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2015年4月12日 (日)

「陽だまりハウスでマラソンを」

Hidamarihouse2013年・ドイツ
配給:アルバトロス・フィルム
原題:Sein letztes Rennen (英題:Back on Track)
監督:キリアン・リートホーフ
脚本:キリアン・リートホーフ、マルク・ブルーバウム
製作:ボリス・シェーンフェルダー

老人ホームに入居した元五輪マラソン金メダリストの老人が、70歳を超えてからフルマラソンに再挑戦する姿を描く感動の人間ドラマ。主演は、ドイツの国民的喜劇俳優ディーター・ハラーフォルデン。本作で78歳の史上最高齢でドイツ映画祭最優秀主演男優賞を受賞した。脚本・監督はこれが長編デビュー作となるキリアン・リートホーフ。

1956年のメルボルン・オリンピックでマラソンの金メダルを獲得した伝説のランナー、パウル・アヴァホフ(ディーター・ハラーフォルデン)。70歳をとっくに超えた今も元気なつもりだが、最愛の妻マーゴ(タチア・ザイプト)の病気をきっかけに、娘ビルギット(ハイケ・マカッシュ)の奨めもあり、夫婦で老人ホームに入居する。だが、規則だらけの不自由な生活、他愛ないリハビリ遊戯等に我慢ならないパウルは、やがて一人で施設の周囲を走り始め、ついにはベルリン・マラソンに挑戦すると宣言する。最初はバカにしていた他の入居者たちも、次第にパウルを応援するようになるが、規律の乱れを危惧した施設の職員たちは、この無謀な挑戦をなんとか止めさせようとして…。

またまた、老人ホームや介護施設で暮らす老人たちを描いた作品の登場である。これまで、スペイン発の「しわ」、中国発の「グオさんの仮装大賞」、イギリス発「アンコール!!」、日本発「ペコロスの母に会いに行く」などを当ブログでも取り上げて来たが、今度はドイツ発である。老人問題はもはや世界共通の切実な課題になっているのだろう。
私自身も老親の介護に直面している事もあり、こうした作品には特に関心を持って観ている。

以前は、「愛、アムール」にしろ、「しわ」にしろ、深刻で暗くなる話が多かったのだが、最近は「グオさんの仮装大賞」では、老人ホームで暮らす老人たちが、人気テレビ番組「仮装大賞」に出場しようと奮闘したり、「アンコール!!」ではやはり老人たちが国際合唱コンクールのオーディションに挑戦する、といった具合に、老人たちが前向きに、何か目的を持ち、それに向かって奮闘努力するという、ポジティブで明るいストーリーの作品が増えて来ている。   

本作も同様に、老人がフルマラソンに挑戦するという、ちょっとムチャとも思えるお話なのだが、主人公・パウルがかつてはオリンピックのマラソン選手として、金メダルも獲った経験があるという点がミソである。そのくらいのキャリアがないと、高齢の老人がフルマラソンに挑戦するのは厳しいだろう。 

(以下ネタバレあり)

パウルはもう80歳に手の届く高齢だが(注)、他の老人よりは元気なようで、まだ当分は誰の世話にもならずに生きて行くつもりである。
だが、妻のマーゴが転倒負傷し、これまでもしばしば転倒していた事から、心配になった娘のビルギットは二人を老人ホームに入所させる。

だが、ホームでの暮らしは退屈で、レクリエーションは子供だましの人形作り、療法士の指導も秩序を重視し、一律に型に嵌めようとするものばかり。
こんな事では元気な人間まで気力を失ってしまう…。そう考えたパウルは、自らの健康の為もあって、ホームの庭でランニングを開始する。そして、目標を8週間後に開催されるベルリン・マラソンで完走する事に定め、過酷なトレーニングに挑む。マーゴもタイムを計る等、彼に協力する。

最初は奇異の目で観ていたホームの老人たちも、やがて少しづつパウルを応援し始める。

ホーム側の制止、マーゴの不慮の死など、さまざまな曲折はあったけれども、それらを乗り越え、パウルは遂にベルリン・マラソン出場を果たす。このシーンは実際にハラーフォルデン自身がベルリン・マラソンに参加し、それをカメラが追ったという。さすが、臨場感と迫力に満ちて圧巻である。

パウルが遅れながらも、競技場内に現れるシーンは感動的で胸が詰まる。たぶん彼が最後のランナーなのだろう、パウルがたった一人、競技場に姿を見せると、ほぼ満員の観衆がスタンディング・オベーションで彼を迎え入れる。

ほぼ予想通りの展開ではあるが、じんわりと心に沁みた。ただ、パウルが心臓マヒを起こさないか、ちょっとハラハラもさせられたが(笑)。
 

このパウルのチャレンジは、いろんな問題点を提起している。まず、老人であっても、それぞれ考え方も体力もみんな異なるはずで、一律に抑え付けるやり方は間違いである。個人個人に合った対応を考えるべきだろう。
それと、老人ホームの位置付けを、家族も、ホームの職員も、そして入居者自身も、“やがて訪れるをただ待つだけの場所”と決め付けていないだろうか。
ホームに入居していようとも、生きる喜び、生きる楽しみ、を探し出す事も大事ではないか。最期の時まで、人生を豊かに生きる事こそ、人間にとって大切な目的ではないだろうか
この映画は、その事を真摯に訴えているのである。

監督デビュー作ながら、今の時代に向き合った素敵な映画を作り上げたキリアン・リートホーフ監督の頑張りにも敬意を表したい。これから老境に差しかかる人や、高齢老人を抱えた人には、是非観ていただきたいと思う。   (採点=★★★★

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(注)

映画に描かれた時代を製作年度と同じ2013年とすると、メルボルン・オリンピックは1956年だから57年前。当時20歳としてもパウルは77歳である。なお主演のディーター・ハラーフォルデンも撮影当時78歳だった。

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