「マイ・インターン」
ニューヨークに拠点を置く人気ファッションサイトを運営する若き女社長ジュールス(アン・ハサウェイ)は、華やかな世界に身を置きながら、仕事と家庭を両立させ、誰もが羨むような人生を歩んでいた。ところがある日、彼女に思いもよらない試練が訪れる。会社のよりよい経営のために外部からベテラン社長をCEOとして迎えようというのだ。そんな折、会社の福祉事業で雇われたシニア・インターンのベン(ロバート・デ・ニーロ)が、ジュールスのアシスタントに就く。ジュールスは人生経験豊富なベンから様々な助言をもらい、二人は次第に心を通わせて行く…。
他の作品についてかなり記事を仕上げていたのだが、たまたま観たこの作品にすっかりやられてしまい、そっちは後回しにしてこちらを取り上げる事にする。
(以下ネタバレあり)
ナンシー・マイヤーズ監督作品は「ホリデイ」(2006)がとてもお気に入り。同作品評にも書いたが、古いハリウッド・コメディを相当研究し、その雰囲気を現代に蘇らせようとしている傾向が垣間見える。そのくせ、取り上げる題材は結構新しい所がミソ。
本作でも、ジュールスがまたたく間に200数名の社員を抱える企業にまで成長させた会社は、若い女性向けファッション通販ネット・ビジネスだし、社員への指示は原則メールである。求人に応募する場合は自己紹介映像をYouTubeにアップする事…とまあハイテク、フル活用。結婚もしているが旦那は家庭で育メンの主夫業。いかにも現代の先端を行くシチュエーションである。
そこに社員募集で応募し、シニア・インターンとして雇われる事になったのが70歳のベン。会社を退職した後はやる事がなく、太極拳を習うくらい。妻にも先立たれ、息子も独立して悠々自適。これではつまらないし、まだまだ老け込む歳ではないと、たまたま見つけた求人チラシに応募する事となる。
慣れないYouTubeアップもメールもなんとかこなし、社内の雑用も厭わず、社員とも打ち解け、そしてなにより、豊かな人生経験をフルに生かして、ジュールスの良きアドバイザーとして、会社になくてはならない人物になって行くプロセスがなんとも楽しい。
ベン役を、悠々と、貫禄たっぷりにに演じているデ・ニーロが素敵である。その優雅な身のこなしは、やっぱり古いハリウッド映画、特にケーリー・グラントやジェームズ・スチュアートなどの主演映画を彷彿とさせる。「ホリデイ」でもジュード・ロウにケーリー・グラント主演の古い作品を観よと命じたマイヤーズ監督の事、デ・ニーロにもそれらの作品を参考にさせた可能性は高い。
笑えるシーンも多い。ジュールスが母の所に間違って送ったメールを消去しようと、仲間たちに「オーシャンズ11」の主演俳優たちの役割を振って作戦を実行するくだりは腹を抱えて笑った。
ジュールスが言う「ジャック・ニコルソンやハリソン・フォード以降はロクな男性が出て来ない」というセリフにもニヤリとさせられる。
で、思うのは、最近やたらと老人が主演の映画が作られているけれど、多くが認知症老人だったり(「愛、アムール」)、老人ホームで暮らす老人だったり(「陽だまりハウスでマラソンを」)、あるいは偏屈で心を閉ざしていたり(「アンコール!!」、「ヴィンセントが教えてくれたこと」)と、(最後にホロッとするものもあるけれど)なんとなく元気のない、先行きの短いような老人ばかりが目立つ。
もう少し、元気なお年寄りが登場してもよさそうなものだと思っていた所に、本作の登場である。これには膝を打った。そうだ、こんな老人映画を待っていたのだ。
ベンは70歳を超えているけれど、元気そのもの、パソコンもメールも習得するし、車の運転技術は確かだし、社員のリラクゼーションを担当する美人マッサージ師フィオナ(レネ・ルッソ)ともいい仲になったりといった具合。
人間、老け込むのは、気持ちの持ちようだとつくづく感じさせられる。若い人たちと一緒に仕事をこなし、前を向いて進めば、年齢なんて関係なくなってしまうのだろう。恋だって出来る。
特にベンの場合は、思いやりや気配りが出来、一時的に不当な扱いを受けようとも、与えられた職場で文句も言わずに働く、謙虚さと心の広さを持っている所が素晴らしい。
現実には、こんな理想的な老人はいないかも知れない。
でも、一つの目標として、こんな老人になりたい、と思っていれば、少しでも近づけるかも知れない。そして、そんな老人が増えてくれば、これからの高齢化社会も、なんとか明るく、やって行けるかも知れない。そんな事もふと思わせてくれる、素敵な映画だった。
若い女性は、家庭も子供も持ちながら、責任ある大変な仕事を悩みつつもこなして行くジュールスに共感するだろうし、中高年の男性はベンの行動に羨望と希望を感じるだろう。どちらの世代にも共感を呼ぶ作りが、いかにもマイヤーズ監督らしい。
世代、年齢、性別を超えて、いろんな人に観て欲しい、心がホッコリ温まる、これはお奨めの作品である。 (採点=★★★★☆)
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