「ジャージー・ボーイズ」
2014年・アメリカ/マルパソ・プロ=GKフィルムズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
原題:Jersey Boys
監督:クリント・イーストウッド
脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
ミュージカル版台本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
撮影:トム・スターン
製作:グレアム・キング、ロバート・ローレンツ、クリント・イーストウッド
製作総指揮:フランキー・バリ、ボブ・ゴーディオ、ティム・ムーア、ティム・ヘディントン、ジェームズ・パッカー、ブレット・ラトナー
1960年代に世界的な人気を誇った伝説の米ポップスグループ「ザ・フォー・シーズンズ」の活躍と仲間たちの葛藤を描いた、ブロードウェイミュージカルのヒット作の映画化。監督は「グラン・トリノ」等の名匠クリント・イーストウッド。主演のフランキー・バリを演じるジョン・ロイド・ヤングはミュージカル版にも主演し、トニー賞でミュージカル男優賞を受賞している。また裏社会の大物役でクリストファー・ウォーケンも出演。
1960年代、アメリカ東部ニュージャージー州の貧しい町に生まれた若者たち。金もコネもない者が町から抜け出すには、軍隊に入るかギャングになるしかなかった。そんな中、類まれな美声を持つフランキー・ヴァリ(ジョン・ロイド・ヤング)や,曲作りの才能にたけたボブ・ゴーディオ(エリック・バーゲン)、ギタリストでマネジメントの才覚もあるトミー(ビンセント・ピアッツァ)たちが集まって4人組グループ“ザ・フォー・シーズンズ”を結成、チームワークとハーモニーを武器に、「シェリー」その他の大ヒット曲を連発し、スターダムを駆け上がって行く。しかしやがて意見の違いから、チームは分裂の危機に晒される…。
今年で84歳となるクリント・イーストウッドだが、相変わらず製作意欲は旺盛で、今度はブロードウェイ・ミュジカルの映画化という、またも新たなジャンルに挑戦し、またまた傑作を誕生させた。どんなジャンルだろうと、悠々と傑作に仕上げてしまうイーストウッドは本当に凄い。心から尊敬に値する。
ただし、(舞台作品はどうなってるのは知らないが)本作は厳密な意味ではミュージカルではない。ミュージカルというのは、セリフの代わりに出演者が歌い踊る作品を指すもので、本作はステージや、レコーディング・スタジオ等で歌い演奏するシーンはあるものの、突然歌い出したりはしない。「Rey レイ」や古くは「グレン・ミラー物語」と同様、“音楽家の伝記映画”と呼ぶべきだろう。
その代わりに、面白いテクニックを活用している。出演者たちが、カメラ(=観客)に向かってしゃべり出すのだ。
映画史的には珍しい手法ではない。フランス・ヌーベルバーグの作家たちもよくやっていたし、近年では大林宣彦監督がさかんに取り入れている(「青春デンデケデケデケ」、「この空の花 長岡花火物語」等)。黒澤明監督も「素晴らしき日曜日」(1947)の終盤で主演の中北千枝子が、観客に向かって語りかけるシーンを登場させている。
そして、ミュージカルと言えば全盛期のMGMミュージカルでも、登場人物たちが観客に向かって、歌って状況説明を行う事がよくあった。
オリジナルである本作の舞台版でもこの手法を使っていたそうだし、映画と違って外からの“ナレーション”という方法が使えない舞台劇やミュージカルでは、むしろ一般的な手法だと言える。
映画では、使い方を誤るとシラけたりする事もあるだけに(事実黒澤の「素晴らしき日曜日」は、唐突で成功しているとは言い難い)、簡単ではないと思うが、そこはさすがイーストウッド監督、使い方がうまい。歩いている時とか演奏の最中とか、画面のテンポに巧みに乗せてさらっとしゃべらせる、そのタイミングとリズム、人物に寄るカメラワークが絶妙なのである。導入部分や、話の流れが省略されてポンと飛んだ時に、その間を埋めるように解説するのだから、観客には話が分かり易い。これをその都度、メンバーが交代で行うから、誰か一人だけが担当するナレーションよりも便利かつ機能的である。映画が進行し、慣れて来ると、むしろ心地いい気分にすらなって来る。
こういう実験を、84歳の高齢で、いとも軽々と映画のリズムに消化させ成功させてしまうイーストウッド監督には改めて敬服する。
さて、お話の方は、貧しい境遇で育った若者たちが、そこから抜け出そうと苦闘し、やがて力を合わせて一歩づつ成功への階段を登り、遂に大成功を収めるが、やがてさまざまな裏切りや挫折を経験し、チームも分裂する苦難を味わう…という、よくあるパターンである。
だが、出色なのは、さまざまな登場人物の描き分けである。特にフォー・シーズンズの4人のキャラクター設定がいい。
フランキー・バリは天性のファルセット(裏声)を持ち、リードボーカルとしてグループ一番の人気者。
ギターのトミー・デビートはヤクザ稼業の裏も知っている親分肌で、マネージャー的才覚にも長け、グループのリーダー的存在である。
キーボードのボブ・ゴーディオは作曲の才能があり、多くのヒット曲は彼の手によるもの。音楽面での牽引者と言える。
そしてベースのニック・マッシは控えめで一番目立たないが、実はグループ全体の観察者的位置におり、後に重要な役割を果たす。
こうした性格の違いが、その後グループが有名になり出世して行くにつれ次第に表面化して行き、チーム内に軋轢が生じる事となる。
またクリストファー・ウォーケン扮する裏稼業の大物ジップが、一見コワもてだが、彼らを何かと援助する懐の深さを見せる、いい役どころである。
その他レコード会社のプロデューサーであり、彼らの才能を見抜くボブ・クルー(マイク・ドイル)が実はゲイだったり、トミーと仲のいいチンピラが後に映画「グッドフェローズ」で有名になるジョー・ペシだったとか、脇の人物もなかなかクセがあって楽しい。
(ボブ・クルーはその後グループのヒット曲の作詞も多く手掛けている。大ヒット曲「君の瞳に恋してる」の作詞もボブ・クルーである)
フランキーの家庭に悲しい不幸が訪れたり、トミーのやり方にブチ切れてニックが脱退し、グループは分裂する事になったりと、暗い話もあるのだが、イーストウッドの流暢な語り口が暗さを意識させない。
落ち込んでいたフランキーを慰める為にゴーディオが書いた曲が、「君の瞳に恋してる」だったというエピソードもジンとさせる。
常に積極的で、グループを牽引して行くが、それ故に問題も起こし易く、いつの間にか15万ドルもの借金をこしらえ、グループ分裂の原因を作ってしまうトミーという男を、イーストウッドは監督は突き放すわけでもなくまた甘やかす事もせず、優しくかつ厳しく凝視する。
彼がいなかったら、グループの成功もなかった事も事実である。それが分かっていたフランキーは、友の為にその借金を肩代わりする決心をする。
それは、ニュージャージーという小さな街で、悪い事も含めて互いに友情を抱き、生きて来た若者たちの、深い絆の証しでもあるのだろう。
それ故に、20年の時を経て、彼らが「ロックの殿堂」入りを果たし、その受賞式場で再会し、わだかまりを捨てて友情を確かめ合うシーンは感動させられる。
ここでフランキーがしみじみと語る言葉に泣かされた。
いろんな事があり、波風もあったけれど、それでも仲間の友情は変わらない。何故なら彼らはジャージー・ボーイズだからである。
ラストのカーテンコール的歌とダンス・シーンも楽しい。
イーストウッド監督自身が、楽しんで映画を作っている事がよく分かる。ここでも、楽しいシーンなのに涙があふれて来た。多分素晴らしい作品に出会えた事の、感動の涙なのだろう。
歳をとっても、悠々と人を楽しませ、感動する映画を作り続ける、クリント・イーストウッドという人間の存在自体がとても素敵である。
それを思うと、こんな素敵な映画作家と同時代に生きて来た事を、彼の新作映画が観られる事を、とても幸福に思う。いつまでも長生きし、また新作映画を作ってくれる事を心から願いたい。何度でも、繰り返し観たくなる、本年最高にチャーミングな傑作である。 (採点=★★★★★)
(さて、お楽しみはココからだ)
この映画そのものがお楽しみなのだが、いろいろお遊びシーンもあってそれも楽しい。
フランキーたちが見ているテレビに、「ローハイド」出演中の若かりしイーストウッドがチラリ映るシーンが笑える。
これは誰でも気づくだろうが、私がもう1箇所笑ったのが、彼らが有名なテレビ番組「エド・サリバン・ショー」に出演するシーン。
ここで、ショーを中継しているテレビカメラのモニター画面に、エド・サリバン本人の姿が一瞬映るシーンがある。
これは当時のエド・サリバン・ショーのビデオを借りてきてモニターに流しているのだが、あたかもエド・サリバン本人がカメラの向こうにいるかのように一瞬錯覚してしまう。
エド・サリバンの顔を知らない人は気づかないだろうけれど、知っている人にとってはなかなか楽しいシーンである。
で、このテクニックは実は以前にも使われた事がある。
「抱きしめたい」(1978)という作品で、これは'60年代、当時人気絶頂のビートルズがエド・サリバン・ショーに出演した時、熱狂的ファンの女の子(ナンシー・アレン)がビートルズを一目見ようとあの手この手でスタジオにもぐり込むべく悪戦苦闘するコメディで、いまや巨匠のロバート・ゼメキスの監督デビュー作でもある。
で、いよいよエド・サリバン・ショーに登場したビートルズがスタジオで演奏するシーンで、当然ビートルズ本人たちは出演しておらず、同じ衣装を着た役者がビートルズを演じているのだが、その上半身は巧みにカメラやモニターの陰になったりで見えず、その代わりにビートルズ本人の姿がカメラその他のモニター画面にバッチリ映っていたのである。 ↓
どちらの作品でも、「エド・サリバン・ショー」にグループが出演した時の1シーンに、このテクニックを使っている事から、イーストウッド(かスタッフ)が映画「抱きしめたい」をヒントにしたのは多分間違いないだろう。
なお、ザ・フォー・シーズンズは、ビートルズが登場する前に最も人気があった4人組ロック・グループと言われている。
おまけに、「抱きしめたい」の冒頭の舞台となるのが、ニュージャージー州である。偶然にしては出来すぎ(笑)。
CD 「ヴェリー・ベスト・オブ・フランキー・ヴァリ & ザ・フォー・シーズンズ」
VHS ロバート・ゼメキス監督「抱きしめたい」
DVDは出ていない様子 是非DVD化望む |
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コメント
いい映画でした。
ブロードウェイ版と同じくリードボーカルのフランキー・ヴァりを演じるジョン・ロイド・ヤング始め、配役が素晴らしい。
クリストファー・ウォーケンが渋い演技を見せるのもうれしい所。
イーストウッドの演出も快調。最後のミュージカルシーンが楽しかったです。
ジョー・ペシが登場する事、ホテルのテレビに「ローハイド」の若きイーストウッドがちらっと登場するのも楽しかったですね。
お話は実話も元にしていますが、かなり創作も入っているそうです。
昨日の山下達郎サンデーソングブックで知ったのですが、ボブ・クルーが亡くなったそうで、追悼特集でした。
『君の瞳に恋してる』を含め色々な名曲がかかりました。
どうでもいい話ですが、ジョン・ロイド・ヤング、顔が爆笑問題田中にちょっと似ていませんか。
投稿: きさ | 2014年10月14日 (火) 06:02
◆きささん
なんと!ボブ・クルーは1ヶ月前の9月11日に亡くなっていたのですね。
山下達郎サンデーソングブック、見逃しました。残念。
検索したら、詳しい事情を掲載したサイトがあったので貼り付けておきます。 ↓
http://tangodelic.tea-nifty.com/tangodelog/2014/09/18box-e8da.html
ちょっとかわいそうな最期だったようですね。冥福を祈ります。
ともあれ、情報ありがとうございました。
投稿: Kei(管理人) | 2014年10月16日 (木) 00:20
こんばんは。
『ローハイド』はビックリしました。
おいおい、イーストウッドがそれをやっちゃうのかい…と。
歳とっても気負うことなく、
映画と戯れるイーストウッド。
まだまだ、観客を楽しませてほしいものです。
投稿: えい | 2014年11月22日 (土) 20:24
◆えいさん
「ローハイド」の映像は、インタビューによると、イーストウッドは使う気はなかったようですが、彼の会社の女性スタッフが勝手に入れたんだそうです。で、イーストウッドも、まあいいか、となったそうです。
そういう遊びも気軽に許す、懐の深さに感心しますね。
ところで、先日高倉健さんが亡くなりましたが、アメリカでも大きなニュースになっていて、あるニュース記事では、健さんを「日本のイーストウッド」と紹介していました。
そう言えば年齢もほぼ同じ(イーストウッドは先日84歳になったところ)で、アクション俳優を経て大スターになったという共通点もありますね。
イーストウッドには、もっともっと長生きして、映画を作り続けて欲しいと心から祈りたいですね。
投稿: Kei(管理人) | 2014年11月23日 (日) 00:55