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2015年7月11日 (土)

「映画 ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム」

Shaun_the_sheep2015年/イギリス:アードマン・アニメーションズ=フランス:スタジオ・カナル
配給:東北新社
原題:Shaun the Sheep Movie
監督: マーク・バートン、 リチャード・スターザック
脚本: マーク・バートン、 リチャード・スターザック
製作: ジュリー・ロックハート、 ポール・キューリー
製作総指揮: ピーター・ロード、 ニック・パーク、 デヴィッド・スプロクストン、 オリヴィエ・クールソン、 ロナルド・ハルパーン

「ウォレスとグルミット」シリーズのアードマン・スタジオ製作の大人気TVアニメ初の劇場版。監督・脚本はTV版の監督も手がけるリチャード・スターザックと「ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!」の脚本を担当したマーク・バートン。

イギリスの片田舎にある羊の牧場。そこでは牧場主と、彼の忠実な牧羊犬ピッツァーの監督の下、ショーンと愉快な仲間たちがのんびり暮らしていた。だが、変化のない毎日に飽きたショーンたちはある日、いたずらで牧場主を眠らせ、キャンピング・トレーラーの中に寝かせて、その間羽を伸ばして遊んでいた。ところがふとしたはずみにトレーラーが暴走し、ビッツァーもそれを追っていなくなってしまった。取り残されたショーンたちは寂しくなり、やがて牧場主を探すべく大都会に繰り出した…。

イギリスのアードマン・アニメーションズが製作するクレイ・アニメ「ウォレスとグルミット」シリーズは大好きで、ほとんど全作をダビングしたりDVDで持っている。CGアニメ全盛の今の時代に、手づくりで1コマづつ人形を動かしながら撮影するコマ撮りアニメは貴重である。この昔ながらのアナログ手法で人形アニメを作っているのは、今ではこのアードマンと、「フランケンウィニー」等のティム・バートン・スタジオくらいしかなくなった。
なにせ1コマ動かしては撮影、また1コマ動かして…と大変な手間がかかるから、1分程度のアニメ作るのに1週間がかり、気が遠くなる作業だ。85分の本作は、脚本作りも含めて完成までに約2年4カ月を要したという(ただ一部CGも使ってるから、昔ほど時間はかかってないだろう)。

本作の主人公、ひつじのショーンは、1995年の「ウォレスとグルミット 危機一髪!」に登場した可愛らしいサブキャラ。その後ここからスピンオフして1話7分の短編TVアニメ「ひつじのショーン」シリーズが作られ、大人気を博してシーズン4まで作られるヒット・シリーズとなった(日本ではNHK-Eテレで放映済)。そしていよいよ満を持して初の長編となる本作の登場である。

(以下ネタバレあり)

いやあ、面白いだろうとは予想していたが、予想以上の面白さである。「ウォレスとグルミット」シリーズは、発明家のウォレスが作る珍発明が巻き起こす騒動が中心で、30分足らずの短編ものはいずれも面白いのだが、長編(「野菜畑で大ピンチ」)になるとやや散漫な出来になる。シリーズ外のアードマン長編「チキンラン」はまあまあだったが、お話もエピソードも、ほとんどS・マックィーン主演の「大脱走」そのまんまだったから、個人的には少々不満がある。

本作は、脚本つくりに18ヶ月!もかけたそうだから、面白いのも当然と言える。広い大都会で迷子になったご主人探し…という基本ラインがしっかりしているし、危機また危機のサスペンスに、細かいギャグもよく練られているし、最後に大アクションもあり、と、85分ほとんどダレ場もない見事な出来映え。アードマンによる長編アニメの中では、初めての傑作ではないかと思う。

ユニークなのは、効果音はあるけどセリフがまったくない事。喋っているシーンでも、意味不明でしかも音量も絞っている。それでも、話は十分理解出来る。

これはあのフランス映画「アーティスト」と同じ…つまり、サイレント映画の手法である。「アーティスト」では一部文字フリップが挿入されていたが、本作はそれもなし。完全なパントマイム劇である。セリフを廃しても十分判るよう、脚本は相当練りに練られた苦労の跡が伺える。18ヶ月もかかったのもむべなるかなである。

犬のピッツァーのキャラが、心なしかグルミットに似ているのだが、思えばグルミットも一言もセリフ喋らなかった。

ギャグもよく考えられている。傑作なのは、ショーンの作戦でひつじたちが次々、グルグル回りながら柵を飛び越えると、それを見た人間が皆眠ってしまうくだり。
これは「ひつじが1匹、2匹…と数えると良く眠れる」という、よく言われている暗示効果を応用しているわけだが、これが2回も出て来て、その都度これを見た人間たちがバタバタ倒れるのが何とも可笑しくて抱腹絶倒である。

そしてサスペンスは、動物収容センターに勤める動物捕獲人トランバーの存在。町をうろつく小動物たちを捕獲し、センターに収容する事だけが使命というか生きがいにしている男で、どこまでもしつこくショーンたちを追い詰める執念深さでハラハラさせられる。かと言って悪人という訳でもなく、女性には弱いというのがご愛嬌で憎めない(変装したひつじを人間の女性と思い込んでキスするシーンには爆笑)。

しかし、笑わされるものの、これは単なるギャグ・アニメには終わっていない。忠実な牧羊犬ピッツァーと、いたずら好きだけど本音はご主人が好きなショーンたちが、力を合わせて必死でご主人を探す姿にはホロリとさせられる。

ラストで、牧場主とピッツァー、ショーンたちが仲良く写っている1枚の写真にもジンとさせられる。
彼らは、牧場主が父、ピッツァーやショーンたちはその子供のような擬似家族なのである。
いたずら好きのショーンたちに手を焼きながらも、牧場主と彼らの間には、家族としての絆がある。困った時には、力を合わせ、互いを思いやる気持ちがある。それが感動を呼ぶのである。

笑いながらも、家族、親子の絆の大切さをも教えられる素敵な作品であり、小さな子供は無論の事、大人が見ても十分に面白い秀作である。     (採点=★★★★☆

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(さて、少しだけ補足と言うかお楽しみ)

上でサイレント映画的と書いたが、スターザック監督自身もインタビューで、昔の無声映画からインスピレーションを得た、特にバスター・キートン作品を参考にしたと語っている。また音を効果的に使ったギャグは、ジャック・タチ作品も参考ししたと言っている。ジャック・タチもセリフを喋らない、パントマイム芸を得意としている。

そう思えば、ほとんど笑わず、無表情の牧場主は、たぶん同じようなキャラの、バスター・キートンがモデルではないだろうか。

サイレント映画と言えばチャップリンも外せないが、そう言えば、チャップリンの「街の灯」は、トーキー作品だけど全編サイレント映画として撮っていて、効果音を生かしている所が本作と共通しているし、セリフを喋るシーンでは、意味のない雑音まがいの音声で処理しているのだが、これも本作に応用されたフシがある。

そしてラストで、ショーンたちが隠れている小屋がトランバーの運転するブルドーザーで崖っぷちまで押しやられ、あわや断崖から転落寸前…というシーンは、チャップリンの傑作「チャップリンの黄金狂時代」の名シーン(小屋が崖から転落寸前)を思い起こさせ、ニヤリとさせられた。

記憶喪失になった牧場主が、町で理髪師になってしまうのだが、「チャップリンの独裁者」ではチャップリンの職業が理髪師だった。そしてこの作品でもチャップリンは記憶喪失になってしまうのである。

たぶん本作は、そうした、いろんなサイレント映画を十分研究してギャグを練ったのではないだろうか。

最後におマケ。エンドクレジットに「羊たちの沈黙」(The Silence of the Lambs)への謝辞があったのだが、はて、何か引用があったのかと考えたが思い当たらない。
もしかしたら、ひつじたちが一言も喋らないので、“羊たち、沈黙してますよ”というギャグなのかしらん(笑)。

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コメント

> アードマンによる長編アニメの中では、初めての傑作ではないかと思う。

CGアニメで作って大ゴケしてしまった為に知名度の低い「アーサー・クリスマスの大冒険」も傑作です。こっちは登場人物がヒューマノイドタイプなのでバンバン喋りますが。

投稿: ふじき78 | 2015年7月12日 (日) 21:43

◆ふじき78さん
「アーサー・クリスマスの大冒険」私の記録では2011年12月に見てます。
ただ、あまり覚えてないんですね。採点は★4つですから悪くはなかったはずですが。
これがアードマン作品とも知りませんでした。記憶に残ってないという事は、面白かったけれども、すぐに忘れてしまう程度の出来だった…という事になるんでしょうね。
そもそも、アードマンがフルCGアニメ作るのはどうもしっくり来ません。クレイ・アニメ道一本で進んで欲しいという願いも込めて、個人的にはやはり本作を“アードマン初の長編傑作”に認定したいですね。あしからず。

投稿: Kei(管理人) | 2015年7月14日 (火) 23:41

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