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2015年3月26日 (木)

「女神は二度微笑む」

Megamihanidohohoemu2012年・インド
配給ブロードウェイ
原題:Kahaani
監督:スジョイ・ゴーシュ
脚本:スジョイ・ゴーシュ
プロデューサー:スジョイ・ゴーシュ
音楽:ビシャール=シェーカル

失踪した夫探しのためにインドの大都市コルカタにやってきたヒロインが、謎の事件に巻き込まれて行くインド製サスペンス・ミステリー。脚本・監督は「アラジン 不思議なランプと魔人リングマスター」のスジョイ・ゴーシュ。主演は2013年・第66回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門審査員も務めた女優のビディヤ・バラン。インドのアカデミー賞と呼ばれるフィルムフェア賞で監督賞、主演女優賞ほか5部門を受賞。ハリウッドでのリメイクも決定している。

2年前、地下鉄で毒ガスによる無差別テロが発生したインド・コルカタ空港に、美しい妊婦ヴィディヤ(ヴィディヤー・バーラン)が降り立つ。ロンドンからやって来た彼女の目的は、1ヶ月前にこの地で行方不明になった夫アルナブを捜すこと。だが、宿泊先にも勤務先にも夫がいたことを証明する記録はなく、彼女は途方に暮れる。それでもヴィディヤは、ちょっと頼りないが誠実な警察官ラナ(パラムブラト・チャテルジー)の協力を得て夫の捜索を続け、やがて夫に瓜ふたつの風貌を持つミラン・ダムジという危険人物の存在が浮上する。それを知った国家情報局のエージェントも動き出すが、ヴィディヤへの協力者が何者かに次々と殺され、事態はますます混迷の度を深めて行く…。

インド映画はここ数年、歌と踊りのマサラ・ムービーに代表される陽性エンタティンメント一辺倒から脱却し、次々と新しいジャンルを開拓している。今年1月には実話に基づく国家間紛争の悲劇をも取り込んだスポーツ・ドラマ「ミルカ」に感動したばかりなのに、今度は謎解きサスペンス・ミステリーの登場である。ハラハラ・ドキドキの緊迫したストーリー、まったく予想がつかない緩急自在の展開、そして驚愕の結末。インド映画の常識を覆す、一級のミステリーの秀作である。

(以下ネタバレあり、注意!)

冒頭は、地下鉄での毒ガスによる無差別テロ。観た日がちょうどオウム地下鉄サリン事件から20年目の日(3/20)というのも不思議な偶然である。

それから2年後、インド・コルカタ(旧名カルカッタ)国際空港に、臨月の大きなお腹をした美しい女性ヴィディヤが降り立つ。1ヶ月前、この地で消息不明となった夫を探しに来たのだが、奇妙な事に宿泊先のホテルにも、勤務先のIT会社にも、まったく夫の存在した記録が見つからないのだ。これはいったいどういう事なのか。夫は妻に嘘をついていたのか、それともこれな何かの陰謀なのか。
それでも気丈な彼女は、成り行きで一緒に探す事になった気のいい警察官ラナと共に夫の消息を尋ね歩く。

大きなお腹を抱えたヒロインが、あちこち動き回るだけでもハラハラするのに、カギを握る人物を平然と殺し回る不気味な殺し屋が登場し、命を狙われそうになったりと、もう緊張のし通し。国家情報機関も絡んで、物語はサスペンスフルに展開する。

ヒッチコックやコーエン兄弟監督作品のミステリーをお手本にしたらしき、謎また謎、危機また危機の展開はなかなか見ごたえがある。

特にいいのは、コルカタの街の雑然とした雰囲気を巧みに生かしたロケや、クライマックスとなる“ドゥルガー・プージャー”の祭りを、うまく物語に絡めている点である。この祭りは、ヒンドゥー教の戦いの女神ドゥルガーを称えるもので、ヴィディヤの、まさに女神の如き勇気ある奮闘ぶりとも呼応している。そういう意味で邦題がなかなか秀逸。ネタバレにはならず、しかし観終わって、なるほどと膝を打ちたくなるいい邦題である。

残念ながら、謎が隠されたミステリーなので、これ以上は内容には触れない。が、とにかくあっと驚く結末が待っているので、ミステリー映画ファンには必見の秀作とだけ言っておく。正直、いろんなミステリー映画を観て来た私自身もこれには口あんぐりとなった。是非ご自分の目で見ていただきたい。

 
一言だけ言っておくと、本作は“身近にいた人物がある時から突然失踪し、主人公が探し回るも、誰もが「そんな人物は最初からいなかった」と証言し、主人公が途方に暮れてしまう”という謎を基本コンセプトとしたミステリーである。

この手の作品は、ヒッチコック監督の「バルカン超特急」を嚆矢に、いくつも作られている。ミステリー映画の王道ともいうべきパターンである。

だが、ヒッチコック作品の成功を真似て作られた後発作品は、どれも一長一短、無理な展開が目立って、ほとんど失敗に終わっている。

例えば、ジュリアン・ムーア主演の「フォーガットン」(2004年・ジョセフ・ルーベン監督)。事故で亡くした息子の存在を示す物証がある時からすべて消えてしまい、周囲の誰もが「息子なんていなかった」と証言する。果たして息子は存在したのか、それとも主人公の妄想の産物か、という出だしで、面白そうだと思ったのに、後半ではトンデモ展開となってなんじゃこれ、というトホホな作品だった。

ジョディ・フォスター主演の「フライトプラン」 (2005・ロベルト・シュヴェンケ監督)は、搭乗した飛行機内で娘が失踪する、「バルカン超特急」の飛行機版。これも出だしはいいのに、設定にアラが目立ち、後半は突然女性版「ダイ・ハード」となる珍品。脚本が弱い。

やや変形バージョンなのが、リーアム・ニーソン主演「アンノウン」 (2011・ジャウマ・コレット=セラ監督)。交通事故から生還後、自分自身の存在が否定され、妻からさえも「知らない」と言われてしまう男の話。これはまあまあだったが、後半はやはり強引な展開。

まあ要するに、設定は面白いのだが、全員が口裏を合わせる、なんて事はどうしても無理が生じてしまい説得力に欠ける、という事である。

本作は、その難題を見事クリアしている。なるほど、そういう手があったか、と目からウロコであった。アイデア賞ものである。ハリウッドがいち早くリメイク権を買ったのも納得である。ああ、言いたいけれどネタバレになるので言えないのがツラい(笑)。

だけど、リメイクはいいけれど、本作を先に観てしまうと、トリックを知ってしまってるだけにリメイク版を観る興味が半減(いやそれ以下)してしまうのが残念。痛し痒しである。

ともあれ、インド映画特有の歌も踊りも封印し、本格ミステリーとして見事成功した本作を観ると、インド映画はどんどん進化している事をまざまざと実感する。インド映画恐るべし。   (採点=★★★★☆

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コメント

このリメイク版を見る興味が薄れてしまうに立ち向かい、そうそう上手くもいかずに失敗してしまったのが「オールド・ボーイ」ですね。まあ、比較して見るのが面白いからいいんですけど。

投稿: ふじき78 | 2015年3月27日 (金) 23:25

◆ふじき78さん
「オールド・ボーイ」はオリジナルが韓国製なので、アメリカの観客はほとんど知らないだろうという計算もあったかも知れませんね。
本作もインド製ですからアメリカでは未公開か、公開されても小規模だったかも知れません。
まあ、リメイクネタをアジアまで探しまくる暇があるなら、オリジナル・アイデアを考案したらどうだ、と言いたくなりますねぇ(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2015年3月31日 (火) 00:46

お勧めと言う事で今日見ました。
面白かったですね。
結末にはたしかにびっくり。
邦題は秀逸ですね。
個人的には「アンノウン」の後半の強引な展開、大好きなんですが、、

投稿: きさ | 2015年4月 1日 (水) 22:24

◆きささん
面白かったですか。お奨めした甲斐がありましたね。
「アンノウン」。作品評にも書きましたが、ツッコミどころはあるものの、私もこれは楽しみました。
で、同作品評を読んでたら、きささんが初めて当ブログにお越しになったのがこの作品だったのですね。長いお付き合いありがとうございます。今後も面白い作品を見つけたら紹介して行きますので、これからもご贔屓のほど、よろしくお願いいたします。

投稿: Kei(管理人) | 2015年4月 2日 (木) 00:19

こういうサスペンスが効いていてしかも鮮やかなどんでん返しのある映画は大好きです。
堀さんの所からおじゃまして以前から読ませていただいていたのですが、おもわずコメントさせていただいたのが「アンノウン」でした。
「アンノウン」が面白かったのでセラ監督とニーソンコンビの「フライト・ゲーム」はかなり期待していたのですが、もう一つでした。
地上波で放送されたのでセラ監督の「エスター」を見たのですが、これは面白かったですね。

投稿: きさ | 2015年4月 2日 (木) 23:57

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