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2015年6月29日 (月)

「極道大戦争」

Gokudohwars2015年・日本/日活=ハピネット、他
配給:日活
監督:三池崇史
脚本:山口義高
製作:由里敬三、藤岡修、久保忠佳、奥野敏聡
企画:千葉善紀

バンパイアのヤクザに噛みつかれた人間が次々とヤクザ化してしまうという荒唐無稽なアクション。「猫侍」の山口義高によるオリジナル脚本を、「神さまの言うとおり」「風に立つライオン」の三池崇史監督により映画化。主演は「DOG×POLICE 純白の絆」の市原隼人、「そして父になる」のリリー・フランキー、その他成海璃子、高島礼子、でんでん、渋川清彦など個性的な俳優が脇を固める。またインドネシア製アクション「ザ・レイド GOKUDO」等のヤヤン・ルヒアンが殺し屋役で出演しているのも見どころ。

敏感肌のチンピラ、影山亜喜良(市原隼人)は、神浦組の組長・神浦玄洋(リリー・フランキー)に憧れ極道の世界に入った。  ある日、町に謎の刺客たちが現れて神浦の命を狙い、死闘の果てに神浦は倒される。  死に際に神浦は影山の首筋に噛みつき「ヤクザ・ヴァンパイアとして生きろ」との言葉を残して絶命する。その血を受け継いで超人的能力を身につけた影山は、仲間を増やし、街中を巻き込んだ刺客たちとの新たな闘いに挑んで行く…。

うーん、これはどう評価すべきだろうか。
三池作品は好きだし、これまでもヤクザ映画やホラーの秀作を発表したり、「スキヤキウエスタン・ジャンゴ」のような西部劇オマージュ満載の楽しい快作を作った事もある三池の事だから、ひょっとしたらいろんなジャンルのパロディ、オマージュ溢れる楽しい作品なのかと期待したのだが。

(以下ネタバレあり)

ヤクザものとヴァンパイアものとをコラボした作品というアイデア自体は面白そうである。「極道大戦争」というタイトルからして、ヤクザ同士の血で血を洗う壮絶な抗争劇の中に、血を求めるヴァンパイアがまぎれ込んで大混乱となるハチャメチャ・コメディ・アクション・ホラーを期待してしまう。
どっちも血に飢えてる
し(笑)。

が、ヤクザ同士の抗争は、タイトル前の数分間だけで、以後敵対するヤクザはほとんど登場しなくなる。これでまず拍子抜け。

影山に噛まれた人間たちがみんなヤクザになる、というのは面白いのだが、そっから先に話が進まない。女子中生やナースがヤクザのまね事やってもちっとも面白くないし。で、いつの間にやらそうしたヤクザ・ヴァンパイヤたち、みんな消えてしまい、後は変な殺し屋たちと影山とのバトルが延々と続くだけ。

特に途中から最強の敵として登場する、[ゆるキャラ着ぐるみのKAERUくん]、・・・・・・・・・

絶句するしかない。これ、ヤクザともヴァンパイアとも、ぜんぜん関係ないでしょうが。おーい、話が繋がってないよ。…最後まで話す気力もなくなってしまう。

地下室で編み物やってるヤクザとか、唐突に登場するカッパとかも意味不明、結局全然話に絡まずに、単にチラッと出てきただけで消えてしまう。

カッパや、ラストの巨大KAERUなんかは、「大戦争」つながりで、同じ三池監督作品「妖怪大戦争」のパロディのつもりなんだろうか。それにしたってつまらないし笑えない。
女子中生が壷振ってて「どこの組のもんだ」と聞かれて「2年3組のもんです」というやり取りには、「さむ~」と言いたくなった(笑)。ドリフのコント(古い)じゃないんだから(笑)。

とにかく、話があっちこっちととっちらかって、極道の戦争も、ヤクザ・ヴァンパイアも、どっかへ行ってしまい、収拾がつかないまま唐突に終わってしまう。

 
三池監督作品には、これまでもシュールで難解な作品はいくつかあった。「極道恐怖大劇場 牛頭(GOZU)」 (2003)とか「IZO」 (2004)とか、「46億年の恋」 (2005)などである。ただ、それらは混沌としてはいるが、異様な迫力に満ちており、圧倒されるものがあって、私はどれも好きである。

だが本作は、それらにあった妖しい魅力も、迫力もない。シュールにも、笑いとギャグにも、ヴァイオレンスにも徹底出来ておらず、なんとも中途半端である。

三池監督の「DEAD OR ALIVE 犯罪者」(1999)でも、ラストでマカ不思議なシュール・イメージが炸裂するのだが、それにも関わらずこれが秀作となり得たのは、そこに至るまでのストーリーがしっかり組み立てられていて、ラストのシークェンスがなくても十分面白いからである。観客を物語に引き込み、堪能させて、それでラストでポンと飛躍するから楽しいのである。

これと似たタッチの作品に、鈴木清順監督の傑作「刺青一代」(1965)がある。これもラストで突然シュールな異世界が登場するのだが、やはり任侠映画として丁寧に物語が綴られ、観客が主人公の怒りに同調した所で絢爛たるファンタスティック世界が広がるから、なんだか分からないなりに観客は興奮するのである。
そして後になって考えると、あそこで真っ赤な世界となって行くのは、主人公がこれから後戻り出来ない地獄世界へと堕ちて行く事へのメタファー(赤は血の池地獄のイメージか)ではなかったかと思い至る。何度観ても面白いし、新たな発見がある。それ故この作品は伝説的なカルト作品となったのである。

三池作品には、鈴木清順作品と通じる所があると私は見ている。両者とも、ヤクザ映画あり、犯罪アクションあり、シュールなイメージの難解作品あり、と、作品傾向も似通っているし。
三池監督は、鈴木清順監督の後継者である、と私は高く評価している。それだけに本作の迷走は残念である。きちんとした物語展開があってこそ、飛躍も生きて来るのである。

なんでこんな事になったのか、公式ページを覗いて判明した。三池監督のスケジュールがポッカリ空いて、何かやろうという雑談からスタートしたのはいいが、千葉プロデューサー、三池監督らが次々脚本担当の山口義高にアイデアを話し、後から後からあれもこれもと盛り込み過ぎて、経験の浅い山口ではまとめ切れず、さらにヤヤン・ルヒアンをどこかで出せ、となって脚本は混乱を極めたという。そんな調子ではまともな脚本が出来るはずもない。

数年前までの三池監督なら、それでも独自の感性とひらめきで、強引に迫力ある作品に仕上げただろうが、どうも最近の三池作品は劣化が進んでいるのではないか(私の昨年度ワーストテンに2本も入った)と危惧した通りの結果となった。

それとやっぱり問題は、これが全国シネコンで公開されるメジャー作品だという事である。前掲の難解作品「IZO」「46億年の恋」はいずれも数館のミニシアター公開だったし、「極道恐怖大劇場 牛頭(GOZU)」 は劇場未公開でビデオのみだったからこそ、一部の熱狂的三池ファンに支持されるだけでよかったのだが、メジャー作品であるなら、広範囲の観客を楽しませる、分かり易いエンタティンメントに仕上げるべきだった。
本作が、小規模のミニシアター公開であったなら、始めからそのつもりで観るし、監督も余計シュール度を高めただろうから、もっと楽しめたかも知れない。どっちつかずの中途半端な作品になってしまったのが悔やまれる。    (採点=★☆

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「46億年の恋」評はこちら。三池監督論もあり。

                          
DVD「DEAD OR ALIVE 犯罪者」
           
DVD「極道恐怖大劇場 牛頭」
       

DVD「刺青一代」 (鈴木清順監督)

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コメント

まさか「御苦労大戦争」というメタなネタだったのでは?

投稿: ふじき78 | 2015年7月 1日 (水) 00:16

映画撮りたいいうたかて撮れない(予算だのキャストだの云々・・・で)ひとがわんさかいてはるだろうに、
もし「雑談からふってわいたような映画」を撮るためにこれだけたくさんのひとが集結しちゃったことじたいがなんて幸せな監督なんだと
やっぱり思っちゃいます。(;´∀`)
三池監督作品をほとんど知らないので実際のとこはこのひとはこういうモンを撮るんやでといわれてもピンときませんが
わからんもんが見に来るTOHOのシネコンで
独自の世界を展開しちゃうことじたいが
余裕を感じます・・・って変なとこで尊敬しちゃいました・・・。(;´∀`)

投稿: Ageha | 2015年7月 2日 (木) 09:47

◆ふじき78さん
「1字違いで大違い」の大喜利ネタで来ましたか(笑)。
私も1つ。「極楽大戦争」。こっちの方がコメディっぽいでしょ。
妖怪マンガ「GS美神・極楽大作戦」にも引っ掛けてあります(笑)。
…てな具合におちょくりたくなるくらい、ガッカリ作品でしたねぇ。


◆Agehaさん
>TOHOのシネコンで独自の世界を展開しちゃうこと自体が余裕を感じます…
最近はマイナー作品が少なく「クローズZERO」とか「十三人の刺客」とか「悪の教典」とかのメジャーなヒット作を監督してるので、プロデューサーも、ヘンなものは作らないだろうと安心と言うか油断してたのかも知れません。
三池監督を甘く見ちゃいけない(笑)。
上映したTOHOシネコンも、頭抱えたでしょうね。
…で上映スケジュール見たら、TOHOシネコン、2週間で打ち切られてました(笑)。

投稿: Kei(管理人) | 2015年7月 5日 (日) 00:07

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