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2015年5月 5日 (火)

「龍三と七人の子分たち」

Ryuuzouand7hoods2015年・日本/バンダイ=オフィス北野
配給:ワーナー・ブラザース、オフィス北野
監督:北野 武
脚本:北野 武
プロデューサー;森 昌行、吉田多喜男
撮影:柳島克己

引退したヤクザの元組長とその子分たちが、新興の犯罪集団成敗に乗り出す任侠コメディ。監督は「アウトレイジ」「アウトレイジ   ビヨンド」の北野武。主演は北野組初参加となる藤竜也。他、近藤正臣、中尾彬、桶浦勉、小野寺昭ら平均年齢72歳のベテラン俳優陣が顔をそろえる。

70歳になる高橋龍三(藤竜也)は、かつては“鬼の龍三”と呼ばれた元ヤクザ。しかし引退した今は、息子龍平(勝村政信)家族の家に同居し肩身の狭い思いをしていた。そんなある日、龍三はオレオレ詐欺に引っかかっり危うく騙されそうになる。そうした詐欺や悪徳商法で荒稼ぎする悪徳集団“京浜連合”の存在を知った龍三は、そいつらを成敗するべく、今は侘しい老後を送る昔の仲間7人を呼び集め、“一龍会”を結成して立ち上がる…。

北野武という人は、なんとも不思議な人である。映画作家としてはベネチア映画祭グランプリを獲り、世界から絶賛される巨匠となりながら、今もなお、お笑い芸人“ビートたけし”としての活動も継続している。

映画作家・北野武としては、シリアスでハードボイルドな作風で一貫し、ビートたけしとしては人を笑わせるコメディアンの道を突き進んでいる。まるで別の2つの人格が1人の人間の中に棲み着いているかのようである。

だが、時たま北野武監督作品の中に、“ビートたけし”的要素が紛れ込む場合があり、そんな作品は大抵失敗作になっている。ビートたけし名義で監督した「みんな~やってるか!」(1994)は盛大な失敗作だったし、主人公が売れっ子タレント・ビートたけしと、売れない無名時代の北野武に分裂した「TAKESHIS’」しかり、前半は面白かったのに、後半ビートたけし的要素がどんどん強くなって空中分解してしまった「監督・ばんざい!」しかり、どちらも中途半端な失敗作に終わってしまった。

北野武の中に棲む、この2つの人格は、どうやら融合させてはマズいようだ。それぞれが際立った強烈な個性であり、完成してしまっているから、互いがヘタに入り込む余地はないのである。

だが、映画作家・北野武としては、自らのルーツであるコメディを作りたいという意欲も抑えられないのだろう。「アウトレイジ」シリーズが成功し、この路線で安定的にやって行けるのに、本作で、これまで失敗して来た“笑い”のジャンルにあえてチャレンジした。その意欲は買いたい。果たしてどういう結果となったのか。

で、観終えての感想。
これまでのコメディ的作品は、どちらかと言うと、短いコントを脈絡なく並べただけの寄席芸みたいなもので、ストーリーとしての一貫性はないものばかりだった。
その点本作は、きちんとした起承転結のストーリーがあり、これまでのコメディ作品とは明らかに異なる。老人問題、詐欺の横行、食品問題といった社会的テーマも盛り込んで、笑わせながらも考えさせられる作品としてまとまっている。これまでの失敗の雪辱を果たした、一応は成功作と言えるのではないか。

成功の一因は、ストーリー自体が“元ヤクザで、今は堅気になった老人たちが、悪事を働く奴らを成敗すべく行動を起こし、最後に悪を退治する”という典型的な勧善懲悪ものである点で、そこに、“居場所もなく、くすぶった生活をしていた老人(たち)が、何か目的を持って、それに向かって邁進する”という、最近よく作られている老人映画パターン(「アンコール!!」「陽だまりハウスでマラソンを」等)も巧みに取り入れている所が面白い。

それに、主人公たちが元ヤクザという事もあるが、昔量産されていた任侠映画のパターンも巧みに取り入れている。

古いタイプのヤクザの前に、新興の暴力団が現れ、そのあくどいやり口(仲間の孫を誘拐しようとする)に怒った仲間の一人が単身殴り込んで殺され、その弔い合戦として最後に主人公たちが敵陣に殴り込んで勝利する
…という展開は、高倉健や鶴田浩二主演の東映任侠映画パターンそのままである。

さらに、リーダーが仲間を一人づつ集め、7人のチームを結成する、というのは「七人の侍」パターンでもある。
メンバーそれぞれが居合い抜き、早撃ち、カミソリ、五寸釘投げ、といった得意技を持っている辺りも「七人の侍」的である(というかその西部劇翻案「荒野の七人」にむしろ近い)。

こうして見ると北野武監督、相当いろんな映画を研究しているフシが伺える。これも成功の一因である。

そうした基本ラインがしっかりしているから、適度に笑い、ギャグ、ドタバタをまぶしても物語の骨格が揺らぐ事はない。最後まで安心して見ていられるのである。

主演の藤竜也が、さすが日活でヤクザ幹部やアウトロー役を多く演じて来ただけあって貫禄十分。それに近藤正臣がいい。永年、龍三の片腕として修羅場をくぐって来た、良き参謀であり相棒としての味が出ている。

…と、いい所ばかりを挙げて来たが、ちょっと残念な点もいくつかある。

部分的にギャグがすべってる箇所があるのである。

一例が、孫娘の誘拐話を聞いたはばかりのモキチが、単身敵のビルに潜り込み、トイレで、体を隠す場所を探すものの、どこにも隠れようがなくて断念するくだり。
多分多くの観客は何をしてるのか分からないだろう。これはモキチが現役時代、汲み取り式便所の便槽に隠れて、敵がしゃがんだ途端、下から刺すという必殺技を持っていたが、今は水洗便所になってるのでこの技が使えなかった、というオチなのだが、若い人など昔のトイレが汲み取り式だったなんて知らないだろうし、そもそも“はばかり”便所の別称という事を知ってる人がどれだけいるだろう。まあ、その事を知ってても、これは大して笑えない。

軍服というか特攻服を着ている神風のヤス(小野寺昭)が飛行機で特攻に向かうというのもどうかと思うが、なぜか海が見たくなって、しかも米軍空母を見つけて、そこに着艦するのはどういう意味なのだろう。全然笑いにもギャグにもなっていない。“神風”だから、米空母を見つけたらつい特攻してしまった…というわけでもなさそうだし。それでも笑えない。

モキチの遺体を組事務所に連れて行ったはいいが、敵の銃弾の盾にしたり、イチゾウの刀やヒデの投げた五寸釘が、手元狂ってモキチに刺さる、というくだりも、たけしらしいブラックなギャグを狙ったのだろうが、大切な仲間の遺体に対する扱いとしてはあんまりではないか。ギャグとしても笑えない。特に、仲間の仁義に厚いはずの彼らだから余計に。

 
要するに、コメディとしてのスタンスがあいまいなのである。勧善懲悪・人情喜劇であるなら、その線で一貫すべきだし、ブラックなナンセンス・コメディを狙うなら徹底してブラックな笑いで統一すべきである。

コメディというのは、難しいのである。脚本は北野武一人で書いているが、他の脚本家と共同で書く事も検討してはどうか。コメディの傑作を量産している山田洋次監督や鈴木則文監督は、本人自身も優れた脚本家であるが、必ず他の脚本家と共同でシナリオを書いている。一人よがりになってはいけないのである。

そうした難点はあるが、それでもこれまでの北野監督のコメディよりはずっと楽しめた。今後もコメディを作るなら、是非共同脚本で、さらに洗練された笑いを、と希望しておこう。   (採点=★★★★

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(で、お楽しみはココからだ)

Robinand7hoods本作のタイトルで連想したのが、1963年のアメリカ映画「七人の愚連隊」(ゴードン・ダグラス監督)。これは原題が"ROBIN AND THE SEVEN HOODS"といい、訳すれば「ロビンと7人の子分たち」といった所。無論有名な義賊、ロビンフッドを掛けているのだが、内容もギャングものだし、出演者もフランク・シナトラ、ディーン・マーティン、サミー・デイビスJr.と、いわゆる“シナトラ一家”総出演ものである。つまり普段もシナトラ親分に、子分たち取り巻きがいるのだが、これもたけし率いる“たけし軍団”と似ている気がする。いろんな点で本作との共通点は多い。

そして、本作を見て私が思い起こしたのが、東映ヤクザ映画の1本「博徒七人」(1966・小沢茂弘監督)。

Bakutoshichininこれは全員が身体障害者である7人のヤクザがチームを組んで、悪辣な敵ヤクザと対決するという、ヤクザ映画としては珍品に属する作品なのだが、プロットもそっくりなら、7人がそれぞれ、匕首居合、拳銃使い、吹き針、曹長刀の使い手、ナイフ投げの名人、鎖使いの達人…と特技を持っている所も似ている。リーダーの武器は匕首だし拳銃使いもいる。本作での仕込み杖のイチゾウ(座頭市のパロディ?)や点滴を受けている早撃ちのマックなんかも、ある意味身体障害者だ。

かなり映画を見ているたけしだから、これを参考にしている可能性はある。
ちなみにこの作品、身体障害者ばかり出て来る為、ソフト化されていない。
と言うか不可能。

なお、この作品の脚本家は笠原和夫氏である。言うまでもなく、「仁義なき戦い」等の大御所であるが、笠原和夫氏と言えば、「アウトレイジ ビヨンド」評にも書いたが、北野監督の「あの夏、いちばん静かな海。」をめぐっての因縁がある方である(詳細は同作品評参照)。

そういう点も含めて、「博徒七人」と本作とは何かと繋がりがある。偶然かも知れないが興味深い。

 

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コメント

勧善懲悪が「完全」じゃないのが気になりましたね。主人公が勝利したように見えずに終わってしまう。落語の下げみたいに、タイミングだけで終わってしまう感じ。

投稿: ふじき78 | 2015年5月13日 (水) 00:57

◆ふじき78さん
まあ確かに、ラストは喧嘩両成敗みたいで、龍三たちが全面的勝利を収めるオチじゃなかったのが消化不良でしたね。
もっとも、東映ヤクザ映画でも、高倉健が敵を倒した後、健サンも警察のお縄を頂戴してエンド、という結末が多かったので、それに倣った、とも読めますが。

投稿: Kei(管理人) | 2015年5月14日 (木) 00:55

久しぶりにブログ書いたのでトラックバック送りました。よろしくお願いします。

関係ない話すみません。

韓国映画「私の少女」を観てください。

今年のマイベストテン確実の傑作です。

新人監督ですが、日本の新人監督には逆立ちしてもこんなの撮れません。

投稿: タニプロ | 2015年5月28日 (木) 01:27

◆タニプロさん
「私の少女」昨日見た所です。傑作ですね。私もベストに入れる事になると思います。批評もそのうち書きます。
キム・セロン、「冬の小鳥」から注目してるのですが、大きくなりましたね。天才子役ですね。
韓国は次々凄い新人監督が出て来ますね。日本も新人は出ますが、デビュー作で衝撃を与えるようなケースはほとんどないですね。本作を見て、発奮していただきたいものです。

投稿: Kei(管理人) | 2015年5月29日 (金) 00:30

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