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2015年2月18日 (水)

「激戦 ハート・オブ・ファイト」

Unbeatable2013年・香港
配給:カルチュア・パブリッシャーズ、ブロードメディア・スタジオ
原題:激戦  (英題)Unbeatable
監督:ダンテ・ラム
原案:ダンテ・ラム、キャンディ・リョン
脚本:ジャック・ン、フォン・チーフォン、ダンテ・ラム
製作:キャンディ・リョン
製作総指揮:ユー・ドン、ジェフリー・チャン

人生につまずいた3人の男女が、総合格闘技MMAの過酷な戦いを通して人生の新たな一歩を踏み出して行く、アクション映画でありながらも心温まる感動も詰まったヒューマン・ドラマの佳作。監督は「ツインズ・エフェクト」「密告・者」のダンテ・ラム。主演は「エグザイル 絆」、それに「密告・者」にも出演していたニック・チョンと「コールド・ウォー 香港警察 二つの正義」のエディ・ポン。香港版アカデミー賞「香港電影金像奨」では作品賞をはじめ11部門にノミネートされ、ニック・チョンが主演男優賞を受賞した。また2013年の第26回東京国際映画祭でも話題を集めた。

かつては2度もボクシングチャンピオンになったファイ(ニック・チョン)は、八百長に手を出して多額の借金を作ってしまい、ヤクザの高利貸しから逃げ回り、落ちぶれた今はマカオのジムで下働きの日々。彼はシングルマザー、クワン(メイ・ティン)の家に間借りしているが、彼女はかつて幼い息子を溺死させてしまった悲しみから精神が不安定なまま。そんな母を一人娘のシウタン(クリスタル・リー)が健気に支えていた。一方、大富豪の家に生まれ何不自由なく育ったスーチー(エディ・ポン)は、父の会社が倒産したため無一文に転落、自暴自棄となった父の面倒を見ながら働く苦悶の日々を送っていた。そんな絶望の状況から抜けだすべく、格闘技で賞金を稼ごうとジムを訪れたスーチーは、そこで働くファイが元チャンピオンだと知り、彼に自分のトレーナーになってほしいと頼み込む。彼の熱意に心動かされたファイは、共に人生の再起を賭け、戦いに挑むこととなる…。

ごく小規模の公開ながら、結構評判がいいので観に行った。そして感動した。胸が熱くなった。これは映画ファンなら観ておくべき秀作である。

(以下ネタバレあり)

3組の男女が主人公である。元チャンピオンだったファイも、父が大富豪だったスーチーも、一時は絶頂期にあった。しかしそれぞれ絶頂から転落し、今は人生のどん底にある。そして何とかそこから抜け出そうと足掻いている。一方、ファイが間借りする事となった家の主クワンは、夫に見捨てられ、酒浸りになり、その為、幼い息子が風呂場で溺れた時も気付かず死なせてしまう。この事で彼女はさらにナーヴァスになり、ちょっとした事でパニックに陥ってしまうようになる。クワンもまた、どん底から這い上がれないままなのだ。救いは、10歳の娘シウタンが明るく、けなげに母に寄り添っている事である。この娘役を演じたクリスタル・リーがとてもいい(彼女はこの作品で、上海国際映画祭の主演女優賞に輝いている)。

スーチーは、金持ちだった時でもムダな浪費はせず、バックパックで世界を巡る旅をしていたように、御曹司にしては珍しく人間性はまともである。建設現場で黙々と働き、破産した事で自堕落になり、酒を飲んでは酔いつぶれる父を見捨てずに面倒を見ている。いい息子である。
彼が、格闘技MMAに参戦する事を決めたのも、金が欲しいだけではなく、懸命に戦う姿を父に見せ、立ち直ってもらいたいからである。

スーチーのトレーナー依頼を最初は拒絶していたファイも、やがてスーチーの心意気にうたれ、彼のMMA挑戦をサポートする事になる。厳しい猛特訓にも耐え、スーチーはめきめきとファイターとしての力をつけて行く。
そしてファイ自身も、スーチーを鍛え上げる事で、過去を悔い改め、元チャンピオンとしてのプライド、矜持を少しづつ回復して行くのである。
そんな頑張るファイの姿を見て、クワン親娘も徐々にファイに心を開いて行き、笑顔が戻って来る。父のいないシウタンは、ファイに擬似的な父親像を見、3人は心の絆を深めて行く。

スーチーはファイの特訓の甲斐もあってMMAで勝利を重ねて行く。この試合のシーンも迫力満点、手に汗を握る。
その姿をテレビで見たスーチーの父は、いつしか彼に声援を送るようになる。父もまた、少しづつ、どん底から這い上がる勇気を取り戻して行くのである。

ベタだけれど、この展開には胸が熱くなる。

だが、物事はすべて良い方向に向かうとは限らない。
チャンピオンとの決勝戦で、スーチーは完膚なきまでにボロボロにされ敗れ去る。
さらにファイはテレビに映った姿を高利貸したちに見つけられ、クワンの家に踏み込まれてシウタンが大怪我を負ってしまう。クワンはまたも半狂乱となり、施設に送られてしまう。スーチーも瀕死の重症を負い、病院送りとなる。またもやどん底に逆戻りだ。

どうするべきか。悩んだ末にファイが取った決断…。それは、ファイ自身がMMAに出場する事だった。

もう40歳も半ばの年齢。体力的にも相当きつい。無謀とさえ思える。
それでも彼はチャレンジする。過酷なトレーニングを重ね、身体を鍛え上げて行く。不器用な生き方だけれど、真っ直ぐに前を向いて。

失うものはもう何もない。自身の、負け犬の人生にケリをつける為に、重症の床にあるスーチーを励ます為に、クワン親娘に立ち直ってもらう為に…。それぞれの人生の再起を賭けて、ファイはリングに立ち向かうのである。

もうこの展開には泣けた。ボロボロ泣いた。後はもう怒涛の勢いである。ファイが闘うシーンは迫力満点、年齢を感じさせないファイトに心から声援を送った。

そしてラスト、お約束だが爽やかなハッピーエンド。ファイは自分に賭けた賭け金で借金も返し、3人はそれぞれに新たな人生を歩み出して行く。
人生は、不屈の意志を持てば、何度でもやり直す事は出来るのである。

エンドロールの背景に、ファイ、クワン、シウタンの3人が並んで微笑む写真が数枚。それは家族のようにも見える。ここでもじんわりと涙が溢れた。

  

ニック・チョンはこの映画の為に、体脂肪率を5%まで落としたそうである。体脂肪率5%…て、この間観た「ミルカ」の主人公と一緒じゃないか(笑)。
あるいは、安藤サクラが短期間で身体を絞り上げた「百円の恋」をも思い出す。
この3本の映画は、志において共通するものがある。たまたま同時期に公開されたのも何かの縁だろう。

題名通り、熱いハートがこもった、これは素敵な作品である。

残念ながら劇場数も少なく、小さな配給会社ゆえ宣伝も目立たず、大きな話題にもならないままであるが、映画ファンなら観ておくべき秀作である。特に、ミッキー・ローク主演「レスラー」や、「百円の恋」に感動した人は是非ご覧になる事をお奨めする。  
(採点=★★★★☆

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(付記)
劇中、サイモンとガーファンクルが歌って大ヒットした、ある名曲が女性歌手のカバーで効果的に使われている。映画を観ればすぐに分かる。特に映画ファンなら。
日本語の訳詞も字幕で出てくるので、じっくり読んで欲しい。結構哲学的だが、主人公たちの心情に意外とマッチしているようにも思える。

で、サイモンとガーファンクルと言えば、もう1曲、年老いたボクシング選手の人生と悲哀を歌った「ボクサー」という曲があり、私はこれも大好きである。

ちょっとだけ日本語訳のサワリを紹介すると、

「俺は以前より年をとった。これからも時間を積み重ねていくだろう。
 色んな事があってさ、人生って変わっていくもんだろ?
 いつまでもずっと同じなんて事は無いはずだろ?
 …
 彼は、寂れた拳闘場のリングに上った。その日の暮らしのために
 彼を叩きのめそうとする、敵のグローブをじっと見つめながら…」

 
(全文はこちらを参照)

こちらの方が、元ボクシング・チャンピオンだったファイの心情をより表している気がする。
あれでなく、この曲を使って欲しかったな。まあ使ったら使ったで、あざとい気もするが(笑)。

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コメント

見てる人が少ないので(私のブログのレビュー立ち上げが遅いのは棚上げにするとして)、ただ言いたい。

ああ、面白かった。
こんな面白い映画、みんな、見ればいいのに。

投稿: ふじき78 | 2015年2月27日 (金) 08:53

◆ふじき78さん
確かに見てる人少ないですね。ブログに書いてる人も少ないし。
昔は東宝東和とかヘラルドとかの輸入配給業者が小粒だけれど面白い映画を海外で見つけて来て、大ヒットさせる、というケースが結構あったのですが(宣伝もうまかったし)、最近はそういう意欲が業者にも薄れて来てる気がしますね。DVDがそこそこ売れればなんとか元は取れる、という現状も劇場公開に力が入らない要因になってるのかも知れません。困った事です。

投稿: Kei(管理人) | 2015年3月 2日 (月) 00:18

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