小説「フィルムノワール/黒色影片」
(あらすじ)神奈川県警の嘱託・二村永爾は、1本の映画フィルムの行方を追って、香港へ飛んだ。それは、ある殺し屋がモデルとなった、封印された映画だった。幻の黒色影片(フィルム・ノワール)を巡り、連続して起こる殺人事件。そして二村の前に現われる、気高き女優と、謎の映画プロデューサー。横浜、長春、香港と舞台は移り、複雑な過去と現在が交錯して行く。
上の表紙を見て、ピンと来る方なら間違いなく楽しめます。表紙を描いたのは、漫画家の江口寿史氏。表紙の原画が完成したのが、なんと発売日の2週間前だそうです。
あらすじを読んでも判る通り、スタイルとしてはチャンドラーのマーロウもの(「大いなる眠り」辺りか)に似たタッチですが、多彩な人物が入り組んで物語はめまぐるしく錯綜しますので、私も一度読んだだけではストーリーが掴みきれませんでした。
作品中には、'60年代日活映画に対する薀蓄、ゴダールやジャン・ピエール・メルヴィルなどへの言及、さらには戦前の満映(甘粕理事長も登場します)から、1960年代に香港に渡った映画人の話まで、映画に関する細かいネタが満載ですので、これらの映画や歴史に対するある程度の知識がないとちょっとシンドいかも知れません。
相当コアな映画ファン(特に「紅の流れ星」を中心とした日活映画ファン)向けの小説だと言えるでしょう。
矢作俊彦さんと言えば、日活アクション映画の大ファンで、ファン熱が嵩じて1984年には、日活アクション名場面アンソロジー映画「AGAIN
アゲイン」の構成・脚本・監督まで手がけてしまったくらいですから、こうした小説を書き上げるのも当然とは言えます。
同作は、年老いた殺し屋がかつて共演したライバルを捜し求めて彷徨する、その合間に旧作の名場面がモンタージュされるという構成で、その殺し屋を演じたのが宍戸錠。
そんなわけで、本作にも宍戸錠本人が、実名で登場します。結構重要な役で、主人公を助けたりします。錠さん主演の殺し屋映画を思わせるキザなセリフも楽しい。その他にも川地民夫とか、評論家の渡辺武信さんの名前まで出てきます。
そして「紅の流れ星」ファンにはたまらないエピソード(ヒントは回数券。これだけで分かった方には絶対お奨めです)がどっさり登場します。この映画が大好きな私にとっては涙が出るくらい楽しい小説でした。
ラスト間際、ある男[杉浦五郎]が主人公にかける次の言葉も泣かせます。無論、「紅の流れ星」中の名セリフのもじりです。
「あばよ。今度いい女に会ったら、すぐに寝るんだぜ」
書きたい事は他にもありますが、未読の方の為にこのくらいにしておきます。とにかくお奨めです。
うーん、「紅の流れ星」がまた見たくなった。
…て言うか、これ、是非映画化して欲しいものです。宍戸錠は無論本人出演で。
監督は、矢作俊彦さん、きっとやりたいだろうなぁ。ちょっと他に適任者が思い浮かばない。
(注1)
二村永爾シリーズは、1978年の「リンゴォ・キッドの休日」を皮切りに、1985年の「真夜中へもう一歩」、2004年「ロンググッドバイ」と続き、本作は前作から10年ぶりの再登場となる。1作目からは36年目となる長期シリーズである。
二村永爾シリーズ | |
「フィルムノワール/黒色影片」 |
「リンゴォ・キッドの休日」 |
「真夜中へもう一歩」 |
「「ロング・グッドバイ」 |
DVD 「紅の流れ星」 |
DVD 「AGAIN アゲイン」 |
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