、さらにメイン・クレジットの字体も50~60年代の西部劇映画そのまんま。
これだけで、西部劇映画ファンなら嬉しくなる事請け合いである。
本編が始まっても、西部劇のエッセンスがぎっしり詰まっている。
街中での拳銃対決による決闘(バリエーションを変えて3度出て来る)、
家畜が放牧された牧場(普通は牛だが本作では羊)、
娼婦たち(イーストウッド監督「許されざる者」など)、
酒場での大乱闘、
姐御肌的な美女(「駅馬車」のクレア・トレバー、「リオ・ブラボー」のアンジー・ディッキンソン等)、
未熟な男に拳銃の撃ち方を教える師匠(マカロニウエスタンでお馴染み)、
さらにインディアンまで登場…
といった具合で、おそらくマクファーレン監督、かなりの西部劇ファンなのだろう。相当研究した様子が伺える。
西部劇要素というなら、リーアム・ニーソン扮する悪役の名前がクリンチ・レザーウッド。
これは言うまでもなく、多くの西部劇に出演した名優・クリント・イーストウッドのもじりだろう。
さらに、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のドク(クリストファー・ロイド本人)とデロリアンも登場するが、これは前記のモニュメント・バレーでもロケするなど、まるごと西部劇オマージュをやった同作パート3へのリスペクト。
そう言えば、同作の中でマーティが名乗った名前も、クリント・イーストウッドであった。
エンドマーク(これも懐かしい“THE END”の文字)後にも、最新の西部劇の主人公が同じ役者で登場するので、これも見逃さぬよう。
まあこんな調子で、古い西部劇を愛するファンにはなんとも楽しい作品となっており、それだけで点数が甘くなる。
無論、マクファーレン監督の前作「テッド」同様、おナラ、ウ○コなどの下品ネタ、エロネタは前作以上に満載で、こうしたネタに拒否反応を示す人にはあまり奨められない。
しかし本作は、ただお下劣・下品なだけの作品ではない。
主人公アルバートは、気が弱くて意気地なしのヘタレ男であったが、そんなカッコ悪い男が、美女に恋し、努力を重ね、やがては男として勇気を出して、悪と正面から対決するに至るという、男の成長物語として一本芯が通った作品になっているのである。
荒々しい暴力がまかり通り、何かというと拳銃でカタをつけようとする開拓時代の西部において、暴力が嫌いなアルバートは、この時代には不似合いな男である。
本人も「生まれる時代と場所を間違えた」とボヤいている(ポスターにも、このフレーズがキャッチコピーとして載っている)。
しかし、今の時代から見れば、そんな暴力で相手を屈服させるやり方は古臭く、野蛮で否定すべきものである。
実際、かつては“世界の警察”を標榜して“力の正義”をゴリ押しして来た、まさに西部劇の精神を引きずって来たアメリカ流のやり方も、今では通用しなくなっている。
クリント・イーストウッド監督が「グラン・トリノ」で描いたものも、まさに“アメリカの正義の否定”そのものであった。
そう考えれば、マクファーレン監督が主人公アルバートを通して描こうとしたテーマは、イーストウッド監督が訴えたテーマとも通低するものがあると言えるだろう。
暴力を否定し、しかし勇気と愛をもって、悪に立ち向かう、その心意気の大切さを本作は訴えかけているのである。
下品でくだらないように見えて、本作、意外としっかりしたテーマを持った作品なのである。
「テッド」も、やはり下品ではあったけれども考えさせられる秀作であった(詳しくは作品評参照)。
下品、お下劣描写は、マクファーレン流の、テレなのかも知れない。
好みによるかも知れないが、私は好きな作品である。西部劇ファンには特にお奨めしたい。 (採点=★★★★)
(付記)
西部が舞台のコメディで、主人公がヘタレで最初はバカにされるが、やがて自分を見つめ直し、最後は悪と対決する、という、本作とテイストがよく似た作品がある。
「ランゴ」という、カメレオンが主人公のCGアニメである。
いろんな西部劇のパロディが満載で、これも西部劇ファンにはお奨めの快作である。
で、この作品にも、クリント・イーストウッド(らしき人物)が登場している。その名も、"Spirit of the West"。
まさに、西部劇と言えばイーストウッド(「バック・トゥ・ザ・フューチャー Part3」もそうだった)というのは、西部劇を愛する映画作家の共通の思いなのだろう。素晴らしい事である。
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