「ミニスキュル~森の小さな仲間たち~」
2013年・フランス/Futurikon Production
配給:東北新社
原題:Minuscule - La vallee des fourmis perdues
監督:エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ
脚本:エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ
企画:エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ
製作:フィリップ・デラリュー
音楽:エルベ・ラバンディエ
小さな虫たちを主役に描いたフランスの短編アニメシリーズで、日本ではNHK-Eテレで放送された「ミニスキュル 小さなムシの物語」の長編劇場版。監督・脚本はフランスのアニメ界の巨匠メビウス(ジャン・ジロー)の実娘エレーヌ・ジローと、その夫のトマス・ザボ。フランス国内で公開されるや、オープニング興行収入ランキング1位を記録する大ヒットとなった。
自然保護区にも指定されている南フランスの国立公園の森の中。ある日、子供のてんとう虫が意地悪なハエに追いかけられ、家族と離れ離れに。ふとした事から、人間が残していった角砂糖の箱を巣まで運ぶ働きものの黒アリたちと仲良くなり、旅の仲間となる。しかし、その箱を凶暴な赤アリが狙っていた。危険な大冒険の末、てんとう虫と黒アリたちはようやく巣に戻るが、そこに赤アリたちの大群が押し寄せて来て…。
ほとんど話題にもならず、劇場もイオンシネマ系のみの公開で、大阪では茨木と泉南という、都心部から遠く離れたシネコンで、しかも1日1回のみ上映。普通なら見逃していた所だが、私がよく覗きに行く映画評論家・高澤瑛一氏のブログで絶賛していたので、ちょっと気になって観に行った。
ひょっとしたら、子供向けの淡々とした、虫の観察的な映画だろうか、と観る前は思っていたのだが、予想とは大違い、なんと!ハラハラする大冒険活劇エンタティンメントであった。これは、映画ファンなら絶対観ておくべき秀作である。
冒頭は、美しい大自然の光景が広がる南フランスの森林地帯が、ドキュメンタリー・タッチで映し出される。そこに登場したのは、ここにピクニックにやって来た実写の人間夫婦。あれ、これはアニメじゃなかったのか?と一瞬戸惑ったが、やがて妻が産気づき、夫婦は大慌てで、広げたお弁当類をそのままにして下山。
そこからが、いよいよ虫たちの登場で、てんとう虫の子供たちが生まれ、両親が飛び方を教える微笑ましいシーンがしばらく続く。CGで描かれた虫たちはいずれも目玉が大きく、アニメ的にデフォルメしたデザイン(右)で、しかし背景はあくまで自然の実景。
つまりは本作は、“実写の背景にアニメを合成した”、例えばディズニー作品「南部の唄」や「メリー・ポピンズ」等に代表される、昔からよくあるバリエーションの作品である。
しかしそれらと本作が大きく異なるのは、目玉こそアニメ風ではあるが、CGで描かれたその身体は、極めて実写に近く、また虫たちはまったくセリフを喋らず、かつ背景はリアルな実写映像(時々CGで描かれた風景も混じるが見分けがつかない)であるので、観ているうちに、これは虫たちの生態を捕えたドキュメンタリー、例えばこれまたディズニー製作の傑作記録映画、「大自然の驚異」、「砂漠は生きている」等を彷彿とさせる作品のように思えて来る。
つまりは、実写とアニメの境界が限りなく近接した、きわめてユニークなジャンルの作品なのである。
元は、2006年からフランスのテレビで放映された、1本が2~5分程度の短編アニメ・シリーズ"minuscule"が発祥で、2008年広島国際アニメーションフェスティバルで優秀賞を受賞し、その後我が国でも、2012年からNHK・Eテレで「minuscule ミニスキュル ~小さなムシの物語~」として放送が開始されている。
この短編アニメのキャラクターをそのまま使って、なんと5年もの歳月をかけて長編アニメとして完成させたのが本作である。
最初の方こそ、迷子になったチビてんとう虫の、自然の中をさ迷う光景が続いて、ディズニー・ドキュメンタリー的な味わいも見せるのだが、やがて人間が忘れて行った角砂糖入りの缶を、黒アリたちが巣へ持ち帰ろうとし、缶の中で雨宿りしていたてんとう虫もその移送の旅に付き合わされるようになってからが、俄然アドベンチャー・スペクタクルの様相を帯び、ぐんと面白くなって来る。
その角砂糖缶を狙って、凶暴な赤アリたちが追いかけ、黒アリたちは必死で逃げる。険しい岩山を越え、崖をすべり落ち、激流に流されたりと、スリリングな逃走と追跡行が続く。
ようやく赤アリたちを振り切り、彼らの巣であるアリ塚に帰って来るが、執念深い赤アリは大群を率いてアリ塚を襲って来る。
この攻防戦が、まるで砦を襲うインディアンとか、敵軍隊との戦闘を描いた西部劇、あるいは「ロード・オブ・ザ・リング」等のスペクタクル・ファンタジーさながらの大迫力。
あわや落城か、という大ピンチに、てんとう虫君が人間の忘れて行ったある道具を思い出し、それを飛んで取りに行き、必死の思いで持ち帰って、最後はそれを活用して見事大逆転勝利のハッピー・エンド。
最初は臆病だったチビてんとう虫君が、旅と冒険と、黒アリとの友情を通じて、勇気を獲得し、人間的(もとい、虫的)に成長する物語でもある。ラストの、黒アリ・リーダーと並び、夕陽を見つめるシルエットも感動的である。
子供どころか、大人も(特に映画通ならなお)楽しめる、素晴らしい傑作アニメーションであった。
映画ファンとして楽しいのは、随所に盛り込まれた映画オマージュである。
缶に乗って激流を下るシーンは、ジョン・ヒューストン監督、ハンフリー・ボガート主演の「アフリカの女王」(1951)とか、ジョン・ブアマン監督、ジョン・ヴォイト主演「脱出」(1972)とかの激流下りが見せ場の映画群を思い起こさせるし、不良ハエたちとのチェイス・シーンは、「スター・ウォーズ エピソードⅠ ファントム・メナス」のポッド・レースを彷彿とさせる(TVアニメ版には、「スター・ウォーズⅥ ジェダイの帰還」の森の中のスピーダー・バイク・チェイスとそっくりなシーンも出て来る)。
途中、親切なクモに救われるが、そのクモ君の住み家がドール・ハウスで、その中を進むカメラ・アングルが、ヒッチコック監督の「サイコ」におけるベイツ屋敷内とソックリというお遊びもある。
そのクモ君のキャラデザイン(右)が、宮崎アニメ「となりのトトロ」のまっくろくろすけに似ているのも楽しい。
アリ塚の攻防戦では、敵も味方も、人間が捨てた家庭用品類を武器として再利用しているのも面白いが、中でも爪楊枝の束をゴムパチンコで投擲し、雨あられと降って来るシーンは、インディアンが放った大量の矢が、放物線を描いて降って来る、ジョン・スタージェス監督「ブラボー砦の脱出」を思い出した。
赤アリ軍団が、ゴムパチンコを使ってアリ塚を崩壊させようとするシーンは、投擲器を使って敵陣を攻める、多くの古代戦闘映画へのオマージュだし、松かさをぶち当てて門を破ろうとするシーンもこれまた城砦攻略戦争映画でおなじみ。
…といった具合に、いろんな映画オマージュを探すのも楽しい。古い映画など知らない子供でも十分楽しめるが、映画ファンなら余計にお楽しみがある、素敵な作品である。
本作の企画・監督・脚本を担当したのは、それまでもアニメ作家として知られていたエレーヌ・ジローとトマス・ザボ夫妻。エレーヌ・ジローは、2012年に他界したフランスのバンド・デシネ(フランスを源流とするアニメ)の巨匠・メビウス(本名ジャン・ジロー)の実娘である。
メビウスは、フランス製アニメの秀作、ルネ・ラルー監督の「時の支配者」(1982)で脚本とアニメーション監督を担当したり、リュック・ベッソン監督「フィフス・エレメント」(1997)で美術デザインを担当する等、さまざまなジャンルで活躍してきた異才である。また今年公開された映画「ホドロフスキーのDUNE」に登場する、「DUNE」の絵コンテを担当していた事でも知られている。
メビウスは惜しくも一昨年亡くなったが、その娘がこんな素敵なアニメを監督していたなんて。蛙の子は蛙と言うか、父の後を継いで、今後も楽しくて心温まるアニメーションを作って行って欲しい。次回作も楽しみである。
が、こんな素晴らしい秀作であるのに、我が国での公開が宣伝もされず、極めて限定的であるのは残念である。多くの人に観て欲しいのに。
私が遠路はるばるイオンシネマ茨木まで観に行った時は、朝9時15分だけの1回のみで、なんと観客は私一人!。久しぶりに貸切状態での鑑賞となった(私が入らなかったら無人で上映してたのだろうか(笑))。
まだイオンシネマ系で上映してるので、興味あるファンは是非鑑賞を。特に、アリたちが遠景でそれこそ目に見えないくらい小さく映っている場面もあるので、出来れば劇場での鑑賞をお奨めしたい(劇場によっては、3D版を上映している所もあるようだ。それも時間があれば観たい)。今年公開のアニメの、一番の秀作である。 (採点=★★★★☆)
予告編
※ TV版の短編アニメは、こちらで見る事が出来ます。 ↓
http://www.youtube.com/watch?v=iWNMc27qG1A
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コメント
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投稿: evening dresses womanwithin | 2014年12月 4日 (木) 06:37