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2015年9月 6日 (日)

「ナイトクローラー」

Nightkrowrer2014年・アメリカ/Bold Films他
配給:ギャガ
原題:Nightcrawler
監督:ダン・ギルロイ
脚本:ダン・ギルロイ
製作:ジェニファー・フォックス、トニー・ギルロイ、ミシェル・リトバク、ジェイク・ギレンホール、デビッド・ランカスター
編集:ジョン・ギルロイ

刺激的な映像を求めるテレビ業界の裏側を描いたサスペンススリラー。監督は「落下の王国」「トゥー・フォー・ザ・マネー」等の異色作や「ボーン・レガシー」等の脚本を書いたダン・ギルロイ。これが監督デビュー作となる。主演は「複製された男」のジェイク・ギレンホール。共演に「マイティ・ソー」シリーズのレネ・ルッソ。第87回アカデミー賞脚本賞ノミネート作品。

ケチな窃盗でかろうじて糊口をしのいでいたルイス(ジェイク・ギレンホール)は、ある日通りかかった交通事故現場で、凄惨な映像を撮ってはテレビ局に売る、いわゆる映像パパラッチをやっている男ジョー(ビル・パクストン)の仕事ぶりを目撃する。これはカネになると感じたルイスは早速ビデオカメラと無線傍受器を手に入れ、事件や事故の現場にいち早く駆け付けてはスクープ映像を撮影し、これがテレビ局のディレクター、ニーナ(レネ・ルッソ)に認められて高値で買い取られるようになる。しかし視聴率を求めるテレビ局の要求はエスカレートし、それに応えようとするルイスの行動は次第に常軌を逸して行く…。

着想がまず面白い。ネットやデジカメ、スマホが普及し、昔と違って今は事故現場に居合わせた一般大衆が誰でも、凄惨かつリアルな映像を撮る事が出来、それがネットにアップされたり、テレビでも放映されたりで、我々は日常的に生々しいスクープ映像を見る事が出来るようになった。

だがそうした凄惨な映像に慣れてしまうと感覚がマヒし、大衆はますます過激な映像を求めるようになり、ネットではとても正視に耐えないようなグロテスクな映像などが無修正でアップされていたりする。

テレビでも、おとなしいニュース映像では飽き足らなくなり、最近でもシリア難民の子供の遺体が浜辺に打ち上げられている無残な映像が、一部ボカシをかけられてはいるけれどもそのままテレビで放映されていた。昔ならこんな映像は絶対にテレビでも新聞でも見る事は出来なかったはずだ。

そうした現代の際限のない映像エスカレート状況を痛烈に風刺したのが本作である。これは実にタイムリーな問題作である。

(以下ネタバレあり)

主人公ルイスは、ケチなコソ泥である。街なかの金網やマンホール蓋等を盗んでは屑鉄業者に売るという泥棒稼業である。だがいつかはマトモな職業に付きたいと焦っている。

そんな彼が、報道パパラッチの取材現場を目撃し、これは商売になるとピンと来たルイスは、盗んだ高級自転車を打った金でカメラと無線傍受器を入手し、パパラッチ業に参入する事となる。
最初は見様見マネで失敗したり、警察に邪魔されたりもするが、やがてコツをマスターし、警察無線を傍受して警察より先に事故・事件現場に到着しては凄惨な映像を撮りまくり、ついにテレビ局に高値で買い取ってもらう事に成功する。

だがテレビ局ディレクター・ニーナはルイスに、もっと過激な映像をと要求し、ルイスもそれに応えるべくパパラッチ行動をエスカレートさせ、時には映像映りをよくする為に事故現場の死体を移動させたり、ついには殺人現場と犯人を目撃しながら犯人の情報を警察に隠し、別の日、犯人を尾行して匿名で通報し、警察に追われて逃げるさまをすべてカメラに収めたりもする。
元々、泥棒が稼業だったルイスにとっては、倫理とかモラルなんかは端から持っていないに等しい。過激な映像の為にはどんな逸脱行為だって平気でやってしまう。

この彼の行動原理が、最後に伏線として効いて来る。うまい脚本である。どんな結末かはここでは書かない。

このエンディングには不快感を示す人がいるかも知れない。こんな卑劣で汚い、人間の屑のような奴が[業界で成功を収め、悠々と生き延びる]のは後味が悪いと思う人もいるだろう。

そういう意味では、彼は現代が生んだ怪物(モンスター)であるとも言えよう。

だが、そんなモンスターを生んだのは、マスコミであり、そして我々大衆なのである。大衆が刺激を、過激さを求め続ける限り、そうしたモンスターは増殖し続けるだろう。
我々自身も、罪は深いのである。本作はその事を痛烈に風刺し、我々に刃を突きつけて来るのである。

悪は滅びる、ありきたりの結末なら、我々は自らの罪に気づかないまま、安心して映画館を後にするだろう。それでは映画が描こうとしたものが見えなくなってしまうのである。

頭が良くて、狡猾で、そして誰よりも大衆が欲求するものを知り尽くしている…そんな奴ほど成功し、大衆のカリスマになりうる、それが現代であり、この時代が抱える闇でもある。
誰とは言わないが、現実にこの日本にもそんな政治家や首長がいるはずだ。

 
ルイスを演じたジェイク・ギレンホールがすごい。もともと目玉が大きくて薄気味悪い(失礼)顔をしてるのだが、本作の為に体重を12キロも落として、さらに目はギラつき、不気味さを増している。まさに怪演である。

夜のロサンゼルスをダイナミックに映し取った名手ロバート・エルスウィット(「インヒアレント・ヴァイス」「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」)のキャメラも素晴らしい。

監督のダン・ギルロイは、脚本を書いた「トゥー・フォー・ザ・マネー」(2005)でも、試合の勝敗、得点差を予想して大金を動かすスポーツ賭博を舞台に、スポーツ情報屋としてのし上がって行く男の人生を描いていた。大衆の欲望をビジネスにして成功させる、という点で本作と共通するものがある。

監督デビュー作にして、現代の闇を鋭く切り裂いた衝撃の問題作を完成させたダン・ギルロイには、今後も注目して行きたい。     (採点=★★★★☆

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(付記)
ダンが脚本に参加した「ボーン・レガシー」の監督、トニー・ギルロイはダンの兄である。トニーは本作のプロデューサーにも名を連ねている。
ついでに、本作の編集者としてクレジットされているジョン・ギルロイは、ダンの双子の兄弟だそうである。いわば兄弟3人が協力し合った作品だとも言える。

も一つついでに、彼らの父、フランク・D・ギルロイも1950年代から脚本家、映画監督として活躍していた人。なんとピューリッツア賞作家でもあり、ブロードウェイの舞台劇「The Only Game in Town」(後にエリザベス・テイラー主演で映画化もされた。邦題は「この愛にすべてを」)の原作者でもあるという多彩な人である。監督作としてはチャールズ・ブロンソン主演の異色西部劇「正午から3時まで」(1976)がある。

血筋は文句なし。トニーとダン兄弟、互いにライバルとして、協力者として切磋琢磨し活躍する事を期待したい。

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コメント

おもしろかったですが、「セッション」といいこれといい、「クライマックスで車が激突!」はさすがに飽きました。

いや、おもしろかったですよ。

投稿: タニプロ | 2015年9月 9日 (水) 00:59

◆タニプロさん
>「クライマックスで車が激突!」はさすがに飽きました。
本当に多いですね。「セッション」は確かに必要だったか?という気はしますが、本作の場合は例の「ダイアナ妃事故」でもお馴染み、パパラッチを描いてるわけですから、対象追跡→自動車クラッシュは必然だったと思いますね。

投稿: Kei(管理人) | 2015年9月21日 (月) 12:08

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