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2015年5月 3日 (日)

飛田東映、トビタシネマ閉館

少々旧聞に属する事になるのだが、
4月21日発行の「映画秘宝」誌6月号を読んでいたら、大阪・西成区の名画座(というか3番館)、飛田東映(邦画)トビタシネマ(洋画)が本年3月末で閉館していた事が載っていた。

若い頃はよく見に行ってたのだけれど、家からも勤務先からも遠い事もあって、ここ10年以上は足が遠ざかっていた。それでも、閉館と聞けば寂しい。事前に知っていれば、ラストショーに駆けつけていたかも知れない。残念である。

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ここ数年、大阪で名物名画館の閉館が相次いでいる。以前にも記事にしたが、タナベキネマ、天六ユウラク座(いずれも2012年3月)、千里セルシーシアター(2014年8月)、そして今回の飛田東映、トビタシネマ…。
  いずれも低料金で、昔の古い映画や、シネコンではかからないユニークな異色作を上映してくれ、特にビデオがなかった時代に、見逃した作品やもう一度見たい作品を上映してくれるので、ありがたい存在だった。

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飛田東映・トビタシネマは特に、料金の安さは名画館の中でも破格で、近くの新世界の映画館よりも安かった。閉館直前でも、通常800円、火曜・金曜は500円、シニアも500円という具合。しかも正月等では100円!となる日もあった。ラストショーの週も100円均一だったという。しかも毎回3本立だ。1本当りの単価は無茶苦茶安い事になる。

そして上映する作品も、おっそろしく古い、レアな作品を平然とかけてくれる。私が鮮明に記憶しているのは、飛田東映で、片岡千恵蔵主演の金田一耕助シリーズ「獄門島」(1949)を上映してくれた時。これは東映発足前の“東横映画”作品で、どこの名画座でも上映してなかった幻の作品である。たまたま上映ガイドで題名を見つけた時は我が目を疑った。
フィルムはボロボロで雨は降り、あちこちフィルム切れで飛びまくってたけれど、それでも面白かった。千恵蔵の金田一が背広姿で拳銃をぶっ放すのがおかしいけれど(笑)。

トビタシネマでは、「肉弾鬼中隊」のタイトルを見かけた事がある。都合で行けなかったけれど、まさかジョン・フォード監督の1934年作品(同年公開)?だったら凄い。今から考えたら、万難を排してでも行くべきだったなあ(笑)。

その他上映作品は、東映ヤクザ映画、「男はつらいよ」シリーズ、洋画ではロードショーもされなかったB級映画、アクション映画などが中心で、多くの作品はすり切れて雨降り状態、カラーも褪色が激しく、ひどいのになると赤一色のモノクロ作品かと思う物もあったりする。
まさにグラインドハウス状態だ(笑)。

客層は土地柄(釜ガ崎・愛燐地区近く)もあって客層も労務者、ホームレスが多かった。当然ガラも悪く、禁煙のはずなのにタバコの煙でもうもうとしていたり、酒を飲んでイビキをかいていたり、大声で怒鳴る客もいたり、食べ残しの弁当や空き缶があちこちに散らばってたり…、毎日オールナイトをやってるから、安い宿泊所代りにしている労務者もいるだろう。まあターミナルのシネコンでしか映画を見ない上品な観客なら、逃げ出したくなる環境ではある。

Tobitatouei5傑作なのは劇場の入り口に「館内における事故や衣類の汚れ等、一切の責任は負いません」との注意書きが掲示されている点(右)。そういう事態が常に起こりうる映画館だという事か(笑)。そう言えばスクリーンにコーヒーをぶち撒けたようなシミがあったねぇ。

それでも、ここの映画館には愛着がある。何より、昭和の香りがある。ガラは悪い反面、面白い所ではドッと笑い声が起きる。スクリーン上の寅さんや、健さん、文太に共感の掛け声もかかる。ヤクザ映画や「男はつらいよ」は、こういう環境でこそ、観るのにふさわしいと言えるかも知れない。
こういう映画館も、必要ではないかと私は思う。特に安い娯楽に飢えている観客にとっては。そんな映画館がどんどん無くなって行くのは寂しい。

 
閉館理由は、やはりデジタル化の波である。ここはずっとフィルム上映だけでやって来たのだが、現在は上映可能なフィルムが激減しているのだという。以前は倉庫にフィルムがあれば取り寄せ出来たのだが、なんと最近では保管コストがかかるので、片っ端からジャンク(廃棄)しているそうな。確かにフィルムは1巻が10分程度だから、2時間ものだと12巻。それらを何百、何千作品と保管しようとすれば大きな倉庫が要る。デジタル作品だとその何分の一のスペースで済む。もう日本では全国でも数館レベルに激減したフィルム上映館の為に、そこまでする事もない。効率を考えれば、保管に邪魔で、しかも傷みが激しいフィルムは、ジャンクした方が得策、という事になる。

上映出来るプリントが激減、かつ新しい作品はほとんどデジタル、となれば映画館を存続する為にはデジタル化するしかない。だがそれには1千万円以上の導入コストがかかる。弱小映画館にはとても採算が取れない。閉館しか道はない、という事になる。

だが、それでいいのだろうか。トビタだけの問題ではない。古い映画の中には、マイナー作品ゆえDVD化されていない作品も数多い。ジャンクしてしまったら、もう二度と見れなくなってしまうかも知れない。CSの映画専門チャンネルもあるけれど、それでもカバーしきれない作品もある。一例を挙げれば、身体障害者のヤクザばかり出てくる「博徒七人」(東映・小沢茂弘監督)はその内容ゆえDVD化もされておらず、CSでも(多分)放映されない。新世界やトビタのフィルム館でしか見れないのだ。
映画は文化遺産である。アナログ・レコードが最近人気を回復しているように、フィルム上映もまた必要な時代が来るかも知れない。ジャンクはストップして欲しいと願う。

飛田東映、トビタシネマがなくなって、これで大阪で古いフィルム作品を上映する映画館は、新世界の新世界東映くらいしかなくなった。このままではそこも危ないかも知れない。最後の牙城として、ここだけは何としても頑張って欲しい。

なお「映画秘宝」6月号には、名画座ルポとしてその新世界東映も特集されていた。というわけで、大阪の映画ファンはこの6月号は買い、であると宣伝しておこう。頼まれたわけではないけれどね。

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コメント

映画館がなくなるのはさみしいですね。
さすがに飛田東映、トビタシネマには行った事なかったですが。
関東でも昨年から今年にかけて名画座がいくつか閉館してしまいました。
あと新宿コマ近くのスクリーンの大きかった新宿ミラノが閉館したのも残念でした。

投稿: きさ | 2015年5月 4日 (月) 09:34

書き込み有難う御座いました。(レスは、当該記事のコメント欄に付けさせて貰いました。)

消防法の改正により、大枚を叩いて地下タンクを新しくしなくてはならなくなった事で、5年程前からガソリンスタンドがばたばたと潰れて行きました。デジタル化の波により、古くからの映画館(単館)が潰れて行くのも、同じ様な感じを受けますね。

投稿: giants-55 | 2015年5月 5日 (火) 01:51

◆きささん
>新宿コマ近くのスクリーンの大きかった新宿ミラノが閉館したのも残念でした。
確か座席数が1,000席を超えてた大劇場じゃなかったでしょうか。
大阪でも、1,000席を超える大劇場はかなり前になくなってしまいました。
名画座だけでなく、こうした特長のある劇場がなくなり、シネコンばかりになってしまうのも、味気ないですね。残念です。

◆giants-55さん
確かに、システムが変わった事で余分な投資が必要になり、それに耐えられなくて廃業するケースが多くなった気がしますね。
フィルム上映方式も、私は残しておくべきだと思ってます。フィルムは文化遺産として、業界または文化庁が保存の為に動いてくれたらと、切望してるのですが。フィルム供給さえ確保してくれれば、トビタシネマの存続も可能だったと思えますし…。でも難しいでしょうね。暗澹たる思いです。

投稿: Kei(管理人) | 2015年5月 7日 (木) 00:22

湘南から山形にUターンする前
「新橋文化」で「リベリオン」と
「クローサー」を妻と観ましたが
その「新橋文化」も昨年閉館です。
寂しい話題でもありますが
その時観た作品や館内の思い出を
しっかり心に留めておきたいですね。

投稿: ぱたた | 2015年5月 8日 (金) 13:26

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