「群盗」
1862年、朝鮮王朝末期。悪徳官僚や富豪貴族らが世を支配し、民衆は搾取と弾圧に苦しんでいた。中でも、羅州の大富豪の庶子で朝鮮最高の武官出身であるチョ・ユン(カン・ドンウォン)は三南地方で最高の権力者となり、良民たちを収奪していた。そんな時代、牛や豚の屠殺業でかろうじて糊口をしのいでいた貧しいトルムチ(ハ・ジョンウ)は、ユンから頼まれたある仕事を引き受けた事から、家族を失うという悲劇に見舞われる。そんな彼を助けたのは、腐敗した政権の打倒を掲げる智異山の盗賊団チュソルだった。トルムチは彼らの仲間となり、名前を変え、ユンへの復讐を誓って戦いに身を投じる…。
痛快な、娯楽アクション映画のエッセンスがぎっしり詰まった快作である。お話はアウトローたちが民衆の味方となって強い権力者に立ち向かうという王道ストーリーで、主人公たちも、最底辺から這い上がり、盗賊団の仲間として敵と壮絶なバトルを繰り広げるハ・ジョンウは理想的なヒーローだし、敵役の権力者チョ・ユンを演じたカン・ドンウォンは水もしたたる美形でカッコいいし、しかも憎たらしいほど強い。脇の盗賊団仲間もみな個性的。アクション演出も爽快で、最後までダレる事なく楽しめた。韓国で大ヒットを記録したのも当然だろう。
冒頭から、どこかで聞いたようなマカロニ・ウエスタン・タッチの音楽が流れるが、これがなんとまさしくマカロニ・ウエスタン「怒りの荒野」のテーマ曲。タイトルバックもマカロニ調で、ストーリーも前述のように、メキシコ革命を舞台としたマカロニ・ウエスタンの佳作群「ガンマン大連合」(1970・監督:セルジオ・コルブッチ)や「夕陽のギャングたち」(1971・監督:セルジオ・レオーネ)、さらには題名にも“群盗”が入った「群盗荒野を裂く」(1966・監督:ダミアノ・ダミアーニ)等々を思い起こさせる内容である。
つまりは韓国版、マカロニ・ウエスタン、と言ったほうが早いだろう。
その他にも、敵の権力者チョ・ユンの華麗な、舞うような戦いぶりは香港製のカンフー・アクション、中国製の「グリーン・デスティニー」(2000・監督:アン・リー)等を思わせるし、ラストの竹薮での決闘は、中国の黒澤明と言われた巨匠、キン・フー監督の「侠女」(1971)へのオマージュだろう。
ラストの、群盗団が馬に乗り夕陽に向かって走って行くシーンも、まさにウエスタン調でカッコいい。西部劇(特にイタリア製)ファンなら間違いなく楽しめるだろう。
こんな具合に、古今東西の西部劇、チャンバラ劇、武侠映画からいただいた(あるいはオマージュを捧げた)アクションを見るだけでも楽しいが、本作は単なるアクションに留まらず、敵役のチョ・ユンが、私生児ゆえに義父から疎んじられ、その怒りと哀しみが権力欲へと向かうプロセスも丁寧に描かれていて(カン・ドンウォン好演)、敵を単純な悪役にしていない所がいいし、群盗団の中に、腕っ節の強いのもいれば、物静かでチームの精神的支柱のような坊主(「七人の侍」の宮口精二的役割)もいたりと、登場人物がそれぞれきめ細かく描き分けられているのがいい。脚本が見事である。
監督の
ユン・ジョンビンは、26歳だった大学生時代に映画学科の卒業制作として監督した、軍隊の内幕を真正面から描いた「許されざるもの」(2005)で第59回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品され絶賛を浴びた俊英である。その後2012年に監督した「悪いやつら」では、深作欣二「仁義なき戦い」を思わせる、裏社会でのしあがって行く二人の男の野望と裏切りを描いて、これも面白かった。力のある若手監督が次々と台頭して来る韓国映画界の躍進ぶりは羨ましい限りである。
それにしても、こんなに面白い娯楽活劇映画が、ごくわずかのミニ・シアターであまり宣伝される事もなく、ひっそりと公開されるのは納得が行かない。宣伝して面白さが浸透すればヒットしただろうし、多くのアクション映画ファンの目にも留まっただろうに。残念である。 (採点=★★★★☆)
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コメント
こんなおもろい映画なのに、他にブログの記事、見かけた事ないよー(泣)
投稿: ふじき78 | 2015年6月22日 (月) 08:10
◆ふじき78さん
ほんと、探してもまったく見当たらないんですね。まあ公開規模が小っちゃ過ぎるし、ほとんど宣伝していない事もあるのでしょうが。
アクション映画ファンで、これを見逃したら後悔する事になるでしょう。まあ年末の各種ベストテンが楽しみです。「映画秘宝」あたりで上位に来るかも(笑)。
投稿: Kei(管理人) | 2015年6月23日 (火) 06:20