「トラッシュ! この街が輝く日まで」
2014年・イギリス/ユニヴァーサル=ワーキング・タイトル
配給:東宝東和
原題:Trash
監督:スティーブン・ダルドリー
原作:アンディ・ムリガン
脚本:リチャード・カーティス
製作:ティム・ビーバン、エリック・フェルナー、クリス・サイキエル
製作総指揮:フェルナンド・メイレレス
ブラジルのリオデジャネイロを舞台に、ゴミ拾いをして生活している少年たちが拾った財布が巻き起こす、勇気と冒険のドラマ。監督は「リトル・ダンサー」「愛を読むひと」のスティーブン・ダルドリー。脚本は昨年の佳作「アバウト・タイム 愛おしい時間について」を監督したリチャード・カーティス。共演は「地獄の黙示録」が懐かしいマーティン・シーンに「ドラゴン・タトゥーの女」のルーニー・マーラ。製作総指揮が「シティ・オブ・ゴッド」のフェルナンド・メイレレスである点も要チェックである。
ブラジル・リオデジャネイロ郊外──ゴミを拾って生計を立てているラファエル(リックソン・テベス)、ガルド(エデュアルド・ルイス)、ラット(ガブリエル・ウェインスタイン)たち3人の少年は、ある日ゴミの山からお金やIDカード等が入った財布を見つける。警察が必死でその財布を捜している事を知ったラファエルたちは、これが只の財布でないと気付き、中にあったさまざまなアイテムを手がかりに、警察の追跡をかいくぐり、知恵を振り絞って隠された真実を探し求めて行く…。
冒頭、震えながら拳銃を構える少年の姿が登場する。まるで本作の製作総指揮を務めるフェルナンド・メイレレスが監督した、やはりブラジルの少年たちを主人公にしたバイオレンス・ドラマ「シティ・オブ・ゴッド」の冒頭とそっくりである。やっぱりあんな殺伐としたバイオレンス・アクションなのかな、とつい構えてしまうが、監督が「リトル・ダンサー」他、繊細なヒューマン・ドラマで知られるスティーブン・ダルドリー、脚本が「ラブ・アクチュアリー」や、監督作としては「パイレーツ・ロック」や「アバウト・タイム
愛おしい時間について」がある、こちらもハートフルなコメディが得意のリチャード・カーティス。
はてさて、なんとも不思議な組合せのトリオが集結しているこの作品、どんな展開になるのかな、と興味津々で画面に対峙した。
で、観終わっての感想。…多少メイレレスらしい、ゴミの山を漁る少年たちに、残酷な拷問シーンもあったりはするが、少年たちの生き生きとした躍動ぶりはまさにダルドリーの本領、そして最後は、これはカーティスらしい爽やかな幕切れ…と、3人のそれぞれの良さがうまくミックスされ、楽しい、スリリングな快作に仕上がっていた。
(以下ネタバレあり、注意)
ラファエルたちが拾った財布には、お金以外にIDカード、少女の写真、動物が描かれたロトのカード、カレンダー、そしてコインロッカーのカギ、とそれぞれに意味ありげなアイテムが入っており、警察が必死で探す様子を見た少年たちは、これらのアイテムに重大な秘密が隠されている事を感じ取る。
特に一人の刑事は、ラファエルを拷問し、あわや殺す寸前までに追い込む。だがこれで逆に刑事たちへの怒りと反逆心に目覚めたラファエルたちは、3人で力を合わせ、財布に秘められた謎を解き明かすべく行動を開始するのである。
結論から言えば、前述のアイテムは、財布の持ち主が隠した、組織の莫大な資金と、組織が賄賂を集めた帳簿(つまりは財宝)の隠し場所を示した暗号が仕込まれていたのである。
と来れば、これはまるで、少年たちが海賊の隠した宝物を探すという物語の「グーニーズ」ブラジル版ではないか。
暗号が結構、本格探偵小説に出てくるような、込み入ったものである事からも、これは財宝探し冒険ミステリーと言った方が作品内容に近いと言える。
学校も満足に行っていないと思われる少年たちが、そんなに簡単に暗号を解けるのか、とか、都合よく話が進み過ぎる、とか、突っ込めばいくらでも突っ込みどころがある作品である。
しかしこれは、何も持たない弱い者たちが、力を合わせて強い者に立ち向かい勝利するという、ファンタジーであり寓話である、と割り切ればなかなか楽しめる作品である。
(これは、「パイレーツ・ロック」や「アバウト・タイム~」等のファンタスティックなお話を作って来たリチャード・カーティスの持ち味だろう)
純真な子供対、強欲な大人、貧しい者たち対、富める者…という分かり易い図式からして寓話的である。
原作では架空の地域だった舞台を、ブラジルに変えた事も成功しており、多くの民が貧困にあえぐ一方で、一握りの政治家や警察権力が私腹を肥やすというブラジル社会の現実をざっくりと抉り取り、貧しくて非力な子供たちが、強欲で腐敗した権力者たちに立ち向かい、最後に大勝利を収める爽快なファンタジーにまとめられている。
悪者たちから奪い取った大量の金を惜しげもなく空にバラ撒き、どこか南方の美しい海岸で自由を満喫する少年たちの姿をとらえたラストからして、まるで夢のような至福の光景である。
現実では、世界のあちこちで、貧困と格差にあえぐ子供たちが数多くいる。
そんな子供たちに、“夢をあきらめるな、正しい事に向かって、夢を追い求めよう”と訴えかける、これは世界の子供たちに向けた素敵な寓話なのである。
(採点=★★★★☆)
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コメント
評判いいので見ました。
警察組織が主人公らの命を狙うあたりははらはらさせられます。
展開が主人公たちにうまく行き過ぎるという所はありますが、話の運びがうまいので見せますね。
オーディションで選ばれた主人公らの3人の少年がいいですね。
ちょっと深読みすれば最後子供たちは実は死んで天国にいるとも読めますが。
投稿: きさ | 2015年1月31日 (土) 09:36
◆きささん
>深読みすれば最後子供たちは実は死んで天国にいるとも読めますが。
確かに、あちこちに天使のイメージも配置されてますし、ラストはパラダイスの光景ですが、死んじゃったらハッピーエンドになりませんね。
爽やかなエンディングで観客もいい気分になってますから、深読みはしない方が…。
投稿: Kei(管理人) | 2015年2月15日 (日) 20:04