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2014年12月21日 (日)

「0.5ミリ」

05miri2013年・日本/ゼロ・ピクチュア
配給:彩プロ
監督:安藤桃子
原作:安藤桃子
脚本:安藤桃子
撮影:灰原隆裕
エグゼクティブプロデューサー:奥田瑛二
プロデューサー:長澤佳也

さすらいの介護ヘルパーが行く先々で巻き起こす出来事を描いた不思議な味わいのヒューマン・コメディ。原作・脚本・監督は俳優・奥田瑛二の長女の安藤桃子。原作は自身の介護経験から着想を得て書き下ろしたものだという。主演は監督の実妹・安藤サクラ。共演に柄本明、坂田利夫、草笛光子、津川雅彦ら。

介護ヘルパーの山岸サワ(安藤サクラ)は、派遣先の家でトラブルに巻き込まれ、家も金も仕事も全てを失ってしまう。人生の崖っぷちに立たされたサワは、訳ありの老人を見つけては、弱みに付け込んで押しかけヘルパーとなり、老人たちの身の回りの世話を買って出る。最初は迷惑がっていた老人たちだが、やがてサワとの心の触れあいに喜びを見出して行く。…

テーマは老人介護、上映時間はなんと3時間16分!。こりゃあシンドイ映画かな、途中で眠ってしまわないかな、と観る前はかなり危惧したのだが…。

なんとまあ、とても爽快で明るくて、3時間余まったく退屈せずに楽しめた。長尺なのに、ダレる所がほとんどないというのもスゴい事である。これは本年の日本映画では、ベスト3内に入れたい傑作である。
  

“老人介護”をテーマとした映画が最近増えている。昨年も「愛、アムール」という作品があったが、秀作であるのは認めるけれど、どうも重苦しくて見るのが辛かった。日本の「ペコロスの母に会いに行く」は森崎東監督らしく明るくてまだ救いがあったけれど。

いずれも、介護する身内の人間が主人公である。テーマとしては当然そうなる。

だが、本作はガラっと視点を変えて、身内ではないけれど介護のプロであるヘルパーを主人公にして、このヒロイン・サワが行く先々で出会う老人たちとのふれ合いや奇妙な同居生活を通して、今の日本における老人問題を深く抉った力作に仕上げている。

テーマとしては深刻なはずなのだが、このヒロインはヘルパーという職業をこなしているだけだから、当然介護相手の老人とは身内でもなく何の繋がりもない。世話が終ればまた次の介護先を探しせばいいだけである。その点、身内を介護する家族たちよりは気分的に気は楽である。

ところが、冒頭のエピソードで、サワは派遣会社をクビになり、仕事と住む所を同時に失い、あげくに電車にコートを置き忘れた為に当座の生活資金さえも失ってしまう。

こうして、一旦どん底に堕ちたサワが、そこから持ち前の天衣無縫の楽天性とたくましさと生活力を武器に這い上がって行く姿が、痛快に描かれている。

老人介護というテーマをベースにしながらも、本作は、重苦しさとは無縁の、カラッと明るくて楽しいアドベンチャー・ロードムービーであり、痛快なヒーロー・エンタティンメントなのである(キャッチコピーにも、“ハードボイルド人情ドラマ”とある)。

登場する4人の老人たちのキャラクターも、一人一人がそれぞれ個性的でうまく描き分けられている。

最初の老人・昭三(織本順吉)は、寝たきりで、先行きももう永くはない。昭三の娘から、冥途の土産に、一晩添寝してくれと頼まれるが、その晩ボヤ騒ぎを起して職を失うきっかけとなる。
この老人の場合は、「愛、アムール」と同じく、家族に負担をかけている典型的な重度介護老人なのだが、あくまでサワが旅に出るきっかけとしての位置付けでしかない。ただ、死の淵にあっても女性の体に執着する辺りが、おかしくも哀しい人間の性(さが)を象徴的に示している。

そして、旅に出て最初に出会うのが、カラオケボックスをホテルと勘違いする、ややボケが始まっている老人康夫(井上竜夫)。
康夫と一緒に、一晩のカラオケを付き合ってあげたサワに、康夫は感謝し、礼の1万円と一緒にコートをプレゼントする。

これで味をしめたサワは、ワケ有りの老人を捕まえて押しかけヘルパーとなる事を考え付く。

3人目は、ストレス発散の目的で駐輪場に置いてある自転車を千枚通しでパンクさせていた茂(坂田利夫)。
サワは、警察にチクると脅して無理矢理茂の家に上がりこむ。
最初はサワを邪魔に思っていた茂も、おいしい料理を作ってくれたり、投資詐欺に引っかかりそうになった所を体を張って守ってくれたサワに、やがて感謝するようになり、礼として希少な名車・いすゞ117クーペをプレゼントして老人ホームに入って行く。

エピソードごとに、サワと老人との心の触れ合い度が増加して行き、また老人からもらうものも高価になって行くのが興味深い(それと反比例して老人のボケ度が低下して行くのも面白い)。

そして4人目は、女子高生写真集を万引きしようとした元教師の義男(津川雅彦)。
これも茂と同様、弱みに付け込んで押しかけヘルパーとなるのだが、この家では義男の妻(草笛光子)が認知症で寝たきりで、通いのヘルパーを雇っている。義男は、仕事がないにも係わらず、勉強会で教えていると称して毎日家を出て、どこかのベンチに座り込んで時間を潰している。
彼もまた、いつしかサワの魅力に惹かれて行く。

老人たちからすれば、サワは、ある日フラリと目の前に現れて、過去も、身内の影もまったく見せない、謎めいた、不思議な魅力を持った女である。
ある意味では彼女は、孤独で空虚な老人の心を充たし、癒してくれる、天使のような存在なのかも知れない。

やがて義男も認知症を発症し、元海軍軍人であった彼はサワに、戦争の空しさ、馬鹿らしさをを訥々と語りかける。延々7分にも及ぶこのシーンは圧巻である。
前の2人に倣って言えば、サワがこの老人からプレゼントされたものは、生きている事の意味であり、人に刻まれた歴史の重さ、大切さなのだろう。
よく考えれば、終戦当時海軍将校だったら、現在なら90歳を超えていないとおかしいのだが、そんな事はどうでもよくなる。

今、高齢の老人たちは、戦中、戦後の混乱期を必死で生きて来た人たちばかりである。
戦後の復興を支え、やがて日本は驚異的な経済発展を遂げ、世界2位の経済大国まで昇り詰めた。
バブル崩壊もあったけれど、ともかく焦土と化した戦後の日本を、ここまで豊かな国にしたのはまぎれもなく老人たちである。
生まれた時から携帯を始め何でも身の回りにあり、戦争の忌まわしさを知らずに育った若者たちは、老人たちの心の叫びに、真摯に耳を傾けるべきなのだ。

そして最後のエピソード。ここは最初のエピソードと繋がる、意外な秘密があるので詳細は書かない。
一言で言うなら、これから未来を生きて行く若者へのエールである。

老人たちから、さまざまな事を学んだサワは、この若者と一緒に、いすゞ117クーペを駆って、新たな旅立ちを開始するのである。

これで思い出すのが、クリント・イーストウッド監督・主演の「グラン・トリノ」である。
老人コワルスキー(イーストウッド)は、モン族の若者タオに、人生において大切な事を教え、自分の愛車グラン・トリノをプレゼントし、壮絶な死を遂げる。

そしてラストで、若者タオはグラン・トリノに乗って旅立って行く

本作でのヴィンテージ・カー、いすゞ117クーペは、まさにサワたちにとってのグラン・トリノなのだろう(坂田利夫はイーストウッドじゃないけれど(笑))。

安藤サクラが素晴らしい。このユニークなキャラクターを絶妙に演じている。
日本映画には稀な、ズルさ、ふてぶてしさ、生きるバイタリティを全身で表現している。そして時には可愛らしい表情も垣間見せる。
観客は、こんな調子のいいヒロインに、最初は呆れ、やがてはいつの間にか親近感を覚え、頑張れと応援したくなる。
こういう俳優は探してもなかなか見つからないだろう。彼女なしではこの映画は成功しなかったかも知れない。姉である安藤桃子監督だからこそ、彼女の魅力を最大限に引き出せたと言えるだろう。

宿無し、金無しの一匹狼のようなサワが、老人の家に押しかけ、宿を得る代わりに老人の身の回りの世話をやく。
そして用がなくなれば、また次の介護相手を探して渡り歩く。
それはまるで一宿一飯の恩義に預り、旅から旅へと渡り歩く渡世人を思わせたりもする。
そう言えば、最初にカラオケの相手をした康夫からプレゼントされ、以後いつも着ている大きなコートは、渡世人の道中合羽のようにも見えて来る(注1)

他の役者もみんないい。津川雅彦もいいが、茂老人を演じた坂田利夫がまたいい。ヘンコだが憎めない老人を絶妙に演じている。これからも映画に出て欲しいと願う。

現代日本が抱えるさまざまな問題…老人介護、家族の断絶、老人を狙う詐欺、孤独を抱える人々、いじめ、そして世界で今も続く戦争…
そうした諸問題を巧みに絡めながらも、本作は、人間が生きることの意味、人間同士が、どうやってコニュニケートして生きて行くべきなのか(「0,5ミリ」とは、肌が触れずに接近出来るギリギリの距離だそうだ)を問いかけて行く。これは素敵な人間賛歌のドラマであり、人間喜劇なのである。     (採点=★★★★★

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(注1)
映画評論家の上野昂志氏も批評で、「安藤サクラは現代では希少な、映画女優における任侠の血脈を受け継いでいるのではないかと思う」と書いている(キネ旬12月下旬号)

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コメント

昨年度日本インターネット映画大賞に投票頂きましてありがとうございます。今年は20日より投票を開始しました。一部改正しましたので概要(http://bit.ly/1x6OlzL)を読んで頂きまして締切の1月22日までに投票のほどよろしくお願い致します。

投稿: 日本インターネット映画大賞運営委員会 | 2014年12月26日 (金) 00:33

> こういう俳優は探してもなかなか見つからないだろう。彼女なしではこの映画は成功しなかったかも知れない。

タラレバの話で失礼させていただくのなら、樹木希林が中年くらいだったら、こういう役に似合ってたかもしれないなあ、などと思いました。ただ、安藤サクラの年で、これが成立するってのは凄いかもしれない。

投稿: ふじき78 | 2015年1月22日 (木) 23:52

◆ふじき78さん
樹木希林さんね。中年と言うより、もっと若い時で、まだ悠木千帆という芸名だった頃(もう知らない人の方が多いでしょうね(笑))なら適役かも。
しかし安藤サクラの凄い所は、決して美人じゃないのに時々、とても可愛く見える瞬間がある点でしょうね。これは希林さんでも難しいかもです。

投稿: Kei(管理人) | 2015年1月23日 (金) 00:28

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