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2015年4月27日 (月)

「ソロモンの偽証 前篇・事件/後編・裁判」

Solomonnogishou1
2015年・日本
配給:松竹
監督:成島 出
原作:宮部みゆき
脚本:真辺克彦
撮影:藤澤順一

宮部みゆき原作の単行本で3部、文庫本で6冊に及ぶ超巨編「ソロモンの偽証」の前後編2部作による映画化作品。監督は「八日目の蝉」「ふしぎな岬の物語」の成島出。脚本は「映画 深夜食堂」の真辺克彦。

記録的な大雪が降ったクリスマスの朝、ある中学校の校庭で2年生の男子生徒・柏木卓也(望月歩)が遺体となって発見される。転落死したと見られ、学校と警察は自殺と断定するが、後日、彼は不良生徒によって殺されたとする告発状が学校等に届き、マスコミも嗅ぎつけて騒動となる。そんな中、刑事を父に持つ生徒・藤野涼子(藤野涼子)は自分たちで柏木卓也の死の真相を突き止めようと動きはじめ、学校内裁判が開廷される。果たして卓也は殺されたのか、自殺とすればその原因は…。生徒たちによる真相究明活動は大人たちも巻き込んで、やがて意外な真実が明らかになって行く…。

前編、後編別々に公開されたが、まとめて1本の作品と思うので、批評も一緒に行う事にする。

原作はもの凄く膨大で、連載期間が9年にも及んだ労作である。原作通りに映画化すれば7~8時間はかかってしまうだろうし、そんな訳にもいかないだろうから、2部作・4時間半というのはまずまずの長さだろう。ただその為にはどうしても原作のどこかを削らざるを得ない。場合によっては映画的な再構成も考えられる。脚本家の力量の見せどころである。

前編を観た限りでは、スリリングかつテンポいい演出で、面白い作品に仕上がっていた。謎の死体。他殺か自殺か事故死か。そこに殺人を告発する謎の文書も登場し、保身に走る学校側、興味本位のマスコミ、そんな大人たちの姿に反撥した中学生たちが、前代未聞の学校内裁判を敢行する。果たして真実は…と、もうワクワクする展開。さすが傑作「八日目の蝉」の成島出監督作品である。若い新人俳優たちの演技も見事。これは後編、どこまで面白くなるか、大いに期待が盛り上がったのだが…。

(以下ネタバレになります。注意)

うーん、正直、後編は期待はずれ。
前編が、まさにミステリー仕立てでさまざまな謎が張り巡らされていただけに、後編でも謎が次々明らかになり、あっと驚く結末が待っているミステリー的展開を期待したのだが。

裁判のポイントは、大出俊次(清水尋也)が柏木卓也を殺害したのか否か、殺害現場を目撃したという三宅樹理(石井杏奈)の告発状は真実なのか、虚偽なのか、という点なのだが、前編を観ただけで、大出は殺してはいないだろうし、大出に苛められた樹理が腹いせに嘘の告発状を書いたのだろう、という辺りが既に読めてしまった。
それでは余りに味もそっけもないし、もう少し捻りが欲しい所である。だが結局、予想した通りの結論に着地してしまう。拍子抜けである。

無論ミステリー要素がないわけではない。事件当日、卓也の家にかかって来た数回の電話の主は誰なのか、という点である。
が、これも途中でほぼ予想がついてしまう。前編を観ていても、一番謎めいているのが、他校生徒である神原和彦(板垣瑞生)だったし、なぜ彼が自分とは全く係わりのない大出を無実だと断定し、自発的に大出の弁護人を引き受けたのか…考えられる理由はただ一つ、“神原が事件の真相を知っている”からに他ならない。で、結末はやっぱり予想通りであった。

それなら、わざわざ大勢の生徒、教師を巻き込んだ学校内裁判を開くという回りくどい事をする必要はない。卓也の通夜に現れた神原が、卓也の両親や生徒たちの前で、彼が見た卓也の最期をそのまま告白すればよかったのである。それだったらマスコミに騒がれる事も、浅井松子が死ぬ事もなかっただろう(もっともそれでは原作は第一部の前半で終ってしまう事になるが(笑))。気が弱い人間だったら打ち明けそびれた、という理由もつけられるが、神原が毅然とした態度を見せているだけにそれも可能性は薄い。

もう一つ、ミスリードなのは、学校や警察が早々と卓也の死は自殺だと断定した事で、涼子たち中学生が、「そんなに簡単に自殺と決め付けていいのか、真相は別にあるのではないか」と疑問を抱き、そこから学校内裁判に至るわけなのだが、こうした展開で強く観客が意識するのは、臭いものにフタをしてうやむやにしてしまう、学校の事なかれ主義、大して捜査もせずに自殺と決め付ける警察のおざなりさ、興味本位のマスコミ、といった、醜い大人たちへの痛烈な批判であり、そんな大人たちに反旗を翻す形での、学校内裁判が進行する後編では、さぞかし簡単に結論を出した大人たちを断罪し、打ちのめす痛快な結末が待っているものと期待してしまう。

ところが後編では、学校や警察が下した結論は結局正しかったし、あまつさえ前編ではダメな大人の典型のように見えた津崎前校長(小日向文世)が、後編では一転、本当は生徒たちの事を考えていた、いい先生だった、という風に描かれていたのにはガッカリ。

柏木卓也についても、昨今のいじめ自殺事件などを踏まえて、なぜ自殺する生徒がいるのか、その心の悩み、葛藤、そうした悲劇を生む要因、等を深く掘り下げたなら、もっと見ごたえあるドラマになっただろう。あれでは卓也は、ただの自分勝手な根性曲りにしかみえない。

原作では、柏木卓也にしろ神原和彦にしろ、彼らの日常生活や、彼らに影響を与える周辺人物等が丁寧に描写され、卓也が次第にデスペレートな心情に至るまでの心の変遷がきめ細かく描かれていたのに、ほとんどが端折られていた。裁判でも、もっと多くの証人が登場し、かなり多面的に事件の背景が描かれていたのに、それらもカットされ、ただ駆け足でダイジェストしたような印象を受ける。

時間が足りないのであれば、あまり重要でないエピソードは思い切ってバッサリとカットしても良かったのでは。特に森内先生(黒木華)と気味悪い隣人・垣内美奈絵(市川実和子)とのトラブルなんかは無くてもまったく問題ないと思われる。

宮部みゆきの原作が評判となったのは、“中学生が模擬裁判を実行してしまう”という着想のユニークさもあるけれど、ミステリーとしての要素は抑え気味で、どちらかと言えば、個々の登場人物について、隅々に至るまで入念な掘り下げを行い、じっくりと時間をかけてその内面にせまった人間ドラマとしての語り口のうまさにある。
だから、物語の表面だけをサラッとなぞっただけではダメなのである。この原作の良さを生かす為には、むしろ前半をこそ駆け足で描き、裁判の開始までで前編を終え、後編は裁判シーンをほとんど原作そのままで描くくらいの大胆な再構成を行うべきではなかったか(過去のシーンは、証言の中で回想として描けばかなり時間が節約出来るのでは)。真辺克彦の脚色は、あの長い長編をよく纏めた方だとは思うが、やはり物足りない。

ついでながら、原作ではかなり重要なポジションを占めていた野田健一(前田航基)が、映画ではほとんど目立たなかったのもちょっと残念。弁護人補佐として彼なりに奮闘し、成長して行く姿が微笑ましかっただけに、あの描き方では気の毒だ。そもそも原作では、20年後に教師として中学校に赴任して来るのは、藤野涼子ではなく野田健一なのだから。

…とまあ難点ばかり挙げたが、オーディションで選ばれた中学生を演じた新人俳優たちの演技はとても良かったし、芸達者を揃えた大人役の俳優たちもみな巧演。特に藤野涼子を演じた役と同名の藤野涼子と、神原和彦を演じた板垣瑞生は今後大きく伸びる予感がする。原作を意識しなければ、十分楽しめる作品に仕上がっている。
希望するなら、本作はテレビで2時間×5回連続程度のミニシリーズで原作に忠実に描けば、かなり見応えのある力作になると思う。どこかの局でやってくれないだろうか。

そんなわけで、採点すれば前編は(★★★★☆)、後編は(★★★☆)、前後編総合評価で(★★★★)。

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コメント

原作を読んでいるので展開は知っているのですが、一気に見ました。
演出もいいですが、俳優がみないいです。特に生徒たちを演じる俳優たちが見事です。
ただ、さすがに膨大な原作をまとめるラストあたりはちょっと駆け足になったかな。
私の感想も同感で後半もうすこし時間があればという所です。
映画が面白かったという人には原作も読んで欲しいですね。

投稿: きさ | 2015年4月29日 (水) 08:07

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