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2015年11月15日 (日)

「シネマの天使」

Cinemaangel2015年・日本/タイムリバーピクチャーズ
配給:東京テアトル
監督:時川英之
脚本:時川英之
企画:酒井一志
プロデューサー:益田祐美子、尹美亜
エグゼクティブプロデューサー:福岡愼二

100年以上の歴史を持ち、地元の人たちから愛されながらも昨年閉館した広島県福山市の映画館・シネフク大黒座の、閉館に向けた町の人々やスタッフらの心模様を実話を織り交ぜて描いた、ちょっと変わった味わいのヒューマン・ファンタジー。監督は数々のドキュメンタリー番組を手がけ、同じく広島を舞台にした「ラジオの恋」(2013)で劇映画に進出した広島県出身の時川英之。出演は「ももいろそらを」の藤原令子、「進撃の巨人」の本郷奏多、「サッド  ヴァケイション」の石田えり、「百年の時計」のミッキー・カーチスほか。

122年間にわたり、地元の映画ファンから愛されて来た福山市のシネフク大黒座。だが建物の老巧化が進み、藤本支配人(石田えり)は閉館を決断する。街の人や劇場従業員たちは閉館を惜しみ、あるいは反対の声を上げるがその日は刻々と迫っていた。そんなある夜、大黒座の新入社員・明日香(藤原令子)は館内で不思議な老人と出会う。老人は天使だと名乗り、いつの間にか姿を消していた。一方、明日香の幼なじみでバーテンダーのアキラ(本郷奏多)は大黒座で映画を見て育ち、いつの日か自分の映画を作ることを夢見ていたが、かなわぬままに悶々とした日々を送っていた。そしてついに、大黒座最後の日がやって来た…。

広島県福山市に実在する映画館・シネフク大黒座が、惜しまれながらも昨年8月31日をもって閉館した。この映画は、その日から取り壊しが始まる9月15日までの間に、その大黒座とその周辺界隈で全面ロケを行い、大黒座の歴史、閉館に寄せる経営者、従業員、観客の思いをセミ・ドキュメンタリー・タッチで描くと共に、ドラマとして不思議な老人(ミッキー・カーチス)を登場させ、一種の幻想的ファンタジー映画としての趣きも併せ持った作品に仕上がっている。

映画館が消えるのは寂しい。このブログでも何回か、映画館の閉館をレポートして来たが、由緒ある映画館や、何度も通い、思い出深い映画館が消えるのは事の外寂しく辛い。
特に大黒座は、1892年に芝居小屋として開館して以来、122年の歴史を持っているというから余計観客や関係者の思いは強いだろう。

(以下ネタバレあり)

映画は、閉館を番組として取り上げるべく取材に来たテレビ局による、劇場支配人(石田えり)やスタッフたちへのインタビューや、劇場を記録した古い写真(実物)などを写し出す事によって、大黒座の歴史を振り返ると共に、消え行く映画館へのノスタルジーを奏でる。この辺りはほとんどドキュメンタリーそのものである。
いくつもの映画館の閉館を見て来た私などは、これだけでもウルッと来てしまう。
館内の壁面には、大黒座を愛する観客による無数の惜別メッセージがサインペンによってカラフルに書き込まれていて(無論実物)、これも壮観である。

そうした現実のドキュメンタリー・パートの合間に、いつかは自分の映画を作りたいと夢見ている若者アキラや、支配人とは古い仲で、金なら出すから閉館を思いとどまって欲しいと支配人に直談判するワケありの初老の男(岡崎二朗)、前述の謎の老人などのいくつかのドラマが織り込まれる構成となっている。

中でも、謎の老人のエピソードが面白い。テレビ局ディレクターが古い写真を見ていると、半世紀以上も前から現在に至るまでの、どの写真にも帽子を被った白ヒゲの老人が写っている。そして明日香は劇場内で、その老人に出会うのだが、追いかけると忽然と姿を消してしまう。
いったいこの老人は何者なのか、老人は「昔はどの映画館にも天使がいた」とつぶやくのだが、本当に老人は天使なのか…。この辺りはミステリー・タッチでもあり、またファンタジー的要素もある。

幻想シーンで、月夜に大黒座の屋根の上を歩く老人の姿も登場し、ファンタスティックで印象的。飄々とした老人を演じるミッキー・カーチスがいい。

ところが、ラストに至って、老映写技師・大久保(阿藤快)の言葉によって、老人の正体が明らかになる。ここでは書かないが、天使だと思っていた人々(及び観客)はガッカリする。

その後大久保の案内で、老人が住み着いていて、カギがない為開かずの間となっていた部屋を、カギを壊して全員が踏み込むのだが、その部屋の壁一面には無数の映画のチラシが貼られていて全員が息を呑む、このシーンは感動的である。
ジュゼッペ・トルナトーレ監督の傑作「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストを思わせる。あの映画も思い出の映画館が取り壊されるお話だった。

そこに残されていた老人愛用の帽子を見つけて明日香が「やはり天使だったんだ」とつぶやく。

Cinemaangel_2_3
老人の正体が分かっても、やはり天使であって欲しいと誰もが思うだろう。実際、半世紀前に写真に写っていた老人が今も生きているとは考えにくい。
老人は、実は数十年前に亡くなっていて、現在に目撃された老人は、幽霊ではないか、と思えたりもする。監督(脚本も)はワザと正体をボカして、どうとも解釈出来るようにしているのかも知れない。

映画ファンとしては、いろんな映画を連想して楽しむ事も出来る。劇場に住み付く不思議な怪人物、という点では「オペラ座の怪人」を思わせるし、ラストシーンはアメリカ映画「三十四丁目の奇蹟」(1947)を思わせたりもする。この作品は、自分を本物のサンタと名乗る不思議な白ヒゲの老人(演じるのは名優エドマンド・グウェン)が偽者かどうかで一騒動が起きるハートフル・ファンタジーで、ラストでちょっとした奇跡が起き、残されたステッキを見つけて、老人はやっぱり本物のサンタクロースだったのでは、というオチが本作と似ている。

不満がないでもない。夢の中に登場する“仙人”があまり物語に生かされていないし、大黒座の常連観客があまり登場しないのも物足りない(「ニュー・シネマ・パラダイス」には夢中になった作品のセリフをそらんじたり、映画に感極まって号泣する観客などが登場する)。

何より不満なのは、せっかくの隠し部屋に貼られた膨大なチラシの中に、有名な作品がほとんど見当たらない点。「1969」というタイトルのものが数箇所に散見されるが、こんな映画ほとんどの人は知らないだろう(ちなみに1988年のアメリカ映画、監督はアーネスト・トンプソン。私も知らない)。
ここは、コレクターなどの応援を得て、映画史に残る名作、レアなマニア垂涎のお宝チラシ等をズラリ並べて欲しかった。そうすればもっと感動出来ただろう。惜しい。

私の願望だが、出来ればこれは福山に近い同じ広島県尾道出身の大林宣彦監督に撮っていただきたかった。そうすればもっとファンタスティックで素敵な秀作になったかも知れない。時川英之監督はよく頑張ってはいるのだが。

 
だが、そうした難点を差し引いても、この映画はやはり観てよかったと思わせる、捨て難い味わいがある。
前述のような、映画にまつわるいくつかの要素を含んでいる事もあるが、歴史のある映画館が消えて行く事に対する、劇場関係者、地元の人の愛着、熱い思いには素直に感動してしまう。
その思いがこの映画を誕生させたわけである。
特に、エンドロールに映し出される、21世紀に入って閉館したいくつかの映画館のありし日の姿には、ちょっとウルウルしてしまった。どれも由緒があり、歴史がある。特にそれらに通った事のある観客なら泣けてしまう事だろう。

個人的には、支配人と古い仲の  ヤクザ風の男を演じた  岡崎二朗が懐かしかった。最初はどこかで見た事のある顔だな、と思っていたがエンドロールで分かった。
昭和40年代、ロマンポルノに移行直前の日活ニューアクション映画で、渡哲也や藤竜也と共演し、チンピラ役を多く演じていた。中でも「女子学園・悪い遊び」(1970・江崎実生監督)における快演が忘れ難い。

映画ファン-特にシネコンではなく、映画館で映画を見続けて来た映画観客にはお勧めの作品である。出来ればDVDなどではなく、是非映画館で観ていただきたい。   (採点=★★★★

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