「ゴーン・ガール」
2014年・アメリカ/New Regency Pictures他
配給:20世紀フォックス映画
原題:Gone Girl
監督:デビッド・フィンチャー
原作:ギリアン・フリン
脚本:ギリアン・フリン
製作:アーノン・ミルチャン、ジョシュア・ドーネン、リース・ウィザースプーン、シーン・チャフィン
全米でベストセラーとなり、2014年版「このミステリーがすごい」年間ベストテンでも9位にランクされたギリアン・フリン原作のミステリーを映画化。監督は「セブン」、「ゾディアック」、「ドラゴン・タトゥーの女」等、異色ミステリーものに腕を発揮するデビッド・フィンチャー。主演は題名も似ている「ゴーン・ベイビー・ゴーン」で初監督・主演を務めたベン・アフレック。共演にロザムンド・パイク、ニール・パトリック・ハリスら。
アメリカ・ミズーリ州。元ライターのニック(ベン・アフレック)とエイミー(ロザムンド・パイク)は幸せに満ちた結婚生活を送っていたが、結婚5年目の朝、エイミーが突然失踪し、自宅のキッチンから大量の血痕が発見された事から、警察はアリバイが不自然なニックに疑いをかけ捜査を進める。一方メディアも事件を興味本位に追い、やがてニックの秘密や理想的にみえた結婚生活のほころびが明らかになり、ニックは全米からエイミー殺害疑惑の目を向けられて行く…。
さすが、いくつもの不気味なミステリー犯罪映画の秀作を撮っているフィンチャー監督である。冒頭から、幸福そうな夫婦の結婚5年目の記念日だというのに、灰色の空、不安な空気が漂っている。
キッチンに大量の血痕を拭き取った後が見つかった事から、警察はニックによる殺人を疑う。エイミーは作家である母の児童書、「完璧なエイミー」のモデルとして有名な存在であり、一方でニックが、若い女と浮気をしていた事がやがて発覚するに至り、警察だけでなく、マスコミや一般市民も次第にニック犯人説に傾いて行く。
日本でも、和歌山砒素カレー事件など、マスコミが特定の人物を犯人と名指しし、世論もそれに傾いて行く事例がいくつもある。
果たして、ニックは真犯人なのか、犯人は別にいるのか、エイミーは本当に殺されたのか…謎を孕んだまま物語は中盤を迎える。
(以下ネタバレとなります、未見の方は注意)
映画は中盤に至って、突然、エイミーの視点となる。
ミステリーなので詳しくは書かないが、表向き幸福そうであっても、エイミーは心に闇を抱えていて、鬱屈が溜まっていた事が分かって来る。
夫婦生活とは、お互いの心の中は本当は理解し合えていないものなのかも知れない。
ここで、「完璧なエイミー」という児童書のタイトルが伏線としての意味を帯びて来る。
“完璧”がいつしかプレッシャーとなって心を覆い隠していたのかも知れない。
エイミーが何故あのような行動を取ったかは、映画は明確に描いていない。おそらくは、結婚5年目を迎え、結婚生活とは何かと息苦しいものである事を認識し、かつ「完璧なエイミー」を演じ続ける事に疲れ、自分をリセットして新しい別の人生を歩んでみたいと思うようになったのだろう。
ただ、夫への復讐かと言えばそれほど根深いものではないようだ。なにしろ宝探しゲームのような紙切れを3箇所に置いていったくらいだから、ちょっとイタズラして困らせてやれ、みたいな感覚もあったかも知れない。
それにしても、中盤で早々とトリックのネタばらしをしてしまって、これから終盤までどう繋ぐのかな、と思っていたら、さらなる急展開が待っていた。
近づいてきた男女に金を巻き上げられた事で、エイミーの計画が大きく狂ってしまい、同じ頃、テレビで切実に自分の身を案じてくれているニックを見た事もあって、こうなったら夫の元に戻るしかない、さてどういう理由をつけたら、警察もマスコミも納得するのか…
エイミーが思いついた、その手段は、なんと幼なじみで今もエイミーの事を思っているコリンズ(ニール・パトリック・ハリス)を利用する事。
ここから後の展開は、さすがはフィンチャー。エイミーによる周到な偽装と、血みどろの惨劇が待っていた。
考えたら、夫の元に戻るだけの為に、そこまでするのか、という疑問も沸くが、目的の為に、男を振り回し、利用する、女というもののコワさ、したたかさを極端にまで強調するにはこのぐらいの描写も必要かも知れない。
女は魔物である。この原作と、映画用の脚本を書いたのがギリアン・フリンという女性であるのもまた凄い。かなわないな、と思ってしまう。
人一人(正当防衛に見せてるとは言え)殺しているのに、警察の追及が甘い等、やや問題点もあるが、テーマにそってさまざまな不安、まがまがしさを多重的に積み重ねるフィンチャーらしい演出は相変わらず見事だし、目をつぶってもいいだろう。
ロザムンド・パイクが素晴らしい。久しぶりに登場した、悪女でありながら、魅力的な輝きを放つヒロイン像を見事に演じている。
それを受けて、モヤモヤを抱えながらも、この女には逆らえない、と達観したかのような表情を見せるベン・アフレックもいい。このキャスティングも成功の一因だろう。
2時間29分という長尺を、まったく飽きさせないフィンチャー演出が堪能出来る、ミステリーの秀作である。 (採点=★★★★☆)
(で、お楽しみはココからである)
中盤で、失踪した女の視点に変わって、トリックをバラしてしまう、という展開、映画ファンなら、多分ヒッチコックの傑作ミステリー「めまい」(1958)を思い出した人も多いだろう。
「めまい」でも、真ん中辺りで女(キム・ノヴァク)の視点でトリックをバラしている。それだけでなく、物語も、女が、自分を消すためのトリックを使い、自分が死んだ事にして別の女として生きていた、という話で、この展開も本作とそっくりである。
公開当時は、途中でバラすのはミステリーとして邪道、とかいろいろ言われたが、今では映画史上の傑作として評価が定まっている。
そう言えば、本作のロザムンド・パイクも、この作品のキム・ノヴァクと同じ金髪だった。金髪はヒッチコック・ヒロインの共通アイテムである。
また、ラスト間際、血だらけのエイミーがニックと入ったシャワー室で血を洗い流すシーン、血が足元に流れ、排水溝に吸い込まれて行くカットが、ヒッチコックの「サイコ」の有名なシャワー・ルーム・シーンを連想させたりもする。
とまあ、いろいろヒッチコック作品を思わせるシーンが出て来る。原作者もおそらく「めまい」は意識しての事だろうが、シャワー・シーンは多分フィンチャーらしいオマージュだろう。
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コメント
怖い映画でした。
ベン・アフレックの割と何も考えていない様な柄が役に会ってました。
しかしロザムンド・パイクの演技、強烈ですね。
そしてなんともいえないラスト。後味は悪いですが見せる映画でした。
確かにフィンチャー、ヒッチコック作品は意識していると思いました。
投稿: きさ | 2015年1月 2日 (金) 10:21
◆きささん
あけましておめでとうございます。
いつもコメントありがとうございます。今年もよろしく。
ベン・アフレックの表情がピッタリでしたね。妻がいなくなってるのに、美女と並んで「はいニッコリ」とカメラマンに言われてニッコリしてしまうトホホぶりには笑いました。ホント、何も考えていない(笑)。
投稿: Kei(管理人) | 2015年1月 2日 (金) 13:59
そうでしたか。ヒッチコックへのオマージュだったのですね。
そう言われると、ひたひたと迫る恐怖の種類は、ジャンルとしてはそちらのジャンルに入るような気がします。
参考になります。
投稿: ここなつ | 2015年2月 4日 (水) 13:07
◆ここなつさん
コメントありがとうございます。
ヒッチ・ファンなので、サスペンス映画見るとヒッチ・オマージュ探してしまうもので(笑)。
エイミーが突然コリンズを切り裂くシーンは、ヒッチ作品(特に「サイコ」)のショック演出を思い出してゾッとしましたね。
投稿: Kei(管理人) | 2015年2月15日 (日) 20:22