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2015年1月25日 (日)

「滝を見にいく」

Takiwominiiku2014年・日本
配給:松竹ブロードキャスティング
監督:沖田修一
脚本:沖田修一
撮影:芦澤明子
製作:井田寛、前田直典、小笠原高志、重村博文
企画:深田誠剛

山の中で迷子になってしまった7人のおばちゃんたちが繰り広げるサバイバルを描いたヒューマン・コメディ。監督は「南極料理人」「キツツキと雨」「横道世之介」と独特のトボけた味わいのコメディを作って来た沖田修一。主演はオーディションで選ばれた、演技経験のない一般人を含む7人の女性たち。第27回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門でスペシャルメンションを受賞。

温泉付き紅葉と幻の大滝見学ツアーに参加した7人のおばちゃんたちが、ガイド(黒田大輔)に案内され滝を目指して山道を進んでいた。ところが頼りないガイドが先を見に行ったきり戻ってこなくなってしまう。携帯の電波も届かない山中に取り残されたおばちゃんたちは、食料も寝床もないサバイバル生活を送るハメになり…。

沖田修一監督作品は、原作のある「横道世之介」は別として、「南極料理人」「キツツキと雨」と、どれも平凡な人間たちが、些細なトラブルを力を合わせて乗り越え、人間同士の絆を深めて行く、というタイプの作品が多い。そしてどことなくまったりとした、トボけた空気感が漂っている辺りも共通している。

で、沖田監督のオリジナル脚本による本作にも、まさにそうした空気が充満している。

主人公たちは、山奥の温泉と滝見物ツアーに参加した、中年から老齢までの7人の女性たち。途中から辺鄙な山道を歩き、ガイドは地図を見ながらウロウロしたりと何とも頼りない。女たちは自分勝手に寄り道したりお喋りに夢中になったりと、てんでバラバラ。

ガイドは、道を探しに行ったきり、なかなか帰って来ない。シビレを切らしたおばちゃんたちは二手に別れて探しに行くが、案の定迷子になってしまう。

一種の遭難なのだが、雪山でもなく、険しい崖や斜面があるわけでもなく、標高が高いわけでもない。夜になっても極端に冷え込む事もなさそうだ。そうした、あまり危機感のないユルユルな状況も、いかにも沖田監督作らしい所である。

迷子になった7人が、中年のおばちゃんたちである点も重要だ。これが若いギャルだったら反目しあったり自分勝手に行動したりで、サバイバルには不適当だろうし、男性だったらトゲトゲしくなったり、イライラが昂じて殴り合いの喧嘩になったりするだろう。

中には口が荒っぽくなる者もいるが、多くは人生経験も豊かでコミュニケーション能力もあるおばちゃんたちは、こうした難局でもあわてず騒がず、知恵を出し合って生き抜く逞しさとバイタリティがある。トゲトゲしくなりかけても、雰囲気の柔らかい老婦人の存在が場の空気を和らげてくれる。

やがて彼女たちは、木の実など食糧になるものを拾い集め、焚き火を囲み、古い歌を合唱し(歌う歌が「恋の奴隷」というのがいかにもだ)、枯れ葉を集めて寝床を拵え、一夜を明かす。まるでキャンプか修学旅行のように。

やがては草の蔓をいっせーのせで引っ張り合うゲームを始めたり、大縄跳びをやったり、心は少女時代に戻って行くかのようである。

さまざまな苦労を重ねて生きて来て、中年、あるいは老年に至って、人生に疲れかけたおばちゃんたちにとって、この一夜のサバイバルは、忘れかけた、純真だった少女時代に帰る、かけがえのない至福の時であったに違いない。

そして、人は一人では生きて行けない。困難な状況の中で、仲間意識を高め、力を合わせ、励ましあって生きる事がどんなに大切か、平凡な日常生活の中では決して得られなかったであろう体験を経て、彼女たちはその事を学んで行くのである。

そして最後に見つけた幻の滝の風景に、彼女たちはこの上ない満足感を味わう。それは、小さな冒険の旅の果てに到達した桃源郷のようでもある。
旅行会社が組んだ、型にはまったツアーよりも、何倍も、この旅は一生、心に残る思い出となるだろう。

 

おばちゃんたちを演じた人たちがとてもいい。名のある役者は一人もおらず、40歳以上、という条件でオーディションで集められた7人は、劇団経験のある者もいるが大半は素人である。だが経歴を見ると、幼い頃から芝居に興味を持っていたり、役者になりたかったが諸事情で断念したという人もいる。
そうした人たちは、本作に出演する事で、その夢を実現した事になる。そのうれしさ、高揚感が演技に反映している気がする。おばちゃんたちがとても楽しそうだから。
見ているこちらも、心がとても温かくなって来る。

沖田監督は、彼女たちの実生活の経歴を聞き取り、それをベースにキャラクター設定を行い脚本化したという。公式ページを見ると、一人ひとりの辿って来た人生が実にこまかく丁寧に設定されているのに驚く。

彼女たちの会話がいかにもおばちゃん的で、女性特有のリアリティが感じられ、男性である沖田監督にしてはよく女性の感情を的確に描いているなと感心したが、そうしたリサーチがあったと聞いて納得した。さすがである。

また、芦澤明子カメラマン(カメラウーマン?)による、秋の紅葉が美しい山の風景も見どころである。

欲を言えば、途中で雨に降られたり、猿とかイノシシとかの動物に遭遇したりとかの、一難去ってまた一難、というアクシデントがあってもいいのでは、とか思ったりもしたが、見終わって振り返れば、そんな余計なものはなくて正解だったかも知れない。
これは物語よりも、ほんわかとした、独特の空気感を持つ沖田ワールドにどっぷりと浸り、満喫していたい作品なのだから。     (採点=★★★★☆

 

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蛇足)
ところで希望。次回本作のパート2を作るなら、その際には是非、関西おばちゃん版の「滝を見にいく2」を作って欲しいな(笑)。ガラッと雰囲気は変わるだろうが。

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コメント

> おばちゃんたちは、こうした難局でもあわてず騒がず、知恵を出し合って生き抜く逞しさとバイタリティがある。

こんなおばちゃんだけ集めたメンツでリメイクしてもらいたい映画「十二人の行かれるおばちゃん達」。助からん、どう考えても被告は助からん。

投稿: ふじき78 | 2015年2月 3日 (火) 00:16

◆ふじき78さん
いろんなバリエーションが考えられますなあ。
乗った船が遭難して無人島に漂着する「15人おばちゃん漂流記」なんかもいいですね(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2015年2月 4日 (水) 00:56

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